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経済同友会 富士通総研共同シンポジウム

「エネルギー自給率50%イニシアチブ」

共同シンポジウムまでの経緯

さる2月24日、経団連会館において、経済同友会・富士通総研共同シンポジウム「エネルギー自給率50%イニシアチブ」が開催された。当日は、マスコミ関係者が殺到するという事態となったが、極めて多くの参加者を得て、盛況なシンポジウムとなった。

そもそもエネルギー自給率を50%に高めようという発想は、当日の講演者、湯原哲夫東京大学工学部教授や筆者等とのディスカッションの中で、福井俊彦前理事長から提示されたものである。では、現在の20%という一次エネルギー自給率を、果たして30年間で50%まで引き上げることが可能なのか。

この命題に対して約半年をかけた。イノベーションを踏まえた供給面からの実現可能性、どのように産業構造は変革できるのか、原子力25%には能力増強が必要となるが国民的な関心となっている安全性を含めてどのように考えるべきなのか、また再生可能エネルギー25%の中で最も期待されるバイオマス(生物資源量)エネルギーの可能性等も検証した。

こうした作業は、経済同友会の環境委員会の問題意識と重なり、経済同友会と富士通総研との共催の運びとなった。直前に公表された経済同友会の政策提言『森林再生とバイオマスエネルギー利用促進のための21世紀グリーンプラン』との格好なリンケージとなった。

湯原講演の要旨

1973年第1次オイルショック以降のわが国エネルギー政策の基本は、一次エネルギーの70%を占めていた石油の割合を減らして、原子力と天然ガスの割合を増やす多様化と省エネルギーにあった。この政策は成功であった。

今世紀に入り次々と発表された米国、EUなど主要国の新しいエネルギー政策の狙いは、自給率の向上に尽きる。米国のエネルギー自給率は73%、EUは53%、日本は20%、また原油の中東依存度は米国25%、EU51%、日本87%だ。日本のエネルギー脆弱性がここにある。

円安と原油高は日本の国際収支を圧迫する。2001年エネルギー輸入総額は8.5兆円で、総輸入総額の20%を占め、貿易収支は6.6兆円の黒字である。現在のように1バレル35ドルを超え、また円安傾向が続き購買力平価に近づくと、この要因だけで貿易赤字が懸念される状況に陥る。

エネルギーの脆弱性を克服するためには、化石燃料の供給元の分散化に加え、一層の高効率利用技術の開発が重要となる。同時に化石燃料依存率を減らして、エネルギー自給率を引上げることが重要である。

こうした観点から、2030年頃に一次エネルギーの50%を自給するためのビジョン、戦略的目標として「エネルギー自給率50%イニシアチブ」を策定した。輸入化石燃料50%、原子力25%、再生可能エネルギー25%である。これは予想ではなく、そのイニシアチブの下に、戦略的意志をもって、政策、技術開発、産業構造の変革が、中長期のスケジュールに沿って実現されることを意図するものである。

田邉講演の要旨

自給率引上げの下で、我々は生活水準及び産業競争力を維持・向上しつつ、CO2排出量の大幅削減という3条件をクリアーできるだろうか。各種技術やビジネスモデル革新によるエネルギー需要削減及び供給増大で十分可能となる。

第1に、生活水準は維持・向上できる。運輸部門では、ハイブリッド低燃費車や燃料電池車の普及で、利便性は落とさずにエネルギー消費が削減でき、エネルギー消費比率は低下する(2000年4分の1→2030年5分の1)。その分、民生部門のエネルギー消費は、豊かな家庭生活、快適で生産性の高いオフィス環境作りが進みむしろ増加するが、必要なエネルギー消費の増加は十分支えられ、エネルギー消費比率は上昇する(同4分の1→5分の2)。

第2には、日本の産業競争力の維持・向上も可能である。低コストかつ相対的に資源豊富な原子力・石炭のウエイト引上げと熱電効率の大幅アップで、大規模集中発電のコストが下がる。またエネルギー多消費産業を中心に、熱供給用「高性能工業炉」等による省エネ、あるいは省プロセス、エネルギー高効率利用に向けたシステム化やエネルギーコンビナート化が進む。この面でも、エネルギーコストは下がり競争力強化の一方、産業部門のエネルギー消費比率は低下する(同2分の1→5分の2)。

この点、EUのような先進国のエネルギー消費構造は、産業・運輸・民生部門は3分の1ずつというのが一般的とされるが、日本の場合、低燃費車普及を主因に、運輸部門のエネルギー消費が少ない社会が実現することになる。

第3には、化石エネルギー消費を削減する結果、CO2排出量も大幅削減となる。2030年のCO2排出量は1.9~2.2億炭素トンと2000年実績(3.17億炭素トン)比▲30~40%まで減少する。因みに、国際エネルギー機関(IEA)では、2000年から2030年の間、世界全体で70%増、OECD諸国で32%増、中国で2.2倍増と予測している。日本のみ3~4割のCO2削減となる。これ以上の国際貢献はあるまい。

エネルギー供給面で重要なのが、エネルギー産業化による農林水産業の競争力回復政策である。日本の降雨量の豊かな国土ゆえに大きいバイオマス潜在量を積極的に活用する政策だ。近代化経営によって、草木などエネルギー作物を積極的に栽培するバイオマスエネルギー・プランテーションが重要となる。

再生可能エネルギー25%に向けた30年間での設備投資総額は約18兆円、したがって年間当り6,000億円の投資額となる。バイオマスエネルギーに関しては、設備費に加え燃料費が必要となるが、燃料費はバイオマスエネルギーを活用するシステム構築に不可欠の投資コストと認識できる。

バイオマス採集1トン当りの投資コスト1万円として、1次エネルギーの1割に相当する1.3億トンのバイオマス採取には年間1.3兆円の資金が必要となる。この金額は、原油価格1バレル35ドル、為替レート150円の場合の4,000万トン石油輸入額に相当する。年収400万円の作業者として30~40万人規模の新規雇用創出、森林や耕地の蘇生と「保水力」回復効果なども期待できる。設備費と合わせ、再生可能エネルギー25%に向けた必要年間投資額は約2兆円となる。

では年間約2兆円の投資を誰が負担すればいいのか。選択肢としては、税制や従来の予算配分の見直し、あるいは金融面での政策がある。基本的には税制よりも「排出量取引」といった市場原理を働かせる方向での設計が重要であるが、環境税導入という選択を行う場合には、再生可能エネルギー投資促進への「目的税」化が望ましい。

田下講演の要旨

原子力エネルギーに対する国民の信頼性に関する議論が高まる中で、一次エネルギーの25%を原子力から供給できるのか。実現可能なケースを示す。現在稼動中の53基(発電設備容量約4,600万kw)、建設中及び開発計画中(合計16基)に加えて古くなったプラントの建替え(19基)、更には稼働率向上と出力増強を柱とする。目標とする一次エネルギーの25%、125~140Mtoeはクリアー可能である。水素利用の燃料電池車の開発実用化が進めば、環境対策・コスト面で、原子力エネルギーによる水素生産が不可欠となってくる。

海外では、原子力廃止の動きの一方で、ブッシュ政権下での米国やフィンランドのような原子力推進の動きも出てきている。ウラン資源も化石燃料同様有限なことを考えると、プルトニウムを燃料とし、燃やした以上の新しいプルトニウムを作る(増殖)タイプの発電用原子炉の開発実用化も必要となる。その原型炉が「もんじゅ」だ。高速増殖炉の実用化開発は、わが国のエネルギー自給率の持続的維持・向上に貢献する。

これらにより、わが国のエネルギー産業のハードのみならずプラント運営のノウハウ、ルール(規格)などの総合的技術力も発展し、エネルギー産業の活性化、競争力強化が期待される。

松村講演の要旨

欧米においては、食料の過剰生産回避のための農業政策としてバイオマス燃料を開発している。日本のこれからのバイオマス資源活用の方向は、1.未利用地にエネルギー、工業原料としての作物栽培、2.陸上植物のみならず海洋植物(藻類を含む)の利用、3.遺伝子組み換え植物による新規資源作物の創生とバイオマス生産量の増大、4.化石燃料による「オイル・リファイナリー」に替えヒマワリなどによる「バイオマス・リファイナリー」の構築である。

ヒマワリの「バイオマス・リファイナリー」では、種子から油をとる、搾油残滓を飼料化する。葉や茎から堆肥、パルプ材、またセルロース化学でプラスティクを作る。蜂蜜から食用・加工用のみならず、生理活性物質を抽出する、蜜蝋も作る、といった具合である。

因みに、ヒマワリの炭酸ガス固定能力(CO2換算トン)は48トン/haのため、京都議定書合意達成に必要なCO2排出削減量の半分(8,500万トン)をヒマワリ栽培で賄うには177万haの耕作面積が必要となる。わが国耕作面積のピーク時と現在の差は400万haもあることを考えれば、十分に未耕作地は存在する。8,500万トン吸収によるヒマワリ油生産量は265万klで、国内の年間軽油消費量(4,600万kl)の5.8%を賄える。またヒマワリの茎による紙パルプ生産は2トン/haゆえ、8,500万CO2トン吸収による紙パルプ生産量は354万トンと、わが国の製紙用輸入木材2,460万m3(1,228万トン)の30%に相当する。ヒマワリ栽培促進のための政策としては、国内でのCO2排出量取引の制度化が望まれる。

パネルディスカッションの論点等

パネルディスカッションは、講演者以外のパネラーからのショートスピーチで始まった。松井氏から原子力の位置付けについて、「2050年原子力ビジョン」シナリオに沿った説明があり、特に先端科学技術としての原子力の側面が強調された。自ら日本代表を務める次世代原子炉の「第四世代国際フォーラム」の活動状況、高レベル放射性廃棄物処分の見積もり、人体健康面への影響データ面からみた原子力の安全性等も提示された。

また坂井氏からは、日本のバイオマスエネルギー潜在量は、生物系廃棄物の年間発生量が2.8~3.7億トン、また林野面積2,510万haから毎年少なくとも2.5億トンのバイオマスが生長しているため、わが国一次エネルギーの1~2割は確保できる可能性が示された。その場合、小規模設備でも高効率のエネルギー変換可能なシステムが必要条件となるが、この条件を満たす高カロリーガス化、ガス化発電、ガス化メタノール技術の開発状況の報告もあった。既にこの1月から長崎市内で試験運転中のこれらプラントの稼動模様もビジュアルに示された。

佐々木氏からは、経済同友会の環境常任委員会・温暖化対策WGの活動状況に関する報告があった。具体的には、1.エネルギーを「買う」意識から「生む」意識への転換、2.“動脈型”産業の熱プロセス革新と“静脈型”産業の重点育成、3.“集中・依存型”経済から“分散・自律型”経済へ、4.長期展望に基づく“環境教育”による新たな経済・社会の実現、5.イニシアチブ推進のための司令塔機能などの論点が指摘された。また総合司会者でもある手納氏からは、森林再生の観点を中心に同友会提言の狙い等が紹介された。

加えて、原子力の安全性に関するより踏み込んだ議論、海洋国家日本に有利な昆布プランテーションなどにもテーマは広がり、広く「持続可能な(サステイナブル)日本の経済社会構築につながる可能性があること」への認識が共有されることになった。

(シンポジウム報告:主席研究員 田邉敏憲)

2003年2月24日

 

詳細

プログラム

13時~13時10分
開会挨拶
経済同友会 代表幹事
(富士ゼロックス 取締役会長)
小林 陽太郎
講演
13時10分~13時35分
自給率拡大に向けた技術展望とエネルギー需給の枠組み
東京大学
工学部教授
湯原 哲夫
13時35分~14時 自給率50%に向けた産業構造改革と政策措置 富士通総研
主席研究員
田邉 敏憲
14時~14時25分 原子力を一次エネルギーの25%にする可能性と課題 新型炉技術開発
主監
田下 正宣
14時25分~14時50分 バイオマス・プランテーションがもたらす大きな可能性 筑波大学
応用生物化学系教授
松村 正利
14時50分~15時10分 休憩
パネルディスカッション 「エネルギー自給率50%イニシアチブ」
15時10分~16時40分
パネリスト
東京大学 工学部教授
湯原 哲夫
エネルギー総合工学研究所 部長
松井 一秋
長崎総合科学大学 教授
坂井 正康
富士通総研 主席研究員
田邉 敏憲
経済同友会 環境委員会委員長代理
(日本電気 取締役会長)
佐々木 元
経済同友会 環境委員会副委員長
(デルタポイントインターナショナル
代表取締役)
手納 美枝
コーディネーター 経済同友会 環境委員会委員長
(富士通総研 理事長)
福井 俊彦
16時40分~16時55分 質疑応答
16時55分~17時 閉会挨拶 経済同友会 環境委員会委員長
(富士通総研 理事長)
福井 俊彦