自動車メーカー向け自動溶接機開発製造のリーディングメーカー山和電機株式会社は、装置の高機能複雑化とともに増大する干渉チェック漏れ対策の切り札としてiCAD MXを導入。2次元CADから3次元CADへと一気に移行することでこの難題を解決。同時に設計の技量とノウハウをオープン化し、設計工程の分業によるスピードアップと設計品質のボトムアップに成功した。
[ 2016年7月制作 ]
業種: | 製造業 |
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設計品: | 各種自動溶接機およびFAシステム機器設備 |
製品: | FUJITSU Manufacturing Industry Solution iCAD MX |
山和電機株式会社は1980年、松下電器産業(現・パナソニック株式会社)の特殊自動溶接機の指定工場として創業を開始。その後、トヨタ自動車株式会社、アイシン・エイ・ダブリュ株式会社、株式会社エフテック向け自動溶接機を開発するなど、高い技術力で実績を積んだ同社は、主要自動車メーカーの国内・海外生産拠点のサブフレーム、トルクコンバーター、マフラー用自動溶接機の設計・開発を手がけるに至っている。近年では、アルミ・鉄複合サブフレームの自動溶接装置の製作など、業界の注目を集めている。
フロントサブフレーム溶接機
常務取締役
和田 慎治 氏
同社が開発する製品、とりわけ自動車関係の自動溶接機の機構は、複雑化の一途をたどっている。協力会社に設計を依頼してきた同社は1991年、顧客からの要望をあますところなく製品に活かすため、自社内に機械設計部署を設けて設計を開始。それに伴い課題となっていたのが、ワークと治具、溶接トーチなどの干渉チェックだった。受注後、得意先から受け取ったワークの製品図をもとに概略の構想図を作図する。その後、得意先の承認を受けて詳細設計にとりかかり、これをもとに実機ができ上がってくるが、その間の設計担当者の精神的負担は大変なものだったという。ワークには複雑な形状が多い。例えばワーク内の込み入った箇所に治具を当てる工程だけでも多くの干渉が発生しうる上、狭い空間内に溶接トーチがいろいろな角度から入り込むのである。同社常務取締役の和田慎治氏はこう語る。「当時のCADは、いくつかの視線方向を定義し、その投影面を見られるいわゆる2.5次元的な2次元CADでした。これにより干渉チェック漏れはいくぶん減りました。しかし複雑なカーブ形状をしたマフラーの排気管用自動溶接機などでは限界がありました。そのため設計担当者は実機ができ上がるまで、『大きな手戻りになる干渉を見落としていないか』と気が気ではありませんでした」。
1998年この問題を解決するため同社はハイエンド3次元CADを導入した。立体形状を見ながら干渉を押さえ込むのが近道と考えたのである。しかし約1年後、運用断念に追い込まれてしまう。「理由は拘束です。あくまで寸法が優先なので、例えばある部分を5ミリ短縮する場合、拘束ルールをさかのぼって修正する必要があります。量産品設計ではその手間も見合うでしょうが、当社の一品一葉設計には合わなかったのです」(和田氏)。
拘束でがんじがらめのハイエンド3次元CADの運用を断念し、新たな3 次元CADを求めた同社が着目したのは、iCAD MXだった。「拘束がないので、次々と浮かぶ構想を3次元モデル化でき、足したければ足す、削りたければ削るというダイレクト編集が可能です。操作性においても、それまで使っていた2次元CADと高い互換性を備えていました。また、当社では既存の設計データをクラス分けして蓄積していたので、その3 次元データ化も容易で、過去のモジュールを3次元データとして新設計に取り込むことができると分かり、これが導入決定の背中を押しました」(和田氏)。
技術部 課長
坂下 浩二 氏
2003年、同社設計部は6名体制でiCAD
MXの運用を開始した。ベテランの設計者からは、「簡単な部品まで3次元CADで設計すると、かえって工数が増える」といった声も上がったが、1年後、2次元CADのライセンスを強制的に取り外した。同社技術部課長の坂下浩二氏はこう語る。「慣れた2次元CADの方が手っ取り早いので、このままでは移行が進まないと考えました。2次元3次元ハイブリッド設計機能を備えたiCAD
MXを少しでも使い始めれば、むしろ以前の2次元CADより使いやすいことを実感してもらえる。そう確信できたので、3次元設計環境を整えた上で、強制的に移行したのです」。
また、購入品の3次元データ化や、各設計者が作成したデータを相互に利用できるように、設計ルールに則りデータを作成し共有データフォルダに保存するなどの環境整備を進めた。さらに、プラグイン機能を利用し、部品表を自動作成する機能や定盤穴加工図の穴位置一覧表の自動作成機能を追加。操作キーの配置を従来の2.5次元CADの仕様に合わせてアレンジする整備もなされた。こうしてビッグバン的3次元CAD移行が実現したのである。
技術部
草野 慎介 氏
iCAD
MX導入後、最大の課題であった干渉チェック漏れは、劇的に減少した。同社技術部の草野慎介氏はこう述べる。「2次元設計時代の干渉チェック漏れ5分の1に減りました。そのチェック漏れもほとんどが軽微な干渉ですから、問題となる見落としはほぼゼロといえます」。
干渉チェックの精度向上に次ぐのは、設計の見える化によるスピードアップである。1つは設計プロセスの部分共有によるものだ。「例えばワークを搬送しながら4つの溶接工程をもつ自動機を設計する場合、付随する多数のクランプ構造を設計しなければなりません。しかし4工程を4人の設計者でなく、1人が設計したクランプを、他の3人が共有し流用すれば効率化が図れます。設計意図が一目瞭然の3次元設計ならではの利点です」(草野氏)。そして第2は分業化によるスピードアップである。「2次元設計時代は、描いた設計者以外では理解が難しい図面になるので、一つの装置は1人の設計者が専任し、これが設計スピードのボトルネックでした。しかし、3次元モデルの意匠や意図はだれの目にもオープンなので、ある部分の設計を他の設計者に任せるという分業が可能となり、遅れていたスケジュールの挽回が容易になりました」(和田氏)。
3次元設計による設計者の意図、意匠の見える化は、設計品質のボトムアップにもつながっている。「設計中の装置のある部分について、既存部品が使えそうなことを思い出したら、共有データフォルダから類似の部品を2、3探し、設計中の画面上に読み込みます。iCAD
MXはデータの読み込み・展開が速いので、候補の部品から使えそうな一つを探すのが容易です。しかも既存部品はすでに実績がありますから、新規設計に取り入れても信頼性が確保され、その上に改良を加えれば設計品質は着実に向上していきます」(坂下氏)。
さらに3次元設計の運用は、得意先とのコミュニケーションにおいても目に見える効果をもたらしている。例えばワークの3次元データを受け取ることによる作業効率のアップだ。「2次元設計時代は、治具を当てるワーク部分の断面図を別の3次元CADにて取り出し、受け取ったデータを2次元に変換し参照していました。3次元設計移行後は、ワークの3次元データをiCAD
MXに取り込んで確認できるので、変換の手間が省け、ワークの立体形状を見ながら治具の設計が可能となりました」(草野氏)。
また顧客先における商談や承認図の確認のやりとりも可視化によって正確になり、仕様の解釈での相違が減少した。「お客様に装置の動きや機能を説明する場合、難しい箇所はまず3次元モデルで理解してもらい、その上で2次元図面により確認していただいています。この方法ならばご要望を細大漏らさず把握できるので、承認確認での修正も少なくなりました」(和田氏)。同社はまた、組立を依頼する協力会社との間においても3次元モデルを活用し、組立作業の円滑化を図っている。
同社はさらなる3次元CAD活用で、レーザー溶接など先進技術の開発を進めようとしている。和田氏はこう語る。「振り返ると、2次元CADライセンスを強制的に取り外したり、設計データの共有、流用による分業に取り組むなど設計手法を変革してきました。今後も変革をおそれず、変革を成長の節目としながら設計開発力を上げ、お客様のニーズの一歩先を歩みたいと思います」。
iCAD MXは、山和電機における高品質な開発力をアシストするツールとなっている。
ブレーキシュウ溶接機
所在地 | 〒486-0946
愛知県春日井市勝川町西4丁目2番6号 |
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代表取締役社長 | 山本 演彦 |
会社設立 | 1969年11月10日 |
資本金 | 1, 700万円 |
従業員数 | 37名 |
事業内容 | 各種自動溶接機およびFAシステム機器設備の設計・製造・調整・納入 |
ホームページ | 山和電機株式会社様 ホームページ |
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