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Fujitsu

Japan

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注:このページはアーカイブ化さたコンテンツです。各論文の記載内容は、掲載開始時の最新情報です。

雑誌FUJITSU

2013-9月号 (Vol.64, No.5)

富士通の最新技術を隔月に紹介する情報誌です。 冊子体の販売はしておりませんのでご了承下さい。


雑誌FUJITSU 2013-9

特集:「研究開発最前線」

富士通研究所では,「人に役立つ技術」の研究開発を進めています。大量データの利活用,社会問題解決へ貢献する技術,それらを支えるICTプロダクト技術などから,ヒューマンセントリック・インテリジェントソサエティの実現を目指していきます。本特集号では,お客様皆様方にとっての利用価値の観点から研究開発の取組みの一端をご紹介します。


富士通研究所
代表取締役社長
富田 達夫
富士通研究所
代表取締役社長 富田 達夫 写真

研究開発最前線特集に寄せて(PDF)

私たちの暮らしの安全や健康などの身近な問題,更にはそれを取り巻く社会,企業経営,交通,公害,自然災害などの様々な問題があります。グローバル視点では,人口,地球環境,世界経済,エネルギー,食糧,国家間の緊張関係の問題が挙げられます。これらの問題がお互いに連鎖し絡み合うことで,課題をより大きく複雑なものにしています。これらの課題を解決する手段としてICTが果たす役割が大きくなっています。これからは,人々の生活に利便性を提供するにとどまらず,全ての人が本当に幸せを感じるために,人間中心(ヒューマンセントリック)にICTが活用される世界になっていくことが重要であります。我々はICTを進化させることにより,人が人の幸せに向けて活動することができるようになっていくと考えています。

特集:研究開発最前線 目次〕

大量データの利活用

  • Linked Dataを用いた情報統合・活用技術
  • BigGraphを利用した異常検出技術
  • データ活用に向けた開発・実行環境と高速処理技術
  • 時系列データの高速蓄積と柔軟な再生を可能とするストリームストレージ技術
  • センサーデータの安全な利活用を実現するプライバシー保護技術

ヒューマンセントリックを形に

  • 複数のセンシング技術を活用した非接触ユーザーインターフェース
  • ディスプレイと携帯端末間の通信を実現する映像媒介通信技術
  • スマート端末向けセキュアアプリ管理・実行基盤技術

安心・安全の実現

  • 特定の企業や個人を対象にしたサイバー攻撃対策技術
  • 「霧」や「もや」などをクリアにする高速画像処理技術
  • 障害予兆検知技術のクラウドデータセンターへの適用

社会問題解決への貢献

  • スマートシティに向けたエネルギー需給の最適化制御技術
  • 日常生活の中で意識せずに健康状態を把握するセンシング技術
  • モバイルセンシングによるストレス検知技術
  • メンテナンスフリーのセンサーを実現するエネルギー・ハーベスティング技術

高性能なICTプロダクトに向けて

  • 運用中の光ネットワーク資源の利用効率を高める波長デフラグメンテーション技術
  • プロセッサ間通信向け超高速インタコネクト技術
  • 次世代サーバ内での信号接続を高速化する光インタコネクト技術
  • CPUパッケージに搭載可能なTbps級シリコンフォトニクス光送信器技術
  • 高性能・低電力LTE対応ベースバンドLSI向けベクトルプロセッサ
  • 窒化ガリウムHEMT技術の展望

特集:研究開発最前線


大量データの利活用

富士通研究所では,Web上でデータを公開する標準的手法であるLinked Dataを用いた情報統合・活用技術の研究開発を行っている。Linked Dataとは,Webの各種標準規格団体であるW3C(World Wide Web Consortium)が推奨するデータ公開のための方法論であり,機械処理を可能とする構造化されたデータ形式が用いられる。近年,学術・政府系を中心に公共性の高いデータがLinked Data形式で公開されており,Linked Open Data(LOD)と呼ばれるWeb上でのグローバルなデータ空間を形成している。
本稿では,著者らがアイルランド国立大学ゴールウェイ校の研究機関Digital Enterprise Research Instituteと共同で開発した,世界中で公開されているLinked Data形式のデータを収集・格納し,一括検索するLOD活用基盤技術について,活用例を交えながら紹介する。

井形 伸之, 西野 文人, 粂 照宣, 松塚 貴英

プレスリリースオープンデータの活用革新! リンクが張られた公開データ(LOD: Linked Open Data)向け大規模データ格納・検索技術を開発

ビッグデータには,量(volume),多様性(variety),速度(velocity)という三つの軸があり,様々なシナリオがこれらの複数の軸を必要とするため,既存の技術の適用において困難が発生している。欧州富士通研究所におけるBigGraphプロジェクトは,富士通が掲げるヒューマンセントリック・インリジェントソサエティのビジョンを実現するためのプラットフォームの一つであり,上記三つの軸全てに対応するための研究開発を行っている。
本稿では,Fujitsu UK & Irelandとの協働による不正検出シナリオにおいて,ビッグデータに隠れている不正異常を発見するため,BigGraphで様々な情報を処理し,既存知識から新しい知識を作り出すための事例を紹介する。

Bo Hu, Aisha Naseer, 松塚 貴英

プレスリリースオープンデータの活用革新! リンクが張られた公開データ(LOD: Linked Open Data)向け大規模データ格納・検索技術を開発

近年,コンピューティング・パワーやネットワーク速度の飛躍的な向上,情報センサー技術の発達に伴い,あらゆるモノがインターネットにつながるようになってきた。Webや無数のセンサーから流れ込んでくる大量・多様な時系列情報からいかに価値ある情報を効率的に引き出し,各種のナビゲーションなどに素早く役立てられるかが強く求められている。富士通研究所は,ヒューマンセントリックなインテリジェントソサエティのビジョンを掲げ,これを支えるクラウド環境の構築を目指している。
本稿では,大量なデータの活用を促進する技術として開発・実行環境の統合技術,高速処理を実現する基盤技術として複合イベント処理の並列性抽出技術,および分散並列型複合イベント処理技術について,それぞれの狙いと特徴,効果を述べ,今後取り組むべき技術の方向性を展望する。

栗原 英俊, 上田 晴康, 坂本 喜則, 松原 正純

プレスリリース業界初!ビッグデータ向けデータ処理の開発期間を約1/5に短縮する開発・実行環境を開発

近年,センサー情報やサーバログなどの大量時系列データの実時間分析処理が広く利用されるようになってきた。これらのデータを十分に利活用するためには,同じデータを様々な観点から反復的に解析することが必要であり,大量時系列データを漏れなく蓄積するとともに,再生する機能のニーズが高まっている。蓄積対象となる個々のデータは一般的にサイズが小さく,かつ,多数の発信元から反復的に送信されてくるため,既存ストレージではスループットと容量を同時に満たすことが難しい。また時系列データの特徴である時刻順のアクセスパターンに特化した高速アクセスを大量データのもとで実現するものはなかった。富士通研究所が開発したストリームストレージは,時系列データをストリームという単位で管理し,高速な蓄積と再生を可能にするストレージ技術である。ストリームストレージは,分散ストレージ技術を採用し,時系列データを分割して並列かつ非同期に入出力することで高スループットとスケーラビリティを達成する。
本稿では,ストリームストレージのアーキテクチャーとその適用事例について紹介する。

前田 宗則, 小沢 年弘

情報家電による家庭情報や自動車の位置情報など,センサーデータを利活用する場面が増える一方で,これらのセンサーデータからプライバシー情報が漏えいするといった社会的問題も起こっている。富士通研究所は,このようなセンサーデータの収集の場面から分析結果の利活用の場面に至るまで,トータルにプライバシーを保護する技術を開発した。
本技術は,センサーデータを暗号化したまま,部分的にデータを墨塗り(マスキング)したり,別のデータや暗号鍵に変換したりすることを可能とする部分復号技術,およびユーザーが利活用先に自分のIDを知らせずに,自分のデータの解析結果を取得できる匿名アクセス技術から構成される。本技術により,ユーザーはセンサーデータに含まれるプライバシー情報を適切にコントロールしつつ,外部サービスを安全に利用することが可能となる。
本稿ではこれら技術の概要を報告する。

伊豆 哲也, 伊藤 孝一, 津田 宏, 阿比留 健一, 小倉 孝夫

プレスリリース業界初!収集から利活用までセンサーデータのプライバシーを保護する技術を開発

ヒューマンセントリックを形に

近年,ユーザーがより自然な形で操作するためのユーザーインターフェースとしてNUI(Natural User Interface)が求められている。富士通研究所ではNUIの実現に向けて,ジェスチャー認識技術,視線検出技術,音声認識技術といったセンシング技術を用いてユーザーをモニタリングし,その操作意図を理解することで端末を操作する非接触ユーザーインターフェースの開発を進めている。特に,単体のセンシング技術で様々な操作を実現すると,ユーザーに不自然な動作を強いることになるため,複数のセンシング技術を効果的に統合することで,より自然なユーザーインターフェースを実現するための研究を進めている。今回,センシング技術としてジェスチャー認識技術と視線検出技術を統合することで,単体で操作するよりも自然な非接触ユーザーインターフェースを開発した。
本稿では,現在開発している各センシング技術の概要,統合の方向性と課題,開発した技術と今後の課題について述べる。

皆川 明洋, 小田切 淳一, 堀田 悦伸, 中島 哲, Liu Wei, Fan Wei

近年,ネットワークの高速化やデジタルサイネージ(電子看板)の普及などにより,様々な場所で映像を目にする機会が増えてきている。しかし,そのほとんどは視聴者に向けて一方的に流されているだけであり,視聴者はテレビやデジタルサイネージで映像を見た後,インターネットの検索サイトでその映像に関するキーワードなどを入力して映像に関連した情報を取得しているのが現状である。視聴者が簡単に映像に関連した情報へたどり着けるようにするため,富士通研究所では映像の中に人間の目には分からない通信情報を埋め込み,その情報を携帯端末のカメラアプリで抽出することで映像と携帯端末間の通信を行う映像媒介通信技術を開発した。映像に埋め込まれている通信情報を利用することにより,視聴者は映像を撮影しただけでその映像に関連した情報を簡単に取得できるようになる。
本稿では,この映像媒介通信技術の概要を紹介するとともに,本技術の用途や応用例などについて紹介する。

倉木 健介, 中潟 昌平, 田中 竜太, 阿南 泰三

プレスリリーステレビ映像を携帯電話で撮影するだけで情報の取得を可能にする新しい通信技術を開発

プレスリリースPC画面を携帯電話やタブレットで撮影するだけでファイルの転送を可能にする技術を開発

スマートフォンやタブレットのようなスマート端末の急速な普及に伴い,企業のITシステムで利用する端末がPC中心からスマート端末中心にシフトしつつある。スマート端末の力をビジネスにフル活用するには,PCを対象とした従来の方法とは異なるセキュリティ機能が要求される。富士通研究所はそのニーズに対応するべく,スマート端末の使い勝手を損なうことなく,業務アプリケーションを柔軟かつ安全に利用できるアプリケーション管理・実行基盤技術を開発した。
本稿では,そのコンセプトと仕組み,適用例について紹介する。本技術はユーザーの状況(コンテキスト)にひも付けられたアプリケーションを端末に配信し,業務情報を含む端末内のアプリケーションを適切に保護・実行制御することで企業ユースに必要な安全な利用環境を提供する。

伊藤 栄信, 二村 和明

プレスリリーススマートフォンを安全に業務で利用可能とするアプリケーション実行基盤技術を開発

プレスリリース時間や場所に応じて必要なアプリケーションが自動配信・自動実行される情報端末技術を開発

安心・安全の実現

標的型攻撃と呼ばれる,特定の企業や個人を標的にしたサイバー攻撃の手口が,より巧妙になってきている。標的型攻撃では,標的を十分に事前調査し執拗(よう)に攻撃を仕掛けるため,内部環境への悪意ある不正なコード(マルウェア)の侵入リスクは高くなる。そのため,侵入されることを前提に,できる限り早期に検知して被害を最小限に抑える対策が重要となる。富士通研究所では,マルウェア侵入時の攻撃の初期潜入から,マルウェア侵入後の組織内ネットワークにおけるシステム調査や感染拡大という標的型攻撃の各進行段階を意識した総合的対策技術の研究開発を推進している。
本稿では,最初に,標的型攻撃の初期潜入段階で侵入を防ぐ「入口」対策として,標的型メール攻撃へのクライアント対策技術と,人の行動特性を考慮した従業員や組織のセキュリティ対策を最適化する技術について紹介する。次に,マルウェア侵入後の「組織内ネットワーク」対策としてマルウェアによるシステム調査などの諜(ちょう)報活動を的確に検知する技術を,最後にマルウェア侵入後の「出口」対策としてマルウェアによる外部制御サーバとの通信を検知する技術について紹介する。

鳥居 悟, 森永 正信, 吉岡 孝司, 寺田 剛陽, 海野 由紀

プレスリリース業界初!標的型メール攻撃を端末側でリアルタイムに検知・警告する技術を開発

社会生活に安心・安全を提供するために,防災・防犯のための監視カメラや,事故予防の車載カメラなどの画像が活用されている。しかし屋外カメラの映像は,霧や霞(かすみ),塵埃(じんあい)などの悪天候によって,しばしば鮮明さが低下する。富士通研究開発中心有限公司は,監視カメラや車載カメラの視認性を向上させるため,ダークチャネル処理に基づく高速霧除去画像処理技術を提案する。この方法ではまず,霧画像の空領域を探索することによって環境光を推定する。次に,霧や霞による光の散乱の度合いを示す透過マップを推定する。最後に,環境光と透過マップにより霧画像から鮮明な画像を復元する。CPU+GPUにソフトウェアを実装することにより,720×480画素の画像で50 fpsという処理速度を実現した。本高速霧除去画像処理技術により,監視システムや車載などの用途で,リアルタイムに鮮明な画像を使用できる。

谭 志明, 白 向晖, 王 炳融, 東 明浩

クラウドコンピューティングは利用者に利便性をもたらす一方,仮想化により多数の機器を集約しているため,障害が発生すると広範囲のサービスが停止するなど多数の利用者に影響が及ぶ。これを避けるため,障害の兆候を捉え,障害が深刻になる前に能動的に対処するアプローチがある。これまで,システムのログメッセージを分析し,障害の予兆を特定するいくつかの手法が提案されてきた。しかし,これらの手法を実環境に適用する場合,多様なメッセージフォーマットに対応する必要があるほか,システム構成の頻繁な変更により分析結果がすぐに陳腐化して使えなくなるなどの課題があった。
本稿では,富士通研究所が開発した新しい障害予兆検知手法を紹介する。この手法では,メッセージをそのフォーマットによらず文字列の類似度によって自動的に分類し,システム構成が頻繁に変更される環境であっても,障害に関連のあるメッセージパターンを常に再学習する。著者らは,実際のクラウドデータセンターの運用環境で本手法のオンライン評価を行った。評価の結果,最善のケースでは,精度 80%,再現率 90%と高い性能で予兆を検知できることが分かった。

渡辺 幸洋, 松本 安英

プレスリリース業界初!クラウドコンピューティング時代に向けた障害対処技術を開発

社会問題解決への貢献

環境貢献や社会的コストの低減のためにエネルギーの効率的な利用を実現するスマートシティでは,再生可能エネルギーの増加や,需要家のプロシューマー化(電力を消費するだけでなく需要家が自ら発電し,電力を販売するようになること)に伴い,電力の供給側と需要側の双方で従来とは異なる変動要因が増加し,電力需給のバランス制御が複雑化する。従来の電力システムでは,主に発電機能を制御して需給バランスを取ってきたが,今後は発電機能だけでなく,家庭や企業での人間の活動の結果としてのエネルギー需要を最適に制御することで,より経済的で効果的な需給バランス制御を実現することが重要となる。このような背景で,注目されている技術がデマンドレスポンスである。
本稿では,デマンドレスポンスの標準として規格化が進んでいるOpenADRに対応したDRAS(Demand Response Automation Sever)システムの開発と,デマンドレスポンスを活用して企業や地域での電力需給バランスを最適制御するためのビル需要シミュレーション技術の研究開発への富士通研究所の取組みを紹介する。

竹林 知善, 園田 俊浩, Wei-Peng Chen

プレスリリース米国スマートグリッドの最新規格OpenADR 2.0aの相互接続試験に日本企業として初参加

プレスリリース世界初!デマンドレスポンスのクライアントソフトウェアが最新規格OpenADR2.0bの認証を取得

高齢化に伴う様々な社会的課題の中で,「わたしのできること」を維持したり増やしたりできるように高齢者や患者を支援する技術の発展に期待が集まっている。それは,最先端のモバイル機器の利用シーンが広がり,身体に装着可能なウエアラブルセンサーが発達し,あるいは環境に埋め込まれた多数のセンサーが活用されるなどして,結果として一日の生活サイクルの中で人の行動や健康を支援する仕組みが浸透することを意味している。その仕組みにおいて重要な技術要素となるのは,人やその周辺環境の「継続的」なセンシングによる状態把握である。その実現には,センサーとして必要な情報をキャッチする性能は当然のことながら,操作の面倒を省き,煩わしさを排除し,手軽に継続して情報を収集できる利便性も求められる。
本稿では,日常生活における健康支援をテーマに,意識せず手軽に人の行動や健康状態を把握する技術として,顔画像から脈拍を検出する技術,小型軽量で多機能なウエアラブルセンサーによる在宅モニタリング,更にスマートハウスにおける自立生活支援の共同研究の取組みについて述べる。

猪又 明大, 柳沼 義典

現代はストレス社会と言われ,多くの人が日々様々なストレスにさらされながら生活している。健康な生活を送るためには,このストレスを適切にマネジメントすることが必要であり,ITによってこれを支援することが期待されている。2013年,スマートフォンやタブレットの全世界のインストールベースはデスクトップやラップトップを超え,次のコンピューティング革命(ヒューマンセントリックコンピューティング)が既に普及し始めている。このコンピューティングにおける変化は,身の回りに置いたり,体に装着したり体内に埋め込んだりできるセンサーの出現によって可能になっている。これにより,ストレスマネジメントのための生体情報の連続的なモニタリングも実現できる。このような,ネットワークに接続されたセンサーを利用したインテリジェントなヒューマンセントリックサービスを実現するには,基礎を成すITインフラそのものの高度化が必要である。
本稿では,米国富士通研究所が開発した連続的なモバイルモニタリングを可能にするための汎用モバイルプラットフォームの概要を説明し,更にそのプラットフォーム上に構築された様々な新しいサービスについて説明する。このプラットフォームは次世代ヘルスケアサービスを念頭に開発したものであるが,任意のセンサーから得られたデータを取り入れるリアルタイムサービスを実現するためのプラットフォームとして幅広い適用可能性を備えている。更に,ユーザーとITインフラの間の新しい接点となるサービスをいくつか取り上げる。このようなサービスを一日の生活の中で利用する様子を紹介し,サービスが我々の生活の質のレベルをどのように向上させるか解説する。

Ajay Chander, Albert Braun, Rajalakshmi Balakrishnan, Alex Gilman, Stergios Stergiou, Dave Marvit

エネルギー・ハーベスティング技術は,太陽光や照明光,機械の発する振動,熱などのエネルギーを収穫(ハーベスティング)し,電力を得る技術である。M2M(Machine to Machine)無線センサーネットワークの無線センサーモジュールにエネルギー・ハーベスティング技術を適用すると,系統電力や1次電池を必要としないため,メンテナンスフリー,電池交換レス,配線レスなどの新しい価値を享受することが可能となる。また,エネルギー・ハーベスティング技術の利活用は,省エネルギー,CO2削減など環境に対して優しくクリーンな技術を進めることにつながるため,これからの環境配慮,省エネルギー化に対応した次世代スマートシティやサステナブル社会の実現に際しても有益な技術と考えている。
本稿では,エネルギー・ハーベスティング技術をM2M無線センサーモジュールに適用し,メンテナンスフリーを実現するための要素技術として,富士通研究所が研究開発を進めているハーベスティング用酸化物熱電変換材料,全固体2次電池,環境発電テスター技術を紹介する。

田中 努, 鈴木 貴志, 栗原 和明

高性能なICTプロダクトに向けて

クラウド型サービスや,スマートフォンなどの普及に伴い,ネットワークを活用した様々なサービスがデータセンターを中心に展開されようとしている。それを支えるコアネットワークにおいては,急速に増加するデータ量を支える回線容量の強化とともに,オンデマンド型で提供されるサービスに向けた柔軟なネットワークの実現,そして低消費電力化などがより強く求められている。このため,光ネットワークでは,従来の固定された波長単位での光パスの管理に代わり,光波長上で必要な帯域を自由に設定できるフレキシブル光ネットワークの研究が盛んになされている。このような光ネットワークにおいては,運用途中で光パスの増減などの変更により光周波数帯域の利用が断片的になる。富士通研究所が開発した波長デフラグメンテーション技術は,これを連続した領域に整理・集約することでユーザー領域を確保し,リソースの継続的な有効活用を可能とする。
本稿では,フレキシブル光ノード(光送受信,スイッチ),フレキシブル光ネットワーク上での収容容量およびデフラグメンテーションの効果,そして無瞬断の波長デフラグメンテーションの原理検証実験について報告する。

関屋 元義, 王 溪, 青木 泰彦, 曽根 恭介

クラウドを構成するサーバやストレージシステムの性能を向上させるためには,システムをつなぐインタコネクトの高バンド幅化が不可欠である。富士通は既にUNIXサーバ「SPARC M10」のCPU間通信において,1信号線あたり14.5 Gbpsのデータ転送を実現するCMOS高速インタコネクトを開発,製品化しているが,更なる高バンド幅化を実現するため,1信号線あたり32 Gbpsの高速データ伝送を行うプロセッサ間インタコネクトの研究を行っている。高速化の実現に当たり,送信回路で高周波動作が必要のない通信方式,受信回路で広帯域のロス補償を行うイコライザ回路や,高精度なサンプルクロック生成が必要のないデータ受信方式を搭載し,32 Gbpsで30 dB以上のロス補償機能を有する高速インタコネクトを開発した。これら高速インタコネクト技術を,CPUチップに搭載することにより,サーバシステムの全体性能を2倍以上向上させることが可能となる。
本稿では,28 nmテクノロジーで試作を行った,これらの超高速インタコネクトの新規技術を紹介する。

土肥 義康, Samir Parikh, 尾形 祐紀, 小柳 洋一

近年,サーバのデータ処理能力の向上,ブレードサーバなど一つの筐体へのサーバユニット集約により,筐体内でやり取りするデータ量が増大している。また,信号の速度も25 Gbpsへと高速化し,サーバの筐体内で接続する信号の容量が数十Tbpsへと増加している。著者らは,波形劣化・干渉による制限がインタコネクト容量の拡大を妨げていた従来の電気配線での信号接続に代わり,高速・大容量・長い伝送距離という優れた特徴を持つ光ファイバー伝送を適用することを提案している。サーバ内接続への適用に当たっては,多チャネルの光信号伝送をサーバ内の限られた領域で行う必要があり,光部品をコンパクトに収める技術,低コストで製造する技術が要求される。
本稿では,これらの要求を満たすため,低コスト・高密度化に即した光トランシーバー,光コネクター,光ミッドプレーンの技術に関しての提案を行い,試作によってその効果を実証した結果について述べる。

山本 毅, 田中 一弘, 井出 聡, 青木 剛

HPC(High Performance Computing)システムや高性能サーバで用いられるハイエンドCPUでは,演算処理能力の増大に伴い近い将来Tbps級の大容量入出力回路(I/O)が必要になると考えられている。光伝送技術を利用した光I/Oは,従来の電気I/Oにおけるサイズ・消費電力の限界を打破する技術として期待を集めており,その中でシリコン(Si)フォトニクスを利用した集積光I/OはCPUパッケージに搭載可能なサイズでTbps級の大容量I/Oを実現する技術として非常に有望である。
本稿では,富士通研究所が取り組んでいる大容量光I/O向けSi光送信器の開発状況について説明する。大容量光I/OをCPUパッケージ内に搭載するためには,動作温度が大きく変動しても安定して低電力動作が可能なSi光送信器を実現する必要がある。そこで著者らは低消費電力なリング光変調器を,素子温度が変化しても煩雑な波長制御なしに利用できる新しいSi光送信器の構成を提案した。本コンセプトに基づき集積光送信器を試作・評価した結果,25~60℃の温度範囲にわたって波長制御なしに10 Gbps動作を実証した。更に,フリップチップ実装技術を用いたレーザー光源の小型・高性能化や波長多重化に向けた4チャネルレーザー光源の開発に成功し,Si光送信器の大容量光I/O適用に一定の見通しを得た。

田中 信介, 秋山 知之, 関口 茂昭, 森戸 健

プレスリリースCPU間の大容量データ伝送に向けて4波長シリコン集積レーザーを開発

携帯端末の通信速度はLTE(Long Term Evolution)などの通信方式によりどんどん速くなってきており,それを送受信するベースバンドLSIの処理性能の向上が求められている。更に従来の第2世代,第3世代の通信方式も扱えるように,複数の通信方式への対応も必要となっている。これに対して,それぞれの通信方式の回路をLSIにそのまま搭載すると,回路面積が大きくなるため,ソフトウェアで通信方式を切り替えるソフトウェア無線(SDR : Software Defined Radio)による実現を進めてきた。このように携帯端末向けの無線信号処理をソフトウェアで行うには,高性能で低電力なDSP(Digital Signal Processor:デジタル信号処理に特化したマイクロプロセッサ)を開発することが課題となる。今回,低消費電力とアプリケーション開発でメリットのあるベクトル型スーパーコンピュータと同じアーキテクチャーをDSPに採用することにした。組込み向けに小型化の改良を加えることにより,250 MHz動作で12 GOPS(1秒間に120億個のデータ処理が可能)というピーク演算性能と,28 nmプロセステクノロジーを用いたチップで平均30 mWという低消費電力を実現した。
本稿では,今回開発したベクトルプロセッサについて紹介する。

葛 毅, 伴野 充, 伊藤 真紀子, 廣瀬 佳生

プレスリリース携帯端末のベースバンド処理に対応した小型・高性能で低電力なデジタル信号処理プロセッサを開発

ワイドバンドギャップ半導体である窒化ガリウム(GaN)を用いた高電子移動度トランジスタ(HEMT:High Electron Mobility Transistor)は高効率デバイスとして様々なグリーンICTシステムへの応用が期待されている。GaN HEMTではピエゾ効果と自然分極効果によりGaNとAlGaNの界面に高密度の2次元電子ガス(2DEG)が蓄積し,オン時の抵抗(Ron)が低いトランジスタ特性が得られる。高い破壊耐圧と合わせてGaN HEMTはパワーデバイスとしての優れた性能を有している。GaN HEMT技術は携帯電話基地局の電力増幅器向け開発から始まり,レーダーセンサーへの応用に広がり,更に,サーバ電源などのパワーコンバージョン用途への拡大が期待されている。従来,GaN HEMT技術は高出力というキーワードで開発が進められていたが,近年そのメリットは高効率・省電力に移っている。
本稿では,GaN HEMT技術について,省エネルギー貢献というキーワードで展望する。

常信 和清, 吉川 俊英, 増田 哲, 渡部 慶二

プレスリリース省エネ新市場を拓く窒化ガリウムパワーデバイスの量産化に目途

プレスリリース世界初!窒化ガリウムHEMTを用いた小型・高出力な10GHz帯送受信1チップ集積回路を開発

プレスリリースC~Ku帯で世界初の窒化ガリウムHEMT送受信モジュールを開発


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