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第2回 IFRSの有価証券報告書が作成できないのには理由がある

第2回 IFRSの有価証券報告書が作成できないのには理由がある

IFRSを適用すると、決算の工数は確実に増大する

前回(第1回)のコラムにおいて、IFRS導入プロジェクトの最終ゴールは、「IFRSベースの有価証券報告書(以下、有報)を作成・開示すること」と述べました。その最終ゴールであるIFRSベースの有報は、日本基準ベースの有報と比べると、①分量が多く②雛形がない、という特徴があります。特に、「注記」の分量が多く、ページ数が1.5倍から数倍になる会社が少なくありません。また、IFRSの基準には開示の雛形が与えられていませんので、従来のように「当てはめる開示実務」ではなく、「何を」「どのような雛形で」開示するのかという「考える開示実務」が求められます。そのため、決算の工数は確実に増大します

IFRSを適用すると決算の工数は確実に増大する

決算の工数が増大するのは「連結」「開示」

では、IFRSを適用すると、決算のどのパートの工数が増えるのでしょうか?決算を、「単体決算」「連結決算」「開示業務」の3つのパートに分けてみてみましょう。

「単体決算」は、すべての会社が従前の会計基準(日本基準)で単体試算表を作成することになりますので、基本的に工数が増えることはないでしょう。

「連結決算」は、一般的な会社の場合、いったん従前の会計基準(日本基準)で連結精算表(連結キャッシュ・フロー精算表を含む。)を作成し、それをIFRSベースの連結精算表に組み替えるという実務を行います。この「組み替え」の実務が増える分だけ、決算の工数が増えることになります。なお、グローバル企業の場合、各国からIFRSベースの(もしくは、IFRSベースに組み替えられた)連結パッケージを入手し、いきなりIFRSベースの連結精算表を作成するという会社もあります。この場合は、従前の会計基準で作成していた連結精算表作成をやめ、IFRSベースの連結精算表作成に変更するため、それほど決算の工数が増えることにはならないように思えます。しかし、現状では「並行開示」(IFRS適用会社も日本基準の要約連結財務諸表を開示しなければならない)が求められていますので、IFRSベースの連結精算表から日本基準の連結精算表へ「逆の組み替え」をしなければならず、この分の工数が増えることになります。この「組み替え」もしくは「逆組み替え」に係る工数の増大は避けられません。

「開示業務」は、上述のとおり、IFRSベースの有報は、日本基準ベースの有報と比べると、ページ数が1.5倍から数倍になる会社もあり、また、雛形がありませんので、工数は大幅に増大します。3つのパートの中で、最も工数が増大するのは、この「開示業務」です

決算の工数が増大するのは「連結」「開示」

有報・決算短信を期日通りに作成・開示できるのか

このように、IFRSを適用すると決算の工数、特に「連結」「開示」の工数は増大します。これは、IFRSベースの有報・決算短信の開示にも大きな影響を及ぼします。

現在、東証上場企業において、決算短信を30日以内に開示している会社は16.44%しかありません(2016年3月期本決算会社。東証調べ。以下同様。)。40日以内に開示している会社も36.38%しかありません。つまり、上場企業の3社に2社は、決算発表に41日以上を要しているのです(45日以内に決算発表できない企業も5%超あります)。このように、多くの上場企業が決算早期化(30日開示)を実現できず、45日前後に決算発表をする会社が集中しているという状況にあります。

では、決算早期化を実現できていない会社が、IFRSを適用することになった場合、どういうことになるのでしょうか。IFRSの有報や決算短信が期日通りに作成できない、開示できないという非常に大きなリスクを負うことになります。しかし、このリスクを過小評価している会社が少なくありません。そのため、期日通りに作成、開示できる目途が立たずに、IFRS適用を延期・中断した会社もあるのです。

いまだに、IFRSベースの連結B/S、連結P/Lを作成できれば、プロジェクトの大半は終了し、後は「文書化」の作業(第1回コラム参照)をすれば良いと思っている方が監査法人やコンサル会社の中にもいます。しかし、IFRSベースの連結B/S、連結P/Lが作成できても有報の数ページ分の対策が終ったに過ぎません。有報の残りの部分(特に注記の部分)を期日通りに作成・開示するための準備も必要になります。つまり、IFRSを適用するためには、決算早期化対策も必要になります(「決算早期化」と「決算期統一」は、短期間で成果を出すことはほぼ不可能です)。

IFRS導入プロジェクトの最終ゴールを考えることなく、「積み上げ方式」(第1回コラム参照)によりプロジェクトを進めていくと、会計処理にばかり目がいき、開示が意識から離れてしまいます。開示を意識しなければ、IFRSの有報や決算短信が期日通りに作成・開示できません。IFRS導入で失敗しないためには、最終ゴール(開示)から逆算して考える思考が必須となります。

※IFRSベースの有報の開示の特徴や先行開示事例については、武田雄治・吉岡博樹著『IFRS導入プロジェクトの実務』(中央経済社)をご参照下さい。

≪今回のポイント≫

IFRS導入プロジェクトは
会計処理よりも開示を意識せよ!

講師紹介

公認会計士 武田雄治氏

公認会計士 武田雄治氏
武田公認会計士事務所代表。中央大学専門職大学院国際会計研究科元兼任講師(IFRS担当)。
IFRSコンサルティングでは第一人者と称される。ブログ「CFOのための最新情報」は月間のべ10万人以上が閲覧し、ブロガーとしても有名。主な著書に「IFRS導入プロジェクトの実務」(共著)、「決算早期化の実務マニュアル〈第2版〉」など多数。

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