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Fujitsu

Japan

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注:このページはアーカイブ化さたコンテンツです。各論文の記載内容は、掲載開始時の最新情報です。

ものづくり


雑誌FUJITSU 2016-5

2016-5月号 (Vol.67, No.3)

富士通は,ものづくりのベースとなる富士通生産方式(FJPS)にICTを駆使し,テクノロジーを融合させた「つながるものづくり環境」を実現するため,テクノロジー,ツール,運用技術を開発・高度化し,自社内の開発現場や生産現場に展開しています。本特集では,この「スマートなものづくり」を実現する基盤,テクノロジー,実践事例を紹介します。



巻頭言

ものづくり特集に寄せて (499 KB)
執行役員常務 五十嵐 一浩, p.1

特別寄稿

IoT時代のビジネスイノベーション ~ものづくりのビジネスモデル再構築に向けて~ (693 KB)
小川 紘一, p.2-7

総括

富士通が考えるスマートなものづくり (1.10 MB )
三好 清司, 渡辺 伸寿, 宮澤 秋彦, p.8-18
富士通は,2003年にトヨタ生産方式(TPS:Toyota Production System)を生産部門に導入した。現在,その対象を開発部門と間接部門にも拡大し,富士通生産方式(FJPS:Fujitsu Production System)として活動を推進してきている。その活動を支えてきたのは「自らが持つICTの活用」である。ICTとIoT(Internet of Things)の進展に伴って人のアクティビティやもののデジタル化が進み,多種多様な情報を活用して近い将来を解析・予測することが現実のものとなってきている。これにより,ものづくり全体のプロセスも大きく変革できる可能性が見えてきた。富士通では,仮想環境を媒介として部門間,工場間をつなぎ,更にはサプライヤー,パートナー様,お客様をつないで,より高次なものづくりを目指した「スマートなものづくり」を構想している。
本稿では,ものづくりの進化を支えてきたICT活用による富士通のものづくり基盤の現状を述べた上で,スマートなものづくりを支える次世代ものづくり基盤について展望する。

富士通のものづくり基盤

クラウドベースの次世代ものづくり開発プラットフォーム (1.04 MB )
今野 栄一, 野崎 直行, 中村 武雄, 平等 純子, p.19-25
製品開発においては,消費電力,発熱,各種ノイズ,耐久性などの設計制約条件がますます厳しくなり,かつそれらのマージンも非常に小さくなっている。それぞれの課題を個別に解決しても,全体の調整に多くの時間を費やす結果となる。つまり,全ての課題を解決するには,同時複合的な視点を持った解決手法が求められている。このため,製品設計を支えるCAD(Computer Aided Design),CAE(Computer Aided Engineering)ツールは,それぞれ改善や強化が進められてきた。しかし,上記のような複合的な課題の解決は,各ツールで閉じた部分最適化を継続しても解決できない。そこで,富士通では製品開発手法を抜本的に見直し,全ての設計ツール,データ,ノウハウなどを一つのプラットフォームに集約することで,複合的な課題の解決を目指すこととした。すなわち,CADとCAEを融合し,電気,熱,電磁界,構造の同時解析に応えることで,「つながる」から「つながっている」を指向する次世代の開発プラットフォーム「One Platform」をクラウドベースで実現する。
仮想大部屋によるスマートなものづくり (973 KB)
有田 裕一, 野崎 直行, 鎌田 聖一, p.26-32
富士通グループの開発・製造現場では,従来からスマートなものづくりに取り組んでおり,仮想大部屋はその重要な構成要素の一つに位置付けられている。仮想大部屋は,消費者,退職したベテランエンジニア,サプライヤー,販売者などがものづくりに参加でき,設計現場や実工場とも連携したサイバーフィジカル空間でのものづくりを可能にする場を目指している。そこでは,仮想製品を原寸大の立体視で共有し,図面や規格を確認しながら,人,ロボット,設備や工場などの現場に対する各種センシング情報や過去の検証結果を活用できる。加えて,仮想空間内に構築した場において,ビッグデータ分析によるものづくりエージェントの支援を受けることも可能となる。
本稿では,IoT(Internet of Things)時代を見据えたスマートなものづくりに不可欠な仮想大部屋への取り組みの状況を紹介する。
VPSを活用した生産準備領域の仮想化 (814 KB)
舩木 滋夫, 坂田 恭一, 村田 寿憲, p.33-38
FUJITSU Manufacturing Industry Solution VPS(Virtual Product Simulator)は,実機中心で行っていた生産準備領域の業務プロセスを3次元データを活用して仮想化することにより,製造レビューから製造指示ドキュメント作成,工程検討に至るまで一貫支援し,ものづくりのQCD(Quality,Cost,Delivery)向上に貢献するツールである。本ツールを活用することで,早い段階から製造レビュー,検討,検証を行う生産準備のフロントローディングを実現できる。本ツールに生産準備段階で必要となる属性情報,注意事項などを入力することにより,帳票作成,部門間の情報共有,設計変更時の情報配信を効率的に行うこともできる。最近では,製品データの仮想化にとどまらず,生産ラインや生産設備など工場全般へと仮想化領域は広がっている。適用フェーズに関しても,量産前の製造レビュー,検討,検証だけではなく,量産開始後に行う改善活動においても活用できる取り組みを進めている。
本稿では,VPSの活用を中心とした生産準備領域における仮想化の取り組みについて述べる。
変化・変動に迅速・柔軟に対応できる自律型ロボットシステム (722 KB)
尾崎 行雄, 小林 泰山, 富田 順二, p.39-44
富士通は,変化・変動に迅速・柔軟に対応できるものづくりを実現するため,部品のばらつきや設備の経年劣化に対応する自律型ロボットシステムの開発に取り組んでいる。ロボットを動作させるためには,専門技術者が動作プログラムを作成し,部品供給・組み立て位置のティーチングを行い,その後ロボットに組み立て作業を行わせることになる。しかし,このような方法では多大な工数を費やすことが問題となっていた。また,量産時には,部品のばらつきなどの製造環境変化により,ロボットの停止が頻繁に発生していた。そこで,ロボット動作プログラムを自動生成し,使用するロボットに適したデータ形式に自動変換してロボットへデータ転送する技術を開発した。更に,ロボットが自ら「感じ」「考え」「行動」する自律・協調制御技術の開発を推進している。本技術により,変化・変動への柔軟な対応を可能とすることで,段取り替え・作業組み替えのミニマム化を図り,ロボット導入の障壁を解消する。
本稿では,変種変量生産に適用することによって,生産効率化を実現する自律型ロボットシステムの開発について述べる。
ものづくりの現場における制御システムのセキュリティ対策 (879 KB)
岩田 洋一, 平尾 直也, 鈴木 智良, p.45-50
ものづくりの現場では,IoT(Internet of Things),Industrie 4.0などのキーワードに代表されるように,高度なロボット制御技術などを駆使したデジタル化が急速に進んでいる。一方,近年高度化するサイバー攻撃の対象は,情報システム分野のみならず,ものづくりの現場や重要インフラで稼働し続ける制御システム分野にまで広がっている。制御システムは,連続稼働およびリアルタイム制御・処理が求められるため,情報システムで培われた最善のセキュリティ対策が必ずしも適用できるわけではない。また,制御システムが稼働するものづくりの現場において,セキュリティの脅威が把握されておらず,具体的に何をどこまで実施すれば良いのかを決められないという課題がある。更に,制御システムをサイバー攻撃から守り,現場がサイバー攻撃を受けた場合の対処をリードできる人材が不足していることも問題である。
本稿では,ものづくりの現場におけるセキュリティリスクを可視化する手法,および制御システム分野のセキュリティ人材の育成について紹介し,今後の展望について述べる。

ものづくりを支えるテクノロジー

クラウドと融合した統合開発環境でのマルチフィジックス解析技術 (979 KB)
石川 重雄, 登坂 正喜, 久保田 哲行, p.51-57
マルチフィジックス解析とは,異なる支配方程式で表される複数の物理現象をシミュレーションによって解くものである。近年の電子機器の実装設計では,高密度化,大容量化の要求が増している。そのため,発熱による温度上昇が電気特性や機械的特性に与える影響が無視できなくなってきており,分野ごとにシミュレーションを実施し,設計改善内容をすり合わせる従来の設計手法では手戻りが多く,開発効率が上がらないという問題が出てきた。富士通は,このような電気・熱・構造などの複合的な問題を解決するため,独自のマルチフィジックス解析環境を構築した。このマルチフィジックス解析環境をクラウド上に構築した設計開発環境である統合開発プラットフォームと融合させることで,電気設計者と構造設計者の情報共有,大規模問題への対応を実現している。
本稿では,電源解析,熱流体解析,および構造解析を組み合わせ統合的に解くマルチフィジックス解析環境の特長と,小型電子機器設計への適用事例について説明する。
製品設計における人工知能技術の応用 (1.02 MB )
野崎 直行, 今野 栄一, 佐藤 満, 坂入 慎, 澁谷 利行, 金澤 裕治, Serban Georgescu, p.58-65
製品設計における人工知能の応用は,製品開発において人の経験に依存してきた作業を,コンピュータにより支援することを目的としている。しかし,知識やルールを明示的に与える従来型の問題解決手法には限界があるため,人工知能の研究において機械学習は重要な要素技術として捉えられてきた。未知のデータを一定の精度で予測する機械学習を応用することで,これまで人が経験によって判断していた属人的作業をなくし,効率的でばらつきの少ない判断を実現する。また,人工知能を製品開発環境に反映させるため,製品開発データを効率的に収集するとともに,データから抽出した学習モデルを管理・活用する仕組みである機械学習フレームワークをクラウド上に構築する。本フレームワークと設計開発環境である統合開発プラットフォームを連携させることで,プラットフォーム上の各種設計ツールへの新たな設計支援機能の提供が可能となる。
本稿では,人工知能の要素技術である機械学習を設計に応用した事例と,統合開発プラットフォームへの組み込み計画について述べる。
生産ラインにおける機械学習技術の応用 ~画像認識システム~ (871 KB)
長門 毅, 澁谷 大貴, 岡本 浩明, 肥塚 哲男, p.66-72
近年,生産現場においてはマスカスタマイゼーションに伴う変種変量生産への要求が高まっており,その実現に向けて状況変化に素早く対応できる自律的な生産システムの構築が重要となっている。カメラを用いた生産設備やロボットの画像認識技術においても,撮影環境の変化や製品ロットの変更に柔軟に対応するために,画像処理プログラムの早期構築とタイムリーな修正技術が求められている。そのため,自律的な生産システムの構築を目的として,機械学習技術を用いた画像認識システムの開発が進められている。特に,生産ラインの安定稼働を実現するためには,様々な画像処理プログラムを自動生成する技術に加えて,環境変化を早期に自動検知する技術の開発も課題であった。これらの課題に対して,筆者らはプログラムの前処理の構築や画像特徴量の抽出,および学習パラメーターの最適化技術を開発し,画像処理で多用されるテンプレートマッチングと良否判定処理へ適用した。また,学習時の撮影画像を基準として,それ以降の画像特徴量の変化を検知することで,撮影環境の変化を捉える技術を開発した。その結果,様々な画像処理プログラムを短時間で構築でき,更には認識率が低下する前に撮影環境の変化の予兆を検知できるようになった。

アプリケーション,実践事例

装置開発工数半減を目指す3次元CADと解析の活用 (1.11 MB )
山岡 伸嘉, 山口 敦規, 河野 香代子, 内倉 洋二, p.73-82
富士通は,装置開発のQCD(Quality:品質,Cost:コスト,Delivery:納期)の革新に向けて,サーバ装置の実装構造設計,プリント基板設計のプロセス改革を推進してきた。開発工数を削減するためには,机上検証の強化と効率化が重要であり,ICTの利活用が欠かせない。装置設計にはじまり,量産時の組み立て・検査作業やフィールドの保守作業に至る机上検証に対して,3次元かつリアルな形状を扱えるCADおよび解析シミュレーションを設計・開発の上流に適用してきている。
本稿では,電気系と構造系の3次元CADデータ連携による机上での設計検証の強化や,3次元CADデータへの製造情報の埋め込みによる設計部門と生産部門との情報共有,上流設計における3次元CADデータからの設計検証や解析の適用について,現状の取り組みとこれまでの効果,および今後の展望を紹介する。
ダントツな品質と効率を実現する「ものづくりナビゲーションシステム」 (801 KB)
高田 英治, 小林 泰山, 松岡 英俊, 添田 武志, 舞田 正朋, p.83-89
富士通はICTを活用して適正な品質と管理で効率的にものづくりを行う「スマートなものづくり」サービスの展開を目指している。その取り組みの一つとして,センシング・解析ツール・AI(Artificial Intelligence)などのICTを開発の上流からフル活用する「製造現場の仮想化・統合化」をベースに,製造に関わるあらゆるデータから現場にとって有益な解を導き出す「ものづくりナビゲーションシステム」を開発している。ものづくりの現場においては,設計資産・製造現場の経験値・生産設備の稼働状態との関係を状況に応じて取り込み,適正な品質をつくり込む必要がある。そこで筆者らは,社内実践を通して現場特有の事情をデータ化して情報量を増やし,その分析結果を基に,製造状態の予測モデルを構築して製造条件のチューニングを行うシステム開発に注力している。
本稿では,ものづくりナビゲーションシステムの概要および機能を紹介する。更に,現場の状況と少し先の状況を対比しながら最善策を速やかに提示する「リアルタイムナビゲーション」について紹介する。
ICT活用によるものづくり革新活動と人と機械の協調生産の実践 (1.12 MB )
宇佐美 隆一, p.90-96
島根富士通はノートPC(LIFEBOOKシリーズ),タブレット(ARROWS Tabシリーズ)などのユビキタスクライアントデバイスを生産する生産拠点である。生産技術とIoT(Internet of Things)を含むICTを活用したスマートなものづくりを実現しており,1台単位でカスタマイズした製品を生産できる。島根富士通では,トヨタ生産方式(TPS)をベースとした富士通生産方式(FJPS)を核に,独自のものづくり革新活動を展開している。従来の現場中心の改善活動に加えて,シミュレーション技術を活用した設計支援やロボットによる自働化,ICT活用などを織り交ぜた活動によって,品質・コスト・デリバリーの各面において大幅な改善を達成してきた。その成果が認められ,本取り組みは「第6回ものづくり日本大賞 経済産業大臣賞」を受賞している。
本稿では,島根富士通のものづくり革新活動による人と機械の協調生産,製品・工場シミュレーション,および生産ラインへのICTの活用について述べる。
IoT時代の次世代ものづくりのための見える化ソリューション (891 KB)
永嶋 寿人, 西村 威彦, 高橋 一樹, p.97-103
IoT(Internet of Things)の時代を迎え,生産現場では日々大量に発生するデータを活用したものづくりへの取り組みが始まっている。従来の熟練者の勘と経験に頼った改善活動に行き詰まりを感じている生産現場では,現場データの活用に期待が集まりつつある。一方で,現場データの活用については前例が少なく,費用対効果が不明なことから,各企業は何から始めるべきか悩んでいるのが現状である。このような状況の中,富士通は現場技術者が現場データを活用できるソリューションである「次世代ものづくりのための見える化」(以下,次世代見える化)を提供している。次世代見える化は,視覚などの人間本来の能力を最大限に活用することで,より詳細で大量のデータを一瞬で把握できるようにする。この次世代見える化は,オムロン株式会社様の草津工場においてプリント基板表面実装ラインの品質向上,および生産性改善の実証を行ったもので,スモールスタートから始め,やがてグローバルでの取り組みへと成長した。
本稿では,ものづくり現場の技術者から作業員まで,誰もが使えることを目指した次世代見える化ソリューションについて述べる。