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シー・ビー・ティ・ソリューションズ社にみる、新たな試験基盤とその進展

発行日 2015年10月9日
シニアリサーチアナリスト 笛吹 典子

【要旨】

  • 資格試験運営を受託しているシー・ビー・ティ・ソリューションズ社は、個別開発であった資格試験システムを標準化・共用化し、システム構築費用を圧倒的に安くする等で運営業界を変えている。
  • 更に、受験者各自の解答に合わせて出題が変わる「コンピュータ適応型テスト」のサービスの提供に踏み出している。
  • 同社は専門知識の体系づくりを担う資格試験団体と共に、個人が生涯にわたって、より良く学ぶことを後押しする基盤に発展してゆくことが期待できる。

企業概要・特長

  • 株式会社シー・ビー・ティ・ソリューションズ社(以下CBTS社)は、資格・検定試験の実施団体から試験運営を受託している。試験は紙のみならずコンピュータによる実施、いわゆるCBT(Computer Based Testing)を特徴としている。
  • 2009年5月に野口功司氏が設立し、以降6年で年商13.25億円(2015年4月)となっている。野口社長は社会人教育をより良くしようとの思いがあり、資格試験業界に15年間携わってきたノウハウや、小学生の頃からプログラミングをしていてICTに詳しいといった自身の培ってきた持てる力から、ICTを核とした資格試験運営の受託事業を始めた。
  • CBTS社の成長は、事業のコアの仕立ての上手さに起因すると考える。事業のコアには試験運営やテスト理論への知見が、顧客要望や技術変化に呼応できる形でICTとして埋め込まれている。それが試験運営システムの共用化(試験運営プラットフォーム)、試験のICT化、試験の個別化への進展を可能にしている。以下に野口社長へのインタビューを基にその一端をご紹介する。

資格試験運営を変革し、プラットフォーマーに

  • 資格試験運営システムは、従来は資格試験団体ごとに個別開発であった。CBTS社は試験団体の業務の内、試験運営業務、即ち申込受付・決済・試験実施・結果通知などは、若干の違いはあるものの共通化できるため、業務を標準化・システム化し(下図の(1))、試験運営基盤として提供した。
  • 共用化の際には、簡易カスタマイズ(野口社長の言葉では「プログラムをつくるプログラム」)にまで掘り下げ、試験団体の要望に適ったシステムを、迅速に・追加費用なしに実現できるようにした。
  • 試験運営業務だけでなく、資格試験そのものにもICTを適用しCBTを代表とするコンピュータによる試験形態を提供(下図の(2))した。
  • 図表1:ICTを核とした資格試験運営の変革

    (出所:インタビューを基に富士通総研作成)

  • この事業の仕立てにより、ユーザである受験者にとっては紙の試験からコンピュータに変わって、即時結果が分かるなど利便性が向上した。また顧客である試験団体にとっては、個別開発であったシステム構築とメンテナンス費用が従来の10分の1程度となると同時に、業務が効率化され資格普及活動や試験問題作成等に注力できるようになった。
  • CBTS社のアプローチは、受験者と顧客にとっての革新となり、現在約140団体が採用し試験運営のプラットフォームとなっている。

解答により、受験者ごとに出題が変わる試験

  • CBTS社では、CBTに続く新しい試験形態として、コンピュータ適応型試験、CAT(Computerized Adaptive Testing)を提供し始めた。
  • CBTは、紙の試験をコンピュータ化して利便性を向上したが、評価には紙の試験同様、偏差値や素点方式が用いている。そのためテストの難易度や受験者集団により評価が変わってしまう。
  • この課題を克服するために、「項目反応理論」を使って、出題する1問1問(項目)に、予め統計的に処理した難易度等の特性をつけ等化した項目バンクを整備しておく。
  • CATでは、例えば視力テストが同じレベルの問題に安定して答えられれば、それより低い視力を問われないように、受験者の解答に合った最適な問題が項目バンクから自動的に選ばれ、個人ごとに動的に出題される。
  • CATは、個人差に適応した「アダプティブ・テスティング」で、通常の試験に比べてより精度高く受験者の能力を測ることができる。

新たな試験基盤への進展

  • CBTS社には、受験者が減って選抜機能が低下した大学入試での活用案や、企業の採用時の1次試験などへの活用の相談も寄せられている。
  • CBTやCATは、これまでは一部試験での活用であったが、昨今のコンピューティングパワー向上に加えて、試験団体による項目バンクの整備蓄積が進んでゆけば、一定規模の入学試験や昇格試験等の「ハイ・ステーク・テスト」に広がっていくと思われる。
  • 図表1:CBT/CAT活用の広がり

    (出所:インタビューを基に富士通総研作成)

  • CBTS社の試験運営基盤が進展してゆくと、試験団体は解答履歴データを詳細に把握して試験問題や専門知識体系を改善できる。この結果、受験者は自分の能力を高い精度で効率よく知ると同時に、より良い学びにつながってゆく。
  • 野口社長は、今後とも価値ある試験の普及を支援し顧客事業の発展と共に歩む考え方でおられる。例えば試験団体とのコミュニケーションには経験を積んだベテランが当り、顧客と一緒に1件1件課題解決してゆく。一般的なプラットフォーム事業は、まずユーザ数を増やし基盤上で蓄積した情報活用等でのビジネス展開を図るが、同社は規模の拡大より顧客サポートを優先している。
  • また高品質なセキュリティと継続的な安定性を兼ね備えた基盤の提供は、通常はベンチャー企業では体力面から限界があるが、同社は最優先で取り組み顧客から信頼を得ている。
  • CBTS社は、増え続ける専門知識に対して、知識体系づくりを担う試験団体と共に、個人が生涯にわたって、より良く学ぶことを後押しする基盤に、更に発展してゆくことが期待できると考えている。

笛吹 典子(うすい のりこ)
株式会社富士通総研 経済研究所 シニアリサーチアナリスト
学びにおけるICT活用に関する調査・分析に従事