パソコンに塗れる水性植物性塗料

ご利用にあたっての注意

この講座の内容は、2016年当時の情報です。予告なしに更新、あるいは掲載を終了することがあります。あらかじめご了承ください。

最終更新日 2016年2月22日

塗料について

塗料って何かな

塗料という言葉より、「ペンキ」と聞くと私たちの身近な物として感じられるかもしれません。塗料は「物に色を付ける液体」の一種です。塗料を使って対象物に色を付けるので、見た目をきれいにすることができます。それだけでなく、対象物にキズがついたり、腐食したりしないように守る役割もしています。

塗料の使い方は?

塗料は、薄め液と混ぜて、塗りやすくして使います。たとえば刷毛(はけ)で塗る場合には、液ダレしない程度に薄めます。スプレー缶を使って塗る場合には、さらっとした状態になるまで薄くして使います。

塗料って、どんなところで使われてるの?

私たちの身のまわりで、たくさん使われています。
たとえば、家の壁、車、テレビなど家電製品、携帯電話やスマートフォンなど、「どの色にしようかな?」と選べるものの多くは、塗料によっていろいろな色に塗られています。

塗料の種類

塗料は、薄め液の種類によって大きく2種類に分けられます。「油性塗料」「水性塗料」です。(油性塗料は、「溶剤系塗料」ともいいます。この講座では「油性塗料」とします)

油性塗料のご紹介

家の外壁などに使われています。
油性塗料の主成分は「色材」「樹脂」「溶剤」の3つです。

  • 色材:色を出す材料です。
  • 樹脂:色材を塗装物に密着させる役割をします。
  • 溶剤:樹脂を溶かす材料です。
    (樹脂が溶けた溶剤の中に、色材が分散しています。)

水性塗料のご紹介

主に家の内壁などに使われています。
主成分は、「色材」「樹脂」「助剤」「水」の4つです。

  • 色材:油性塗料同様で色を出す材料です。
  • 樹脂:密着させる役割は油性塗料と同じですが、樹脂の粒子が水の中に溶けずに分散しています。
  • 助剤:色材や樹脂の密着を強化します。
  • :塗りやすくするための薄める役割をします。
    (液体(水+助剤)に、樹脂、色材が分散しています。)

今回、富士通研究所が開発したのは、従来の水性塗料に比べて更に環境にやさしい植物由来樹脂を使用した「ICT機器に使える水性植物性塗料」です。

開発した水性植物性塗料

パソコンなどのICT機器に使える環境にやさしい水性植物性塗料です。

水性植物性塗料のアピールポイント

  • 塗料の中に含まれる樹脂を「石油系」から「植物性ポリ乳酸」に変えました(石油使用量削減)
  • 油性塗料に比べ、水性塗料は製造工程で大気中に放出してしまう揮発性有機化合物(以下VOC)を80%削減できます
    (VOCは光化学スモックを引き起こす原因の一つとされています)
  • 非危険物扱いが可能です
    (危険物倉庫での保管が不要です。また、塗料缶をプラスチックパッケージにすることもできます)

植物性ポリ乳酸を使うメリットと課題

<メリット>

ポリ乳酸は、さつまいもやトウモロコシなどのでんぷんを発酵させ、乳酸をつくり、結合させて作る植物由来の材料です。そのため、3つのメリットがあります。

  • 石油の使用量を減らせます
  • 存在する植物資源から作られるので、二酸化炭素の排出量が増えません
  • 天然素材なので、体にやさしいです

<課題>

  • 加水分解しやすい材料です。また、水が付着すると白く変化してしまいます
  • 塗料をぬる材料(例えばプラスチック)との密着性が低く、はがれやすくなってしまいます

課題を解決した技術

加水分解をおさえる技術

ポリ乳酸は、1つだと「乳酸」で、乳酸がたくさん集まると「ポリ乳酸」になります。そのポリ乳酸に水分が加わると、元の乳酸に戻ろうとして、分解し始めます(=加水分解)。そこで、ポリ乳酸に硬化剤(イソシアネート基をもつ化合物)を混ぜると、ポリ乳酸と硬化剤がくっつき、水分が入り込めなくなるので、加水分解が起こりにくくなります。

密着性を向上させる技術

水性植物性塗料に加水分解をおさえるために「硬化剤」を入れますが、「ポリ乳酸」と「硬化剤」がくっつくスピードよりも、塗料の中の水分が乾いてしまうスピードが早いと、密着性が悪く(はがれやすい)、加水分解をおさえる力が十分にない塗料になってしまいます。そこで、乾燥を遅らせる効果をもつ助剤を加え、さらに低温で乾燥させます。

研究員への質問コーナー

  • 「水性植物性塗料」の開発ポイントは何ですか?

  • ポイントは、「加水分解をさせる技術」と「密着性を向上させる技術」の2つの技術を同時におこなうことができることです。硬化剤と助剤を入れて、低温で時間調整して乾燥させますが、その温度や乾燥スピードなど、ノウハウがたっぷり入っています!

  • どうして植物性ポリ乳酸を使うのですか?

  • 私達は、長い間「植物性ポリ乳酸」を使った研究をしています。そのため、ポリ乳酸の扱い方を良く知っています。その他、値段だったり、体にやさしいことだったり、メリットがいっぱいあったので、ポリ乳酸を使っています!

生産工場でのICT機器の塗装

1時間あたり何百台も塗装し、乾燥させています

塗料は油性・水性に関係なく、乾燥させることで塗装物に密着します。ICT機器生産工場では、熱処理を加えて短時間で乾燥させています。

熱処理温度は「80℃以下」です

80℃以下にする理由は?

  • ポリ乳酸と硬化剤が十分にくっつくために、「低温+時間調整」をしています。
    「加水分解をおさえる技術」と「密着性を向上させる技術」の両方を同時に可能にするためです。
  • ICT機器の材料であるプラスチックが、80℃を超えると変形してしまうからです。

*室内の家具などに水性塗料を使った場合、熱処理しないよね。それはなぜ?
それは時間をかけて自然乾燥させてることで、水分を飛ばしているからです。それに室内の家具に熱処理するのはとても大変ですよね。そのため、時間をかけて乾燥させることを前提としているので、熱処理温度について気にする必要がありません。

富士通製品に採用するまでの試験

富士通製品に採用するには、低温短時間乾燥、密着性の他に、硬度、耐薬品性、耐汗性、耐光性などの高い塗装性能を持つ必要があります。塗装性能を試すための、色々な試験に合格しなければなりません。その試験の一部をご紹介します。

密着性

1センチメートル角の四角に、1ミリずつカッターで切りつけます。その後、テープを上から張り付けた後、はがしてみて、塗料がくっついてこなければOKです。

硬度

塗料の上から鉛筆で線を書き、傷がつかなければOKです。

耐薬品性

塗料の上から油性ペンを消す液体を浸した布で拭きます。その際、色が落ちていなければOKです。

耐汗性

人間の手の汗によって塗料がはがれたら困るので、塗料を塗った板を人工汗に数日間浸します。その後、塗料の密着性など変化を評価します。

他にも耐光性、温湿度試験などの多くのチェックがあります。

小話

開発した水性植物性塗料をパソコンに使う場合、色々な試験に合格しなければならないのは、6ページでご紹介しました。
その試験で使う「人工汗」についての小話です。

私たち人間は、汗をかきます。その汗に反応して、塗料が溶けてしまうといけません。そこで人工汗を使って試験をします。
私たちの汗は、みんな同じ成分かというと、それは違います。食べている物や住んでいる場所の気候、その人のストレスなどで汗の成分は変わってくるそうです。そこで試験では、いくつかの人工汗で試しています。
その人工汗の試験は、人工汗に試験物を浸して数日おいておきます。その後、塗料がはがれたりしないか等を調べます
ただ・・・
人工汗で塗料がはがれるかを調べる試験に「臭い」は必要ありませんが、人工汗もやっぱり臭うのです。試験をしている人工汗の臭いをかがせてもらいました。(物好きでスミマセンby筆者)
酸っぱい臭いのもの、ちょっと人が汗ばんだぐらいの時の臭いのもの等、臭いは色々でした。試験に臭いは必要ないけれど、「やっぱり人工汗にも臭いがあるんだ」と普段その臭いも含めて色々な試験に挑んでいる研究員の苦労を知った筆者たちでした。

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