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雑誌FUJITSU

2015-9月号 (Vol.66, No.5)

富士通の最新技術を隔月に紹介する情報誌です。 冊子体の販売はしておりませんのでご了承下さい。


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雑誌FUJITSU 2015-9

特集:「研究開発最前線」

本特集号では,富士通研究所のR&Dビジョン,最先端研究から応用研究までの研究開発の取組み,および海外拠点の活動についてご紹介いたします。


富士通研究所
代表取締役社長
佐相 秀幸
富士通研究所 代表取締役社長 佐相 秀幸 写真

研究開発最前線特集に寄せて(PDF)

富士通研究所は,これまで研究開発によるインベンションの追求に力点を置いていましたが,これからは,研究開発の応用を見据えたビジネスモデルの構築にも取り組んでいきます。しかし,富士通研究所だけでイノベーションを生み出すことは簡単なことではありません。そこで,お客様やパートナーの皆様と一緒になって考えることで,新たなビジネスや新市場の開拓を共創し,将来の社会の発展に貢献したいと思っています。

特集:研究開発最前線 目次〕

総括

  • ICTのメガトレンドに向けたハイパーコネクテッド・クラウドへの取組み

海外研究所紹介

  • 富士通研究所の海外拠点における研究開発・活動

ICTを支える先端技術デバイス,ものづくり技術

  • LSI間を高速・高密度・低消費電力で接続するシリコンフォトニクス光トランシーバー
  • 生産ラインにおける画像処理プログラムの自動生成技術
  • シンボリック実行を活用した網羅的テストケース生成

進化するICTシステム運用・データ利活用技術

  • 200 Gbpsの超高速通信をリアルタイムにソフトウェアで解析する技術
  • 無線LANの遠隔障害診断技術
  • ICNが切り開く次世代ネットワークアーキテクチャー
  • オープンデータ連携に向けたIDマッピングソリューション

業務や生活スタイルを変革する端末・クラウド連携技術

  • 省電力なアプリ開発を容易にするセンシングミドルウェア
  • 特定の場所での端末・機器間の情報交換サービスを迅速に構築できるプレイスサービス基盤
  • モノに情報を付与できるLED照明技術
  • 形状変形による古文書画像のシームレス合成

ソーシャルイノベーションに向けた新たな取組み

  • 新たなエネルギーサービスに向けた取組み
  • 自然の脅威から社会を守るための防災・減災の取組み

特集:研究開発最前線


総括

ICT業界を取り巻く環境は日々劇的に変化しており,大きなパラダイムシフトやビジネス変革が起こる可能性のある重大な局面にある。富士通としても,従前のSIビジネスモデルを維持しつつ,新しい流れに対応できる技術基盤を準備しておくことが不可欠であり,研究開発を担う富士通研究所の役割は以前にも増してますます大きくなっている。
本稿では,近年のICTのメガトレンドと将来動向を技術面から概観しつつ,これから取り組んでいくべき「ハイパーコネクテッド・クラウド」の研究開発戦略と,それを実現するための研究課題について整理する。

飯田 一朗

海外研究所紹介

富士通研究所は,富士通におけるイノベーション創出をけん引する研究開発の中心組織であり,米国富士通研究所,富士通研究開発中心有限公司(中国),欧州富士通研究所の三つの海外研究所とグローバルに連携した体制をとっている。海外研究所では,現地の優秀な人材を活用して,富士通研究所と密に連携したテーマを研究開発するだけでなく,各リージョンの特色に応じた独自の研究開発や標準化活動に取り組んでいる。現地の有力な大学や研究機関と連携したオープンイノベーションも活発である。また,各リージョンにおける富士通ビジネスを支援するために,スタートアップ企業との連携やフォーラムなどの展示会を通じた最先端技術の紹介など,ビジネスインキュベーションに向けた活動も積極的に推進している。
本稿では,富士通を支えるための重要な役割を担う海外研究所の研究開発や活動について紹介する。

木村 康則, 直井 聡, 中田 恒夫

ICTを支える先端技術デバイス,ものづくり技術

次世代の高性能・省電力なサーバやスーパーコンピュータの実現には,CPUの高性能化だけでなく,CPU間,CPU-メモリ間を小型・高密度かつ低消費電力で相互接続する信号伝送技術が必要である。従来の電気信号伝送は,信号の高速化に伴う伝送距離の低下や,端子数の制約などから要求に応えられなくなりつつあり,大容量・長距離伝送が可能な光インタコネクト(光伝送)への期待が高まっている。中でも,光送受信機(トランシーバー)の小型・高密度化,低消費電力化に有望とみられるシリコン(Si)フォトニクス技術は,近年特に注目を集めている。
本稿では,富士通および富士通研究所が取り組んでいる小型・低消費電力なSiフォトニクス光トランシーバー技術について説明する。光トランシーバーの小型・高密度化,低消費電力化には,光素子,駆動回路の高性能化に加え,高品質な電源,信号を供給できる実装構造が重要である。筆者らは,ワイヤー接続不要で高密度集積が可能なブリッジ実装構造を提案し,本構造に基づいた光・電子素子などを設計し,Siフォトニクス光トランシーバーを試作した。その結果,世界最高性能クラスとなる高い伝送信号密度,低い消費電力を達成し,本技術の有効性を実証した。

早川 明憲, 江部 広治, Chen Yanfei, 森 俊彦

生産ラインにおける画像処理システムは,製品の製造・組立や外観検査など,様々な場面で使用されている。生産ラインでは,設備環境の変化や部品ロットの変更などが頻発するため,それらに対応できるような画像処理プログラムの早期の構築・修正が求められている。富士通研究所では,機械学習の手法である遺伝的プログラミングを用い,入力画像と正しい処理結果である正解情報を入力するだけで,画像処理プログラムを自動生成する技術の開発を進めている。この技術の生産ラインへの適用には,学習速度の高速化が課題であった。この課題の解決に向けて,プログラム構造の階層制限や認識対象の形状に応じた評価方法,学習データの自動選択法を開発した。その結果,部品組立て装置の位置合せ技術において,従来比1/10の学習時間で高精度な画像処理プログラムを自動構築できるようになった。
本稿では,開発した画像処理プログラムの自動生成技術について説明し,生産現場への適用評価結果について述べる。

長門 毅, 肥塚 哲男

現在の企業システムのソフトウェア開発において,ソフトウェアテストは3割から5割に及ぶ工数がかかっており,大きな課題である。また,テスト駆動開発や継続的インテグレーションなどの,テストの自動化を前提とした開発パラダイムが主流になりつつあるなど,その重要性はより一層増している。富士通研究所は,ソフトウェアテストの中でも,品質の確保や作業工数の削減において最も大きなウェートを占めるテストケース生成をメインターゲットに研究開発を進めてきた。その研究成果は,富士通の業務アプリケーション開発環境であるFUJITSU Software Interdevelop Designerのテスト機能として実用化されている。
本稿では,筆者らが早くからその可能性に着目し,現在学術界でも研究トレンドとなっているシンボリック実行を活用した網羅的テストケース生成を紹介する。そして,プログラムの単体テストと改版時のリグレッションテストの効率化をターゲットに,実用化に向けた三つの課題と,それらを解決するために採用したアプローチについて述べる。更に,実用的なソフトウェア資産に対する適用評価の事例も併せて紹介する。

上原 忠弘

進化するICTシステム運用・データ利活用技術

スマートフォンやタブレットなどの端末の普及や,データセンター活用シーンの拡大により,クラウドサービスが大きく進展している。これにより,通信ネットワークを利用したサービスの品質向上がますます重要になっている。一方で,ネットワークのデータ流量増大や複雑なシステム構成などにより,遅い・つながらないといったサービス障害が発生することがある。このようなサービス障害を早期に発見して復旧させるためには,その原因がネットワーク品質にあるのか,またはアプリケーション側にあるのかを解析して切り分ける必要がある。このためには,通信パケットごとの詳細な挙動をリアルタイムに解析する必要がある。また,複雑な障害については一旦障害の証拠を蓄積しておき,事後に詳細な分析を行うことが求められている。このような要求に応えるため,富士通研究所は超高速なネットワークの通信パケットをリアルタイムに解析するとともに,蓄積・検索も高速に実現する技術を開発し,高価な専用ハードウェアが不要なソフトウェアとして汎用システムに実装した。
本稿では,高速通信を解析・蓄積・検索するためのソフトウェア技術,およびそのシステム構成について述べる。

野村 祐士, 田村 雅寿, 小沢 年弘

近年,オフィス内LANや現場のデバイスを結ぶM2M(Machine to Machine)システムの無線化が進んでおり,手軽にネットワークを構築できる無線LANが多くの場で利用されるようになってきた。しかし,無線LANは同じ周波数帯域を使うほかの機器からの電波干渉を受けやすく,また,通信距離が短く建物や壁などの遮蔽の影響を受けやすいため,通信品質が変化しやすいという運用上の難しさが伴う。したがって,安定した性能を維持するためには,無線の障害を素早く検出し復旧する運用管理が重要となる。筆者らは,無線LANの低コストな運用管理に求められる要求条件を,ユーザーの所有する無線端末への機能追加が不要なこと,管理者が現場に行かずに問題の箇所・原因を切り分けられることの2点にあると整理し,この条件を満たすネットワーク主導型遠隔障害診断技術を開発した。また,計算機シミュレーション評価によって,開発した技術の有効性を検証した。
本稿では,筆者らが開発したネットワーク主導型の遠隔障害診断技術の基本原理と評価結果を紹介する。

藤田 裕志, Yun Wen, 尾崎 一幸, 小島 力

インターネットは設計当初,ホスト間でのデータ送受に焦点が当てられていたが,近年では,次第に動画や音楽など情報の配信・流通システムへと変化してきている。このような流れを受けて,インターネットの新しい利用形態に適した情報中心のネットワーク技術であるICN(Information-Centric Networking)の研究が盛んになってきた。その基本思想は,場所(サーバ)ではなくコンテンツ名によりネットワーク機能が動作し,ユーザーに情報を届けることである。特徴としては,ネットワーク内キャッシングによるデータ取得の効率化,コンテンツの移動に対する呼び出しの簡略化,コンテンツごとのセキュリティ機能の提供などが挙げられる。このアーキテクチャーに従い,プロトコル仕様やオープンソフトウェア開発,プロトタイプシステム開発が大学や企業から発表されている。これらの現状は研究段階であるものの,今後様々な成果が見込まれる。
本稿では,ICNの基本的な考え方,各種ICNアーキテクチャーの特徴,現在の研究動向や各種団体の活動,および米国富士通研究所で実施した研究の概要を紹介する。

伊藤 章, 福田 健一

オープンデータは,とりわけDATA.GOVやDATA.GOV.UKなどのオープンデータガバメント・イニシアティブの立上げによって,近年更に一般的なものとなってきた。オープンデータは誰でも自由に入手可能であり,あらゆるデータの使用と再公開が可能である。しかし,公開のための標準規格が存在しないことから,非常に多くの場合,オープンデータはそれぞれ独自のフォーマットを用いて作成されている。このため,ある公開サイトのデータセットは,ほかの公開サイトのデータセットと連携して利用することが難しい(サイロ化された)ものとなっている。この問題の解決のため,欧州富士通研究所(FLE)ではオープンデータを正確に連携する手段として,IDマッピングをベースとするソリューションの開発を行っている。
本稿では,セマンティック拡張型の高信頼性エンティティID調整機能,およびマッピングベースの連携フレームワークの2種類の基本技術を紹介する。FLEのソリューションによれば,組織におけるオープンデータ活用の難しさを緩和し,より良い意思決定により競争優位性を強化することが可能となる。

Vivian Lee, 後藤 正智, 伊豆 哲也

業務や生活スタイルを変革する端末・クラウド連携技術

モバイル機器のセンシング機能で人の周りの様々な情報が収集できると,情報サービスがより便利に活用できるようになると期待されている。一方,モバイル機器がバッテリー駆動であるため,センシングや通信などの動作に要する消費電力は大きな課題であり,それを解決すべく様々な取組みが行われている。一般にモバイル製品は,特定の用途や機器に特化するほど高い省電力効果が得られる傾向にある。しかし,特化した省電力化の手法は,ほかの用途や機器に転用できない汎用性の低いものとなりがちで,用途や機器ごとにアプリやファームウェアを作り直す必要が生じてしまう。このような背景から,富士通研究所は個別のセンサーごとの実装を不要にし,各機器に搭載したセンサーを自動的に使い分けて最も少ない消費電力になるようにセンシングを実行する「センシングミドルウェア」の技術を開発した。
本稿では,モバイル機器でセンシングするアプリの可搬性を高め,開発コストを大幅に削減できる本ミドルウェアについて述べる。

上和田 徹, 中尾 学, 長谷川 英司

近年,店舗や学校など,複数の人が集まる特定の場におけるスマート端末の活用が進んでいる。これまで,このような場において人と人,人とその周辺に設置されている機器とをつなぐサービスを実現するには,利用者は様々な事前設定が,またアプリケーション開発者は複雑なプログラミングが必要であった。このような状況の中,富士通研究所は事前にメンバー登録やドライバのインストールが不要で,人や機器をつなぐ連携サービスを迅速に構築可能なプレイスサービス基盤技術を開発した。本技術により,人が集まる場においてスマート端末や機器をつないで活用するアプリケーションの開発工数を,最大で従来の約10分の1に低減できる。また,本技術は学校におけるグループ学習,店舗における顧客端末への商品情報提供,大画面と連動した商品紹介などへの活用が期待できる。
本稿では,プレイスサービス基盤を構成する技術,および本基盤の適用例について述べる。

松本 達郎, 塩津 真一

近年,スマートデバイスの普及やインターネットにアクセスするための通信環境の整備が進み,利用者はいつどこでも欲しい情報の入手が可能になった。その結果,利用者が目の前にあるモノについてその場で検索し,そのモノに関連した情報を入手するといった行動が一般的になってきている。一方,インターネットは大量の情報であふれており,知りたい情報や利用したいサービスになかなかたどり着けないことも多い。モノに関連した情報へより簡単にたどり着けるようにするために,富士通研究所はモノを識別するためのIDを埋め込んだLEDの光をモノに照射し,その反射した光からIDを画像処理で検出するLED照明技術を開発した。この技術により,気になるモノをスマートデバイスのカメラで撮影するだけで,モノに関連した情報を容易に取得できる。一方,サービス提供事業者は,この技術を活用することにより,利用者との接点と提供サービスを拡大できる。
本稿では,富士通研究所が開発したLED照明技術の概要および本技術の用途や応用例について紹介する。

倉木 健介, 加藤 圭造, 田中 竜太

中国では,古文書の保護と有効活用に向けて,デジタルデータとして保存することが進められている。大判の古文書に対しては,小型の非接触型スキャナにより複数の領域に分けてスキャンし,それらの画像をきれいにつなぎ合わせて画像合成するステッチング技術が期待されている。しかし古文書は紙質が悪く表面が平坦ではないため,スキャンした画像に局所的な歪みが発生し,画像合成が困難という課題があった。富士通研究開発中心有限公司は,この問題を解決するために形状変形を用いてシームレスに画像合成する技術を開発した。まず,一方の画像を変形してもう一方の画像に近似した後,最小限の変形で整合性を最大化する1本もしくは2本の最適な継ぎ目を推定する。この方法を用いれば,高品質な古文書画像が得られる。
本稿では,古文書画像の合成処理特有の課題を示し,それを解決するための技術とその性能評価について述べる。

Wei Liu, Wei Fan, Li Chen, Sun Jun, 直井 聡

ソーシャルイノベーションに向けた新たな取組み

地球温暖化や資源枯渇への対応,安全性の保証など電力システムに対する要望が多様化する中,再生可能エネルギーはこれらの要望を満たす重要な選択肢として,その普及への期待が高まっている。しかし,再生可能エネルギーによる発電は,太陽光や風力などのように自然現象に依存しているために,発電量の変動が激しい。また,その予測が難しいことから,需給バランス維持という観点で取扱いが困難である。この問題を解決するために,今後の電力システムは電力系統側と連携した電力の消費側の情報化が不可欠になってきており,この領域での標準化が活発化している。一方,コンピュータなどの情報機器だけでなく,あらゆるものがインターネットに相互接続されたIoT(Internet of Things)が実現されつつある。今後は,高度に情報化された電力システムと,IoTが融合しながら,新たなエネルギーサービスが実現されていくと考えられる。
本稿では,電力システムやIoTの標準化動向と富士通研究所の取組み,および新たなエネルギーサービスの実現に向けた活動を紹介する。

園田 俊浩, 吉田 宏章, 松倉 隆一, 竹林 知善

自然災害が大規模化し,世界各地で大きな検討課題となる中で,ICTを利用した効果的な対策が求められている。富士通研究所では,災害を専門に研究されている方々の知見を得ながら防災・減災技術の開発を進めている。被害を減らすためには,災害の発生を早期に検知するとともに,被災地点や規模を予測することが有効である。
本稿では,まず災害発生地点を早期に捉える手段として,SNSを活用した災害地点推定の高度化手法について述べる。この手法とSNS以外の諸情報を組み合わせることにより,信頼できる災害地点情報を捉えることができる。次に,広範囲の流域を持つ河川において,洪水の危険性を把握する洪水予測シミュレーターの最適化手法を示す。これにより,従来は難しかったパラメーター設定が自動化できる。

佐藤 均, 武田 邦敬, 松本 和宏, 穴井 宏和, 山影 譲


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