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第1回 IFRS導入がうまくいかないのには理由がある

IFRS実務の最前線。第1回「IFRS導入がうまくいかないのには理由がある」

IFRS導入プロジェクトは、「時間が足りない!」

筆者(武田)は、2009年頃から上場企業のIFRS導入支援を行ってきました。当時は、IFRS適用までに3~5年をかけて準備する企業が大半でした。しかし、近年は2~3年といった短期間でIFRS適用を目指す企業が大半となりました。中堅企業では1年前後でIFRS適用を目指す企業もあります。

短期間でのIFRS適用はさすがに大変です。
現場にいると、「時間が足りない!」「助けてくれ!」と悲鳴をあげたくなることもあります。

IFRS導入プロジェクトは、とにかく、短期間で効率的にプロジェクトを進めなければなりません。

短期間で効率的に進めるためには、
まずは、(1)「IFRS導入プロジェクトの全体像」をつかむ必要があります
その上で、(2)何をやるべきか、何を捨てるべきかを決める必要があります

しかし、現状では、「IFRS導入プロジェクトの全体像」も把握せず、監査法人やコンサル会社(以下、「監査法人等」という。)から提示されたスケジュール表を鵜呑みにして作業を進め、思ったようにプロジェクトが進捗していないという企業が少なくありません。私はそのような企業からセカンド・オピニオンを求められることがありますが、やる必要のない作業を一生懸命やらされているというケースもみてきました。監査法人等も、まだIFRS導入支援実績が乏しく、初めて関与するという担当者もいるかもしれません。彼等も手探り状態である可能性があります。監査法人等の言いなりにはならず、皆様側から監査法人等に「NO!」を言ったり、時には突き動かしたりするくらいのことをしなければ前に進まない場合があります。

まずは「IFRS導入プロジェクトの全体像」をつかめ!

これからIFRS導入プロジェクトを開始する企業も、既にIFRS導入プロジェクトを開始している企業も、いま一度、スケジュール表を確認してください。

まず、IFRS導入プロジェクトの最終ゴールは何でしょうか?

言わずもがなですが、「IFRSベースの有価証券報告書を作成・開示すること」が最終ゴールです。つまり、スケジュール表の右端(最終ゴール)は、「IFRSベースの有価証券報告書を作成・開示」です。

IFRS導入プロジェクトを短期間で効率的に進めるためには、「IFRSベースの有価証券報告書を作成・開示」というミッションに直接関係ない作業を切り捨てることも重要です。

そうすると、「IFRSベースの有価証券報告書を作成・開示すること」というミッションを短期間で効率的に達成するために何をすべきでしょうか?

筆者が支援をしているプロジェクトにおいては、

1. IFRSベースの有価証券報告書の先行開示事例の分析

2. IFRSベースの有価証券報告書の開示項目・開示内容の洗い出しとリスト化

といったことを先ず実施します。ゴールのイメージを先にプロジェクトメンバーで共有しておくことが重要です。

IFRS導入プロジェクトの最終ゴールは、全てのグループ会社、全ての勘定科目、全ての会計処理をIFRSに変更することではなく、「IFRSベースの有価証券報告書を作成・開示」ですから、日本基準における有価証券報告書の作成・開示と同様に、「重要性」を考慮しなければなりません。

そのため、次に、

3. グループ会社の「重要性」の判定

4. 勘定科目別の「重要性」の判定

5. 影響を受ける会計基準(会計上の論点)の洗い出し

といったことを実施します。

IFRSと日本基準の差異の有無や影響額を分析する、いわゆる「ギャップ分析」を、IFRS導入プロジェクトの一番初めに(ゴールをイメージする前に)開始している企業が少なくありません。「重要性」を考えずに、何百・何千とある会計上の論点を片っ端からギャップ分析することは非効率ですし、無意味です。「ギャップ分析」は、ゴールをイメージし(上記1~2)、「重要性」を考慮してから(上記3~5)実施すべきです。

ゴール(開示)から逆算しプロジェクトを組み立てる「ゴール逆算方式」を採るかどうかにより、皆様の作業工数は数倍変わります。しかし、ゴールを見ずに、「積み上げ方式」によるプロジェクトを組み立てている企業が少なくありません。監査法人等が提示するスケジュール表も「積み上げ方式」になっていることがあります。プロジェクト期間が3~5年あるのならば「積み上げ方式」でも構いませんが、短期間で成果を出すことは困難です。

IFRS導入プロジェクトの全体像

何をやるべきかだけでなく、何を捨てるべきかを決めろ!

短期間で効率的にIFRS適用を目指すのであれば、「ギャップ分析」が終わったら後に何をするのか(何をやらないのか)が極めて重要になります。

多くの企業では、「ギャップ分析」が終わった後に

  • 会計基準差異チェックリスト
  • グループ会計方針(グループ・アカウンティング・ポリシー)の策定・改訂
  • ポジションペーパーの作成
  • 経理規程や連結財務諸表作成規程等の改訂
  • 会計処理マニュアルの改訂
  • J-SOX関連資料の改訂

といった「文書化」の作業に入ります。

このような「文書化」は監査法人等から要求されるかもしれませんが、筆者は「時間があればやればいい」、「時間がなければ後回しでいい」と考えています。このような文書化作業は膨大な工数を要しますが、文書化しなければ有価証券報告書が作成できないわけではありません。日本基準の有価証券報告書を作成する際も、いちいち規程類やマニュアル類を見ながら作成していないはずです。

「ギャップ分析」が終わった後にやるべきことは、

6. IFRS組替仕訳を切ること

7. IFRSベースのB/S、P/Lを作成すること

8. 開示(特に注記)を作成すること(情報収集、開示基礎資料整備等)

です。

もちろん、6~8も「重要性」を考慮しながら進めなければなりません。監査法人等は「重要性」よりも「網羅性」を求めてくるかもしれませんが、これについても言いなりにはならず、「重要性が乏しいから省略する」といえるように「理論武装」しておかなければなりません。

IFRS導入プロジェクトにおいてやるべきことは、基本的に上述した1~8の項目のみです。これだけでも、実際にやってみると大変な苦労を伴います。優先順位を付けて、できるだけ前倒しでプロジェクトを進めることをオススメ致します。

≪今回のポイント≫

IFRS導入を短期間で効率的に実施するためは

「ゴール逆算方式」でスケジュールを立て、

「重要性」「理論武装」を考慮して実行せよ!

講師紹介

公認会計士 武田雄治氏

公認会計士 武田雄治氏
武田公認会計士事務所代表。中央大学専門職大学院国際会計研究科元兼任講師(IFRS担当)。
IFRSコンサルティングでは第一人者と称される。ブログ「CFOのための最新情報」は月間のべ10万人以上が閲覧し、ブロガーとしても有名。主な著書に「IFRS導入プロジェクトの実務」(共著)、「決算早期化の実務マニュアル〈第2版〉」など多数。

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