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米国の小売が盛んに取組む店舗のデジタル化の狙いとは

発行日 2017年6月29日
シニアリサーチアナリスト 柴田 香代子

【要旨】

  • 近年、IoT、AI、VR等の新しいデジタル技術が本格的に普及し始めている。米国の小売は、これらのデジタル技術を店舗の業務に適用する、店舗のデジタル化に盛んに取組んでいる。
  • デジタル技術を適用した業務は、試着や商品提案、問合せ・店舗案内や、レジ、陳列業務などで、対象となる業務プロセスは今までのシステム化から広がっている。更に、目的も自動化や情報活用にカスタマーエクスペリエンス(CX)向上が加わるという違いがある。
  • 小売が店舗のデジタル化に取組む背景には、IoT、AI、VRの技術が進化して低コストで導入しやすくなったことと、EC利用が拡大し続け店舗の対策が必要になっていることが挙げられる。このため、今までのシステム化を拡大する形でデジタル技術を適用し、CX向上で店舗の価値を高めようと狙っていると考えられる。この取り組みは、店舗展開をしている他業態でも適用可能であり、今後広がっていくことになるだろう。

(1) 米国の小売が盛んに取組む店舗のデジタル化

  • 近年、IoT(Internet of Things モノのインターネット)、AI(Artificial Intelligence 人工知能)、VR(Virtual Reality 仮想現実)等の新しいデジタル技術が本格的に普及し始めている。米国の店舗展開する小売では、これらのデジタル技術を店舗の業務に適用する、店舗のデジタル化(注1)に盛んに取組んでいる。
  • そこで、小売最大手のWalmartや今年から本格的に実店舗の出店を進めているAmazon.comなど、米国における5つの事例を分析し、店舗のデジタル化の狙いを考察する。

(2) 店舗のデジタル化事例

  • まず、IoTの適用事例として、Polo Ralph LaurenとHome Depotの事例を紹介する。Polo Ralph Laurenでは、2015年、店舗内の試着室に、IoTを適用したタッチパネル式の鏡を設置し、商品提案と試着の業務をデジタル化した。顧客が、試着室に商品を持ち込むと、この鏡が商品を自動で検知し、他のサイズや色などの商品情報を示したり、持ち込んだ商品から顧客が好みそうな商品を提案することができる。また、試着時には、鏡を操作して着用時の場に似た照明に変更したり、追加の試着がある場合、商品の展示・保管場所の情報が店員の端末に通知され、すぐに届けられるようになっている。(図1)

  • 図1 Polo Ralph Laurenの商品提案と試着業務のデジタル化事例

    図1 Polo Ralph Laurenの商品提案と試着業務のデジタル化事例
  • Home Depotでは、モバイル向けに、リアルタイム棚在庫管理システムと連動した自社専用アプリを顧客に提供し、商品探しから店舗案内までをデジタル化している。このアプリでは、顧客が店舗に入ると、GPS情報を基に、自動的にアプリがin Storeモードに切り替わり、探している商品を検索し、店舗のどの棚に置いてあり、在庫数がいくつかもリアルタイムで表示されるようになっている。(図2)

  • 図2 Home Depotの問合せ・店舗案内業務のデジタル化事例

    図2 Home Depotの問合せ・店舗案内業務のデジタル化事例
  • 次に、IoTとAIを適用している事例として、レジ業務をデジタル化したAmazon.comの事例を紹介する。Amazon.comでは、2017年初頭に米国で試験的に、食料品を扱うレジの無い小規模な実店舗Amazon Goを開設した。顧客は、スマートフォンを店舗入り口のゲートにかざし、店内に入り、商品を取って出て行くだけで、決済も自動で行われるようになっている。(図3)店内にはカメラやマイク、各種センサーが設置され、画像や音の情報を取得し、これらの情報を元にAI等で、実店舗でのレジなし自動決済を実現していると言われている。

  • 図3 Amazon.comのレジ業務のデジタル化事例

    図3 Amazon.comのレジ業務のデジタル化事例
  • 最後に、VRの事例として2つ、The North Face とWalmart の事例を紹介する。The North Faceでは、店舗で商品を試着してもらい、VRを活用し、犬そりやハイキング、ロッククライミング等の疑似体験を提供している。犬そりの場合、顧客は、南極マクマード観測基地をイメージした装飾の店舗内で同ブランドのジャケットを試着し、VRのヘッドセットを装着してソリへ乗り、VRの映像によって、犬そりの疑似体験ができるようになっている。(図4)

  • 図4 The North Faceの試着業務のデジタル化事例

    図4 The North Faceの試着業務のデジタル化事例
  • Walmartでは、陳列業務をデジタル化している。3Dのバーチャル空間で商品の陳列を再現し、視覚注視分析を用いたヒートマップ表示で、消費者の目線などを考慮した店舗設計を実施している。(図5)

  • 図5 Walmartの陳列業務のデジタル化事例

    図5 Walmartの陳列業務のデジタル化事例

(3) デジタル技術の適用と従来のシステム化の違い

  • 5つの事例を読み解くと、デジタル技術を適用した業務の対象は、従来のシステム化よりも業務プロセスが拡大し、目的も従来の自動化、情報活用に、CX向上が加わっている。(図6)
  • 試着と商品提案業務では、従来、提案プロセスで店員が顧客の好みそうな商品情報をiPad等で提供する、情報活用を目的としたシステム化を行っていた程度だったが、IoTやVRで、試着商品把握、提案、試着、追加試着対応のプロセスをシステム化したことで、情報活用に、自動化とより迅速でパーソナルかつ特別な顧客体験の提供が加わった。
  • 次に、問合せ・店舗案内業務では、従来、キオスク端末で、商品在庫検索、在庫場所表示プロセスをシステム化し、その目的は自動化と情報活用だったが、IoTを適用し、経路案内プロセスもシステム化したことで、より便利な買い物体験の提供が加わっている。
  • 更に、レジ業務では、これまで人とPOS(Point of Sales)レジで、商品バーコードの読み取り、精算、金銭受取、支払い処理といった一連のプロセスを実施していたが、IoTとAIで、レジ業務そのものを無くし、購入に必要な購入者と購入商品の把握、精算、決済の全てをシステム化し、全自動化に加え、顧客がレジに並んだり、支払いする手間等を省く、利便性に優れた購入体験の提供を実現している。
  • そして、陳列業務では、従来、陳列の分析にPOSデータ等を活用していたが、VRで、陳列再現、分析プロセスをシステム化し、再現の自動化、顧客目線の情報を活用しながら、より顧客が買い物しやすい環境を提供している。
  • これは、IoTで、鏡やセンサー等、あらゆるモノから様々なデータを取得できるようになったこと、AIで画像や音など様々なデータを解析し、認識、予測できるようになったこと、そして、VRによって、仮想現実を作り、視覚や聴覚等の人の五感に働きかける表現方法を使えるようになったことで、業務プロセスのシステム化対象の拡大が可能になったのである。

  • 図6 従来のシステム化対象とデジタル化対象(デジタル技術適用)の比較

    図6 従来のシステム化対象とデジタル化対象(デジタル技術適用)の比較

(4) 店舗のデジタル化の狙いとは

  • そもそも、小売店舗がデジタル化に盛んに取り組んでいる理由として、3つの新しいデジタル技術が進化して低コストで導入しやすくなったことと、近年もEC化率が拡大し続け、店舗の売上比率が減少しており、対策が必要になっていることが挙げられる。
  • このため、今までのシステム化を拡大する形でデジタル技術を適用し、CX向上で店舗の価値を高めようと狙っていると考えられる。
  • CX向上に関しては、CXの大家であるジョン・グッドマン氏によると、1990年代にジョー・パイン氏によって定義された言葉で、以前から取り組まれてきた。しかし、2000年代頃の取組みは、部分最適であり、情報共有がうまくいかず、顧客満足度を下げる等といった問題が生じていたという。(注2
  • 実際、2013年にグローバルで行われたCXに関する調査(注3)では、CXの質の低さが理由でブランドを乗り換えた顧客は89%に上ることが明らかとなり、積極的で一貫性のあるCXを提供しないことで生じる平均的な損失は年間売上の20%に上る可能性があると予測された。そこで、近年、デジタル技術を活用したCX向上への取り組みが活発化しているのである。
  • この取り組みは、店舗展開をしている他業態でも適用可能であり、今後広がっていくことになるだろう。

注釈

  1. デジタル化:本稿では、IoT、AI、VRの3つの新しいデジタル技術いずれかを適用し、アナログのものをデジタルに変化させること
  2. 月刊コンピューターテレフォニー2014年8月号 ジョン・グッドマン氏 インタビュー記事より
  3. オラクルによるグローバル調査Global Insights Succeeding in the Customer Experience Eraより

柴田 香代子(しばた かよこ)
株式会社富士通総研 経済研究所 シニアリサーチアナリスト
ICTの先進的な活用の分析と提言のほか、製造業のお客様を中心とした新規事業・サービス企画、システム企画構想に従事。