「支える」技術

カーボンナノチューブ

カーボンナノチューブってなんだろう

炭素の棒

カーボンナノチューブ(Carbon Nanotube)とは、「カーボン=炭素」「ナノ=ナノメートル(nm)」「チューブ=円筒」と3つの言葉を合わせたものです。その名のとおり、炭素原子が網目のように結びついて筒状になったモノで、直径はナノメートル単位ととても細く、人の髪の毛の5万分の1の太さです。
(参考) 1nm = 10億分の1m

他にも炭素だけでできているのもので身近なものに、鉛筆の芯(黒鉛)やダイヤモンドが挙げられます。もとは同じ炭素でも結晶構造が違うと、軟らかい黒鉛になったり、硬いダイヤモンドになるのでとても不思議です。
黒鉛はシート状に結合した「グラファイト」構造をしています。シート同士の結合が弱いため軟らかくてすぐにはがれ落ちます。ダイヤモンドは炭素をピラミッド状(正四面体状)に結合し、上下左右の結束を強くする「ダイヤモンド」構造をしています。それぞれを例えると、黒鉛は手のひらを合わせたイメージで、ダイヤモンドはしっかり手を組んだイメージです。

単層と多層

カーボンナノチューブは、単層と多層に分けられます。単層は円筒型、多層は単層が入れ子のように何層も入っています。

ナノってどういう意味ナノ

カーボンナノチューブの「ナノ」とはどういう意味なのでしょうか。「ナノ」はギリシャ語で「小人」という意味があります。冒頭の「ナノ=ナノメートル(nm)」は単位の一つで「ナノメートル」は10億分の1メートルのことです。かつては画像として直接見ることが難しかった分子や原子のサイズと同じレベルです。代表的な例としてあらゆる生物が持つDNA分子の直径は2ナノメートル程度です。

どうやって作るんだろう

作り方(配線ビアプロセスの場合)

  • 金属電極の上に絶縁膜を堆積し、有機系材料のレジストを塗布します。
    露光後、溶液を使って、カーボンナノチューブを成長させたい部分の、絶縁膜とレジストを取り除きます。

  • 触媒金属(Ni:ニッケルやCo:コバルト)にレーザーを当てて蒸発させ、蒸着します。その後、レジストを除去すると、カーボンナノチューブを成長させたい部分だけに触媒金属が着いた状態になります。

  • カーボンが含まれるガス(アセチレン)をCVD装置(説明1)に入れて温度を上げると、炭素のみが触媒金属の上に成長し、カーボンナノチューブになります。

  • 絶縁膜の表面の高さのところでカーボンナノチューブをカットします。(研磨剤で削り取るようなイメージの、Chemical Mechanical Polisingという方法を使います。)

(説明1)CVD装置とは・・・ガスを入れると、加熱された基板上でガスが化学変化をおこして堆積し、薄膜を形成する装置です。 いろいろな種類がありますが、ここで用いるCVD装置は、フィラメント(発熱するワイヤー)によって基板上の温度を上げる、というものです。

特長(良いところ)

細くても強い

導電材料としてよく使われている銅を細くしていくと、銅の強度が弱くなり、必要な電流量に対して耐久力も弱くなり、そのため信頼性が低くなってしまいます。それに比べて、ナノサイズ(10億分の1m)と細い多層カーボンナノチューブは、ダイヤモンドと同等の強さを持ち、電流量に対しては、銅の1000倍まで耐えられます。

高電流密度(1㎠面積に対して流れる電流の量)
10の6乗A/㎠まで可能
多層カーボンナノチューブ10の9乗A/㎠まで可能
高機械的強度(引っ張りの強さ)
多層カーボンナノチューブダイヤモンドと同等

電子が高速に移動することができる

細くした銅の中を電子が通り抜ける時、散乱し電気抵抗が高くなり、早く移動することができません。しかし、カーボンナノチューブは、電子が散乱せずに高速に通りぬけることができ、抵抗が少ないと言われています。

利用しやすい形に作れる

将来のコンピュータに使うLSIは微細化され、配線幅が細くなります。現在、配線には銅を使用しています。銅配線は、基板に溝を作り、そこへ銅を流し入れて作ります。この作り方の場合、配線幅が細くなると細い溝を作ることが困難になります。将来の配線材料としてカーボンナノチューブを使用すると、直径がナノサイズと微細なので、必要な所に希望する細い配線を作ることができます。


たくさんの熱を運べる

半導体の中でチップの部分に熱が発生します。その熱を基板に逃がすのに使われます。多層カーボンナノチューブは、銅の10倍の熱を運ぶことができると言われています。

熱伝導率
300W/(m・K)(ワットパーメートルケルビン)(室温)
400W/(m・K)
多層カーボンナノチューブ計算値でおよそ3000W/(m・K)(富士通は1400W/(m・K)を使っています)

応用例-1(LSIの配線用)

コンピュータは小型化ならびに高性能化が求められ、コンピュータ内部にあるLSIの微細化が進んでいます。 その微細化を進める上で大事なのが配線材料です。現在使用している銅配線を多層カーボンナノチューブ配線に置き換えることで、コンピュータをはじめとするデジタル製品を支えるシステムLSIを進歩させていきたいと考えています。

LSIのどこにカーボンナノチューブが使われるんだろう

LSIは下から基板、トランジスタ層、配線層から成り立っています。多層カーボンナノチューブをまずは配線ビア(配線層の上下縦方向の信号をやり取りするために必要な柱の部分)に使いたいと思っています。

いつ頃からカーボンナノチューブが使われるんだろう

現在(2006年)、工場で出荷中のLSIの配線幅(配線と配線までの距離)は約100nmです。その配線幅は、今後、微細化が進むにつれて狭くなります。2013年には配線幅が約50nm以下になると予想され、カーボンナノチューブが有効になります。

なぜ、将来はカーボンナノチューブじゃないとだめなんだろう

  • LSIの微細化が進むと、配線に流れる電流の密度が銅の許容範囲を上回ります。つまり断線する可能性がでてきます。そこで、銅の1000倍の電流に耐えられる多層カーボンナノチューブが有効と考えています。
  • LSIが高性能になればなるほど発熱します。多層カーボンナノチューブは銅の10倍の熱伝導率を持つため、発熱量を抑えることができます。

配線ビアの成長

多層カーボンナノチューブは、シリコン基板上にただ成長させるのではなく、銅配線以上の電流を流すために一本一本の直径を制御しつつ密度も高める事が重要です。

応用例-2(携帯電話の基地局用)

カーボンナノチューブの特性である「高い熱伝導性(銅の10倍)」を利用して、携帯電話の基地局で使う半導体チップ(増幅器)の熱を逃がす役割に使おうとしています。

実用化のための課題

例えば、無線通信システムの一つである携帯電話は利用できるサービスが増えて、今はテレビ(動画)も見られます。 そうなると、携帯電話で扱う情報量はとても多くなり、それぞれの携帯電話を結ぶ基地局で使われてい る増幅器(微弱な声の信号を大きく増幅させる部品)も高周波、高出力を扱うようになります。すると、 増幅器のトランジスタの発熱量が高く、すぐに熱くなってしまうので、発生した熱を基板へ逃がして、 増幅器が壊れないようにする必要があります。

従来方法と多層カーボンナノチューブを使った新しい方法との違い

従来方法はフェイスアップ構造を使用

トランジスタ電極と基板電極を金属ワイヤーでつなぐ構造です。金属ワイヤーの長さが長いと抵抗が高くなり、高周波(3ギガヘルツ)を扱うようになった時、増幅率が低下します。つまりシステム全体の効率低下につながります。

新しい方法はフリップチップ構造と多層カーボンナノチューブを使用

トランジスタ電極と基板電極を向かい合わせにして、金属ワイヤーを使わずに金属バンプを使って接続します。そのバンプ部分に多層カーボンナノチューブを使います。(バンプとは、電極同士を熱的、電気的につなぐ柱のようなものです)

新しい方法の特性

3ギガヘルツ以上の高周波では、従来方法より新しい方法の方が1.6倍も増幅率が高いことがわかりました。また、放熱性もトランジスタの発熱する部分に多層カーボンナノチューブで直接つなぐため、熱をダイレク トに逃がすことができますので、良好です。作る過程においても、多層カーボンナノチューブはとても小さいので、微細なバンプでも自由自在に作ることができます。

今後の研究(実用化のための課題とその他の応用)

実用化のための課題

(LSI配線ビアへの応用)

多層カーボンナノチューブの成長温度を下げる

現在の技術では、カーボンナノチューブの成長温度は500度以上です。この温度では、耐熱温度が低い絶縁膜などが熱で変形してしまいます。そこで、絶縁膜の耐熱温度400度以下の環境でも多層カーボンナノチューブが成長できるようにする必要があります。

多層カーボンナノチューブを量産できるようにする

直径300mmの大きいウェハにカーボンナノチューブを均一に成長できるようにし、また成長時間を短縮することで、量産につなげたいと思っています。

多層カーボンナノチューブの成長方向のコントロール

通常、カーボンナノチューブは、縦方向へ成長します。横方向へ成長させることで、横配線等へ取り入れることが可能になります。

(LSI配線ビアと金属バンプへの応用)

ビアの多層カーボンナノチューブの密度が足りない

金属触媒の密度を高くしたり、蒸着させたすべての触媒から多層カーボンナノチューブが綺麗に育てば、沢山の本数が揃い、多層カーボンナノチューブの密度を高くすることができるようになります。

その他の応用

トランジスタへの応用

単層カーボンナノチューブは、トランジスタの中のソース電極からドレイン電極へ電子を送る役割をします。
単層カーボンナノチューブにすると抵抗が少なくなり、電子を速く送れ、現在のトランジスタよりも処理が速くなる可能性があります。

小話

君も迷路に挑戦してみよう

この迷路は多層カーボンナノチューブで作ったものです。これを作ったI主任研究員の熱意には脱帽してしまいますが、ここにも笑えるエピソードがあります。
そもそもI主任研究員がこの迷路を作ろうと思ったのは、多層カーボンナノチューブの微細加工技術をアピールする必要があったためです。関西魂を持つI主任研究員は「ただ作ったんじゃあ面白ない」と思い、微細加工をアピールしつつ、さらに自分自身も楽しめて、見た人も楽しめる迷路を設計しました。もくもくと仕事をしているI主任研究員の横を通りかかった上司からの一言。

上司 「お前、なに遊んどんじゃあ」
I主任研究員 「仕事です」
上司 「迷路描いとるだけやないか」
I主任研究員 「これも仕事です」

なかなか最初は理解してもらえないものです。でも、見てのとおりできあがりは上々で、みなさんもI主任研究員の力作のこの迷路に是非挑戦してみてください。 (答えを知りたい人は、pdf答え (41 KB)[A4・1ページ]をクリックしてください)


その他の「支える」技術

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