国内に設置される約550万台の自販機および自動サービス機。その半数近くを提供している企業が、富士電機リテイルシステムズだ。主力の三重工場は最新鋭の自動化ラインを備え、年間約15万台の自販機を生産している。ここで近年展開されているのが「デジタル・イノベーション」という取り組み。3次元を活用した製品の仮想検証により、開発リードタイムの短縮と品質向上の両立を目指す。それを後押しするツールが富士通のVPS(Virtual Product Simulator)だ。製造における組立性や、設置後のメンテナンス性を考慮した検証を可能とし、試作機の製造台数削減などに貢献している。
導入事例キーワード | |
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設計品: | 自販機、フードサービス機器や冷凍・冷蔵ショーケースなどの設備・器材、
各種通貨機器 |
ソリューション: |
PLMソリューション
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製品: |
VPS
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田中 信弥 様
富士電機リテイルシステムズ株式会社
自動化機器事業本部
三重工場
生産企画部 IT推進課
担当課長
長谷川 恭久 様
富士電機リテイルシステムズ株式会社
自動化機器事業本部
三重工場
生産企画部 IT推進課
小売・サービス業における重要な顧客接点の1つが自販機。消費者ニーズの多様化や高齢化社会の進展を背景に、利用シーンが拡がり、自販機そのものの機能やデザインも進化を遂げる。富士電機リテイルシステムズでは業界最先端のヒートポンプ技術を利用した環境に優しい省エネシステムや、ユニバーサル・デザインを採用した使い勝手のよい製品を提案・開発するなど市場ニーズを先取りしてきた。
もちろん、製品の品質や耐久性に妥協は許されない。温度や湿度、天候など外界の変化を問わず、お金やカードが投入されれば確実に商品・サービスを提供する堅牢なメカニズムや制御技術には、熟練の技と長年のノウハウが隠されている。
「製品の性能や品質は、実機を作り、実際の使用状況を想定した各種検証を通じて確かめています。設計の早い段階でいかに問題点を解決できるかどうかが生産性を左右します」と富士電機リテイルシステムズ三重工場の田中信弥氏は説明する。
時代の変化やニーズを先取りするデザインと機能、そして高い品質と信頼性を備えた製品群が「快適商空間」をサポートする。
同社では、製品の試作を3段階で行っている。各機能ユニット、組立後の完成状態、そして量産化段階での試作だ。先端テクノロジーを活用した入念なテストを重ねることで徹底した品質管理を行っている。
「しかし、一方では、市場からの要求もあり、製品提供までのリードタイムの短縮やコストダウンが大きな課題となっていました」と、同社の長谷川恭久氏は語る。
缶・ペットボトル自販機を例にとると、次年度の商戦にあわせて一年ほど前から設計が始まる。「品質管理のレベルを落とさずに検証を効率化するには、デジタル技術の活用がポイント。従来、"デジタル検証:実機検証=51:49"のように半々だった比率を"75:25"へシフトしたいと考えました」(長谷川氏)。
その実現に向け、三重工場では、設計や製造、品質保証部などが一丸となり、全社的なワーキンググループを編成。設計業務の効率化を主眼に1999年以降拡充を進めてきた3次元CADなどのデジタルツールの性能が、実機検証にどこまで迫れるのか、現状システム性能の把握・分析をスタートさせた。この過程に現場を巻き込むことで「検証には実機が不可欠」という"常識"も変えていった。一方で明らかになったのが、既存の3次元CADに付属するビューワの性能的な限界である。
富士通のVPS導入により「バーチャルものづくり」を実現。図面の変更率が導入前の4分の1、試作機の台数を2割削減へ
そこで長谷川氏らは、既存システムの機能を補完するのにふさわしい製品を比較検討。富士通のVPSに興味を持った。
「様々な動きを模倣できる人体モデルのシミュレーションが可能だった点が選択理由の1つです。VPSならではの機能でした。この機能を使うと、例えば自販機の商品取り出し口が、車椅子を利用されている方が使いやすいバリアフリーの形状や位置かを画面上で確認できます」と長谷川氏はいう。
人体モデルはほかにも、組立の際に部品を取り付けやすいか、また設置後のメンテナンスを担当する保守員が操作しやすい作りかの確認など、様々な場面で利用されている。
VPSのもう1つの大きな特長は、画面上でハーネスなど柔軟物の経路や長さを、実物さながらに表現できることにある。ハーネスに使われる素材の無駄な使用を無くすことができるほか、組立における勘所などを若手スタッフに伝えるといった教育面や、実際の組立指示などのメリットも小さくない。
さらに、VPSの導入には理由がある。試作評価を何度も繰り返すことの改善だ。評価・仕様決定はメカ設計主導になっており、制御を含めた仕様変更が多発すると、試作評価を何度も繰り返さなければならない。同社はこれを改善したかった。そこで、事前に機構・制御の検討をシミュレーション評価できる、同社の埼玉工場でも導入実績があるVPSを導入したのだ。
さて現在、VPS導入からほぼ一年が経過。成果を刈り取るのはいよいよこれからだが、「図面の変更率を導入前の4分の1へ、試作機の台数を2割削減へ、という目標で推進中です。今後はデジタル検証率を現在の60%台から75%~85%へと引き上げたいですね。さらに VPSデータを管理する仕組みを構築し、検証結果を共有したナレッジの蓄積へと取り組んでいきたい」と田中氏は語る。
「ゆくゆくは、従来のビューワでは実施していない、部品の素材情報と連携したよりリアルなデジタル検証を行う。また、開発初期段階での製品の完成度を上げるために、部品の耐久性をチェックする構造的な検証、屋外設置を想定した自然環境に対する耐久性などの検証を仮想的に行えるようにしたい」と田中氏。温めている構想はそれだけではなさそうだ。