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シニアによるシニアのためのプログラミング:可能性と課題

発行日 2017年6月21日
上級研究員 大平 剛史

【要旨】

  • ​​シニア世代によるプログラミングが、同世代のニーズを満たす開発につながる例が、国内外で注目されている。
  • 最近報道されたものとして、男女3人の新人シニアプログラマーが、それぞれの身近な課題解決につながるアプリなどを開発した例がある。
  • 海外の研究では、加齢から生じる能力低下を自己認識させられることは、プログラミング習得においては大きな阻害要因ではないとされている。
  • 同様の研究成果は日本でもまだ多くないが、既存の報告からは、プログラミングの習得や既存プログラムの再利用、アプリ開発・公開などには、英語リテラシーが有用であることが指摘されている。

Appleが82歳の日本人女性プログラマーを招待

  • 2017年6月5日から、米サンノゼでAppleの開発者向け会議「WWDC17」が開催され、最高齢のiPhoneアプリ開発者として、日本人女性プログラマーの若宮正子氏(82歳)が招待された(注1) 。パズルゲーム「hinadan」を開発した若宮氏は、同社のクックCEOと会談し、文字サイズなど、シニア世代に使いやすいアプリの仕様について意見交換した。
  • 若宮氏は2016年からアプリ開発を習得し始めた新人プログラマーだが、チャットアプリなどを通じた遠隔学習に取組み、約半年間で「hinadan」を開発した。アプリのユーザーインターフェース、使用方法の説明内容とも、若宮氏と同じシニア世代が楽しめるよう配慮されており、AppleのApp Storeでも高いユーザー評価を得ている。

身近な問題解決のために:スマートフォンを使う/アプリで遊ぶ/害獣を捕る

  • 若宮氏は、一般社団法人Code for Japan理事でもある小泉勝志郎氏が代表を務める「シニアプログラミングネットワーク」が4月29日に東京で開催した、シニア世代のプログラミングに関する第1回イベント「シニアプログラミングネットワーク #1」にも招待され、プログラマーになるまでの自身の経験について発表した。
  • 若宮氏は、スマートフォンゲームが苦手なことが多いシニア層が、孫世代に勝てるゲームとして、シニア世代がよく知る雛人形を並べるパズルゲーム「hinadan」を開発した。雛人形の並べ方という、経験豊富なシニア世代がよく知っていることを、ゲームを通じて孫世代に教え、文化伝承をしながら、楽しく世代間交流できるよう企画した。
  • 「シニアプログラミングネットワーク #1」では、他にも2人の男性シニアプログラマーが、比較的短期間の学習を経て、それぞれの身近な課題解決につながるプログラミングに成功した経験について、プレゼンテーションを行った(注2) 。鈴木富司氏(82歳)は、これまでに3本のiPhoneアプリ「スマホの勉強」シリーズを開発・リリースした。自身と同じ、スマートフォンを使いたいシニア世代が、若い親族に教えてもらうことが難しい時、1人で操作方法を習得できるようにするためである。
  • 谷川一男氏(67歳)は、地元の農作物を荒らすイノシシを捕獲するための箱罠に使用する、赤外線センサー付きの罠作動装置を開発した。地元の子供向けプログラミング教室に入会してから1ヶ月ほどで罠の作動装置を完成させ、害獣の繁殖を抑えるために必要な親イノシシの捕獲を、既存の罠より効率良く行えるようにした。

シニア世代のプログラミング習得手段や動機、課題に関する国際調査

  • シニア世代がプログラミングを習得する手段や動機、直面している課題の実態について、海外では実証的な研究成果が出始めている。5月6日から米デンバーで開催された、国際学会Association for Computing Machinery の国際会議「CHI 2017」では、カリファルニア大学サンディエゴ校のグオ助教が論文「Older Adults Learning Computer Programming」を発表し、世界52カ国のシニアプログラマー約500名(平均66.5歳、ソフトウェア開発の専門職経験者は、うち12%)の実態に関する調査結果を公表した(注3) 。
  • シニア世代のプログラミング習得手段は、無料のオンラインコースが約7割で、市販の書籍が約3割、有料の講習は約1割だった(図表1)。プログラミングを習得する動機の上位3つは、若い頃に多少プログラミングを習得したが、その後は習得機会を失い、学び直したいから(22%)、脳に課題を与え続けて、しっかり働く新鮮な状態に保つため(19%)、趣味で実現したい特定のプログラム機能があるから(19%)であった。
  • シニアプログラマーがプログラミングを習得する上で直面している課題のうち、最も多かったものは、質の悪い教授法(21%)であった。加齢に関連するもので最も多かった課題は物忘れなどの認知力の低下だったが、12%にすぎなかった。加齢から生じる能力低下を自己認識させられることは、シニア世代のプログラミング習得においては、大きな阻害要因ではないことが示唆される結果となった。
  • 同様の研究成果は、日本でもまだ多くない。プログラミングに使用されることの多い、PCの操作スキル向上がシニア世代に与える影響について、5月10日に東北大学の和田准教授らの論文が早期公開され、「PC操作スキルの向上はセルフ・エフィカシー[自己効力感]やPCに対する態度を向上させ,間接的にQOL[生活の質]の上昇に寄与する」ことが示唆されたところである(河野賢一・和田裕一「シニア層ユーザーのPC活用が主観的ウェルビーイングとQOLに及ぼす影響」『心理学研究』doi.org/10.4992/jjpsy.88.15049(注4) )。

  • 図表1 シニア世代のプログラミング習得手段(上位)

    [N=435、複数回答]

    無料のオンラインコース(動画含む) 69%
    ブログ、Webチュートリアル、図書館の文書等 39%
    市販書籍 28%
    有料の講習(オンライン・オフライン合わせたもの) 9%

    (出所:Guo, PJ 2017, "Older Adults Learning Computer Programming: Motivations, Frustrations, and Design Opportunities," ACM Conference on Human Factors in Computing Systems (CHI)を元に富士通総研作成)

プログラミングにおける英語リテラシーの重要性

  • 「シニアプログラミングネットワーク #1」に関するブログの記事など(注5) では、プログラミングの習得やアプリ開発・公開手続きには、英語リテラシーが有用であることが指摘されている。プログラミング習得のための無料オンラインコースは大半が英語で開講されており、インターネット上の他の文字情報も英語のものが多い。
  • 先に挙げた鈴木氏は、30年間の商社勤務の経験から、アプリ開発・公開手続き時に有用な英語リテラシーを身に着けていた。若宮氏も、長年海外旅行を趣味にしていたため、ある程度の英語リテラシーがあり、プログラミング習得時にもWeb翻訳の助けを借りて、必要な英語の文書を読解できた。
  • しかし、若宮氏は「WWDC17」でのクックCEOとの会談で、「hinadan」開発に使用したAppleのアプリ開発言語Swiftプログラミングに関する情報の多くが、英語で公開されていることから、英語が苦手な日本人には、プログラミングに取り組むことが、より難しくなっている可能性を指摘した。シニア世代のニーズを満たすシニアプログラマーを増やすためには、同世代に使いやすい翻訳ツールや補助教材の提供によって、英語リテラシーを補完し、情報アクセスのハードルを下げることが重要であると考えられる。
  • 英語リテラシーを補完できれば、自分が開発したプログラムを世界中のプログラマーに公開し、オンラインコミュニティで交流することもできるようになる。シニアプログラマーのQOL改善につながる可能性もあり、英語リテラシーの補完には、単にプログラミング習得を、より円滑にする以上の意義があると考えられる。

注釈

  1. “Live Coverage of Apple's WWDC 2017 Keynote: iOS 11, macOS 10.13, Notebooks, iPad Pros, and More” MacRumors, 2017/6/5, https://www.macrumors.com/2017/06/05/live-coverage-wwdc-2017/
  2. “シニアプログラミングネットワーク #1”, dots., https://eventdots.jp/event/617957
  3. “Older Adults Learning Computer Programming (press release)”, Philip Guo氏のホームページより, 2017/4 http://www.pgbovine.net/older-adults-learning-programming.htm
  4. 「シニア層ユーザーのPC活用が主観的ウェルビーイングとQOLに及ぼす影響」、河野賢一・和田裕一、『心理学研究』、早期公開日 2017/5/10 https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjpsy/advpub/0/advpub_88.15049/_article/-char/ja/
  5. たとえば以下のようなブログのエントリーがある。
    http://sakura-bird1.hatenablog.com/entry/2017/05/01/122102
    http://blog.sideriver.com/flick/2017/04/post-d061.html