燕市 様
自治体・産業が一体で取り組む地場産業の競争力強化。IoTの活用で複数企業が分業するものづくりの生産効率を向上
日本を代表する金属製品の産地として、市をあげてものづくり産業の振興に取り組む燕市。製造業における技術革新が世界的に広がる中、より一層競争力を高めるために製造現場にIoTを導入。製造を分業する3社間の製造工程を、業務に合ったシステムにより“見える化”することで、作業効率を大幅に向上させた。
- 課題最先端技術で競争力を維持したいが大規模投資は難しい
- 効果低予算で始められるIoTの実証実験で、高い効果を確認
- 課題新しい仕組みの導入にあたり現場に負担はかけられない
- 効果従来の業務の流れにIoTをプラスして業務を効率化
- 課題伝票入力作業に時間がかかっている
- 効果センサーでの自動読み取りで伝票入力作業を約8割短縮
背景
地域産業の競争力をいかに高めるか
新潟県の燕市は、古くから金属産業が発達してきた日本を代表するものづくりの街である。特にスプーンやフォークなど金属洋食器の生産においては国内シェアの90%以上を占め、生活用品から産業機械まで、あらゆる場所で燕市の金属製品が使用されている。さらにノーベル賞授賞式の晩餐会の食器に採用されるなど、海外からの評価も高い。なぜ燕市の産業は高い競争力を保ち続けられるのか。その理由は、分業体制による企業同士の繋がりにあると燕市長の鈴木氏は言う。「燕市には約2000社の製造業者があり、ひとつの製品を数社で分業して製造する体制ができています。そのため燕市全体がひとつの工場のように繋がり、それぞれの企業が強みを活かし合い、かつリスクを分散することができるのです。また地域の金属産業は市民にとっても誇りであり、産業の発展が大切だという想いが地域に根付いているため、行政としても力を入れることができます」。
分業による生産体制は強みであるが、だからこその課題もある。鈴木氏は、「近年は第四次産業革命と言われ、ものづくりの現場においてもIoTやAIの導入が世界中で広がっています。こうした設備投資には大きな資金が必要ですが、燕市の製造業者はほとんどが小規模事業者。大規模な設備投資は容易ではありません。こうした状況の中で、いかにして高い競争力を持ち続けられるかが課題になっています」と話す。
燕市産業振興部の遠藤氏と山﨑氏は、IoT導入の検証を開始した。「これまでも地域の事業者を招いてIoTのセミナーを開催するなど、いくつかの取り組みを行ってきました。しかし話を聞くだけでは、それがどう自社の課題を解決するかまでイメージできないという声もありました」と山﨑氏。遠藤氏も「多くの中小企業が協働している燕市の産業に、最適なIoTの活用法は何かを考えてきました」とより効果的なやり方を模索していた。
経緯
地域産業にマッチしたソリューションを導入
明確な答えを見出だせずにいた燕市は、複数の企業にIoTを活用したソリューションの提案を依頼。その中で、最も燕市の産業に合った提案をしたのが富士通だった。「富士通さんとは過去にアイデアソン・ハッカソンの取り組みでご協力いただくなど、以前から繋がりがありました。いただいたご提案は燕市の産業特性にマッチしていましたし、低予算で始められることが魅力でした」と遠藤氏。また富士通の提案は3週間のIoT実証実験プロジェクトという形であり、今後の方向性を模索していた燕市の要望と合致。提案を採用した。
ポイント
現場に負担をかけず、製造工程を“見える化”
実証実験を実施したのは株式会社イケダと、分業して製造を行う株式会社高秋化学、株式会社サクライの計3社。イケダが金属ハウスウェアを成型し、それを高秋化学が脱脂により洗浄、その後サクライが塗装をしてひとつの製品を完成させる。従来3社間の連携は、伝票の受渡しや電話連絡など手作業で行われていた。それに対し富士通のソリューションは、IoTにより製造工程を“見える化”することで、連携における業務を効率化するものであった。
システムの導入にあたり重視されたのは、従来の業務の流れを変えないこと。そのために、イケダと富士通で話し合いが重ねられた。株式会社イケダの池田良太氏は、当初IoTに対して敷居が高い印象があったという。「マシンのひとつひとつにセンサーを付け、全員が携帯端末を持つようなイメージがありました。それでは現場の負担になり、導入するのは難しかったでしょう。私たちには、よい製品を効率よくつくるという最大の目的がありますが、富士通さんもその目的と本気で向き合っていただき、同じゴールを見ながら進められたことが印象に残っています」。
こうして完成したシステムは、IoTとアナログを組み合わせたもの。作業指示が書かれた紙の伝票をICタグ内蔵のクリアファイルに収納し、それをセンサー付きの伝票ポストに投函することで、伝票の移動を自動で把握、その情報はクラウド上に集積されるため、いつ、どこで、何をしているかという製造工程をPC画面でリアルタイムに共有できる。「ポストに入れるだけという、いい意味でとてもアナログな仕組みが私たちの業務に合っていて、非常に有効に活用できました」と池田良太氏。
効果と今後の展望
伝票入力における作業時間を約8割短縮
デジタル技術の活用で地域産業の発展を目指す
製造工程の“見える化”により、業務効率が大きく向上したと池田良太氏は言う。「PC画面を見るだけで各社の製造工程がわかるので、進捗状況の確認や電話連絡の手間が省け、効率的にスケジュールを組めるようになりました。その結果、工程全体にかかる時間を短縮できています」。伝票入力を主に担当していた製造部の番場氏は、一際実感が強い。「これまでは、何を、何個、どう作るかなどの情報は全て手入力していました。それが導入後は、最初に基本情報を入力すれば、あとはポストに入れてピッと読み取るだけで済みます。平均して4~6時間ほどかかっていた業務が、1~2時間ほどに短縮できています。また手作業によるミスも減ったと思います」。株式会社イケダ専務取締役の池田実氏は、経験が長いからこそ感じたことがあった。「IoTの活用により、ここまで業務を簡略化できるのかと驚きました。しかしその全てをデジタルに置き換えられるのかという懸念があります。また同時に、これまで人の力に頼りすぎていたのかもしれないと思いました」。こうした気づきも、実証実験の成果のひとつだと言える。今回のプロジェクトを通じて得るものが非常に多かったと池田良太氏。「私たちの業界はIoTとは無縁だと思っていましたが、この業界だからこそ大きな可能性があると知りました。クリアしなければならない問題も多いですが、意見を出し合い、より効果的な導入を考えていきたいです」。
燕市では、実証実験の成果を共有するために、実施報告会を開催した。「非常に多くの参加があり、地元企業の関心の高さを改めて実感しました。同じ燕市の事業者による事例なので、身近に感じていただけたと思います」と山﨑氏。遠藤氏は若い世代をもっと取り込みたいと考えている。「今回のプロジェクトはイケダさんの若手社員に一生懸命取り組んでいただけたことが嬉しかったですね。高齢化や人口減少などの問題がある中で、新しい風を取り入れ、新しい技術を活用するという前向きな取り組みになりました」。地域産業の未来を見据え、鈴木市長の想いも強い。「生産効率化や品質管理など、あらゆる場面にIoTやAIを活用していけると改めて実感しました。そして将来的には職人が持つ技術の伝承にも活用できないかと考えています。人の手の感覚をデジタル化するのは難しいかもしれませんが、燕市の技術を若い世代へ繋いでいくために、ぜひ挑戦したいです。これからも自治体と産業が一体となり“燕にしかできない”“燕だから品質がいい”と言われるものづくりを目指していきます」。
燕市 様
所在地 (市役所) | 新潟県燕市吉田西太田1934番地 |
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代表者 | 市長 鈴木 力 |
ホームページ | http://www.city.tsubame.niigata.jp |
概要 | 越後平野のほぼ中央に位置する、産業と歴史と自然が調和した地域。北陸自動車道三条燕IC、上越新幹線燕三条駅など交通網が充実した県下有数の工業地帯であり、金属洋食器や金属ハウスウェア製品においては国内の主要産地である。また良寛ゆかりの地でもあり、日本さくら名所100選の地大河津分水で行われる「おいらん道中」が有名。 |
[2018年4月掲載]
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