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デンマークのデジタルヘルスをめぐる動向(2) 遠隔医療・遠隔リハビリの展開-小規模実証実験から全国導入への道のり

デンマークのデジタルヘルスをめぐる動向(2)

遠隔医療・遠隔リハビリの展開-小規模実証実験から全国導入への道のり

発行日:2018年4月11日

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要旨

  • (1) でもみたように、デンマークでは、国際的にみてデジタルヘルスの取り組みが先進的であるといわれる。最近では慢性閉塞性肺疾患患者を対象にした遠隔医療・遠隔リハビリのサービスが公的医療に取り入れられることが決定し、全国展開が始まろうとしている。
  • この決定に裏付けを与えたのはデンマーク北部での実証実験プロジェクトである。2017年11月および2018年3月に、それぞれ異なる立場でプロジェクトに参加したデンマークの研究者が富士通総研を訪問し、研究成果を共有した。その1つはFRI経済研セミナー「デンマークにおけるデジタル・イノベーションの今-その国家戦略と医療・介護分野での実践事例」での講演である。
  • 本稿では、このプロジェクトを具体的な事例として、セミナーで取り上げた内容、他の研究による知見やデンマーク国内の議論を参照しながら、取り組みからみえる課題とそれに対する工夫を整理する。

遠隔医療から遠隔リハビリへの流れ

  • デンマークの医療サービスにおいて問題視されてきたことの1つとして、患者の再入院が繰り返される現状がある(注1)。それに対し、個人個人で異なる状態にきめ細やかな対応ができていないとの反省がある。従来提供されてきた一律の仕組みやサービスでは、患者自身が持続的に自身の状態を把握するためのサポートが十分に行われてこなかったために一度回復しても以前のライフスタイルに逆戻りし、再入院に至ってしまうことが多くある。
  • デンマーク国立オルボー大学医学部教授のDinesen氏は、医療とリハビリ、その両方のプロセスにおいて個人をしっかりサポートできるかが再入院を防ぐうえで非常に重要であると指摘する。この考えの下、氏はICTを活用し個人が自宅で自らも参画できる遠隔医療とリハビリの普及に向けたプロジェクトに携わっている。遠隔医療(Tele-medicineもしくはtele-health)は治療、処置や予防医療などの医療行為の電子化を指すのに対し、遠隔リハビリ(tele-rehabilitation)は長期的な目線で治療後のリハビリを支えるものを指す。
  • 心疾患や整形外科など異なるプロジェクトが並行して実施されているなか、COPD(chronic obstructive pulmonary disease; 慢性閉塞性肺疾患)患者を対象にした遠隔医療・リハビリプロジェクトは全国展開されることが決定した。このプロジェクトは、2008年にデンマークの北部に位置する北ユトランド(the region of Northern Jutland)でランダムに選ばれた111名を対象にした実証実験から始まった(図表1)。COPDはデンマークにおいて40歳以上の医療費のうち10%を占めており、コストのかかる疾患であるという認識がある。

図表1:TELEKATとTeleCare Nordのプロジェクト概要


Pilot project: TELEKAT(注2 Large-scale program:
TeleCare North
ヘルスケアのアクター 急性期病院2
自治体2
かかりつけ医4
急性期病院4
自治体11
かかりつけ医225
患者数 111 1,225
予算(注3 160万ドル
(約1億7,000万円)
1,000万ドル
(約10億6,000万円)
実施期間 2008 - 2010年 2012 - 2015年

(出所:Nielsen氏資料より富士通総研作成)

  • プロジェクト進行の全体的なデザインとしてトップダウン型ではなく利用者主導(User driven)のアプローチをとり、患者はもちろんのこと、病院、かかりつけ医、行政、研究機関など主要なステークホルダーが話し合うワークショップの場を持ち、課題を対等に議論するところから始まっている。

図表2:ワークショップの様子

図表2 ワークショップの様子

(出所:Dinesen氏資料より)

  • その結果を踏まえ、COPDに効果的とされる呼吸リハビリ(Pulmonary rehabilitation)を持続してもらうため、Telekitと呼ばれるタブレット上のシステムが開発された(注4)。そこでは血圧、脈拍、酸素飽和度、体重等のデータをそれぞれの測定器からワイヤレスに伝達することができる(注5)。
  • この実証実験はTeleCare Nordというより規模の大きいプロジェクトへ発展し、11の地方自治体、4つの病院と224のかかりつけ医、そして1,225名の患者が参加した(図表1)。この結果をもとに、上述のとおり公的医療サービスの枠組みのなかで正式に遠隔医療・リハビリが全国展開されることが決定された。

図表3:TeleKitイメージ図

図表3 TeleKitイメージ図

(出所:Nielsen氏資料より)

小規模からの「up-scaling(アップスケーリング)」―課題と今後

  • デンマーク国立オルボー大学政治学部教授のNielsen氏を中心とする研究チームは一連のプロジェクトを長期的に追い、社会科学の視点からケース・スタディを行ってきた。その問題関心のひとつは、小規模の実証実験プロジェクトがいかにして「up-scaling(アップスケーリング)」を果たし、全国展開に至ったのかを探ることにある。
  • デンマーク(を含む北欧諸国)では、広くウェルフェア・テクノロジー(福祉テクノロジー)という用語が使用されている。この概念は「市民の日常生活を支援し、コストを削減し、スタッフの労働環境を改善するテクノロジー」として、導入の目的と目標が明確に定義されている。医療や介護よりもやや広い視野からテクノロジーを捉えており、「福祉」という用語が包含するところが、デンマークで語られる「ウェルフェア」と日本の「福祉」では異なっていることが窺える。このようなウェルフェア・テクノロジーの開発や運用に対する投資は急速に増加しており、上記の遠隔医療・リハビリプロジェクトもそのひとつといえる。
  • Nielsen氏はデンマークでこういった動きが先進的に起こっているという国際的な認識が広がりつつあるとしながらも、その実態として多くの小規模実証実験プロジェクトは継続することなく消失していく現状があることも指摘している。小規模では興味深い結果が出ても複数のアクターによる長期的な協働を持続することは難しく、加えて資金繰りの面で規模を拡大するというフェーズへ進めないプロジェクトが数多くある。
  • TELEKATプロジェクトに関しては、初めに期待されていた経済効果のすべては達成できなかったが、結果として重症患者の再入院は遠隔リハビリのない時と比べ54%も減少するなどの効果がみられた(注6)。それに加えて、プロジェクトに参加した患者の約9割が遠隔システムを使いやすいと評価し、72%は安心感が増した、62%はテクノロジーの活用によって病気をコントロールできると感じるようになったとしている(注7)。
  • このような直接の結果に加え、全国展開に至ったその要因として、研究チームが現場の動きのなかで見出したのは、(1)ネットワークの再動員、(2)利害の調整、(3) 「現場レベルの理論化」に結び付けること、の3点である(図表4)。
  • 「ネットワークの再動員」とは、小規模プロジェクトの結果をもって新たな協働のネットワークを構築する時間と労力をかけることの重要性を示している。水面下で様々な交渉を経て、TELEKATは大学の研究者によりリードされていたが、プロジェクトの拡大とともに、医療のオペレーターである行政側のマネジメント層によるリーダーシップへと徐々に移行し、そのなかで、「実験的イノベーション」として捉えられていた活動は次第に「ヘルスケアのサービス」を共創しているという認識へと変化していった。
  • 「利害の調整」について、プロジェクト進行中に、医療側と行政側で意見が割れ緊張関係が生まれる場面が度々起こっている。前者は遠隔医療を「治療ツール」と見る一方で、行政側は「リハビリ」にフォーカスしすぎており、双方の利害がなかなか一致しなかった。その際に有効であったのは柔軟なビジョンを改めて作り直し、参加者が達成可能なプランを実行することである。
  • 最後に、研究の要素が強かった当初のプロジェクトからサービスとして実践することを強く念頭に置いたものへ移行するにあたり、現場で医療に従事する専門職の協力も必要不可欠となってくる。テクノロジーという新たなツールの登場により、タスクの分割と共有や、ツールを使いこなす能力によって職員間での信頼関係が揺らぐなどの問題が出て来た。現場でのこういった緊張関係を解消するには、ビジョンや目的といった理論的な思考に実践を繋ぎ、行為の意味を一人ひとりが納得しながら進めていく必要がある。

図表4:大規模プロジェクトへの転換に重要な要素

(1) ネットワークの再動員 ・新しいアクターグループをつくる
・「舞台裏」のマネジメント
(2) 利害の調整 ・実現可能な妥協に向けて交渉
・柔軟なビジョンを創造
(3) 「現場レベルの理論化」に結び付けること
    (国家戦略とネットワーク)
・レベル間の相互依存性に対処
・現場レベルの論争をナビゲート

(出所:Nielsen氏資料より富士通総研作成)

  • COPDのプロジェクトを追っていくと、デンマークの遠隔医療実践にも紆余曲折があり、簡単には進んでこなかったことが分かる。アップスケーリングを進めるには、まず、それが単にプロジェクトの範囲や規模を拡大するだけではないことを認識する必要がある。求められるのは、規模を大きくしていくための正当性をしっかりと築くこと、そして組織連携における政治的なダイナミクスを調整することを含めたマネジメントの性質の転換である。これはデンマークに限らず、日本を含めた様々な取り組みに有効な視点を与えている。

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富士通総研では、2018年3月7日(水曜日)に、FRI経済研セミナー「デンマークにおけるデジタル・イノベーションの今-その国家戦略と医療・介護分野での実践事例」を開催いたしました。以下に、各登壇者の講演資料およびワークショップの要約を掲載しておりますので、併せてご覧下さい。

FRI経済研セミナー
デンマークにおけるデジタル・イノベーションの今-その国家戦略と医療・介護分野での実践事例

注釈

  • (注1)
    心臓疾患に関して言えば、50%以上の退院患者が6か月以内に再入院に至るという状況がある。
  • (注2)
    プロジェクト名は「TELEKAT」と言い、そこで使用された装置やシステムは「Telekit」と名付けられている
  • (注3)
    1USD = 106JPYで換算。
  • (注4)
    Lilholt, P. H., Hasum, L. K. E., and Hejlesen, K. (2015) Exploring User Experience of a Telehealth
    System for the Danish TeleCare North Trial. In R. Cornet et al. (Eds.) Digital Healthcare Empowering Europeans. 301-305. European Federation for Medical Informatics
  • (注5)
    脈拍や血圧、体重の測定には日本企業の測定器が導入された(A& D medical)。
  • (注6)
    2017年11月のDinesen氏による講演より。
  • (注7)
    Nielsen氏の研究結果より。
    研究チームが学会で発表した論文は以下のとおり。
    Christensen, J. K. B., Nielsen, J. A., Gustafsson, J., & Seemann, J. (2016). Scaling up Telemedicine: Political Behavior in Innovation, Translation and Theorization. Paper presented at Academy of Management, Los Angeles, 2016.
森田 麻記子

本記事の執筆者

上級研究員

森田 麻記子

 

2012年~2015年 デンマーク、オールボー大学、比較福祉研究所(Centre for Comparative Welfare Studies)に4年間在籍し、2016年 富士通総研入社。 専門領域は社会政策学、高齢者福祉、ライフコース研究。

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