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アメリカが参加しないTPPは、ベトナムの市場開放を停滞させる

発行日 2017年4月6日
上席主任研究員 濱崎 博

【要旨】

  • ベトナムはTPP(環太平洋経済連携協定)参加により最も恩恵を受ける国であるが、短期的には県レベルでの格差拡大、関税収入減少による政府収入(GDP比)の低下傾向に拍車がかかるなどの痛みも生じる。
  • このような痛みを承知の上で、ベトナムがTPP参加に積極的な背景は、海外からの投資拡大を通じて自律的経済成長を実現することである。
  • アメリカのTPP不参加は、TPPによるベトナムへの直接投資の効果を低下させ、現在ベトナム政府の進める投資を促すための透明性確保の環境整備づくりの活動を停滞させる。
  • ベトナムはアジア諸国の中でも安定的成長を続けている国である。各国企業にとって進出先として魅力的であるが、その市場の不透明性で二の足を踏む企業も多い。ベトナムのTPP不参加は、海外企業にとってベトナムへの参入障壁が残る結果となる。

ベトナムは最もTPP参加の恩恵を受けると同時に、痛みも伴うという真実

  • 2017年1月23日にトランプ米大統領がTPPからの離脱に関する大統領令に署名し、今後のTPPの成り行きについては暗雲が立ち込めている。
  • いくつかの先行研究(注1) において指摘されているようにTPP参加によって最も便益を受けるのはベトナムである。
  • TPPへの参加は、ベトナム国全体で見た場合、その経済的便益は非常に大きいが、より詳細に見た場合、県レベルでの効果・影響は大きく異なる。詳細は後述するが、ベトナムのTPPの参加は、県レベルでの格差を拡大する可能性がある。本稿では、ベトナムにとってのTPP参加の意味と米国脱退の影響に関して定量評価を実施し、このことがベトナム市場透明化への動きにどのような影響を与えるのかに関して議論を行う。

ベトナムの安定した経済成長と拡大する格差

  • 図表1は主要アジア各国の経済成長率の推移を示したものである。アジア金融危機、リーマンショックにより、多くの国において経済成長が停滞(もしくは負の成長)するのに対して、ベトナムは安定した経済成長を続けてきた。

  • 図表1 アジア各国のGDP変化

    図表1 アジア各国のGDP変化

    (出所)IMF, World Energy Outlook, October 2016

  • しかし、ベトナム国全体では安定した経済成長を続ける一方、地域間格差は拡大しているのもまた事実である。図表2は県レベルでのベトナムの貧困率を示しており、ハノイ、ホーチミンといった都市部では貧困率は低いが、ベトナム北部では貧困は深刻なレベルにあると言える。
  • このため、現在ベトナム政府にとって、地域間格差の解消は喫緊の課題であり、新たなる政策導入及びプロジェクト実施段階において、地域レベルでのその影響・効果の視点が重視されている。

  • 図表2 ベトナム貧困率

    図表2 ベトナム貧困率

    (出所)世界銀行、http://www5.worldbank.org/mapvietnam/

ベトナムにとってTPPは痛みを伴う改革

  • 既に指摘した通り、ベトナムはTPPにより最も経済的便益を受けることが期待できる。しかし、県レベルで見た場合、全ての県で一様にその便益を享受できるのか、それとも県により大きく異なるのかに関して検討を行う必要がある。
  • 富士通総研経済研究所で開発した経済モデル(注2) を活用し、TPPのもたらす経済効果をベトナム県単位で算出した。各県のGDPへの影響を示したのが図表3である。農業中心の県では、TPPにより経済に対して負の影響を及ぼすことを示唆しており、TPPはより格差を拡大する可能性をはらんでいると言える。

  • 図表3 県レベルGDP変化率

    図表3 県レベルGDP変化率

    (注)GDPがプラスの場合は円で示しており、点は限りなくゼロかマイナスであることを示す。
    (出所)富士通総研算出

  • ベトナムにとっての持続的経済成長実現において課題となっているのは、地域間格差のみではない。図表4は、ベトナムの政府収入(GDP比)を示している。低下傾向を示しているのは、経済成長に対して税収が伸びてないことを意味する。

  • 図表4 政府収入の推移(GDP比)

    図表4 政府収入の推移(GDP比)

    (出所)GSO(Government Statistics Office), Vietnamより富士通総研作成

  • 関税など貿易に関連した税収入が2014年は政府収入の10.9%を占めた。TPPへの参加は関税収入が大幅に減少することを意味する。長期的には経済成長に伴う法人税などの税収入の増加が期待できるとはいえ、税収が伸び悩んでいる現状では、関税収入が減少するTPPへの参加は、同時に安定的な税収確保のための持続的な税収制度の確立を急ぐ必要を迫る。
  • ベトナムは税の補足率・徴税率が低いとの指摘もあり、TPPへの参加による関税収入の低下を補い、安定的な税収を確保するためには、ベトナム税制を一気に先進国並みに引き上げる必要がある。

ベトナムのTPP参加・海外からの投資受け入れのための透明性確保

  • 短期的には痛みの伴うTPPへの参加を行う理由は、いわゆるチャイナ・プラスというベトナムの位置づけから脱却し、世界の工場ではなく、イノベーションセンターとしての役割を獲得することである。そのためには、外資投資を通じて、技術の移転を促進する必要がある。
  • 既に、ベトナムは、2015年7月1日に新しい投資法(No.67/2014/QH13)及び企業法(No.68/2014/QH13)の導入を行い(松丸、2016)、外資がベトナムへ進出する際の透明性を高める対策を推し進めている。

では、アメリカが参加しない場合には・・・

  • 藤田(2016)が指摘する通り、ベトナムが第1回会合から交渉に参加し、初期参加国となりえたのは、指導層の強い決意と政治体制によるところが大きいと思われる。その強い決意の背景には、TPP参加による外資からの投資の増大、技術の移転であり、自身でイノベーションを実現する次の経済成長段階への移行である。
  • しかし、米国抜きでは、期待できるTPPの効果は大幅に減少する。このことは、現在のベトナム政府が進めている投資を促すための透明性確保の環境整備づくりの活動を停滞させる結果となる。ベトナム市場は、日本の企業にとっても、不透明性を理由とした参入取りやめや、参入までに長期の期間を要するなどアクセスのよい市場ではなかった。ベトナムのTPP不参加は、日本企業にとってもベトナム進出を阻害することとなる。

注釈

  1. 例えば、Gilbert, Furusawa and Scollay, http://www.econ.hit-u.ac.jp/~furusawa/paper/gilbert-furusawa-scollay.pdf
  2. 世界一般均衡モデルをベースに、ベトナムを県レベルまでモデル化した。

参考文献

  • 藤田麻衣(2016)、「ベトナムのTPP参加―動機と経緯―」、アジ研TPP分析レポート(ジェトロ・アジア経済研究所)、2016年5月
  • 松丸知津(2016)、「活発化するベトナムへの進出とM&A 新しい投資法・企業法施行1年の実務」、法と経済ジャーナル Asahi Judiciary、2016年7月27日