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公立西知多総合病院様では、フィールド・イノベーションを活用し看護業務を改革。申し送りや看護師のペア体制を見直し、総労働時間の削減と直接看護比率の増加に成功。改善・改革の成果を看護部門だけでなく、他部門への展開も積極的に推進している。
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公立西知多総合病院
副院長 兼 看護局長
植村 真美氏
愛知県の知多市民病院と東海市民病院の合併により、2015年に発足した公立西知多総合病院。急性期医療や地域医療、災害医療を担う中核病院として、高品質な医療を提供し続けている。
同病院において、大きな課題となっていたのが看護師の業務負担軽減だ。副院長 兼 看護局長の植村 真美氏は「当病院の看護師は、みな明るく真摯に看護業務に取り組んでくれています。しかし、残業の増加、直接看護比率の低下、合併により病院が大規模化したことによる部門間の連携不足など様々な問題が顕在化し、地域医療のさらなる質向上を目指す上でも、看護師が本来の業務に注力できる環境を整備する必要がありました」と振り返る。そこで、今回同病院では、看護業務の抜本的な改善・改革活動に取り組むこととなった。
この取り組みの牽引役として採用されたのが、富士通のフィールド・イノベーションである。植村氏はその理由を「最も期待したポイントは、第三者が入ることで視点が変わることです。多くの現場で改善・改革の経験があるプロに参加してもらえれば、課題が解決できると考えたのです」と語る。
プロジェクトを担当したフィールド・イノベータ(以下、FIer)は、まず病棟の看護師業務の可視化に着手。その結果「日勤の平均残業時間が2.8時間」「直接看護比率が37%」「ペア制度がうまく機能していない」など、様々な事実が浮かび上がってきた。
公立西知多総合病院
看護師長
三輪 睦子氏
公立西知多総合病院
看護師長
若狭 幸子氏
「業務を変えるには、看護業務の実態を周囲にも理解してもらうことが必要です。そのために残業や直接看護比率の現状をきちんと数字で示せたことは大きかったですね」と語るのは、看護師長の若狭 幸子氏。同じ看護師長の三輪 睦子氏も「可視化を行なったことで、改善に向けて取り組むべき課題を明確にすることができました。また、スタッフに対しても、活動の意義を伝えやすくなりました」と続ける。
さらにFIerは、改善施策を導くためのワークショップを実施。ここでは薬剤部門のスタッフも一緒に参加し、「ポジティブ・チェイン」と呼ばれる手法を用いた。これは、自分たちが「ありたい姿」をまず設定し、その実現に繋がる成果を検討。さらに、その成果を生み出すための具体的な施策を導き出していくというものだ。議論の過程においても、目指すべき業務像を前向きな言葉で表現していくため、ポジティブなマインドで進められる。
三輪氏は「これまでの取り組みや改善に向けたアイデアなどを、FIerが肯定的に評価してくれたことは大きな励みになりました。何事もポジティブに考えることが非常に大切だと気付かされましたね」とその効果を語る。また、若狭氏も「こうした活動では、とかく『あれができない』『これは難しい』とネガティブな方向に陥りがちです。しかし、ありたい姿をベースに置くことで、忙しい中でも前向きに取り組みを進められました」と語る。
ワークショップで導かれた施策としては、まず看護師間の申し送り短縮が挙げられる。きちんと情報を伝達したいという思いから申し送りが長くなる傾向にあった。これを看護局基準に沿った運用を徹底することで、従来約30分掛かっていたものが約10分へと1/3に短縮できた。
また、看護師のペア体制を3人1組で患者15人を受け持つ方式から、2人1組で患者9人を受け持つ方式に変更。ペア1組あたりの受け持ち患者数を減らすことで、業務負担の削減を図った。さらに、残業時間にまとめて行なうことが多かった看護記録も、患者ケアを行なう際にペアの1人がノートPCでその都度、電子カルテに入力する仕組みに改めた。合併と同時に導入された電子カルテに早く習熟できるよう、便利な機能をまとめたガイドブックも全員に配布している。
業務の進捗確認と再配分を行なう「タイムアウト」についても、内容の見直しや声がけを徹底。リーダーが状況把握や指示出しを的確に行なえるようにすると共に、それぞれ看護師も自らの時間の使い方をきちんと管理できるようにした。さらに薬剤部門の協力を得て、薬剤の準備時刻を1時間前倒しし、薬剤の搬送や収納を調剤室の補助スタッフに行なってもらうなどの改善も実施した。
こうした取り組みの結果、日勤の残業時間を最大で48%削減。その一方で、直接看護比率を最大約20%増加させることができた。総労働時間を減らしつつ、看護に充てる時間を増やすことに成功したのだ。
「『患者様へのケアにできるだけ集中したい』というのが看護師共通の思いです。業務効率化や部門内/部門間コミュニケーションの活性化で、そこに近づけたのは非常に大きな成果だと感じています。また、もう一つの大きい成果が、わずか5か月間という短期間で結果を出せたこと。現場スタッフのやる気や底力をうまく引き出せれば、物事は大きく動くのだと改めて感じましたね」と植村氏は語る。
同病院では現在も定期的なミーティングを実施するなど、改善・改革に向けた活動を自主的に継続している。「異動や新人の配属などによって改革意識が薄れないよう、『FI通信』というレポートを定期的に発行しています。ここでは業務に対する意見募集に加えて、動きの良かったペアを表彰する取り組みなども行なっています」と三輪氏は語る。また、若狭氏も「一度改善した申し送りも、そのままにしておくとまた長くなってしまうおそれがあります。やはりこうした取り組みは、定期的な見直しが大事ですから、新しいスタッフの意見なども取り入れて、改善活動のPDCAを廻すようにしています」と語る。
さらには看護部門だけでなく、他部門への展開も積極的に推進している。植村氏は「問題をきちんと可視化した上で、成果を積み重ねていくフィールド・イノベーションの手法は、他の業務課題の解決にも有効です。既に薬剤部門などからもやってみたいとの声が上がっていますので、今回の活動を病院全体が変わるための第一歩としていきたい」と展望を語る。
所在地:愛知県東海市中ノ池3-1-1
開設:2015年5月1日
病床数:468床
URL:http://www.nishichita-hp.aichi.jp/
病棟スタッフの皆さんがポジティブなマインドになるにつれ、現場の経験に裏づけされた、「病棟スタッフに受け入れられ易い施策」が提案されました。その結果、フットワークよく実践し、皆の気づきから改善を加え、皆で成功体験する病棟一丸となった活動となり、成果に繋がったと感じています。
さらに、病院長、看護局長をはじめとした病院トップの皆様が折に触れFI活動に参加され、現場の声を吸い上げ、タイムリーに医師・薬剤師・栄養士など関係者と連携を図られ、看護現場の業務環境の改善を支援していただけたことも成果に繋がる秘訣と実感する事ができました。
すばらしい病院一丸となったチームプレイだったと感じています。
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[2017年9月 公開]
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