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持続可能な地域主導型のコミュニティツーリズム

―沖縄県東村の成功事例から―

発行日 2016年9月30日
上級研究員 大平 剛史

【要旨】

  • 過疎化、地域経済の衰退などへの対応策として、地域主体のコミュニティツーリズムが国内外で注目を集めている。世界各地に300例以上、国内でも少なくとも数十例以上が存在する。
  • 国内におけるコミュニティツーリズムの先進的成功事例の1つが、沖縄県国頭郡の東村である。多くの観光客が安定的に訪問するようになり、年間住民所得が大きく増加した。東村においては、官民協業が信頼醸成、合意形成につながり、丁寧な情報収集や、より実質的な官民交流・対話を重ねたことと共に重要であった。現在は、インバウンドや国立公園指定への対応が模索されている。
  • 今後の地域主導型のコミュニティツーリズムのために、限られた人材や外部情報の有効活用は重要である。地方創生・地域活性のための観光開発の手段を考える際、特に過疎地域にとってコミュニティツーリズムの持つ可能性は大きく、適用の検討が望まれる。

国内外で注目を集める地域主体のコミュニティツーリズム

  • 過疎化、地域経済の衰退などへの対応策として、大規模投資に頼らず、観光資源を地域が主体となって開発するコミュニティツーリズムが注目されている。海外においては、Community-based Tourism (CBT)として、地域コミュニティへの開発援助プログラムも行われているものだ。
  • 従来の大量消費型マスツーリズムでは、地域コミュニティの役割は外部の団体に対して従属的、もしくはないに等しい場合が多かった。個別の地域コミュニティのニーズよりも観光客のニーズを優先した観光開発が進められ、大きな失敗によって、環境破壊や地域観光資源に大きなダメージを与えることも少なくなかった。これに対してコミュニティツーリズムでは、地域コミュニティが主体的・自律的に観光開発を行うことを前提としている。個別の地域コミュニティのニーズが優先され、採算は考慮されながらも必ずしも利潤の最大化を目指さず、ゆるやかで継続的な観光開発が目指されていることも多い。
  • コミュニティツーリズムは海外では遅くとも1990年代中頃、南米やアジア・アフリカ等の旧植民地諸国から広がり、現在は世界各地に300例以上が存在する。例えば、タイ、タンザニア、ブラジルなどにおいて活発な取り組みがなされている。
  • 日本国内では遅くとも1990年代後半、広島県尾道市などから広がり、現在は全国各地に少なくとも数十例以上が存在する。北海道知床ウトロ地区、石川県七尾市、長野県白馬村、大阪府大阪市ミナミ、沖縄県東村などが比較的有名な事例である。

沖縄県東村におけるコミュニティツーリズムの成功

  • 国内におけるコミュニティツーリズムの先進的成功事例の1つが、沖縄県の東村である。人口約2,000人の東村では、コミュニティツーリズムの取り組みの結果、1998年に約5.5万人の観光客(観光交流人口)が訪れた。2002年以降はほぼ毎年25万人以上の観光客が訪れるようになった(図表1)。現在東村では、マングローブのエコツアー(図表2)や農家民泊が人気となっている。

  • 図表1 東村におけるコミュニティツーリズムの取り組みの効果

  • 図表1  東村におけるコミュニティツーリズムの取り組みの効果  

    (出所: 沖縄県統計課(2016年6月3日公表)「市町村民所得」、東村企画観光課のデータを基に富士通総研作成)

  • 図表2 東村エコツアーのカヌー発船準備

    図表2 東村エコツアーのカヌー発船準備

    (出所: 東村慶佐次地区にて富士通総研撮影)

  • 結果、東村の1人当たり年間住民所得は17年間で1.8倍になった。1996年には沖縄県全体の1人当たり年間住民所得(約200万円)より約50万円少ない約150万円だったが、2013年には県全体の同所得(約210万円)より約65万円多い約275万円に達した(図表1)。
  • 東村においては、コミュニティツーリズムの最初期の情報収集から、施策立案・実施、情報発信に至るまで、人材交流と組織運営における官民協業が継続して行われてきた。地域における信頼醸成、合意形成が徹底されてきたのだ。
  • 東村の人々は、少人数の受け入れやリピーターの獲得、メディア掲載や受賞等の小さな成功体験を共に積み重ねていった。地域コミュニティ全体が一体感のある形で自信を深めながら、新たな取り組みに挑戦し続けられたのである。
  • 丁寧な情報収集も、重要な役割を果たした。成功した取り組みのすべてが地元発のアイディアだったわけではなく、国内外の他所での取り組みに対するよそ者の視点を活かした丁寧な情報収集を行って、自分たちの地域の実情にあった形の取り組みを計画していったのである。
  • より実質的な官民交流・対話を重ねたこととも重要である。小さなサブコミュニティごとに小規模の官民交流・対話を重ねて、徐々に信頼が醸成されて合意形成が始まり、様々な新しい取り組みへの参加に同意する人々が少しずつ増えていったのだ。
  • そんな成功事例である東村のコミュニティツーリズムにとっても課題がある。例えば、インバウンド対応と東村を含むやんばる地域の国立公園指定への対応である。インバウンド対応に関しては、応対スタッフの中国語対応の準備が開始されている。2016年9月15日の「やんばる国立公園」指定対応に関しては、増加が予想される観光客や、広域エコツアーへの要望に対して、同国立公園内の国頭村や大宜味村等との連携が模索されている。

今後の地域主導型のコミュニティツーリズムのために

  • 東村の成功事例から得られる教訓は特殊なものではなく、コミュニティツーリズムの成功を目指す他の地域にとっても検討に値するものである。東村は観光の盛んなイメージの強い沖縄県にありながら、林業と自給自足のための農業に依存した過疎村だったからだ。
  • 官民問わず限られた人材や収集した外部情報を有効に活用することは、地域主導型のコミュニティツーリズムにとって重要なことである。実質的な官民協業によって、地域コミュニティ内の丁寧な合意形成を図りつつ、小さな成功体験を積み重ねていくことが望ましい。
  • 地方創生・地域活性のための観光開発の手段を考える際、特に過疎地域にとってコミュニティツーリズムは有効なものになるだろう。官民の人材交流が行いやすく、比較的少人数の合意形成で施策を決定・実行できるような地域コミュニティにとって、コミュニティツーリズムの持つ可能性は大きく、適用の検討が望まれる。