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Fujitsu

Japan

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注:このページはアーカイブ化さたコンテンツです。各論文の記載内容は、掲載開始時の最新情報です。

雑誌FUJITSU

2004-3月号 (VOL.55, NO.2)

富士通の最新技術を隔月に紹介する情報誌です。 冊子体の販売はしておりませんのでご了承下さい。


雑誌FUJITSU 2004-3

特集: 「グリッドコンピューティング」

本特集では,最近注目されているグリッドコンピューティング技術に関して,サイエンス・エンジニアリング系への応用事例をはじめ,ビジネス系への取組み,グリッドコンピューティング技術を活用する経営,次世代ミドルウェア製品など富士通の広範囲な活動を紹介いたします。


国立情報学研究所 情報基盤研究系 ハイエンドコンピューティング研究部門 教授 富士通研究所フェロー
三浦 謙一
国立情報学研究所 情報基盤研究系 ハイエンドコンピューティング研究部門 教授 富士通研究所フェロー 三浦 謙一 写真

グリッドコンピューティング特集に寄せて(PDF)

コンピュータの世界では,グリッド技術により,利用者がネットワーク上に分散しているサーバ・ストレージ・データベースといった広義の計算資源を,それらの所在を意識せずとも一つの仮想的な計算機室の中に置かれているかのようにどこからでも使い勝手良くアクセスできるようになる。グリッド技術を「21世紀のIT社会の基盤技術」として捉え,日本発のグリッド技術を世界に波及させる意気込みを持って研究開発に取り組んでいくことを大いに望むものである。

特集: グリッドコンピューティング 目次〕

  • 富士通のグリッドコンピューティングへの取組み

解説

  • グリッドコンピューティングとは

グリッドを活用する経営と次世代IT

  • 経営を活かすグリッド
  • TRIOLE基盤を支えるグリッドコンピューティング技術

サイエンスグリッド

  • グリッドの国家プロジェクトNAREGIの概要
  • ITBLプロジェクトにおける仮想研究環境の構築
  • 3次元映像での共同研究環境:VizGrid
  • 製品開発を加速するCAD-Gridシステム
  • グリッドを利用したPIV仮想研究所の構築
  • 仮想天文台のシステム構築

ビジネスグリッド

  • ビジネスグリッドコンピューティングプロジェクトの取組み

グリッドミドルウェア

  • 計算機リソースを有効活用するグリッドミドルウェア:CyberGRIP
  • Grid Technology and Roadmap from UNICORE to OGSA
    (グリッド技術とUNICOREからOGSAへのロードマップ)
  • Comparison of Data Grid Solutions
    (データグリッドソリューションの比較検討)

特集:グリッドコンピューティング


富士通は,コンピューティングの新しい潮流であるグリッド技術に対し以前から積極的に取り組んできた。最初は科学技術計算分野のプロジェクトに参加する形で技術開発を進めてきたが,グリッド技術が広く注目を集めるようになってからは,ビジネス分野のグリッド技術の開発も進めている。また,インターネット技術と同様,グリッド技術においては相互接続性が非常に重要なため,グリッド技術の標準化活動にも積極的に貢献している。とくに,代表的な標準化団体であるGlobal Grid Forumでは,複数の要職を務め,重要な標準仕様の策定を進めている。
本稿では,富士通のこれまでのグリッドプロジェクトでの成果を説明し,現在取り組んでいる技術開発,さらに今後重要になると思われる技術領域と方向性について述べる。

大内 拓実,岸本 光弘

解説

秋元 晴雄

グリッドを活用する経営と次世代IT

グリッドのビジネスにおける最大の価値は,昨今のIT(コンピュータ,ストレージ,ネットワーク)の目覚しい進歩を経営に結び付け,ビジネスの様々な環境変化に対する対応力を飛躍的に高める可能性を秘めている点にある。グリッドはビジネスにおけるIT利用を革新する技術であり,そのビジネスへの適用の試みは既に様々な分野で開始されている。
本稿では,まず,経営の視点から見たグリッド適用の意義を,「ビジネスチャンス」,「ビジネスリスク」,「コスト構造」というキーワードを使って説明する。つぎに,ビジネスでの活用形態のカテゴリへの分類を行い,各カテゴリごとにビジネスへの適用シーンを具体的に紹介する。さらに,グリッドのビジネス適用の将来展望として,Webサービスとグリッドの融合,プロセス統合 on Web,社会インフラとしてのユーティリティコンピューティングに言及する。

木村 等,青木 保壽

“TRIOLE”は,社会・企業ITシステムに要求される「ビジネスの成長・拡大」,「スピーディな業務構築」,「システムの安定運用とTCO削減」を実現する富士通のIT基盤である。TRIOLEでは,「自律」,「仮想」,「統合」というコア技術をサーバ,ストレージ,ネットワーク,ミドルウェア各製品に適用し,グリッドコンピューティング技術を導入することで,変化の激しいビジネス環境に合わせて業務アプリケーションを安定稼働させるIT基盤の実現を目指している。
本稿では,進化するTRIOLEのほか,運用管理のミドルウェア製品である統合運用管理ソフトウェア“Systemwalker”にIT基盤の仮想化・可視化・自律化を実現する新機能を加えてシステムの安定稼働と管理コストの大幅削減を実現した,仮想・自律システム基盤“SystemwalkerV11”を紹介する。

田崎 英明,恒屋 明

サイエンスグリッド

文部科学省のNAREGIプロジェクトはその正式名称を「超高速コンピュータ網形成プロジェクト」といい,産・学・官連携による経済活性化プロジェクトの一環として2003年度から2007年度までの5箇年計画としてスタートした。このプロジェクトの目的は研究グリッド用基盤ミドルウェアの研究開発とナノサイエンス・ナノテクノロジ分野での大規模シミュレーションによるグリッド技術の実証である。5年後には総計100 TFLOPS級の研究用の計算機資源がグリッドに接続されるであろうことを想定し,そのような環境でも実運用に耐え得るグリッド基盤ミドルウェアを研究開発する計画である。将来的には新素材や新デバイスの研究開発などのために産業界にもグリッド技術が波及することが期待されている。
本プロジェクトにおける研究開発は国立情報学研究所のグリッド研究開発推進拠点と岡崎国立共同研究機構分子科学研究所のナノサイエンス実証研究拠点を中心として国立大学,国立の研究機関,企業も含めて実施される。ネットワークインフラとしては10ギガビット/秒のバンド幅を持つ研究用光ネットワークであるスーパーSINETを活用する計画である。

三浦 謙一

ITBL(Information Technology Based Laboratory)プロジェクトは,e-Japan重点計画の一つとして,六つの研究機関が主体となり推進されている。本プロジェクトの目的は,研究機関が固有に所持しているスーパーコンピュータ・プログラム・データなどの知的資源を共有化し,研究者間の共同研究を支援する仮想研究環境を構築することである。日本原子力研究所は,この仮想研究環境を実現し得るためのITBLシステム基盤ソフトウェアの開発を行っている。ITBLシステム基盤ソフトウェアは,スーパーコンピュータを接続するための認証機能や並列分散通信機能,それらを利用するためのジョブ実行支援機能,研究者のコミュニケーションを支援するコミュニティ機能などを提供する。
本稿では,ITBLシステム基盤ソフトウェアの紹介のほか,アプリケーションとして開発している量子生命情報システムおよび数値環境システムについても紹介する。

前迫 浩,鈴木 喜雄,青柳 哲雄,中島 憲宏

近年,研究のボーダレス化が進むにつれ,異分野の研究者同士の連携や国際的な共同研究が盛んに行われるようになってきた。文部科学省の産学官連携プロジェクトである“VizGrid”では,3次元映像を遠隔で共有する技術の実現により,研究者や開発者の間で質の高い共同研究環境を実現しようとしている。3次元映像は,直観的で親しみやすく,2次元映像や言葉だけでは伝わりにくいことも誤解なく伝わる特長がある。VizGridでは,3次元映像を生成・通信・表示・検索する機能を有する「ボリュームコミュニケーション」の基盤を開発し,この基盤上にトータルな共同研究環境を実現する。この効果を検証するために,実際の医科大学における医療現場に適用する予定である。
本稿では,VizGridプロジェクトの目標と3次元映像による共同研究環境について説明し,プロジェクトで開発中の技術・機能について述べる。

軽部 行洋,松倉 隆一

近年,IT基盤製品や移動体製品の開発においては,要求される機能の多様化や高性能化に伴い設計の複雑さや規模が増大している。さらに早期市場投入のために開発期間の短縮も求められており,最適設計と検証のためのシミュレーションや解析を実施する計算需要が急増している。他方で計算機の高性能化,ネットワークの広帯域化を背景に地理的に分散した計算機リソースをネットワークで接続し,一つの計算機システムのように利用するためのグリッドコンピューティング技術が実用化されつつある。
著者らはこれらを背景に,製品開発における大量のシミュレーションを短期間で実施するためのグリッド環境である“CAD-Grid”システムを構築し,移動通信システムのシステムシミュレーションへ適用してその効果を確認した。
本稿では,構築したグリッドコンピューティング環境とその仕組み,適用したシステムシミュレーションと適用結果,今後の予定について報告する。

中村 武雄,山下 智規

流体研究の実験的手法としてPIV(粒子画像流速測定法)があり,シミュレーションを補完する技術として自動車・航空・土木・医学などの分野で活用されている。レーザやカメラなどの光学技術の進歩により「流れ場」の3次元的解析が可能となってきているが,そのためには高性能計算機や大容量ストレージ,可視化エンジンが必要となる。
そこで,著者らは,このような流体解析の課題を解決する問題解決環境システムとして,PIVを活用した流体研究者のためのPIV仮想協調研究所“PIV Web Laboratory”を開発した。
本システムは,グリッドミドルウェアUNICOREをベースに構築し,複数ジョブの管理機能,3次元遠隔可視化機能を持つ。本システムを「デルタ翼」の実験データに適用し,遠隔から複数ユーザが可視化結果を操作する協調研究を実現した。

田子 精男,大西 尚樹,門岡 良昌

観測天文学の分野では,すばる望遠鏡をはじめとして,世界中の観測施設から良質なデータが大量に生み出されており,世界中に分散して格納されている。これらのデータから有用となるデータを検索・収集し,統計的な解析により研究を行う「データベース天文学」の重要性はますます高まっている。そこで,国立天文台では,分散して存在する大量のデータを「数値宇宙」と見なし,ネットワークを介して再観測する「仮想天文台(JVO:Japanese Virtual Observatory)」のシステム構築に向け,そのプロトタイプを富士通と共同で開発した。仮想天文台の実現には,分散データ仮想統合環境が必要で,その要件は,(1)データ格納システムの仮想化,(2)分散した大量データの効率的な利用,(3)分散環境の脆弱性を考慮した通信である。
本稿では,分散データ仮想統合環境の実現性の確認のため,データグリッド技術を活用して構築したJVOプロトタイプとその評価について述べる。

石原 康秀,水本 好彦,大石 雅寿

ビジネスグリッド

e-ビジネスは近年,規模がますます拡大するとともに,企画から開発・実稼働までのサイクルが短期化する傾向にある。そのため,企業や公的機関は,信頼性のある業務システムを柔軟に,かつ,低コストで構築・運用する必要に迫られている。本プロジェクトでは,こうした要求に応えるため,ITリソースの仮想化・自律制御・統一的管理機構などを統合した,ビジネス向けグリッド技術を開発することを目的としている。また,グリッドシステムの高い相互運用性を実現するため,開発する技術の国際標準化を積極的に推進している。ビジネス向けグリッド技術は,Webサービス技術と従来のグリッド技術とを融合する次世代グリッドの標準アーキテクチャOpen Grid Services Architecture(OGSA)を軸としている。
本稿では,プロジェクトを取り巻く状況と,技術開発および標準化活動に関するプロジェクトの取組みについて述べる。

大内 拓実,岸本 光弘,鈴木 俊之

グリッドミドルウェア

近年,地理的に分散した異質な計算機リソースをネットワークで接続し,あたかも一つの計算機システムのように利用するグリッドコンピューティング技術の研究開発が活発に行われている。これらの研究プロジェクトのほとんどがサイエンス系国家プロジェクトであり,まだ現時点で企業におけるグリッドの実用化事例や成功事例はほとんど報告されていない。
そこで著者らは,グリッドコンピューティング技術を企業における実際のシミュレーション業務に適用し,その有効性を確かめることを目的に,グリッドミドルウェアCyberGRIPを開発した。
本稿では,企業におけるシミュレーションのニーズと問題点を明らかにした後,CyberGRIPの概要について,CyberGRIPがこの問題点をどのように解決しているかに焦点を当てて説明する。また,社内で行ったCAD-Gridシステムでの検証についても触れる。

安里 彰,門岡 良昌

富士通におけるグリッド技術開発は,この概念が「グリッド」という言葉で表現されるよりずっと以前の90年代半ばに始まった。1996年以来,欧州富士通研究所はUNICOREグリッドアーキテクチャの開発を主導し,さらにArconという実現形態によりそのアーキテクチャを具現化してきた。UNICOREは第1世代のグリッド機能群を包括的に提供するものである。一方,オープングリッドサービスアーキテクチャ(OGSA)は,相互運用可能なグリッドシステムの枠組みを定義することで,第2世代のグリッド機能を提供するものである。第1世代のグリッドアーキテクチャとは異なり,OGSAは新たな先端Webサービス技術の上位に構築される。この変更によってビジネス社会全体がグリッドコンピューティングを利用できるようになるであろう。
本稿では,第1世代と第2世代のグリッド技術の主要機能を簡単な使用事例とともに説明し,UNICOREグリッドアーキテクチャからOGSAへの進展のロードマップの概要を述べる。

David Snelling,Sven van den Berghe

地理的に離れた計算資源を有効に活用するグリッドは,多くの大規模科学プロジェクトで用いられてきたが,今後は新しいビジネス応用が期待される。グリッドを利用する多くのアプリケーションでは,膨大なデータを生成するため,様々なストレージ資源をうまく活用する機構がどうしても必要となる。データグリッドはこのような要求のほか,巨大で不均質で分散したストレージ設備を運用しなければならないといった要求に応えようというミドルウェアである。
本稿では,データグリッドに必要な機能要件を明らかにし,既存の三つのデータグリッドソリューションであるGlobus Toolkit,Avaki,SRBを取り上げ,比較検討する。

Kazuhiro Matsuo,Sung Lee,Jonathan Agre


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