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トランプ政権による対メキシコ輸入関税の影響

発行日 2017年4月4日
上級研究員 加藤 望

【要旨】

  • 2017年1月、米国のトランプ政権が発足した。保護主義的な政策が実現されれば、国内外の企業に大きな影響が及ぶと考えられる。特に、「米国第一」の方針を色濃く反映させるとみられる通商政策の行方が注目される。
  • トランプ政権が提案するメキシコに対する20%輸入関税は、米国の国産品への需要拡大や税収増をもたらす一方、輸出向けも含めた生産にはマイナス影響を及ぼす。これにより、投資および輸出が減少し米国のGDPはマイナス変化となる。
  • 総合的に見ると、メキシコに対する20%輸入関税は、米国経済にとってプラスよりもマイナスの影響が大きいことが示された。

トランプ政権による通商政策の転換

  • 2017年1月、米国のトランプ政権が誕生した。「America first(米国第一)」を掲げ、選挙戦で過激な発言を繰り返していたトランプ大統領であったが、就任後は無難な路線をとるのではという見方もあった。しかし、これまでのところ選挙戦で示していた保護主義的な措置の実現に向けて動いており、国内外で大きな混乱を招いている。
  • 特に注目されているのが、通商政策である。トランプ大統領は、米国が主な貿易赤字を抱える相手である中国、日本、メキシコを「不公正な貿易をしている」と批判し、メキシコからの輸入品には20%の関税をかけることも提案している。
  • 海外に生産拠点を設ける企業にも厳しい姿勢をとっている。フォード社は、メキシコでの新工場建設計画を1月に撤回したが、これはトランプ大統領からの批判や圧力を受けての対応と見られる。
  • 輸入関税導入のような極端なやり方は、政権支持層の国民は歓迎しているものの、相手国からの反発は必至である。それ以前に、世界貿易機関(WTO)協定への抵触という致命的な問題があるが、トランプ大統領は米国の主権に反するものであれば、WTOの判断を無視する構えであるとも報じられている。

対メキシコ輸入関税導入の影響分析

  • 米国の利益を第一に追求する通商政策が、国内外にどのような影響を及ぼすのかを見るために、保護主義的な通商政策の対象となる可能性が高いメキシコについて分析を行った。応用一般均衡モデルを用いて、米国が(1)メキシコからの自動車輸入に20%課税した場合(自動車20%関税ケース)と、(2)全ての輸入品に20%課税した場合(全輸入品20%関税ケース)のシミュレーションを行った。
  • GDP変化(図表1)を見ると、米国については、2つのケースについてそれぞれ0.02%(約26億ドル)と0.06%(100億ドル)減少する。メキシコの経済は、当然ながら打撃を受け、自動車20%関税ケースでもGDPは0.03%(約3.8億ドル)マイナスとなる。全輸入品20%関税ケースでは、GDPは0.32%(約37億ドル)とマイナス変化が顕著になる。
  • GDP変化の内訳(図表2、3)を見ると、米国は投資と輸出の減少によるマイナス変化分が、輸入減や民間および政府支出の増加によるプラス変化分を上回る。メキシコは、投資と輸出の減少、そして民間および政府支出の縮小によるマイナス変化分が、輸入減によるプラス変化分を上回り、GDPがマイナス変化となる。

  • 図表1 米国とメキシコの実質GDP変化

    図表1 米国とメキシコの実質GDP変化

    (出所)富士通総研作成

  • 図表2 自動車20%関税ケースによるGDP変化(百万米ドル)の内訳

    図表2 自動車20%関税ケースによるGDP変化(百万米ドル)の内訳

    (注1)輸入のプラス変化は輸入減を意味する。
    (注2)輸出は輸送サービスを含む。
    (出所)富士通総研作成

  • 図表3 全輸入品20%関税ケースによるGDP変化(百万米ドル)の内訳

    図表3 全輸入品20%関税ケースによるGDP変化(百万米ドル)の内訳​

    (注1)輸入のプラス変化は輸入減を意味する。
    (注2)輸出は輸送サービスを含む。
    (出所)富士通総研作成

  • 自動車20%関税ケースでは、米国は輸入関税導入により、輸入税の受け取りが約46億ドル増える。その影響で、米国の国民純所得(生産要素(土地・労働・資本)への支払いと間接税との合計)は上昇する。米国のメキシコからの自動車輸入が大幅に減少(-57%)することで、自動車の国内市場価格は0.22%上昇する。その結果、自動車への需要は減るが、国産自動車への需要は2.27%増えるため、自動車生産量は1.34%増加する。一方、メキシコに対する自動車の中間投入財の輸出減が影響し、輸出は全体として減る。
  • メキシコについては、自動車生産が大幅に減少(-28%)し、生産要素および中間投入物への需要や投資も減少する。これにより賃金や中間投入物の価格が下がり、メキシコからの輸出品価格が相対的に下がるため、米国への自動車輸出以外は、全ての国・品目について輸出が増加する。しかし、米国への自動車輸出減の影響が大きく、輸出額合計は約25億ドル減少する。また、特に自動車の中間投入財として利用する輸入品への需要が縮小し、輸入は減少する。生産要素(土地・労働・資本)価格が下がり所得も減少するため、特に民間需要が縮小する。
  • 全輸入品20%関税ケースでは、米国のメキシコからの輸入は、価格弾力性の高いエネルギー(原油、ガス、石炭)や、輸入に占めるメキシコの割合の高い品目(金属、自動車、電子機器、機械など)で特に減る。輸入関税によって米国の国産品への需要が増えるが、主にメキシコによる輸入品への需要が縮小によって、輸出向け生産は減少する、その結果、生産量全体ではマイナスとなる品目が多く、投資も縮小する。一方、輸入税の受取が大きく(約289億ドル)増加し、米国の国民純所得は上昇する。
  • メキシコについては、米国への輸出減によって生産が縮小する品目が増え、生産要素価格も著しく下がるため、投資、輸出、民間および政府支出が大きく減少する。

米国経済への総合的な影響

  • メキシコからの自動車および全ての輸入品への20%輸入関税により、国産品への需要拡大という点では期待通りの効果が得られる。税収も増え、米国全体での所得という点ではプラスの影響をもたらす。しかし、輸出向けも含めた生産で見ると、いずれのケースでもマイナス変化となり、GDPも減少する。
  • メキシコは、課税されるのが自動車のみの場合でも、米国への輸出減によるマイナス影響を、他の品目の生産増・輸出増では相殺しきれないことが示された。全ての品目に課税された場合は、相殺の効果が薄れて経済へのマイナス影響が多大なものとなった。
  • 本稿では、トランプ政権支持者に訴えかける通商政策が、実際にはどのような影響をもたらすかを分析した。対メキシコ輸入関税については、総合的には米国経済にとってプラスよりもマイナスの影響が大きいことが示された。
  • 一方、議会共和党は、製造業を国内に呼び戻したいという点は大統領と共有しつつ、税制改革の一部として現実的な案を検討中である。法人税減税とも関連するため、企業にとっての影響はより大きいと考えられる。企業は、トランプ大統領による政策提案に加え、政権として最終的にどのような政策を実施するのか、引き続き注視する必要がある。