流通業における管理会計のよくある課題とその解決策 その1

2019年9月13日更新

財務会計よりも経営判断に役立つデータを提供してくれる「管理会計」ですが、流通業において管理会計を導入し管理会計システムを活用するときには、どんな課題や問題点があるのでしょうか。課題の具体例を交えながら解決策とあわせて考えてみます。

流通業における管理会計の6つの課題

生産と消費の橋渡しをする流通業は、取扱品目が多く比較的、一般消費者に近いところで事業を展開しているという特性があります。このため、顧客ニーズを正確に捉え、品揃え戦略やプロモーション戦略に役立てるという視点が求められます。しかし、顧客ニーズは多様化しており、増加する商品の中から自社に最適なものを選定することは簡単ではありません。

こうした品揃え戦略やプロモーション戦略を展開するために、数値面から意思決定の判断を後押ししてくれるのが管理会計です。財務会計とは違い、より深い判断基準や判断指標が得られ迅速な意思決定が実現します。

課題1:多店舗チェーン店を運営している小売店における管理会計の課題

多店舗チェーン展開をしているような企業の場合、POSデータを活用することで商品ごとの売上を把握する、いわゆる単品管理を実現することは難しくありません。店舗ごとの売上や損益、粗利を把握することも簡単です。このようなPOSデータで把握できる範囲内で管理会計を進める場合もあるでしょう。

しかし、店舗ごとの採算性を正しく把握するためには、POSデータだけでは不十分です。会社全体の家賃や人件費、プロモーションコスト、物流コストなどが含まれる販管費をも計算に入れて、営業利益ベースで各店舗の採算性を把握する必要があるからです。企業によっては、各店舗の採算性を把握することに加え、鮮魚、青果、精肉といった売り場ごとの採算性を分析する場合もあります。こうした詳細な分析に管理会計の手法が有効です。

また、プロモーション活動の効果を分析するのに管理会計の手法をとることも少なくありません。チラシを配布する前と後について、売り場ごとの採算性を評価することで、狙ったプロモーション効果が出ているかどうか、業績につながっているかどうかを把握することができるからです。

さらに、店舗ごとの採算性を、営業利益ベースで分析するためには、販管費を正しく各店舗に配賦しなければなりません。各店舗を巡回するトラックなどの配送コストを各店舗にどのように按分するのか、本社の家賃や役員報酬はどうするのかなど、販管費の按分は困難を伴います。特に、店舗ごとに固定費・変動費を按分するのは、内部調整や社内理解にも限界があり非常に困難な業務でしょう。しかし、多様化する顧客ニーズを正しく反映した店舗運営を実現するためには、店舗ごと、売り場ごとの採算性を、管理会計の手法から分析することが求められているといえるでしょう。

課題2:アパレルなどのデザイン要素の強い商品を取り扱う小売店における管理会計の課題

アパレルなどデザイン要素の強い商品を取り扱う小売店の場合、POSで入手できるデータだけでは、顧客ニーズを満たす売り場づくりはできません。流行やトレンド、季節要因といった外部要因だけでなく、色、展示方法も含めた複合的な要素を考慮に入れて、仕入量や品揃え戦略を立案する必要があるからです。

デザイン要素の強い商品を取り扱う小売店では、POSで入手可能な単品毎の売上情報に加えて、展示方法や商品の写真、前年同月データなどを加味して、品揃えを決定します。近年では、SNSなどに投稿された外部データ から最新のトレンドを把握する手法をとるアパレル系の小売店も多いでしょう。展示方法ごと採算性を分析し、トライアンドエラーを繰り返しながら、品揃えや展示方法に継続的な改善を加えていくことも大切です。

こうした小売店では、数値データだけでは品揃えや展示方法の立案はできません。アイデアや感性といった、右脳を刺激する写真やSNSなどの外部データ と、POSデータを組み合わせることで、トレンドに敏感な消費者の心をつかむ店作りができるのです。

課題3:ネットとリアルの両方の店舗を持つ小売店における管理会計の課題

近年では、ネットとリアルの両方で店舗を運営する業態が多くなりました。こうした、オムニチャネル戦略を採用する小売店が抱える課題の一つが、プロモーション活動の効果をいかに高めるかということ。ネットとリアルと、せっかく保有している複数の販売チャネルも、独立させていては十分なシナジー効果を発揮できません。ネットとリアルを有機的に結びつけながら、統合的にプロモーション活動を展開することが求められているのです。

そのために役立つのが需要予測データです。需要予測には、近隣で開催される運動会などのイベント、季節要因、前年同月比、天候といった様々な要因を考慮に入れた分析が必要です。そのうえで、ネットなのかリアルなのか、どのチャネルにどのようなプロモーションを展開すべきかという考え方が大切です。

たとえば、週末に雨が降ると予想されているのであれば、実店舗でのプロモーション活動は控えめにし、ネット広告に重点を置きます。週末の天気が悪いと外出を控える可能性が高く、ネット販売がのびる傾向にあるからです。こうした分析も、管理会計の手法で取得した過去のデータがあるからこそ可能となります。単なる経験則ではなく、オムニチャネル戦略を成功に導くためには、データに裏付けされた管理会計は欠かせません。

課題4:ドミナント戦略を採用する小売店における管理会計の課題

特定地域に絞ったチェーン展開を図るドミナント戦略は、小売店に多くのメリットをもたらします。地域を限定することで、物流コストを抑制することができます。セントラルキッチンを採用する飲食店であれば、物流コストの面でも、できたてを届けるという鮮度の面でもドミナント戦略は重要な要素です。チラシなどのプロモーション活動面でのメリットも決して小さくはありません。

しかし、実際にドミナント戦略で出店計画を検討する場合には、どこに出店すればどの程度の収益が得られるのかといった費用対効果の視点が求められます。人口統計から売上予測をたて、収益計画を立案することも必要でしょう。

このような出店計画を立案するためには、店舗ごとの原価や販売管理費、物流コストを正確に把握しておく必要があります。ドミナント戦略を採用するといっても、地域を狭くしすぎては、自社店舗間の競争を招き利害関係が悪化します。どの地域にだせば、物流コストやプロモーションコストをおさえて利益を最大化できるのか、こうした視点でチェーン展開をしなければドミナント戦略の恩恵を受けることはできません。そのためには、管理会計の手法で、細かく利益分析ができるようにしておく必要があります。

課題5:多品種を取り扱う卸売業者における管理会計の課題

多品種を取り扱う卸売店では、仕入先、販売先がともに数が多く管理が行き届かなくなる可能性が高くなります。仕入先別の仕入量や仕入れ単価、販売先別の販売量や販売価格は、正確に把握する必要があるでしょう。金額に応じて仕入先を変更したり、販売量に応じてボリュームディスカウントを設定したりといった、フレキシブルな対応も卸売業者には求められます。管理会計の手法を使って、日々の取引先別のデータは正確に把握しておく必要があるでしょう。

また、可能な限り販売管理を考慮に入れた営業利益ベースで、取引先別の採算性を把握することも重要になります。感覚的に、販売量が大きい販売先が当然利益額も大きいと捉えていたものの、営業コストが嵩んで利益が出ていなかったというケースも実際にあります。取引先が多く、利益実態が確認しづらい卸売業だからこそ、数値面から実情を正確に見える化する必要があるのです。

課題6:物流を担う運送業者における管理会計の課題

流通業の中でも物流を担う運送業者では、事業の採算性を正確に把握するために、ドライバーごとの採算性を把握することが重要になります。運送する商品の金額は正確に把握することは難しくありませんが、ドライバーの運転時間に基づく人件費、燃料費、積載効率などを考慮に入れた採算性まで把握する必要があります。

一般的に運送業では、商品の積み込みや積み下ろしの効率性、燃費効率などによって、ドライバーごとの収益性に差が生じます。正確に把握することにより、作業方法や運転方法の指示をおこない、継続的に改善することが求められます。近年では、ドライバーにも働き方改革が求められ、極力残業を減らす必要があります。ドライバー一人あたり運転時間や残業時間をいった数値も見える化することで、事故を予め防止できる労働環境を実現することも重要になるでしょう。

このように、管理会計を導入する際には、流通業において、6つの課題や問題点が発生します。それではこの管理会計の6つの課題、どのように解決すべきでしょうか?

次回コラムではその解決策についてご紹介します。

流通業における管理会計のよくある課題とその解決策 その2 >>

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著者プロフィール

富士通Japan株式会社
ソリューション事業本部 GLOVIA会計・人事給与事業部 会計ビジネス部 プロジェクト課長 稲田 智

2000年、富士通株式会社入社。業務パッケージGLOVIAシリーズの設計・開発に従事。
2010年より株式会社富士通マーケティング。経営管理、会計の製品企画や拡販に従事。
現在は次世代ERPであるGLOVIA iZの構想立案・製品企画に取り組む。

※本コラム中に記載の部署名、役職は掲載日現在のものであり、このページの閲覧時には変更されている可能性があることをご了承ください。

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