GTM-MML4VXJ
Skip to main content

English

Japan

  1. ホーム >
  2. 調査・研究成果 >
  3. ニューズレター >
  4. 2016年>
  5. 米国で広がるチャットへのボット適用と日本にもたらす消費者と企業の関係変化

米国で広がるチャットへのボット適用と日本にもたらす消費者と企業の関係変化

発行日 2016年8月30日
シニアリサーチアナリスト 柴田 香代子

【要旨】

  • 今年4月頃より、Facebook、Microsoft、Google等米国大手IT企業を中心に、今まで人間が対応してきたチャット機能を自動化するボットの導入が活発化している。
  • 米国では1990年代末頃から、一般消費者間(CtoC)でチャットが普及した。これを受けて、ECのカスタマーサポート等BtoC領域へのチャット機能の適用が始まり、近年これをボットで自動化しようという流れがある。この背景には、AIの技術進化によって会話の自動化精度が高くなったことが挙げられる。
  • ボット適用事例をみると、最低限の会話は出来るが自然なやり取りが出来きているとは言いがたい。ただ、今後のAI技術進化と学習の蓄積によって、会話精度の向上が見込まれるため、ボット適用が広がると考えられる。
  • 一方、日本ではBtoC領域でチャット機能の適用は一部に留まっている。しかし、LINE等によりチャットがCtoCで普及しており、消費者がチャット機能を利用する素地は出来てきた。今後、会話技術の精度が向上すれば、ボット適用が米国のようにカスタマーサポート等で広がり、消費者と企業との関係をより身近なものに変えるかもしれない。

1. 米国でチャット機能での会話を自動対応するボット(Bot)導入活発化のきっかけ

  • 今年4月頃より、Facebook、Microsoft、Google等の米国大手IT企業を中心に、ネットワークを通じてテキスト形式による会話を行うチャット機能を自動対応するボットの導入が活発化している。
  • 一般的にボットとはロボットの略称で、人間に代わって自動的にタスクを実行するプログラムのことである。1990年代末頃よりボットという言葉は使用されており、機能面でいくつかの種類が登場し、その都度注目されてきた。(図1)
  • 1990年代末頃には、「a)情報収集」や「b)操作」の機能を有したボットが登場した。「情報収集」はGoogleクローラーが有名で、自動的にWebページを収集してデータベースへ蓄積していくプログラムだ。「操作」はオンラインゲームのボットが代表的で、プレイヤーに代わって、経験値をためる等の単純操作を行うものだった。2000年代前半には「c)ウイルス感染関連」のDDos攻撃やスパム送信等ウイルス感染等に利用されるボットが登場し、2008年頃にはTwitter等で「d)投稿」の機能を有したボットが話題となった。これは、あらかじめ設定した内容に基づき、決められた時間、あるいは投稿された特定の言葉等に対して自動投稿を行うボットである。
  • このように従来のボットは、設定された単純なタスクを自動的に実行することしか出来なかったが、近年、人工知能(Artificial Intelligence:以下AI)技術の進化によって、会話の認識や理解の精度が高くなり、チャット機能へのボット導入が活発化している。

  • 図1 ボットの変遷と機能

    図1 ボットの変遷と機能

    (出所:NIKKEI COMPUTER 2006.10.30. NRI 2020年ITロードマップ等を参考に富士通総研作成)

2. 米国で広がるチャット機能へのボット適用までの流れ

  • AIの技術進化がきっかけとなり、チャット機能へのボット適用が広がっているが、ここで、チャット機能へボットを適用するまでに至った流れを説明する。1990年代末頃、AOL等のインスタントメッセンジャー(注1)が登場し、チャットがCtoCに普及した。その後も、2010年にチャットのWhatsAPPが人気となり、さらにFacebookがチャット専用のFacebook Messengerを提供し、米国のスマートフォンユーザーの46%に利用されているとのアンケート調査結果(注2)も出ている。
  • このようなチャットの普及を受けて、1999年頃、急成長し競争が激化していたECにおいて、顧客満足度向上のためにカスタマーサポート等でチャット機能の適用が始まった。2011年と2012年に、インターネット利用者がECに問い合わせる手段を調査したところ、チャット機能の利用者が2割から3割近くに増加し、電話、emailに次ぐ、第3の重要なチャネルとなっていた。(注3
  • そして、このBtoC領域の人間によるチャット対応を自動化しようと、ボットを適用する動きが広がっているのである。(図2)ただし、自動対応の精度等に関しては、「文章を入力しても、理解してもらえないことが多い」、「特定のキーワードにしか正しい反応をしない」等、利用者からの厳しい声もある。
  • そこで、3つのボット適用事例から、ボットの会話レベルと今後の可能性を考える。

  • 図2 米国におけるチャット機能へのボット適用までの流れ

    図2 米国におけるチャット機能へのボット適用までの流れ

    (出所:富士通総研作成)

3. 米国のボット適用事例

  • 最初に紹介する事例は、米国の若者を中心に人気のチャットKikである。企業ブランドとユーザーがチャットしながら、企業がプロモーション等を行えるボット「Promoted Chats」を2014年11月より導入している。
  • Promoted Chatsは映画のプロモーションなどで利用され、サービス開始後7か月で、1千万人以上のユーザーがボットとチャットを行い、やり取りされたチャット数は3億5,000万以上(注4)という数に及んだ。2016年4月時点でユーザー数は2億7,500万人を超えており、プロモーションメディアという意味では一定の効果を得ているようである。
  • ただ、このボットは、映画の中の登場人物とある程度決められたシナリオでチャットができるなど、現段階では、図1の「d)投稿」の機能と同じあらかじめ設定された内容に基づき自動投稿を行うもので、自然な会話ができるレベルとは言えない。
  • 2つ目は、Facebook Messengerによるボット適用事例である。2015年からMessengerの中で、パーソナルアシスタント「M」のテストを招待制で実施している。
  • Mでは、「子供が生まれた友達への贈り物を探しているが、既に洋服やおもちゃは持っている」という複雑な相談に対して、「靴はどうか?」という応答ができる使用例を示しており、先ほど紹介したKikよりは、一問一答ではない、ある程度複雑な質問等にも応答ができそうだ。
  • ただし、MはAIだけでなく、それをサポートするM Trainerという人間が介在しており、AIが出した回答候補に対して、回答の選択や承認、場合によっては編集等を行っており、すべてが自動化されているわけではない。
  • 最後の事例は、2015年からアメリカのサンフランシスコでレストラン情報の提供や予約を行うサービス提供を開始したLukaである。Lukaの創業者は、DropboxやAirbnb等を輩出したYcombinator(注5)を卒業しており、今後の動向が注目されている。
  • Lukaは、ユーザーがベジタリアンである等、ユーザーの趣味・嗜好をユーザーとの会話の中で学び、友人とのチャットに参加し、チャットの内容を理解して、お店の予約を行うために、友人との待ち合わせ時間を確認する。ユーザーがレストランを探す際、Lukaが紹介した店に対して「彼女はカクテルが好きだが、そのお店にカクテルはおいてあるか」と質問すると、「もちろん、このお店のカクテルはすばらしく、君の彼女はきっと好きになるよ」と応答する。Lukaは単に質問文に対する答えだけでなく、彼女という存在を考慮した返答をしており、個別で複雑なタスクの実行が出来るようだ。(図3)

  • 図3 米国ボット適用事例 Luka

    図3 米国ボット適用事例 Luka
  • 3つの事例を紹介したが、Kikはプロモーションで想定したシナリオに一問一答の形で対応する従来のボット機能レベルのものとなっている。しかし、Facebook MessengerのMのように幅広い商品サービスのジャンルに一問一答ではない複雑な対応をするものや、Lukaのようにレストラン情報の提供と予約にジャンルを絞り、複雑な対応や、ユーザーの背景を理解して個別な会話ができるレベルのボットも出ている。
  • 今後の更なるAI技術の進化と学習の蓄積で、会話の自動化精度向上が見込まれており、米国ではチャット機能により複雑で個別な対応が可能なボットの適用が広がると考えられる。

4. 日本のボット適用の動向とボットがもたらす消費者と企業の関係変化

  • では、日本ではどうだろうか。米国でBtoC領域にチャット機能が適用された1999年頃、まだ日本ではCtoCにさえチャットは普及しておらず、BtoCへのチャット機能の利用は進まなかった。
  • しかし、現在は日本でもCtoCでLINE等のチャットが若年層を中心に幅広い層で利用者数を拡大しており、一部ではあるが、BtoC領域でのカスタマーサポート等におけるチャット機能の人的な適用やボット適用が始まっている。
  • BtoCにおけるチャット機能利用に関するアンケート調査(注6)では、「チャットを活用した接客サービスを利用したことがある」と回答した人の割合は6%と少ないものの、利用したことがある人の約7割が「チャットによるサービスに満足している」という結果も出てきている。チャット機能の利便性訴求に成功すれば、今後徐々にチャット機能の利用が広がる可能性がある。
  • 更に、ボットが自然な会話ができるレベルに達すれば、チャット機能のボット利用が始まるに違いない。ボットを使えば、24時間対応が可能になるだけでなく、事例で紹介したLukaのように顧客一人ひとりを学習し、顧客それぞれに合った個別で複雑な対応を実現することも可能だ。
  • LINE等によりチャットがCtoCで普及し、消費者がチャット機能を利用する素地は出来てきた。今後、会話技術の精度が向上すれば、ボット利用が米国のようにカスタマーサポート等で広がり、チャット(=気軽に話す)感覚で、消費者と企業との関係をより身近なものに変えるかもしれない。

  • 図4 日米のチャット機能へのボット適用までの流れ比較

    図4 日米のチャット機能へのボット適用までの流れ比較

    (出所:富士通総研作成)


注釈

  1. インスタントメッセンジャーには様々な定義があるが、基本的には、本論考で述べるチャット機能と同等の機能も持つため、本論考ではインスタントメッセンジャーをチャットの一つとする
  2. Global Mobile Android/iOS Messaging App Map Dominated By WhatsApp — But BBMBagsAFoothold
    https://techcrunch.com/2013/11/26/on-device-mobile-messaging-apps/
  3. Multichannel Customer Service eMarketer2013年調査レポート
    http://www.emarketer.com/public_media/docs/eMarketer_Multichannel_Customer_Service_Best_Practices_Building_Retail_Loyalty.pdf
  4. 広告の未来を変えるテクノロジー「ブランドボット」の破壊力
    http://forbesjapan.com/articles/detail/5203
  5. Ycombinatorはカリフォルニア州のベンチャーキャピタル。主にスタートアップ企業に対し投資する。3か月にわたって集中的に指導し他のベンチャーキャピタルなどから投資を受けられる状態まで育てる。出資した企業として、Dropbox、Airbnb等があげられる(Wikipediaより)
  6. EC利用時のチャットサポートに7割が満足、ディーエムソリューションズ調査
    https://netshop.impress.co.jp/node/3129

柴田 香代子(しばた かよこ)
株式会社富士通総研 経済研究所 シニアリサーチアナリスト
ICTの先進的な活用の分析と提言のほか、製造業のお客様を中心とした新規事業・サービス企画、システム企画構想に従事。