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米国におけるパリ協定離脱への反動

発行日 2017年8月9日
上級研究員 加藤 望

【要旨】

  • 米国のパリ協定離脱発表後、気候変動対策を重視する企業や自治体からは強い反発が相次いだ。パリ協定への「トランプショック」を経て、これらのプレーヤーが離脱後の戦略を立てる段階に移りつつある。
  • トランプ政権は、引き続き気候変動対策がもたらす負の影響を示そうとしているが、それに反する結果や報告が相次いでいる。政権の依頼を受けて行われたエネルギー省の調査でも、再エネが系統の信頼性を損なうという政権の懸念は否定されている。
  • 気候変動対策に対する中央政府の後ろ盾がなくなった米国の企業は、技術・製品・サービスの競争力向上や自治体との連携強化を追求していくと考えられる。パリ協定離脱への反動により、米国はむしろ競争力を伸ばす可能性もある。

パリ協定離脱への反発

  • 2017年6月1日、トランプ大統領がパリ協定離脱を発表した。パリ協定への参加によって、米国の経済に大きな悪影響が及ぶというのがその理由である。米国第一主義を掲げて国際社会の協調を揺るがす「トランプショック」が、気候変動対策にも及んだことに戸惑いが広がった。
  • しかし、欧州諸国、中国、インドといった主要排出国は、いち早く「米国が離脱しても、変わらずパリ協定を実施する」という前向きな姿勢を示した。気候変動対策の国際枠組におけるリーダー的な存在である欧州に加え、中印もパリ協定支持を表明したことは、米国の離脱が世界の気候変動対策を後退させないことを印象付けた。日本も、先進国によるパリ協定の着実な実施が重要であり、米国の脱退は残念だとの声明を発表している。
  • 反発の色が濃かったのは米国内のプレーヤーである。米国企業や自治体などが相次いで発表した声明には、「失望」に加え、「(政府決定に)抵抗する(カリフォルニア州)」、「重大な過ち(コロラド州)」、「地球にとって間違った判断(アップル社)」などの強い表現が含まれている(下表参照)。既に離脱発表から2ヶ月が経ち、国としてのコミットメントが無い状況下で、企業や自治体が独自に対策を進めるための戦略を立てる段階にあると考えられる。

  • 表:パリ協定離脱に対する米国の自治体および企業の反応の例

  • ​名称 出所​ 内容(要約)​
    カリフォルニア州 ジェリー・ブラウン 知事​ トランプ氏は絶対に道を誤った。パリ協定により米国の経済は拡大する。彼は科学を誤認している。カリフォルニアはこの常軌を逸した行動指針を支持しない。
    コロラド州 ジョン・ヒッケンルーパー 知事 パリ協定から脱退するのは重大な間違いである。パリ協定を放棄することは、パラシュートを開かなければならない時に、パラシュートを破るのと同じである。
    アップル​ ティム・クック CEO​ パリ協定からの撤退は、我々の惑星にとって間違った決断である。アップルは気候変動問題に取り組むことを約束しており、それは決して揺らぐことはない。​
    JPモルガン・チェース ジェームズ・ダイモン CEO(CNBCへのeメール)​ 私は、この問題について政権に全く反対である。しかし、我々は選挙で選ばれた人々を、建設的に働き、人々の生活を改善し、環境を保護する政策を提唱するようにする責任がある。​
    ゼネラル・エレクトリック ジェフ・イメルト CEO​ 今日のパリ協定からの脱退の決定に失望している。気候変動は現実のものであり、産業界は政府に依存することなく主導していくべき。​
  • 出所:地球環境戦略研究機関(IGES)「米国のパリ協定脱退決定に対する世界の反応」(2017年7月4日公開)から抜粋

政権の思惑とは異なる事実

  • 一方の政権側は、引き続き気候変動対策が米国に負の影響をもたらすことを示そうとしている。米国エネルギー省は今年4月、エネルギー長官リック・ペリー氏の指示により、風力や太陽光発電がグリッド(電力系統、送電網)の信頼性に及ぼす影響に関する報告書の作成を開始した。
  • 報告書作成の目的は、オバマ政権下で行われた再エネ導入の拡大が、ベースロード電源設備(石炭と原子力)の操業停止につながり、グリッドの信頼性を損なっているかどうかを明らかにすることである。よって再エネ事業者をはじめとするステークホルダーは、この報告書の内容が、風力および太陽光発電設備のさらなる導入を阻む施策につながることを懸念していた。
  • しかし、7月14日付ブルームバーグ社等による報道によれば、リークされた報告書ドラフトでは、「ベースロード電源設備の操業停止の要因として、再エネによる影響は限定的であり、天然ガスの価格低下と長期にわたる電力需要低下の影響が大きい」と結論付けられていることが報じられた。
  • その後、この文言が報告書から削除されたとの報道もあり、最終版がどのようにまとめ上げられるかは不明である(2017年8月1日現在)。しかし、ドラフトのリーク報道により、政権の依頼を受けたエネルギー省でも、調査の結果、米国の電力インフラが既に再エネの大量導入に対応していると判断する状況であることが明らかになった。

米国企業の躍進の可能性

  • このように、「気候変動対策が米国経済に悪影響を及ぼす」という政権の考えには、現実とのずれが生じ始めている。それでも、トランプ政権下では気候変動対策関連の政府支援が大幅に減らされていくだろう。研究開発資金の削減など、長期的に米国の競争力への影響が懸念されることもある。
  • 政府の後ろ盾を失った米国企業は、国レベルでは政策誘導による関連市場の拡大は期待できなくなる。よって、気候変動対策の技術・製品・サー ビスがより多くの利益をもたらすよう追求し、ビジネスとしての拡大を目指すと考えられる。さらに、企業と州政府等の自治体が連携を強める可能性も高い。
  • 前述の、再エネ受け入れに適した電力インフラへの変化のように、企業や自治体が独自に排出削減を進めるのに適した前提条件は既に創り出されつつある。パリ協定離脱への反動によって、米国企業が気候変動対策分野での競争力強化に取り組むようになれば、急速な技術やサービスの普及を生み出すかもしれない。
  • パリ協定離脱により、米国が気候変動分野でのリーダーシップを失うとする見方もあるが、むしろ競争力を伸ばす可能性もある。日本政府は、離脱後も米国と協力していく方法を探究する旨も表明している。政府間では米国の前向きな対応を引き出すことは困難であろうが、企業や自治体レベルでの協力が実現すれば、日本でも個別取組による影響力の発揮が期待できる。