宮崎県立農業大学校 様

ICTを活用した先進的な温室と畜舎の制御を学び、即戦力として未来の農業を担う
~見える化された環境データによって学習効果もアップ~

日本有数の農業県として知られる宮崎県にある宮崎県立農業大学校は2年課程の農業者育成教育施設です。農業大学校としては全国2位の広さを誇る約100haの広大な敷地内に、野菜・花・果樹などの農学エリアと、約150頭の肉用牛・乳用牛などの畜産エリアがあり、学生が主体となって栽培・飼育を行っています。

次代を担う先進的農業者・指導者を養成する教育機関として、株式会社富士通九州システムズ(以下、FJQS)が提供する「Akisai施設園芸SaaS」を導入。温室内や牛舎内の光や温度、換気などの環境を複合的に自動制御する仕組みを取り入れることで、収穫量アップや牛のストレス軽減といった成果が見込まれています。さらに、センシングした温室内・牛舎内の各種データを可視化して蓄積することで、環境条件が作物や牛の生育にどのように作用するのかを分析することが可能。学習効率アップにも大きな効果を発揮することが期待されています。

課題
効果
課題以前のシステムでは、窓の開閉や暖房機の温度設定などが機器毎に制御されていた。そのため、環境に合わせた複雑な制御を行うことはできず、かつ、複数の温室を制御するためには膨大な数の制御設定を個別で行う必要があった。
効果複合環境制御システムの導入により、時刻毎に設定した環境に合わせて、窓の開閉や冷暖房をはじめとする温室内の装置を自動で一括制御できるようになった。
課題複合環境制御システムを導入する農家が増加しており、卒業後に即戦力となる人材を育成するには、同様のシステムの使い方を学生のうちから学ぶ必要に迫られていた。
効果実際の農家で使われている複合環境制御システムを、学生のうちに使いこなせるレベルにまでスキルアップさせることが可能。理論と合わせて、実機で正しい使い方を指導することで、就農後の現場での波及効果も期待される。
課題近年の異常気象も相まって、宮崎県特有の夏の厳しい暑さは牛の体調に悪影響を与えていたが、壁がない開放型の牛舎の複合環境制御に適したシステムは開発されていなかった。
効果開放型牛舎での複合環境制御を行うため、『Akisai施設園芸SaaS』の自動制御パラメータをユーザーが自由に設定できる機能を追加することで、畜舎の制御に応用することができた。開放型牛舎というこれまで複合制御を行ってこなかった環境で、必要とされる制御を検証しながらブラッシュアップしていくことができる。
導入の背景

次世代の農業に必須となる温室の複合環境制御を学び、開放型牛舎という特殊な環境での制御にもチャレンジ

農業にICTを活用する取り組みは年々広まっており、温室内の二酸化炭素濃度や飽差(温度・湿度)等をコントロールして、作物の生育に最適な環境をつくることで収穫量や品質をアップさせるシステムの導入が進んでいます。未来の農業を担う人材を育成することを目的としている宮崎県立農業大学校では、即戦力として活躍する学生を育てるうえで、先進的な農業の現場と同じシステム導入の必要性を感じていました。

「1994年に全施設のリニューアルを行いましたが、それから25年以上が経過していました。窓やカーテンの開閉、暖房機の温度設定など、条件に応じて自動制御する仕組みは各温室に導入していますが、一つひとつが単体の制御システムなので、個別に設定しなければなりません。これからの農業の主流になるであろう、複数の温室の様々な設備を遠隔地からモニタリング、コントロールできるシステムに比べれば、旧時代的なものといわざるを得ませんでした。未来の農業を担う若者を育てるためには、ICTを活用した先進的な農業を学生のうちから学ぶことが欠かせないと考え、複合環境制御システムの導入を決めました」

こう語るのは、2019年度まで宮崎県立農業大学校で校長を務め、現在は専門主幹として学生の指導にあたっている山本 泰嗣氏です。

畜産学科の牛舎においても温室と同様の複合環境制御システムを導入。これまでも、換気扇やミストによって牛舎内の暑熱対策を行っていましたが、自動制御はされておらず、猛暑、少雨といった厳しい環境で牛の夏バテを防止することに苦心していました。

「多くの畜産農家の牛舎と同様に、本校の牛舎も壁がない開放型です。そのため、風が直接牛舎内に入り込み、その風向によって牛舎内の環境は変わってきます。壁のある閉鎖型の温室と同じ基準で制御できるかは未知数でした。本校では、併設している農業研修センターにFJQSの『Akisai施設園芸SaaS』を数年前導入し、利用していました。そこで、今回の温室、牛舎それぞれへの複合環境制御システム整備について、農業関連のシステムに明るいFJQSに相談しました」(山本氏)

宮崎県立農業大学校
専門主幹
山本 泰嗣 氏
株式会社富士通九州システムズ
ソーシャルICTソリューション部
シニアマネージャー
渡邊 勝吉 氏
導入の効果

パラメータを自由に設定できる機能で拡張性が飛躍的に向上。
収穫量アップの効果に加え、実験結果の検証にデータを活用。

FJQSソーシャルICTソリューション部の渡邊 勝吉は山本氏の相談を受け、制御設定をユーザーが個別に変更できる仕組みを提案しました。

「従来の『Akisai施設園芸SaaS』では、設定画面上の様々なパラメータをユーザーが操作することで、自由に温室内の環境を制御できるものでした。しかし、パラメータ自体は当社のこれまでの経験に基づいたロジックによるもの。植物の温室を想定して考えられたパラメータなので、山本先生が懸念されているように、その制御ロジックが開放型牛舎にそのまま適用できない可能性がありました。そこで、ユーザーがロジックを組んで制御パラメータ自体を新規に設定できる仕組みを導入することで、設定条件の自由度を高めることにしました」

第一段階として、メロンとトルコギキョウの温室、乳用牛の牛舎に「Akisai施設園芸SaaS」の複合環境制御システムを導入。2021年1月に整備を終えました。温室では、温湿度、風向、風速、雨量、日射量、二酸化炭素濃度、土壌水分量などを細かくセンシング。時刻や温室環境に応じて、窓、カーテン、暖房機、換気扇、ミスト装置、照明などを自動で制御しています。これら全てを遠隔地からタブレットなどのモニターで監視、操作することが可能。牛舎では温湿度のデータから温湿度指数(THI)を計算し、その指数に応じたミストや風量制御ができるように設計されています。

「春からの本格的なシステム活用を前に、今は教員が使い方を学んでいるところです。FJQSに講習会を開いてもらい、細かくレクチャーを受けています。メロンは繊細な環境制御が必要ですし、トルコギキョウは温度管理に加えて日没後の日長管理も重要です。同様のシステムを導入している農家では、収穫量が数十%アップしたケースも聞いているので、収穫時にどんな成果がでるのか、教員も学生も楽しみにしています。牛舎では夏に向けて、制御パラメータの作り込みを進めている最中。自然の風向きと牛舎内の換気扇の方向の相乗作用でミストがどこに噴出されるのかなど、外部気象の要素を牛舎内の制御にどう取り入れていくか、FJQSの知恵を借りながら、最適なパラメータ設定を検証しています」(山本氏)

先進的な農業の現場に即したシステムの活用方法が学べることに加えて、各種データが“見える化”されたことがシステム導入の大きなメリットであると山本氏は語ります。

「温室内の様々な環境データをリアルタイムに収集して、蓄積したデータはグラフや表でわかりやすく確認できます。仮説を立て、検証していくサイクルの中で、自分たちが取り組んでいる生産技術の効果が見える化されたことは学習効果、さらには学習意欲を高めることにもつながっていますね。学生の多くは卒業後に大規模な農業法人に就職し、将来、就職先の幹部として生産を担う存在となっていきます。学生時代から見える化されたデータを用いた先進的な生産技術に触れることで、就職先の技術の底上げという波及効果も生まれると期待しています」

今後の展望

気象予測と連動させた予測制御をはじめ、自由度を増したシステムを活用し、農業王国・宮崎のさらなる発展に貢献。

開放型牛舎の制御のために導入した、ユーザーが制御ロジックやパラメータ設定を自由に調整できる機能は、温室に導入した「Akisai施設園芸SaaS」にも搭載されています。そこで、今後は気象予測を活用した環境制御に取り組んでいきたいと山本氏は語っています。

「例えば冬場の明け方に晴れていると放射冷却によって結露が発生するなど、気象に左右される温室内の環境もあります。今回、気象予測と制御を連動させたパラメータ設定を行うことができるようになったので、“予測制御”にもシステムを活用していきたいと考えています」

FJQS渡邊は、近いうちに予測制御が実現できると見込んでいます。

「農林水産省の研究機関である農研機構が1キロメッシュというピンポイントでの農業気象予測データを提供しており、そのデータを農家が入手できる仕組みも整備されました。省エネや作物の収量・品質向上など、予測制御の必要性については山本先生に何年も前から相談を受けていたので、少しでも早く実現できるよう、最適なパラメータ設定を一緒に考えていきたいと思います」

将来的にはシステムを導入する温室や牛舎の追加を予定していると語る山本氏。今後もFJQSのサポートに対する期待は大きいようです。

「FJQSとは長いお付き合いですが、とことん現場主義なのが魅力です。ビッグデータのマイニングだけに頼らず、農家の実情に即した使い勝手の良いシステムをつくってくれることが有難いですね。今回、制御パラメータの設定機能を加えてもらったことで、拡張性が飛躍的に高まりました。まずは2棟の温室と乳用牛の牛舎にシステムを導入しましたが、もっと広げていきつつ、それぞれの温室・畜舎に応じたシステムの活用方法について、開発者目線での指摘をもらえればと思っています」

山本氏からの期待を受け、FJQS渡邊も継続的なサポートを約束します。

「ユーザーがロジックを組んで制御パラメータを設定できる機能は、とても柔軟性があり、利用者が考えた制御をその場ですぐに実践できるメリットがあります。今後、一緒にブラッシュアップしながら、現場でより使いやすくなるシステムへ進化させていきたいと思います。宮崎県の豊かな農畜産物を国内外に広めていくこと、さらには日本の農業の役に立つシステム作りに向け、これからも現場目線を忘れずに協力していきたいですね」


左から、宮崎県立農業大学校 山本氏、FJQS 渡邊

宮崎県立農業大学校 様

事業内容農学科・畜産学科(各2年課程)による就農教育
設立昭和9年8月
所在地宮崎県児湯郡高鍋町持田5733番地
代表者校長 徳留 英裕
学生数農学科1学年定員40名
畜産学科1学年定員25名
ホームページhttp://majc.sakura.ne.jp/新しいウィンドウで表示
概要宮崎県農政水産部が所管する2年課程の農業者育成教育施設です。また、平成22年度より、学校教育法に基づく専修学校・専門課程(専門学校)として認可され、卒業者には「専門士(農業)」の称号が付与されます。農業大学校としては全国第2位の面積(約100ha)を誇る広大なキャンパスに、10haの野菜・花・果樹を栽培する農学エリアと約150頭の肉用牛・乳用牛を飼育する15haの畜産エリアがあり、学生が主体的に運営。校訓である「自律・創造・協調」を基調とした教育を通して、農業県・宮崎における実践農業の教育機関として、未来の農業を担う人材を育成しています。

[ 2021年3月26日掲載 ]

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