GTM-MML4VXJ
Skip to main content

English

Japan

  1. ホーム >
  2. 調査・研究成果 >
  3. ニューズレター >
  4. 2017年>
  5. 人工知能は民主主義社会の本質的価値に適合できるのか

人工知能は民主主義社会の本質的価値に適合できるのか

発行日 2017年4月4日
主任研究員 蛯子 准吏

【要旨】

  • 第4次産業革命とその基幹技術である人工知能等がもたらす負の側面に関する活発な議論が交わされている。人工知能に雇用を奪われるという議論や、ロボットを利用している企業に課税する「ロボット税」に関する議論がその代表的なものである。デジタル革命を小説や映画の世界の話ではなく、現実の問題として捉えようとする動きが強まっている。
  • 人工知能は、すでにある様々なモノやサービスの内側で機能する技術、つまり「見えない」技術である。人工知能に対する負の側面に関する議論の根幹には、この「見えない」ものへの恐怖がある。インターネットの「見えない」アルゴリズムが社会に大きなインパクトを与えている現在、アルゴリズムをつくる人工知能の限界が「見えない」うちは、その与える影響も「見えない」状態にある。
  • 内閣府が設置した有識者会議では、少ない労働力でも高い生産性を実現する社会を実現するため、労働移動を可能とする人工知能と差異化した非認知的能力を育成することが重要であるとしている。また、教育政策と雇用政策は連動させ効果を最大化できるとしている。
  • 人工知能を活用した社会とは、個々人が人工知能と差異化した非認知的能力をいかに習得しているかが鍵を握る社会なのかもしれない。このような社会が、民主主義社会の本質的価値に適合しているのか、公共性の観点から深い議論が求められている。人工知能等の社会的インパクトの強い技術をどう使っていくべきかを決める取組みは、人工知能の技術開発以上に重要なものと位置づけるべきである。

第4次産業革命と活発化する負の側面の議論

  • 数年前より、第4次産業革命に関する活発な議論が交わされている。第4次産業革命の定義は不明確であるが、大枠は人工知能、モノのインターネット(IoT)といった新たな情報通信技術を活用したデジタル革命と整理できよう。
  • このデジタル革命がもたらす負の側面に関する議論も活発になっている。人工知能に雇用を奪われるという議論や、ロボットを利用している企業に課税する「ロボット税」に関する議論がその代表的なものである。ビル・ゲイツがその必要性を主張し、欧州議会においても導入を検討しているなどの報道もある。
  • その真実味や実現性については議論の余地があるものの、デジタル革命の進展による弊害を小説や映画の世界の話ではなく、現実の問題として捉えようとする動きが強まっている。

「見えない」ものへの恐怖

  • 内閣府が人工知能と人間社会の関わりについて検討するために設置した「人工知能と人間社会に関する懇談会」では、その報告書において人工知能とこれまでの技術との違いを「外形のある技術ではなく、すでにある様々なモノやサービスの内側で機能する技術」、つまり「見えない」技術であるとしている。
  • 人工知能に対する負の側面に関する議論の根幹には、この「見えない」ものへの恐怖が潜在的にある。人工知能がモノそのものに入りこみブラックボックス化していることに加え、人工知能が様々なモノやヒトをどのようにネットワークで繋ぎ、何をしているのかが見えない恐怖である。
  • コンピュータの計算方法(アルゴリズム)に対する恐怖もあげられよう。Google社は検索のアルゴリズムを非公開にしているが、その変更はトップニュースとして扱われ、経済社会システムの末端、すなわち構造にまで大きなインパクトを与える。
  • 現在もアルゴリズムはこれだけのインパクトを与えている。アルゴリズムそのものを自らが学習し改善する(または創り出す)人工知能の限界が「見えない」うちは、その与える影響も「見えない」状態にある。
  • 人工知能と雇用の問題を産業革命時におけるラッダイト運動になぞらえる議論もあるが、ラッダイト運動は目に見える「機械と資本家」と「労働者」との間の労働力の問題である。主体や問題の定義そのものが見えない人工知能に係る議論とは、扱う次元が違うものであると言えよう。

人工知能と教育に関する論点

  • 同報告書では、人工知能が普及した社会が持続可能なものとなる上で考慮すべき論点を整理している。倫理的論点、法的論点、経済的論点、教育的論点、社会的論点、研究開発的論点の6つの論点である。経済的論点と教育的論点が同じ価値基準から整理されていることが、一つの特徴としてあげられる。
  • 経済的論点のキーワードは、「労働移動」である。国は人工知能を活用して経済成長を促し、(それによる経済社会環境の変化にも耐えられるように)労働移動を可能とする能力を育成し、学習する機会を提供するべきであるとしている。「教育政策と雇用政策は連動させることで効果は最大化する」ともしており、産業振興とそのための労働力提供という価値観を前提としているようにも見える。
  • 教育的論点のキーワードは、「差異化」である。人が人工知能を利活用し「少ない労働力でも高い生産性を実現する社会」を実現するためには、人は人工知能を使いこなすとともに人工知能にはできない能力を育むべきとしている。先の経済的論点と同じ価値基準から論点が整理されているとも読み取れる。

民主主義社会の本質的価値に適合した人工知能の活用を

  • イギリスの社会学者M・ヤングは、身分や家柄に束縛されることなく、個々人の能力・資質と努力による業績が地位を決める社会を「メリトクラシー」の社会と呼んだ。
  • 教育学者の本田由紀は、個々人のコミュニケーション能力や課題解決能力などのいわゆる非認知的スキルが地位を決める社会を「ハイパー・メリトクラシー」という概念で整理している。非認知的なスキルは、非認知的なものであるがゆえに体系的な教育が難しく「個人化」されたスキルである。つまり、個人間の差を拡大しやすいスキルであるとしている。
  • 先の内閣府の報告書では、人工知能と差異化をはかるためには、同じく非認知的スキルが重要であるとしている。本田の概念を参考にすれば、人工知能を活用した社会とは、個々人が人工知能と差異化した非認知的能力をいかに習得しているかが鍵を握るハイパー・メリトクラシーの社会なのかもしれない。
  • OECDは情報通信社会におけるセキュリティ文化の普及に向け策定した「情報システム及びネットワークのセキュリティのためのガイドライン」において、9の原則を掲げている。その一つである民主主義の項目において、「情報システム及びネットワークのセキュリティは、民主主義社会の本質的な価値に適合するべきである」としている。
  • この原則は、人工知能の本格的な導入が確実視される今、より重要な原則として認識されるべきであろう。人工知能を活用した社会が民主主義社会の本質的な価値を損なうことがないのか、公教育には何が求められているのか、そのためには何を規制するべきなのかなど公共性の観点から深い議論が求められている。人工知能等の社会的インパクトの強い技術をどう使っていくべきかを決める取組みは、人工知能の技術開発以上に重要なものと位置づけるべきである。