横浜ゴム 株式会社 様
世界中の生産状況をリアルタイムに見せる化
データに基づく意思決定を促進し、工場経営を最適化へ
横浜ゴムでは生産拠点の海外シフトに伴って、全世界レベルの全体最適化が課題となっていた。そのための取り組みとして、富士通の「FUJITSU Enterprise Application Intelligent Dashboard」(以下、Intelligent Dashboard)を導入し、国内外の生産拠点の状況をリアルタイムで横串に比較できるシステムを開発した。各生産拠点の稼働状況を分かりやすく把握することで、データに基づく意思決定が可能になった。
- 課題全世界の生産拠点の生産状況を横串で把握できない
- 効果Intelligent Dashboardで各生産拠点の状況が一目瞭然
- 課題データに基づいた意思決定ができていない
- 効果必要な情報をタイムリーに入手して経営判断を迅速に
- 課題データ収集や可視化に煩雑な作業が発生している
- 効果データは各拠点のシステムから自動で取り込み
背景
生産拠点の海外シフトに伴って
全世界レベルの全体最適化が急務に
横浜ゴムでは生産拠点の海外シフトに伴って、生産拠点ごとの個別最適から、全世界レベルの全体最適化への転換を迫られていた、という課題を抱えていた。常務執行役員 IT企画本部長兼タイヤ物流本部本部長鈴木忠氏は「20年前は主に国内拠点でタイヤを作っており、海外の拠点での生産分は調整用とみなされていました。しかし、今は海外の生産拠点の比率が高まったので、グローバルで生産状況を把握し、最適化する必要が出てきました」と語る。
しかも、タイヤはブランドごとにサイズ違いが無数にある多品種多サイズ生産品である。生産拠点ごとの住み分けはあるものの、一つの生産拠点で非常に多くの種類のタイヤを生産している。もちろん一つの拠点内では生産状況は把握できていたが、すべての拠点の生産状況を横串で比較しようとすると、煩雑な作業が発生し、非常に手間がかかっていた。
横浜ゴムは20年ほど前に実施したBPR(ビジネスプロセスリエンジニアリング)の過程で様々なKPI(重要業績評価指標)を設定していた。その中には生産状況を把握するためのKPIもあったが、その結果をフォローする仕組みがなかった。「誰も活用しなければKPIを算出する意味はありません。手間をかけるだけ無駄だということになり、使われなくなっていました」とIT企画部部長の小屋垣氏は説明する。
経緯
視察した企業でIntelligent Dashboardを発見
データを可視化する重要性に気づく
こうした中、鈴木氏は他の企業を視察した際、デジタルダッシュボードを目にする。「画面の中で地球が回っていて、ドリルダウンすると各工場の詳細な情報が見えるようになっていました。私の頭の中にあったイメージにぴったりでした」と鈴木氏は語る。
このデジタルダッシュボードに使われていたのが、Intelligent Dashboardだ。各生産拠点から様々なデータを収集し、可視化する仕組みだ。これを利用すれば、本社にいながら国内外の状況を直感的に把握することができる。
横浜ゴム IT企画部 BIタスクの山崎理登茂氏は「それまでもシステムや人手によって各拠点で生産情報や設備の稼働情報は管理できていました。しかし、全拠点のデータを横串で見るためには、各拠点のサーバにアクセスしてデータを入手したり、電話やメールで問い合わせるなど、煩雑な作業が必要でした」と語る。
そこで同社はIntelligent Dashboardを導入し、国内外の主要15の生産拠点の生産状況の見せる化に取り組んだ。まずタイヤ製造の最終工程に当たる「加硫工程(タイヤを蒸気で熱しながら加圧する工程)」を対象にした。2016年6月に開発に着手し、2017年1月に完成し、経営層から現場までリアルタイムに生産実績や稼働率の達成状況、生産拠点間での比較などができるようになった。
現在はトライアルとして、生産本部や生産統括スタッフが利用しているが、社長室のPCからもIntelligent Dashboardにアクセスできるようにした。その狙いについて鈴木氏は「社長には“見ていて気になることがあったら工場に電話してください”とお願いしました。社長が見ているということが各工場に対する“見えざる手”になるはずです」と語る。
ポイント
UXデザインアプローチを採用
ユーザー側視点で使い勝手を追求
見えざる手になることの期待されているIntelligent Dashboardにとって、重要なのは見やすく、わかりやすいことだ。そのため今回のシステムの導入では、見せ方に特にこだわった。立体的な地球の画像の上に国内外の工場の概要をリアルタイムで表示したグラフを配置し、そこから生産実績や稼働率、目標達成率など詳細な情報を見ることができる。さらにドリルダウンすることで、ラインごとの情報まで確認できるようにした。
「これまで、社内で開発してきたシステムは、エンドユーザが求める機能の実装がメインで、画面デザインまで気を配ることはありませんでした。しかし、このシステムは見てもらってこそ価値が生まれるものなので、ユーザーインターフェースにはこだわりました。」と山崎氏は話す。
横浜ゴムでは使いやすさや心地よさによってユーザーへの提供価値を高めるUXデザインアプローチを実施し、ユーザー側の視点に立ってシステム構築を進めた。富士通が東京・六本木に構える「共創プラットフォームHAB-YU」でワークショップを開催し、ブレインストーミングでアイデアを出し合い、集約しながらデザインを作っていった。
このワークショップは、同社の IT企画部から3名と富士通の担当者数名が参加し、約10回にわたって開催された。「ICTを利用するユーザーをペルソナと定義して、何が必要かを検討しながらユーザーインターフェースを考えていきました。これまでにない斬新な進め方で刺激を受けました」と山崎氏は振り返る。
鈴木氏は完成したユーザーインターフェースについて「映画に出てくるシーンのようで面白い」としながら「これまでにないデザインと切り口を打ち出すことができたので驚きました。格好よいデザインで見せる化を促すという最初の目的は達成できました」と評価する。
効果と今後の展望
サクセスストーリーを共有し
改善を積み重ねる仕組みを作る
今回のIntelligent Dashboardは既存の KPIに沿ったものだが、今後はKPIを見直して、より踏み込んだ見せる化に取り組む予定だ。小屋垣氏は「従来は点で見せていた情報が、時系列や線で見せられるようになったことは大きな進歩です。次はクロス分析で新たな気づきを促せるようにしていきたい」と話す。
鈴木氏も「ポイントになるのは、これまで別々になっていたデータを掛け合わせて見せることとリアルタイムに見せることです。どこを改善すれば良いのか考えるきっかけを与えて改善を促し、そのサクセスストーリーを共有し、さらに改善状況をリアルタイムでフィードバックすることで、改善の積み重ねにつながります」と期待を語る。
当然のことだが、見せる化自体はゴールではない。問題点を理解した現場から改善策が出てきて。改善の成果が瞬時にわかるというサイクルを確立することが目指すべき姿だ。そのためには、様々なデータを集め、活用していくための仕組み作りが重要になる。
今回のIntelligent Dashboardは企業戦略を直接サポートするツールだ。これまでのような要望に合わせて開発する個別最適化のツールではない。「今回、横串のツールを作ったことで、私たちの意識も変わってきました。IT部門の立ち位置を変える第一歩として捉えています」と鈴木氏は語る。
横浜ゴム 株式会社 様
所在地 | 東京都港区新橋5丁目36番11号 |
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代表者 | 代表取締役会長 南雲 忠信 |
ホームページ | http://www.y-yokohama.com/ |
概要 | 1917年創業の大手タイヤ・ゴムメーカー。スポーツ用品なども手掛ける。「良いモノを、安く、タイムリーに」ご提供することこそ、メーカーの使命との考え方に立ち、グローバル企業としてのいっそうの成長を目指す。現在。「2030年でも通用する仕事のやり方を考えよう」というトップの号令のもと、様々な分野でビジネスイノベーションに取り組んでいる。 |
[2018年3月掲載]
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