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サステイナブル・ツーリズム国際認証取得の重要性

-国連「2017年開発のための持続可能な観光の国際年」を受けて-

発行日 2017年2月24日
上級研究員 大平 剛史

【要旨】

  • 2017年は「開発のための持続可能な観光の国際年」である。今年は、各国政府、観光業界が観光の持続可能性を向上させる対応を加速させている。
  • 2030アジェンダの掲げるSDGsは、持続可能な観光についてのターゲットを規定している。体験型観光の需要が高まる各地域では、観光の持続可能性を向上させる対応が重要になっている。
  • 高所得旅行者向けの観光業者はサステイナブル・ツーリズム国際認証を持つ観光地を必要としており、認証観光地との契約時に優遇措置を講じている。公益団体の支援等を活用して継続的に認証対応を進めることで、持続可能性を向上させられるだろう。

国連「2017年開発のための持続可能な観光の国際年」

  • 国連「2017年開発のための持続可能な観光の国際年」である今年は、各国政府、観光業界が観光の持続可能性を向上させる対応を加速させている。「持続可能で責任ある観光を促進する」国連世界観光機関(UNWTO)が、決議に基づき観光の持続可能性向上と状況報告を求めているからだ。
  • 観光の持続可能性を向上させる対応とは、持続可能な観光(サステイナブル・ツーリズム)を実現するための対応だ。持続可能な観光とは「旅行者・観光関連産業・自然環境・地域社会の需要を満たしつつも、現在・将来もたらす経済面・社会面・環境面の影響も十分考慮に入れた観光」(UNWTO定義)のことだ。
  • UNWTOに求められている施策は、例えば、各国閣僚レベルの観光政策評議会設立、各地における観光の持続可能性評価、持続可能な観光の実施に資する能力開発等である

SDGsと観光:地域観光に求められる観光の持続可能性の向上

  • 観光の国際年制定の根拠は、国連サミット採択の2030年までの国際目標「持続可能な開発のための2030アジェンダ」の「持続可能な観光を促進する」という宣言だ。2030アジェンダの掲げる「持続可能な開発目標(SDGs)」は宣言に沿って、持続可能な観光についてのターゲットを規定している。
  • ターゲットの主眼は「雇用創出、地方の文化振興・産品販促につながる持続可能な観光」の促進政策・開発影響調査の実施だ。小島嶼及び後発途上国向けには「観光の持続可能な管理」による「海洋資源の持続可能な利用」の経済性向上も規定している。
  • この状況下で、観光業界トップ企業団体の世界旅行ツーリズム協議会は、持続可能な観光への取り組みを成長課題ととらえている。世界の多くの観光企業は、社会・環境問題に関心が高い高所得層、若年層の旅行者が、地域観光において持続可能な観光を好む傾向は、日本を含め世界中で強まると予想している。各地を周遊するクルージング寄港時や長期滞在中の体験型観光の需要が高まる各地域の自然・文化遺産では、観光の持続可能性を向上させる対応が重要になっている。

サステイナブル・ツーリズム国際認証取得の重要性

  • 持続可能な観光を実施している地域の国際認証として、サステイナブル・ツーリズム国際認証が取得できる。国連環境計画等の資金で設立された協議会(GSTC)が認定する認証機関が認証を行う。
  • 認証は国際基準(GSTC-D)に則り、認証準備の支援制度もある。認証準備が地域観光地管理の持続可能性を高め、認証されることで世界有数の持続可能な観光地と認知される。
  • 高所得旅行者向けの観光を扱う観光業者は持続可能性認証を持つ観光地を必要としており、認証観光地との契約時に優遇措置を講じている。アジア等世界で運航する豪華客船数第2位のロイヤル・カリビアン・クルーズは、GSTC認証地の陸上ツアーを優先採用している。
  • サステイナブル・ツーリズム国際認証を持つ地域は、スペイン、メキシコに多く、オーストラリア、ニュージーランド等にもある(図表1)。国際認証の取得手続きは、現在は海外の団体により外国語で行われており、日本国内では観光地のサステイナブル・ツーリズム国際認証の取得が進んでいない。
  • 国内の認証地域を増やすため、GSTC-D和訳(図表2)に携わったNPO日本エコツーリズムセンターは、日本語で手続き可能な国際認証の制度設計を検討している。また、同NPOは観光庁やUNWTOの後援を受け、2月6〜7日にサステイナブル・ツーリズム国際認証秋田フォーラムを行った。同NPOを中心に、これまで約3年間にわたって、認証に関する研究会や、関心のある地域の勉強会が続けられている。同NPOは、国際認証への国内の関心が今後さらに高まると予想している。
  • 認証のメリットは大きいが、現在の認証取得には読み書き、会話を含めた外国語対応が必要である。認証機関に支払う費用が日本円換算で100万円以上の場合もある。また、認証取得の経済効果を高めるためには、取得後の長期的マーケティング計画立案・実施、観光地管理体制の継続的整備が必要である。
  • 国内地域の認証取得による地域観光の持続可能性向上は進んでおらず、まだハードルも高い。しかし、世界遺産の登録地、日本遺産の関連地域が増加し、周辺地域を含む地域観光の国際化が進んでおり、今後多くの地域で観光の持続可能性を向上させる対応が問われる。各地域は、国際認証の公開基準や公益団体の支援を活用しながら、継続的に国際認証への対応を進めることで、地域観光の持続可能性を向上させられるだろう。

  • 図表1:サステイナブル・ツーリズム国際認証を取得した地域の例

    図表1:サステイナブル・ツーリズム国際認証を取得した地域の例

    (出所:GSTC "destinations that are certified by GSTC-Approved certification bodies" を基に富士通総研作成)

  • 図表2:観光地用GSTC国際基準(GSTC-D)概要

    図表2:観光地用GSTC国際基準(GSTC-D)概要

    (出所:GSTC「観光地用グローバル・サステイナブル・ツーリズム協議会国際基準および推奨評価指標Version 1.0, 2013年12月10日」を基に富士通総研作成)