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AI大国に躍り出る中国 ―AIエコシステムの形成に向けた動向

発行日 2018年4月27日
上級研究員 趙 瑋琳

【要旨】

  • 中国が「イノベーション国家」の実現とデジタル経済の推進の一つの取り組みとして、AIを積極的に推し進めようとしており、中央政府から地方政府まで多くの促進政策を打ち出している。
  • AI分野ではノウハウ、資金力および豊富な人材を擁する米国が先行しているが、中国は政府からの手厚いサポートを以って、資金の投入や、人材の育成、企業支援などを急いでおり、AIの発展を支えるエコシステムの形成に注力している。
  • 2017年に中国のAIベンチャーへの投資額が初めて米国を抜いて世界トップになり、AI関連産業への取り組みは大手ICT企業のみならず、ベンチャー活動も盛んに行われている。
  • 中国は官民挙げて、AI分野の研究強化とビジネス化でAI大国になろうとしており、米国の高い技術力の優位を逆転しようとする意図が明々白々である。多額の投資はAIブームの追い風になりながら、着実な研究・開発、人材の育成につながることが期待されている。

中国政府のAI戦略

  • 米銀大手バンク・オブ・アメリカによれば、2020年までに世界の人工知能(AI)市場規模は700億ドル(約7兆3500億円)に達すると予測されている(注1)。近年、AIはどこまで進化するか、経済や産業の競争力、雇用にどのような影響をもたらすのかなど、さまざまな議論が巻き起こっている。
  • 中国はイノベーション国家(注2)の実現を目指し、デジタル経済(注3)を積極的に強化している。AI関連産業の発展をその重要な取り組みとして、中央・地方政府の促進政策をはじめ、大手ICT(情報通信技術)企業の研究活動支援やベンチャーの育成にも力を入れている。
  • 2017年7月に中国国務院(日本の内閣府に相当)が初の国家レベルのAI促進計画にあたる「次世代AI発展計画」を打ち出し、2030年までに中国のAI技術を世界最先端のレベルに引き上げ、AI関連産業を10兆元超(約160兆円)の市場規模に拡大させる目標を掲げた。「次世代AI発展計画」を長期目標として、その達成のために、同年12月に中国工業情報化省は「次世代AI産業発展を促進する三年行動計画(2018-2020年)」を発表し、AIを応用した新製品やサービスの開発、AIと実体経済との融合の強化、人材育成の加速、ベンチャー支援など、2020年までの詳細なアクションプランを示した。
  • 一方、地方政府の場合、とりわけイノベーション活動が比較的活発な都市が先頭に立って、中央政府の推進策に呼応する形で、地方版の発展計画を打ち出している。北京市は2017年12月に「科学技術のイノベーションの加速とAI産業の育成に関する指導意見」を公布した。AI企業が一番多い北京市のアドバンテージを活かしながら、AI発展のリード役を目指すという。上海も同じ頃に「次世代AI発展を促進する実施意見」を発表した。
  • 近年、電子商取引大手のアリババの本社所在地として、またデジタルイノベーションの先進地域として注目を集めている杭州市(浙江省の省都)は、2017年7月にAIタウン(「中国(杭州)人工知能小鎮」)の建設を始めた。AI研究に専念する「之江実験室」(浙江省政府、浙江大学、アリババの三者共同出資)をはじめ、AI研究のプラットフォームや、AI企業、人材の誘致などを行い、AI産業の集積地になろうとしている。
  • 人口が多い中国では、いうまでもなく雇用が常に経済運営の優先課題になっている。AIの普及による雇用への影響に対する懸念は依然として根強い。そのため、「次世代AI発展計画」にはAIの普及による失業対策や再就職支援などが盛り込まれている。一方、近年海外から華人AI人材の還流が起きているが、中国のAI人材は5万人超とされており、米国の85万超の規模に劣る(注4)。AI分野の優秀な人材を育成するために、2018年4月に中国教育省は「大学におけるAIイノベーション行動計画」を打ち出した。大学が人材育成とAI研究の重要な役割を担い、AI研究科の設立や大学におけるAI研究の技術移転などを推進すると明言した。

大手ICT企業の取り組み

  • 2017年11月に中国科学技術省は、次世代AI発展計画推進オフィスの設立を発表したと同時に、国家レベルの次世代AI開放・革新のプラットフォームを認定した(表1)。大手ICT企業のこれまでの技術蓄積を認め、AIの政策推進と発展のプラットフォームとして中核的な役割を果たさせる思惑が見られる。実際、ICT大手のバイドゥや、アリババ、テンセントなどはAIへの布石を打っている。

  • 表1:中国政府が認定した4つのAIプラットフォーム

    企業 プラットフォーム 主力分野
    バイドゥ​ 自動運転国家AI開放・革新プラットフォーム 自動運転​​
    アリババ ​都市ブレーン国家AI開放・革新プラットフォーム スマートシティ​
    テンセント 医療イメージング国家AI開放・革新プラットフォーム 医療応用​
    ​アイフライテック​ ​スマート音声国家AI開放・革新プラットフォーラム ​音声認識

    (出所:筆者作成)

  • バイドゥは検索エンジンの大手で一人勝ちになっているものの、時価総額も年間の売上高もテンセントとアリババとの差が広がっている。AIへの投資・研究強化で逆転を目指すバイドゥは、「All in AI」のスローガンの下、2014年に世界の最先端テクノロジーの集積地である米シリコンバレーにAI研究所を設置した。海外研究チームの規模拡大とともに、世界から優秀な人材を誘い、AIのビジネス化、とりわけ自動運転と無人運転に取り組んでいる。
  • 中国人の暮らしに密着するあらゆるサービスを提供している電子商取引の大手アリババは、近年金融サービスを新たな成長の柱にしながら、「AI for Industries」の戦略で、アリクラウドを中心とする企業向けのAIサービスを展開している。また基礎研究の強化と技術力の向上のために、2017年10月にグローバル研究院である「アリババ達摩院」を設立し、3年間でAIをはじめとする基礎研究に1,000億元の資金投入を行う予定である。
  • SNS(ソーシャルネットワーキングサービス)の強みを持つテンセントは、対話型ロボットの開発をはじめ、米国シアトルにもAI研究所を設置し、中国国内外でAIインキュベーションやAI企業への投資などを積極的に行っている。AIのビジネス化が有力視とされ、投資金額が一番多い(注5)分野は、自動車・交通、企業サービス、医療健康、金融である。テンセントは、激化するAI競争を勝ち抜くために、電気自動車ベンチャー企業である「蔚来汽車」をはじめ、この4つの分野の主力企業に投資している。
  • BAT(バイドゥ、アリババ、テンセントの頭文字)ほど一般的に知られていないが、中国のトップ大学である中国科学技術大学から生まれたアイフライテックは、中国では最も注目されているAI企業である。音声認識を得意分野とし、中国国内音声認識市場の7割以上のシェアを占めている。アイフライテックの成功で、本社所在地の合肥市が「スマート音声とAI産業基地」をつくり、音声認識の企業が集まるようになっている。アイフライテックは教育や、医療、自動車などにビジネスを広げ、さらに海外市場への進出も図っている。

活発なベンチャー活動

  • 中国では、AIは最先端技術の分野としてだけでなく、活発なベンチャー活動の分野としても、注目を集めている。中国国内外トップ大学出身の中国人AI人材による起業やベンチャー企業の参入が相次ぎ、ベンチャー企業への投資額が急増している。米国CBInsight社の調査によると(注6)、2017年に中国のAIベンチャーへの投資額は約73億ドルで、初めて米国を抜いて世界トップになった。
  • 2018年4月にAI分野のユニコーン(未上場で評価額が10億ドル以上のベンチャー)企業である商湯科技(Sensetime)が、6億ドルの資金をCラウンド調達したことが話題を呼んだ。商湯科技はコンピュータ・ビジョン分野の先駆的な企業で、AI分野の優秀な人材を多く擁しているため、新鋭AI会社として猛進し、海外にも進出している(注7)。
  • 商湯科技をはじめ、顔認証分野ではAIベンチャー企業の成長が顕著である(表2)。その中で、2014年に世界の顔認証評価システムである「LFW(Labeled Faces in the Wild)」において、昿視テクノロジーが開発した顔認識技術「Face++」が米フェイスブックをも圧倒し、97.27%という高い精度で世界トップに立った(注8)。

  • 表2:顔認証分野の新鋭企業

    会社(設立)​ サービスとビジネス化分野 評価額と直近の
    資金調達状況
    商湯テクノロジー
    (Sensetime)
    (2014年、北京)
    (日本拠点有)​​
    ・コンピュータ・ビジョン、ディープラーニング、画像認識
    ・セキュリティー、医療、自動運転
    約30億ドル;
    Cラウンド
    6億ドル(アリババなどから)​​
    ​昿視テクノロジー
    (Megvii)
    (2011年、北京) ​​
    ・​ディープラーニング、顔認証Face++など
    ・セキュリティー、金融、スマホ
    約20億ドル;
    C+ラウンド
    4.6億ドル(アントフィナンシャル、フォックスコンなどから)​​
    雲从テクノロジー
    (CloudWalk)
    (2015年、重慶) ​​
    ・顔認証、セキュリティー関連
    ・セキュリティー、金融、交通
    未公開;
    Bラウンド:25億元(広州市政府、順為資本などから)
    依図テクノロジー
    (Yitu)
    (2012年、上海)
    ・スマートセキュリティーハードウェア、顔認証
    ・セキュリティー、金融、医療
    約25億ドル;
    Cラウンド
    3.8億元(紅杉キャピタルなど)​​

    (出所:筆者作成)

  • 中国ではAIが未来をけん引する重要なテクノロジーであるだけでなく、スマート社会の実現に不可欠な要素であるとの認識が高まっている。そして個人データの収集と使用に関する規制が比較的緩い中国では、AIの学習に必要な大量のデータが豊富で、顔認証の精度向上と実用につながったと考えられる。
  • また、中国科学院出身の研究者が2016年に立ち上げた寒武紀(Cambricon)は、AIに関する基礎研究に専念し、AIチップとプロセッサーを開発している。2017年9月にレノボやアリババなど大手企業から1億ドル超のAラウンド出資を受け、早くも基礎研究領域のユニコーン企業になった。AIの応用分野のみならず、基礎研究に攻勢をかけている企業の動きが浮き彫りになっている。
  • こうして中国は政策推進から、人材育成、多額の投資、民間企業の支援、活発なベンチャー活動まで、全方面からAIの発展を支えるエコシステムの形成に力を入れている。一方、ここ十数年間で緩いデータ保護規制のまま、ICTがどんどん進展を遂げ、それによって、豊富な個人データが蓄積された。これが中国のAI大国の実現を可能にする一番の要因であるかもしれない。

注釈

  1. https://olui2.fs.ml.com/publish/content/application/pdf/GWMOL/Theme-Watch-2017-Year-Ahead.pdf
  2. 日刊工業新聞、「イノベーション国家」を目指す中国、https://www.nikkan.co.jp/articles/view/00454988/0
  3. SankeiBiz、中国が期待する「デジタル経済」とは-巨大なネット人口後ろ盾に政策推進、 http://www.sankeibiz.jp/macro/news/180328/mcb1803280500008-n1.htm
  4. LinkedInによる世界のAI人材レポート、「Global AI Talent Report 2017」(中国語)
    https://business.linkedin.com/content/dam/me/business/zh-cn/talent-solutions/Event/july/lts-ai-report/%E9%A2%86%E8%8B%B1%E3%80%8A%E5%85%A8%E7%90%83AI%E9%A2%86%E5%9F%9F%E4%BA%BA%E6%89%8D%E6%8A%A5%E5%91%8A%E3%80%8B.pdf
  5. 「2017年中国AI投資市場研究報告」(中国語)、億欧シンクタンク、www.iyiou.com
  6. CB Insights、「Top AI Trends To Watch In 2018」、https://www.cbinsights.com/
  7. 日経ビジネスオンライ、商湯科技とホンダと、自動運転の技術向上に5年間の共同研究開発を締結、http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/16/020600202/020600003/?P=3
  8. 日刊工業新聞、電子決済での本人確認にも-急速に普及する顔認識技術、https://www.nikkan.co.jp/articles/view/00424323