2016年2月
リコーエレメックス株式会社(以下:リコーエレメックス)は、リコーグループが掲げる「作らずに創る」設計思想を掲げ、プロセス改革を推進。品質を徹底的に追求する取り組みとして、後工程に問題を持ち越さず、良品しか生み出さない「自工程完結」を目指したもの作りを展開中だ。それを実現する武器として、VPSとGP4の連携を推進。確かな成果を収めている。
導入事例キーワード | |
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設計品: |
複写機、複写機周辺機器、OA機器、情報機器
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ソリューション: |
PLMソリューション
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製品: |
VPS(DMU,MFG,GP4)
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手嶋 秀昭 様
情報機器事業本部
事業統括センター
新規事業開発部
グループリーダー
(シニアスペシャリスト)
纐纈 明之 様
情報機器事業本部
生産統括センター
GP技術部
スペシャリスト
1938年(昭和13年)に設立された「高野精密工業株式会社」を母体として、1962年(昭和37年)にリコーグループの一員となったリコーエレメックス。時計作りで培った加工技術と組立技術をベースとした精密機器事業と、リコーグループの基盤である情報機器事業を両輪とし、“お客様のNo.1パートナーの実現”を掲げた企業活動を続けている。「悪いものを作らない」という同社のスタンスは、各々の工程でしっかりと品質を作りこみ、問題を後工程に引き継がない「自工程完結」を基本としている。情報機器事業本部 事業統括センター新規事業開発部 グループリーダーの手嶋秀昭氏はこう語る。
「かつてのもの作りは、『万一不良や不具合があっても、後工程で検査・確認してもらえればいい』という甘えがありました。これに対して、それぞれの工程で品質を保証することでトラブルの芽を排除していこう、というのが『自工程完結』の根本思想です」
各々が後工程に完全なものを手渡すことで、手戻りによるロスがなくなり、コストと工期の圧縮も実現した。
同社の「自工程完結」は、設計開発プロセスからスタートする。情報機器事業本部 生産統括センターGP技術部 スペシャリストの纐纈明之氏は、以下のように説明する。
「当社は、早い時期から3D-CADによる設計を進め、設計者自身がCAEによる解析を実施するなど、ものができる前にトラブルの芽を摘んでおく姿勢を重視してきました。つまり、トライ&エラー的な手探りのもの作りを回避し『作らずに創る』を推進してきたのです」
しかし、組立性の検討や工程設定の分野では、3Dデジタルデータを活用した仮想的な確認ができる項目が少なく、実機や現物による確認が行われていた。具体的には、設計区より入手した3D-CADデータをもとに、バーチャル上で確認できる項目を評価したあと、手順書作成、ラインレイアウトの机上検討、製作を行い、実機試作にてバーチャルで見られなかった部分の評価、ラインの確認を実施していた。ここで顕在化した問題点を修正して、量産に向かっていたのである。
このやり方においては、下記のような課題が表面化していた。
「そこで、開発から工程設定に至るまで、バーチャル空間上の評価を一気通貫させることを目指して2010年度にVPSを、さらに2012年度にGP4を導入し『作らずに創る』の実現を目指しました」(手嶋氏)
ライン検証の定量化にはGP4を活用。VPSから取り込んだ製品データや組立順序、その他に工場のレイアウト情報、設備や作業台、工具などのデータを基に工程レイアウトの最適化が検討された。
「人体シミュレーションで作業者の動きや動線、作業姿勢を可視化して、定量化しました。その結果、例えば部品棚の配置や工具の位置を変更し、従来のような有識者が感覚的に行ってきたレイアウトに比べて、歩行動線長を26%改善することができました」(纐纈氏)
特に新機種のラインレイアウト構築の場合、従来の机上検討では24人体制が必要と算出されていたが、GP4を活用して製品台車の送り出し方法などを見直した結果、人員の適正配分によって22人で十分であることが実証できた。さらに従来500㎡必要とされた作業エリアも、350m㎡に縮小できることが分かったのである。
また、作業姿勢の良し悪しと作業不具合の発生とは非常に密接な関係にあり、正しい姿勢で作業することが望ましい。
「GP4で作業者の姿勢範囲を3段階に区分し、標準化された指針に基づいて、姿勢に起因する作業ミス発生の可能性を客観的に判断・評価できるようになりました。また、評価に関わる工数自体を10%削減することもできました」(手嶋氏)
さらに、ラインレイアウトのシミュレーションによって、付帯作業が見えるようになった。そのおかげで、実際にかかる組立時間を正確に把握することもできるようになった。
「GP4は、ライン情報をデータとして保管できるので、海外拠点への指示やラインを移管する際にも、スムーズな展開と工数削減が実現します。さらに、レイアウトのDRができるようになり、ラインレイアウト作成においても、『作らずに創る』が実現しました」(纐纈氏)
■生産ラインシミュレータの導入検討
■作業姿勢の定量評価
「VPSは設計部門での活用も一層深まり、事前確認項目が拡大。例えばハーネスの這いまわしなども、開発の早期段階からバーチャルで最適化を図ることができるようになりました」(手嶋氏)
一方、手順書作成の効率化にもVPSが大きく貢献している。従来は3D-CADの製品データから、組み付け前の状態に遡って部品を引き離し、引き出し線などを添えて画像として手順書に貼り付けていた。この作業だけでも、かなりの工数と時間を要していた。
「VPSのスナップショット機能を活用すれば、部品を自動で離して、引き出し線を引いてくれます。そのおかげで、繁雑だった作業の工数削減が実現し、実施値で20%以上の効率アップを達成することができました」(纐纈氏)
さらに、VPSは手順作成時に組立手順を動画として作成できるので、習熟度の低い海外スタッフに新機種の組み付けイメージを提示して、理解を深めるのにも役立っている。
また、組み付けの問題点などを巡って、試作段階になって再評価などの手戻りが生じてしまう問題の解決にも、VPSが貢献しているという。
■手順書作成の効率化
「従来『組み付け時の工具類の作業スペースとの関係や作業性は、実機でないと評価できない』という見方が一般的でした。しかしVPSのおかげで部品組み付け順に用いる工具を仮想的に挿入することができます。工具の干渉や作業性の確認が簡単になりました」(手嶋氏)
さらにきめ細かな組み付け評価項目の設定を進め、トラブルを未然に防ぐプロセスを強化した同社は、概ね4回ほど出していた試作を、1~2ステップ削減することにも成功した。
以上見てきたように、「自工程完結」を徹底したリコーエレメックスは、今後さらに3D活用を深めながら「悪いものは作らない」という方針の徹底に努めたい、としている。その戦略を推進する手嶋氏、纐纈氏は、DIPROに対する期待を次のように語った。
「生産計画は相応の頻度で都度変更がありますので、今後はさらに細かいパターンで、何種類ものプランを作っていきたいと思っています。そこでDIPROには、例えば工程分割変更時にも作業設定をそのまま持ち越せるなど、GP4の体勢変更への対応性をさらに高める工夫をお願いしたいと思います」(手嶋氏)
「さらに言わせていただければ、例えばVPS上で設定した工具を使う情報を、そのまま簡単にGP4に持ってくることができれば助かります。GP4とVPSの連携を一層強化していただき、戦力強化を図っていきたいですね」(纐纈氏)
生産性向上の鍵は、それを阻んでいる要素を探って排除する文化と、その文化を具現化する仕組み作りにある。さまざまな評価の定量化を図り、規準の曖昧さや属人性によるバラツキを解決する姿勢を貫くリコーエレメックスの改善活動は、今後さらに大きな成果を結ぼうとしている。