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「双11」の大規模な取引を支える技術進歩

発行日 2017年12月5日
主席研究員 金 堅敏

【要旨】

  • 中国ネット通販イベントである「双11」(独身の日)は、取引額が膨大になっている一方、過当競争で生じるデータの水増し、過剰包装や使い捨てによる環境問題等の歪みも指摘された。ただ、このイベントに関わった関係者は、生産者、卸売・小売業者、消費者などを含めると、約6億人に達すると推定され、一大社会協奏イベントにおける組織力や技術力も注目される。
  • 例えば、「双11」期間中(約1週間)で配送に必要な小包は15億個にも達し、購入者に滞りなく届けるには、倉庫や配送を含む物流システムの効率化が求められる。IoT、AI技術の活用、自走式ロボットの開発・応用で物流システムはスマート化に向かっている。
  • 特に、「双11」イベントの主役であるアリババは、世界最高のオンライン決済ツール(決済ピーク25.6万回/秒)等の強靭なネットインフラを提供するとともに、フロントにおいてもAIやロボットを大いに開発・活用していた。「双11」で証明された強靭でスマートなネットシステムは、アリババがDT企業に向かっていることを物語っている。

6億人の社会システム大協奏となった「双11」

  • 9年目になった中国のネットショッピング・イベントである「双11」(11月11日に因んだネーミング)は、主にネットショッピングの常連客であった独身者を対象とするネットセールキャンペーンであり、かつ数字「1111」は独身という意味もあるので「独身の日」とも言われた。ネットショッピング・イベントと並行して大型コンサートや娯楽番組が行われることも多く、参加者は老若男女を問わず増え続け、最近では独身者に限らず国民的な一大イベントとなっている。
  • 中国では、消費主導による経済成長の政策への転換、有力なネット企業の推進、販売アイテムの拡大等で、ネット消費の習慣はすっかり定着した。流行に群れやすい国民性もあり、中国のネットショッピング市場は世界に例を見ないスピードで巨大化し、販売額では世界の約40%を占めるに至っている。因みに、今年の「双11」は、アリババ1社だけで全世界から14万のブランドで1,500万種の商品が取引対象となり、取引高は約250億ドル(2.8兆円)に達した。
  • ただ、量的拡大を追求し続けてきた中国の「双11」には、明らかに歪みも生じている。消費の先取りによる需給関係の過度な変動、過当競争で生じるデータの水増し、過剰包装や使い捨てによる環境問題、短期間で大量に閉鎖されるリアル店舗、といった問題が現地メディアで報道されている。
  • 他方、海外のメディアは、中国の「双11」について、もっぱら当日の巨額な取引額に目を向けて報道している。しかし、この巨大なイベントを支える組織力や技術力にも注目するべきであろう。実際、このイベントに直接・間接的に関わった関係者は、取引商品の製造業・農産物生産者、卸売・小売業、物流・配送業、消費者を含めると、約6億人に上ったと推定される。

  • 「双11」のアリババB2C/C2C取引額の推移

    「双11」のアリババB2C/C2C取引額の推移

    (出所:アリババ発表)

社会システムの最適化を図る革新の機会となった「双11」

  • つまり、「双11」は、社会システムやネットシステムの運営に例を見ないチャレンジをもたらしているが、IoT、AIなどの技術を活かしたシステムの革新機運にも繋がっている。このような巨大な社会システムの運営ノウハウは、10億人単位の春節での高速鉄道での移動や「紅包」(ご祝儀、お年玉等の少額取引)のネットでの電子決済にも活かされよう。
  • ネット通販システムの中で、物流システムのスマート化は、オンライン決済とともに急進歩を遂げているシステムの1つである。中国の国家郵政局は、「双11」期間中(11月11日~16日)に全国で取り扱われる速達小包数は15億個に達すると見込んでいる。実際、同期間中にアリババの取引額1,682億元に対応して生じた速達個数は8.12億個に達した。このような速達量を短期間で配送するためには、物流システムの革新が欠かせない。かつての「双11」では、物流システムは大きな障害となっていた。しかし、アリババや京東などの大手ECベンダーや物流企業が、大規模な設備やITシステムに投資し、ビッグデータ技術やAI技術を活用することで、物流問題はかなり解決された。
  • 例えば、IoT、AI技術を活かした自走式ロボットによる仕分けシステムの導入が注目されている。海外では、アマゾンに買収された「Kiva」システムが注目されているが、「Kiva」に負けないほど進んだスマート自走ロボットが中国のベンチャー企業Geek+によって開発され、アリババの物流センターにも数多く採用されている。因みに、Geek+のロボットは、すでに某日本EC企業に採用され、日本への上陸を果たした。また、中国のベンチャー企業A.I.C Systemsも別タイプの自走式ロボットを開発し、中国の大手EC企業の物流拠点で活用されている。
  • このように、スマート化された物流システムは、オンライン決済システムとともに中国のネット通販取引を支える重要なインフラとなっている。

  • 「双11」のアリババの取り扱う小包数(オーダー数)の推移

    「双11」のアリババの取り扱う小包数(オーダー数)の推移

    (出所:アリババ発表)

アリババがDT企業へと変身する実践の場となった「双11」

  • 「双11」の主役であるアリババは、取引状況をライブでメイン会場のスクリーンに映すこと等を通じてイベントのハイテク化を見せた。特に、2017年の「双11」でアリババのシステムの取引ピークは32.5万回/秒、決済ピークは25.6万回/秒、データベースの処理ピークは4,200万回/秒を記録し、自動で識別・防御したネット攻撃は15.03億回(4,364回のDDoS攻撃を含む)等、高度なITシステムの運用実績を収めた。
  • 確かに、例えば、アリババのネット決済ツールであるアリペイが持ちこたえた決済ピーク25.6万回/秒は、最高6万回/秒と言われているVISAカードやMasterカードの決済能力を超えている。これまで「双11」の期間中にアリババのITネットワークシステムがダウンしたことはなく、インフラの強靭さが証明されたと評価されよう。
  • 実際、アリババは、データ量の急増(特に「双11」での取引)を鑑み、2010年ごろからIOE(IBM、Oracle、EMC)製品に基づくアーキテクチャーからオープンソースへと、新しいアーキテクチャーに開発移行を決断し、廉価のPCサーバやストレージを大量に使える分散式へとシステムを変化させた。自社データベース(Ocean Base)によるクラウドシステムを開発し、2012年から逐次IOE製品を撤去した後、完全に自社システムを構築した。その後、ネットワーク故障の自動検出・自動隔離・自動修復(Self-driving Net Works)で技術力を高めており、データベースもネットワーク化(X-Cluster)で集積させている。データセンターではスマートロボットを導入し、巡回するようになっている。巨大化する取引を支えるネットインフラのスマート化が進んでいる。
  • フロント業務に関しては、AI技術を活かして642億枚の画面を自動生成し、スマートロボットによる4.1億枚のネットチラシのデザインもできたという。また、問い合わせやコンタクトセンター業務の95%はスマートロボットによって行われた等、AI技術の活用も広がった。
  • そのほか、ディープラーニング技術を活かした画像認識/音声認識等も大いに取り入れた。実際、アリババのロボットによるコンタクトセンター業務は、第三者(消費者向けネットショップ)にサービスとして提供され、新たなB2Bサービスビジネスとして立ち上がった。
  • アリババの馬雲会長は、2014年に「IT時代からDT(Data Technology)時代への移行が始まり、アリババはビッグデータとクラウドコンピューティングを活用してDT企業を目指す」と宣言した。「双11」はまさにアリババがDT企業へと変身する実践の場ともなっており、DT企業へと進化するアリババの姿はすでに見えてきている。