フィンテック(FinTech)が変える電子決済革命

2018.5.16 ライター:佐々木 敦也

2001年にEdy、2004年におサイフケータイが登場し、電子マネーの技術では世界の先頭を走り、QRコードも発明した日本。電子マネー大国の地位を確立したかにみえましたが、クレジットカードや電子マネーなどで支払うキャッシュレス化は進んでいるとはいえません。主要国では非現金決済の比率が5割を超える中、日本は2割にとどまっています。現金ATMの維持コストは推定2兆円とも言われており(注1)、インバウンドを推進する視点からも、政府はカード利用が多い訪日客の購買機会を逃したり利便性を損ねたりしかねないかと、この事態を懸念しています。

また、近年、「フィンテック(Fintech)」に関する情報に触れる機会が多くなりました。その一番身近なことと言えば、決済サービスです。代表例として、スマートフォンを介して誰でも現金を使わずに決済することが可能となりました。フィンテックによるキャッシュレス化に向けての期待が集まっています。

今回はどうしたら真の電子マネーを普及させ、そのメリットを享受することができるのかを考えてみましょう。

(注1)ボストン・コンサルティング・グループの推計

フィンテック(FinTech)の台頭

近年、新聞やインターネットなど各種メディアを通して「フィンテック(Fintech)」という言葉が登場する機会が増えています。フィンテックとは、金融を意味する「ファイナンス(Finance)」と、技術を意味する「テクノロジー(Technology)」を組み合わせた造語です。一言でいうと、「IT(スマートフォンやPCなどテクノロジー)を駆使した革新的(innovative)、あるいは破壊的(disruptive)な金融商品・サービスの潮流」といった意味になります。

フィンテックの領域に位置するサービスは、法人の「会計・経理」から個人の「決済」「貯蓄」「仮想通貨」など多岐に渡って展開されているのが特徴です。かつて専門性が必要とされていた分野でも、スマートフォンから誰でも気軽に利用できるため、既存の金融サービスを揺るがし、新たな時代を作る可能性を秘めています。

代表的なフィンテックサービスとしては、PFM(Personal Financial Management: 個人のお金に関わる情報を統合的に管理するサービス)、ロボ・アドバイザー(人工知能(AI)活用による投資助言サービス)、マーケットプレイス・レンディング(資金の貸し手と借り手を仲介するサービス)、モバイルPOS(Point-Of-Sale)(スマートデバイスを利用してクレジットカードでの支払いを受け入れることができるサービス)などがあります。その共通した特長は、利用者目線での「安く、早く、便利」に変えていこうとする利便性向上です。

フィンテック決済サービス実用例・最新動向

まずそもそも電子マネーとは、紙幣や硬貨を使わないで、電子的に(データのやりとりで)決済を実現する手段のことで、現金の代わりにカードやスマートフォンなどの端末にチャージ(補充)を行い、いつでも支払いができる“電子”上のお金のことをいいます。お財布ケータイと呼ばれるものも電子マネーの一種です。その電子マネーの決済方法は 大きく分けて「プリペイド型」と「ポストペイ型」があります。

  • プリペイド型:事前にチャージする必要がある先払い式
  • ポストペイ型:チャージの必要がなく、登録したクレジットカードや口座から後で引き落とされる後払い式

さらに、スマートフォン決済の種類として「非接触型(FeliCa)」と「QRコード」があります。

  • 非接触型(FeliCa)(日本の主要電子マネーに搭載):装置にかざすだけでチップの情報を読み取ったり書き込んだりでき、簡単に決済可。ただし、紛失・盗難の際には他人に使われてしまうリスクあり。
  • QRコード:スマートフォンアプリから、QRコードで決済可。専用の読み取り端末が不要で導入費用を抑制。ただし、QRコードを別のものとすり替え、客が商店に支払う代金を騙し取ってしまうこと等のリスクあり。

プリペイド型は特に日本では「非接触型(FeliCa)」採用のSuica、楽天Edy、PASMO、nanaco等のサービスで発展をみせ、電子マネー大国と呼ばれる所以です。また「おサイフケータイ」は、「非接触型(FeliCa)」をスマートフォンに搭載したもので、そこに例えば交通系ICカードのSuica等クレジットカードの情報を読み込むことでスマートフォンを電子マネーやクレジットカードとして使える仕組みです。2004年にドコモが携帯電話に採用して始まり、2016年に米アップルの「iPhone7」に採用されて対応端末が一気に広がりました。
ポストペイ型は日本では「PiTaPa」(定期券・買い物の支払いに使えるチャージ不要の多機能IC決済サービス)や「iD」(スマートフォンやカードで支払うチャージ不要の決済サービス、プリペイドも可)などがあり、お客の利便性の高いサービスがあります。

また、店舗でのクレジットカード決済の敷居を下げるフィンテックサービスとして「スクエア(Square)」や「コイニー(Coiney)」などがあります。専用の端末機器が必要だった実店舗でのクレジットカード決済を、スマートフォンやタブレットで可能とし小規模小売店など事業者の利便性がアップするサービスも登場しており、日本でも普及しはじめています。

一方、中国ではQRコード採用のモバイル決済サービスがシェアを大きく伸ばしており、「アリペイ(支付宝)」や「ウィーチャットペイ(微信支付)」など「マイクロペイメント(インターネットを通じて、誰でも少額の代金を送金し、誰でも受け取れる仕組み)」を可能とする手段が、爆発的に広がっています。中国人旅行者は9割超がスマートフォン決済を利用しているとされ、日本でもその中国人客を取り込むために一部のコンビニやドン・キホーテなど「アリペイ」を導入する企業が相次いでいます。

その他日本企業の動きとしては、ソニーは日本で展開してきたスマホ決済技術FeliCaのさらなる普及を目指すとともに、FeliCaの採用を中韓のスマホメーカーにも働きかけ、2019年中にも訪日客が利用できる環境を整えたい方針です。LINEは2020年にもQRコード型でスマートフォン決済できる店を100万店に増やし、対話アプリ内のサービスとの相乗効果を狙っています。またその他にも米アマゾンは日本で2018年以降に店舗での買い物の代金をスマートフォンで払えるサービスを始める予定です。

以上のように、ITの進化によりコストダウンが可能となり、より利便性の高い新しいフィンテック決済サービスが次々に実現されています。

電子決済革命を支えるブロックチェーンのテクノロジー

ブロックチェーン(注2)やAI技術など新しいテクノロジーの進化によりフィンテックは次の時代に向かっています。中でも決済分野においてブロックチェーン技術を用いた仮想通貨ビットコインによる決済は利用率や普及率はまだ非常に低いものの、少しずつ注目度は大きくなっています。

そのメリットは何でしょうか。次の3点が挙げられます。

  1. 個人間で文字通り「直接」送金できること
  2. 手数料が無料か格安なこと(仲介する組織が存在しない)
  3. 煩わしい手続きや制限がないこと(銀行を経由した決済では無いので監視や制限が存在しない)

しかし、2018年1月26日におきた大手仮想通貨取引所のコインチェック(Coincheck)事件(システムハッキング(ブロックチェーン技術のトラブルではない))で顧客から預かっていた約580憶円相当の仮想通貨NEM(通貨単位はXEM/ゼム)すべてが流出を受けて、仮想通貨が安心して利用できる環境が整備されていないのが現状です。普及に向けての課題といえるでしょう。

(注2)売買取引や契約内容などの記録情報を利用者が分散共有するデータベースのこと。「データの改ざんが困難」「システムがダウンしにくい」「低コストでシステム構築が可能」といった特性がある。

キャッシュレス社会で遅れを取る電子マネー大国日本の今後の課題

最後に、冒頭で述べたように電子マネー大国日本でキャッシュレス化後進国となっている理由とその対策について考えてみたいと思います。

現在の日本の電子マネーが不便なこと

電子マネーが使える場所がまだ限定的です。また前述したように「Suica」「楽天Edy」「nanaco」など様々な電子マネーブランドが乱立しているため、一つのブランドの電子マネーが使える場所となるとさらに限定されています。
日本の電子マネーは、「マネー」の一面もあるとともに、「ポイントカード」の要素も強く持ち合わせています。自らの系列店に来させるための手段ですので、通用する範囲が限定されているのも当然ように思えます。またそのポイント付加の商慣習は次に述べる決済手数料に影響しているかもしれません。

電子マネーによる決済サービスを使用するための加盟店の決裁手数料が高いことが問題です。業種や与信状況によりますが、大体3から4%が多く、利益率の低い小売店や中小企業での導入のネックになっています。

以上に対しては、なかなか有効な打開策が見つけられないのが、現状のところですが、前述したLINEのQRコード型でのスマートフォン決済の取り組みや三菱UFJフィナンシャル・グループ等3メガ銀行がデジタル通貨発行の取り組みを始めていることなどは、キャッシュレス社会の実現向けて大きく前進する動きといえるでしょう。

電子決済のセキュリティへの信頼がまだ不十分なこと

モバイル決済など手軽な決済サービスについては、従来からマネー・ローンダリング等犯罪などに悪用される危険性が指摘されています。本人確認の仕組みをどのようにシステムに組み込むかがポイントです。モバイル端末が、本人確認性を帯びたもの(指紋・顔・静脈・虹彩などの生体認証識別)になる可能性があり、その場合、システム、機器ともにセキュリティの対策が問われ、セキュリティレベルの検討など、技術的、法律的に対応していく必要があります。

また、事業者課題としてインターネットやソフトウェアサービスを提供するGoogleなどの新規参入企業を金融機関と同等に扱えるのか、犯罪リスク、本人確認の仕組み、サイバー攻撃リスク等へのシステムやセキュリティ対策など、同じく利用者からの信用に耐えうる技術的・法律的な対応をいかに構築できるかという課題は重要です。

以上のように、電子決済におけるセキュリティ対策が事業者側に求められるなどと共に、スマートフォン利用者側にもセキュリティ意識を高める啓発もキャッシュレス社会の実現に欠かせないものといえます。

真の電子マネーを普及させ、キャッシュレス化を推進するためには、あくまでセキュリティに留意しつつ、利用者目線でのメリット「安く、早く、便利」をこれまで以上に提供するイノベーションサービスが関係各社に求められている、といえるでしょう。

本記事のライター
佐々木 敦也(ささき あつや)
(有)あおむしマネジメント(ファイナンス系、フィンテック系ビジネスに関するコンサルティング会社)代表。

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