“勘”と“経験”をシステム化
量子コンピューティング技術を活用したデジタルアニーラがつくるこれからの製造業

製造業の現場にある「多品種生産の現場における生産スケジュールの最適化」や「多数のトラックによる最適な輸送ルートの決定」などの課題は、「組合せ最適化問題」と呼ばれ、計算量が膨大になるために総当たりで解くことは困難です。そのため、このような業務は、長年にわたる担当者の勘や経験によって実施されてきました。組合せ最適化問題を解決する全く新しいアーキテクチャーのコンピュータが「デジタルアニーラ」です。デジタルアニーラの活用により、ベテランの勘や経験に頼らなくても誰もが最適な解を導き出すことが可能となります。

スーパーコンピュータでも数億年かかる「組合せ最適化問題」の解

「巡回セールスマン問題」(図1)と呼ばれる有名な組合せ最適化問題があります。決められた複数の都市を1回ずつ訪れるための最短ルートを導く問題です。都市数が少なければ、候補ルートの数は人の手でも数えられる程度となりますが、例えば32都市になるとこの候補数は爆発的に増加し、2630京×1京通りとなります。この数になると、従来の総当たり方式ではたとえスーパーコンピュータでも解くのに数億年かかり、実質的には解けません。もちろんこういった問題を近似的に解く方法は存在していますが、局所解に陥りやすいなどの課題がありました。

しかし、この組合せ最適化問題を高精度で短時間に解く道筋が開け始めました。従来のコンピュータとは全く別の原理で計算する、量子コンピュータの技術開発が急速に進んだからです。ただし、量子コンピュータの動作には、超低温環境が必要になるなど、実用化に向けてはまだ多くの課題が残されています。

[図1] 図1 「巡回セールスマン問題」は一見単純そうに見えるが、事実上解くことができなかった

「組合せ最適化問題」を解く手段となる

前述の量子コンピュータに着想を得て実現したデジタルアニーラは、組合せ最適化問題を高速で解くことができます。

デジタルアニーラを活用することにより、いままでシステム化できないと考えられていた業務の改善を進めることができるのです。いち早く導入した企業では既に具体的な成果が出てきています。いくつかの例をご紹介しましょう。

ピッキング時の移動距離を最大45%短縮

富士通グループで、サーバなどを生産する株式会社富士通ITプロダクツの工場では、フロア面積1,000m2の倉庫内の棚の中に3,000点の部品が収められています。製品によって使用する部品が異なり、さらに少量多品種生産のため、ピッキングすべき部品が毎回異なり、ピッキングのルートに無駄が生じることが課題でした。そこで、デジタルアニーラを活用して、ピッキングする最短ルートを瞬時に計算するシステムを開発しました(図2)。

複雑な制約条件を加味しながら最短ルートを選び、経験の浅い人でも効率よくピッキングができるようになりました。同時に、回る頻度の高い棚をグルーピングし、相関の高い棚同士の配置を近づけておくことで、総移動距離を短くすることが可能となり、ピッキングに要する総移動距離を最大45%短縮するという成果を上げています。

[図2] 図2 部品のピッキングの最短ルートを瞬時に算出

生産ラインの状況に応じて瞬時に対応し生産効率を最大化する

そのほかのシーンでもデジタルアニーラは有用です。工場では生産ライン上の機械を使って、決められた工程を経て製品を生産しています。機械の種類や生産条件によって機械のスループットが異なり、置かれている機械の数も種類ごとに異なります。これまではベテランが勘や経験を基に機械やそれを動かすオペレーターに仕事を割り振ることが多かったのですが、この生産効率を最大化するための生産順序を求める「ジョブショップスケジューリング」の計算にも、デジタルアニーラを活用できます。実際の生産では、各工程の所要時間の違いなどから、仕掛品の加工が止まってしまうことがよくあります。デジタルアニーラを使えば、状況に応じて瞬時に最適な生産順序を算出することができるため、稼働率を向上させることが可能です。

工場では、今後ますます自動化が進んでいきます。1つのラインで少量多品種の製造を自動化するにはより最適化を意識する必要があるため、デジタルアニーラの有用性が高まってくるでしょう。

また、設計におけるデザインパターンも最適化問題と言えます。例えば、走行中に騒音が少ない自動車のミラーを設計するため、運転席や助手席、後部座席のどの位置に座っても音が小さくなるように多くのデザインパターンをシミュレーションしています。このデザインパターンのシミュレーションにもデジタルアニーラを活用することができます。大手自動車メーカーでは、設計や各工程でデジタルアニーラを活用し始めています。

新薬・新材料の研究開発でも活用

さらに、新薬の研究開発でも分子類似性の検索にデジタルアニーラが活用されています。従来の類似分子の検索では、分子中の特定部分にある原子団の種類(Finger Print)に注目し、その有無をデータベース中の候補分子と見比べていました。ただし、分子の形状を考慮することができませんでした。分子形状まで考慮して従来のコンピュータで検索すると、結果が得られるまでに数億年を要することになるからです。このため、検索結果の精度は低く、実験に基づく実証で思い通りの効果が得られる分子を見つける頻度が低い状況でした。新薬の開発成功確率は2.5万分の1と言われますが、この検索精度の低さが長い開発期間と膨大なコストを必要とする要因の1つでした。

しかし、デジタルアニーラは高精度かつ瞬時に精度の高い近似値を出すことを可能にしました。検索の結果を得るまでの時間は数秒以内で、開発の初期段階に要する時間を劇的に削減できます。例えば、インフルエンザの薬として有名なリレンザに類似した分子を検索すると、検索候補の中の競合薬であるイナビルが確実にリストアップされます。もちろん、単純な分子の検索では人間の判断の方が速いかもしれません。しかし、複雑で大規模な分子を対象にすればするほど、デジタルアニーラの優位性が勝ってきます。より優れた材料を見つけ出すことも可能となり、製造業の開発分野でもデジタルアニーラの活用が期待されています。

早い一歩で新しいビジネスの可能性を掴む

これまで人の勘や経験に依存し、システム化が困難とされていた作業や従来のコンピュータでは実現が難しいとされていたようなことを、デジタルアニーラを活用してその問題解決に取り組んでいる企業が出てきています。組合せ最適化問題として解くことができる課題なら、デジタルアニーラを活用できる可能性があります。

もちろん、これらを活用するにはあらかじめデータが得られていることが大切です。まずデジタルデータ化する仕組みを取り入れ、小規模でも始めることが肝心でしょう。早い一歩が今後のビジネスの差別化、新しいビジネスを生み出す可能性を掴めるのです。

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