「カスタマー・ジャーニー(Customer Journey)」とは、ユーザーがどのような接点を経て商品やサービスを購入するか、というプロセスを旅に例えた言葉です。「カスタマー・ジャーニー」を作成する意味や目的について、富士通総研 田中 秀樹が解説します。
「あなたが担当している企業Webサイトは誰がどんな目的で利用しているのでしょうか?」。そんなことは分かっていると思うかもしれませんが、目的やターゲットをあらためて考え直すと、見逃していることが発見できるかもしれません。
例えば消費者向けメーカーのWebサイト担当者の場合、自社Webサイトのターゲットと利用目的は、一般消費者が商品情報するためだと答えるかもしれません。ただ、消費者向けビジネスを行っていても、企業Webサイトのターゲットは消費者以外になることもあります。
一般消費者向けメーカーA社でユーザーのWebサイト利用状況を調べたところ、ターゲットと思っていた一般消費者は小売の店頭やECサイトで商品情報を調べており、A社のWebサイトは商品代理店や自社のセールスパーソンの利用が多かった、という実態が明らかになりました。また、法人向けのビジネスを行う企業の場合、メインユーザーはセールスパーソンが担当し、企業Webサイトは新規顧客開拓のリードナーチャリングを目的としていることも多いでしょう。
自社のメインユーザーが必ずしも企業Webサイトのターゲットとは限りません。最適なターゲットと目的を設定するには、ユーザーの利用状況を把握し、あるべき姿を検討する必要があります。
ユーザーのWebサイト利用状況は、アクセス分析やアンケート調査をすると分かります。アクセス分析の専任担当者がいないと、アクセス数の増減やどのページが良く見られているか程度しか確認していないことが多いかもしれません。
アクセス分析を使いこなせば、消費者と法人のアクセス比率や、頻度やページ遷移から目的を推察することもできます。また、ちょっと手間をかけてアンケートページを設置すれば、他にどんなチャネルを利用しているかも調べられるので、ユーザーの行動がより鮮明になります。
ユーザーの行動が分かったら、自社接点と接触するパターンを洗い出し、ユーザーの立場で行動シナリオのあるべき姿を考えてください。その際、「カスタマー・ジャーニー(Customer Journey)」を使うと効果的です。
カスタマー・ジャーニーとは、ユーザーがどんな接点を経て商品やサービスを購入するか、というプロセスを旅に例えた言葉です。Webサイトのユーザーを想定する方法としては「ペルソナ」があります。
仮想の人物像を想定するペルソナに対して、カスタマー・ジャーニーが注目されるようになったのは、ソーシャルメディアやスマートフォンの普及によりユーザーと企業の接点が多様化し、どのように接点を使い分けてコミュニケーションするか、コンテキスト(文脈)が重要になったからです。さらに、「DMP(データ・マネジメント・プラットフォーム)」などを使えば、ユーザーを「個」と捉えて把握や広告掲載が可能になったことも理由に挙げられます。
カスタマー・ジャーニーの作成は、ユーザーとの接点全体を俯瞰してとらえる必要があるので、Web担当部署だけでなく、コールセンターやセールスなど各チャネルの担当者が参加して議論することが重要です。マーケティング責任者を舵取りとして、自部門のことだけを考えるのではなく、顧客の立場で最適なユーザー接点を考えていきます。
Webサイトの運用に追われていると、コンテンツ追加が目的となってしまうことがあります。しかし企業Webサイトにおいて、コンテンツは手段なので本来の目的を見失ってはいけません。カスタマー・ジャーニーを描くことでWebサイトの目的や役割が明確になります。
スマートフォンの普及やオムニチャネルの進展でユーザーと企業の接点は大きく変化し、企業Webサイトは接点の一つとして全体の中で役割を考えていく必要があります。今までの経験や考え方に捉われず、新たな発想で顧客との最適なコミュニケーション・シナリオを考え、Webサイトの価値を最大限に引き出してください。
(株式会社富士通総研 田中 秀樹)
株式会社富士通総研(FRI)
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