協業事例インタビュー

株式会社みらい翻訳

富士通アクセラレータプログラムでの共創の取り組みを、座談会形式でご紹介します。今回は、AI技術を翻訳分野に応用した、非常に精度の高い機械翻訳サービスを提供・開発している「株式会社みらい翻訳」さんです。

今回は、AI技術を翻訳分野に応用した、非常に精度の高い機械翻訳サービスを提供・開発している「株式会社みらい翻訳」さんです。

みらい翻訳を立ち上げたきっかけ

株式会社みらい翻訳 代表取締役社長 栄藤 稔 氏

本日はよろしくお願いします。

一同

よろしくお願いします。

はじめに、みらい翻訳という会社を立ち上げようと考えたきっかけについて教えてください。

栄藤

私は機械による翻訳というもの自体を元々あまり信じていませんでした。しかし、私自身が長らくデータマイニングを手がけていたこと、翻訳エンジンを手がける現CTOの鳥居をはじめとした技術者たちとの出会いもあったことから、2014年くらいに、もしかしたら機械翻訳はモノになるかも、と思いはじめたのです。

そこで、起業しよう、と。

栄藤

そうです。当時所属していた会社ではやらずに、起業して自分でやっちゃおうと思いました。企業組織の中で何か新しいことを始めようとすると、調整が増えてしまい、スピード感が失われてしまう。自分たちのペースでやりたいと思ったんです。

みらい翻訳さんのホームページに公開されている機械翻訳サービス「Mirai Translator」を使ってみました。とても自然な翻訳結果が出てきますね。

栄藤

ありがとうございます。実は、翻訳エンジンを取り巻く状況が2016年くらいから一気に変わってしまい、改良を重ねた結果がいまの翻訳エンジンなのです。

他社の翻訳エンジンの精度が向上してしまった、と。

栄藤

そうです。一番大きな変化は、Googleがニューラルネットを用いた機械翻訳技術を翻訳エンジンに搭載したことです。この翻訳エンジンがとても良かった。会社を畳もうかと思いました(笑)。一方で、当時の当社の翻訳エンジンはTOEIC換算で650点程度でしたから、これでは世界で勝てない。だから、2017年中は営業活動を一切やめ、作っていたエンジンを徹底的に見直すことにし、とにかく精度向上のための開発に集中したのです。

翻訳エンジンが進化したのですね。

栄藤

はい。いまではTOEIC換算で900点以上の英作文能力を持つに至りました。NICT(情報通信研究機構)との共同研究により、日本国内ではいち早くニューラル機械翻訳エンジンを開発しました。さらに、重要なのはデータです。日常会話のデータ、インバウンドの顧客のやり取りのデータ、ビジネスで使われる専門分野のデータ。このような、検索エンジンでは持ち得ないデータを機械学習させることで、機械翻訳として実用レベルの精度を出すことができるようになったんです。

富士通との共創活動を開始したきっかけ

富士通株式会社 マーケティング戦略本部 戦略企画統括部 ビジネス開発部 松尾 圭祐

富士通とはどのように出会ったのでしょうか。

松尾

2015年のCEATECにみらい翻訳さんが出展されていて、私自身がみらい翻訳さんの技術的な可能性やビジョンに強い共感を覚えたことから、富士通側からみらい翻訳さんにアプローチしました。一緒にやりませんか、と。

栄藤

たしか、イベントに登壇したんだよね。わざわざジーンズに白シャツで行ったんだよな(笑)。

松尾

そうです(笑)。2016年4月でしたか、スタートアップ対象のピッチコンテストにご登壇いただきました。それくらいの時期から、みらい翻訳さんと富士通との協業検討が始まったんですよね。

期待と成果

[写真右] 株式会社みらい翻訳 セールス&マーケティング部 マネージャー 藤原 祥造 氏
[写真中央左]富士通株式会社 AIサービス事業本部 AIプラットフォームサービス事業部 マネージャー 平川 一成

共創活動が始まった当初、最も期待していたことは?

栄藤

機械翻訳をどう売っていくか。それを突き詰めて考えていくと、BtoBの領域で売りたい、となるわけです。でも、販売チャネルがない。そこで、何よりも、富士通さんが持っているBtoBでの販売チャネルに期待しました。富士通さんといえば、国内はもちろんグローバルレベルでもトップクラスのSIerですからね。

平川

富士通は、SIとプロダクト・ソリューションの企画・開発のどちらも手がけている企業です。そこで、みらい翻訳さんの高い機械翻訳の技術と、富士通のノウハウや技術を組み合わせたら、新しいソリューションができるんじゃないか、と。

栄藤

AIというモノは、これから、モジュールとしてどうプロダクトやソリューションの中に統合されていくか、というフェーズに入っています。どうやってシステムに翻訳エンジンを組み込んでいくべきなのか。富士通さんとの共創を通して初めて、こうした議論を社内で行うことができました。

富士通との共創活動が社内にもたらした良い効果について教えてください。

栄藤

社内のエンジニアたちの発想が変わりました。共創活動が始まる前は研究開発という要素が強かった。でも、富士通さんとの共創を通して、ビジネスに目が向くようになったと感じます。

逆に、富士通が関わることで起きた問題などがあれば教えてください。

栄藤

遅いと感じることが、あるよねぇ~(笑)。

平川・松尾

・・・すみません(笑)。

「大きな組織あるある」でしょうか?(笑)

平川

営業をはじめとしたソリューションやプロダクトを売る部門と、SIを手がける部門とで、どうしても感覚が違ってきます。私のチームでみらい翻訳さんの技術力を見させていただき、これはすごいぞ、と。でも、どうしても社内調整に時間が掛かってしまうんですね。

栄藤

結局、肌感覚としてビジネスが描けるかどうかだと思うんですけどね。

松尾

理詰めの数字より、感覚として売れるかどうか、なんですよね。翻訳サービスは積極的にプロモーションを展開しておりませんが、お客様から頻繁にお問い合わせをいただけるような状況なんです。だから現場レベルでは、売れるぞ、という自信があるんですよ。なので、栄藤さんには、富士通社内を説得するための仕掛けにもご協力をいただいたこともありました。

みらい翻訳さんと富士通との共創が描くビジョン

これからの展望は?

栄藤

グローバル企業では、社内文書を複数言語のバージョンを持つことが当たり前となっています。英語をマスター文書として、各国語バージョンがある、という。ところが、日本企業はグローバル進出していながら、ドキュメントは日本語しかなかったりする。ここを変えていきたいんです。文書管理の仕組みと翻訳エンジンを組み合わせ、企業内の各部署との連携をすることで、世界最強の翻訳システムを構築できる、と考えています。

平川

栄藤さんからは、当初からそのビジョンを仰っていましたよね。私たちも似たような未来図を描いていました。みらい翻訳さんが持っている技術を見て、自分が思い描いていた未来が実現できると強く感じたんです。だからこそ、どうしてもみらい翻訳さんと共創したかった。その熱意に応えてくれたこと、共創活動を開始してから2年という長い間ずっと富士通を信じて取り組み続けてくれていることに、本当に感謝しています。おかげさまで、強固な信頼関係を築くことができました。

栄藤

さっき、富士通さんの社内調整について、遅い!と言ってしまったけど(笑)。正直言って、たったの2年で、BtoB向けの翻訳ソリューションを販売するところまで辿り着けるとは思っていなかった。富士通さんの関係者たちを、社内で板挟みのような立場に追いやってしまうこともある。でも、いつも踏ん張ってくれて、富士通さんにはとても感謝していますよ。

一つのチームとなって、新しいモノを創り出す

企業間のパートナーシップというより、社という枠組みを超えた、「一つのチーム」という感じですね。

平川

同じ方向を向いているから、様々な課題を乗り越えていけると思っています。関わっている人たちが、本当に熱い思いを持っている。だから、なんとしてもこの翻訳ソリューションを世に送り出したいんです。

藤原

富士通さんは、みらい翻訳を、対等な立場として扱ってくれたんです。当社にも何度も何度も、足を運んでくれましたし。

栄藤

こういう場合、うちに来てください、って言われるのが普通だと思うんだけどね(笑)。だから、対等に扱ってくれたという面でも、感謝していますよ。こんなにも辛抱強く真剣に、当社と一緒にやってくれるとは思っていなかったですから。

最後に、これから富士通と共創したいというスタートアップ企業に向けて、成功させる秘訣を教えてください。

松尾

みらい翻訳さんは、初めから富士通の立場に立って、協業するにはどうすべきか、ということを考えて提案してくれたんです。「I」ではなく「We」で提案してくれた。それが、共創活動を深化させていけた、大きな成功要因と感じます。

栄藤

大企業のリソースを使ってやろうという邪な感覚ではなく、最後に実現したいことが何か、ということをイメージできないとダメだと思います。まずは、日本語と英語の機械翻訳で、世界一を目指したいよね。

ありがとうございました。

(執筆:株式会社カグラ 新村 繁行)

株式会社みらい翻訳

みらい翻訳は2014年10月設立。機械翻訳の最先端技術と最適な学習データを活用したカスタマイズ可能な翻訳ソリューションを提供。

代表取締役社長 栄藤 稔 氏

みらい翻訳代表取締役社長。大阪大学 先導的学際研究機構 教授や株式会社コトバデザイン代表取締役、科学技術振興機構CREST 人工知能領域 研究総括を兼任。

セールス&マーケティング部 マネージャー 藤原 祥造 氏

機械翻訳が実用的なソリューションとして広く活用されるために、セールス&マーケティングの立場からの施策を策定・遂行。本プロジェクトでは、富士通様と長期的なパートナーシップを築くための協議を含めたビジネス開発を担当。

〒150-0002 東京都渋谷区渋谷二丁目22番3号 渋谷東口ビル 2F
URL:https://miraitranslate.com/ 新しいウィンドウで表示

協業担当者

富士通株式会社 AIサービス事業本部 AIプラットフォームサービス事業部 マネージャー 平川 一成

ビジネスシーンで活用できる実用性の高いAI技術をAPIとして提供するサービス「Zinraiプラットフォームサービス」の開発部門。本プロジェクトでは、共創サービスの仕様策定、開発を担当。

富士通株式会社 マーケティング戦略本部 戦略企画統括部 ビジネス開発部(富士通アクセラレータプログラム事務局) 松尾 圭祐

富士通アクセラレータプログラム事務局として、スタートアップ企業と富士通事業部とのマッチング、および協業推進サポートを担当。本プロジェクトではアライアンス、全体のプロジェクトマネジメントを担当。

本件に関するお問い合わせ

富士通アクセラレーター事務局

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