GTM-MML4VXJ
Skip to main content

English

Japan

  1. ホーム >
  2. 調査・研究成果 >
  3. サイバービジネスの法則集 >
  4. コラム >
  5. 1998年 >
  6. 狙いは何処に?アマゾン・コムのインターネット企業2社買収の謎に迫る

狙いは何処に?アマゾン・コムのインターネット企業2社買収の謎に迫る

インターネットの書籍販売で有名なアマゾン・コム(http://www.amazon.com)が、WWWで個人ユーザーのアドレスブックやスケジュール管理サービスを提供する「プラネットオール」と、ショッピングと求人情報の検索サービス「ジャングリー」の2社を買収することが明らかになった。取引はアマゾンの新規発行株で行なわれ、2社合わせて2億8000万ドル相当となる。同社の買収活動は、4月下旬に続いて今年2回目だが*1、ビデオソフト販売と欧州進出という明確な意図が示されていた前回の買収とは異なり、今回買収する2社の戦略上の位置づけは、リリースのなかでも「ユーザーのショッピング環境向上のため」と表現されているだけで、同社にしては珍しく曖昧にぼかしている。そこで、以下に買収された2社の概要を紹介するとともに、この買収におけるアマゾンの真の意図はどこにあるのかを考察してみることにする。(倉持 真理・富士通総研)

PlanetAll(http://www.planetall.com)

96年11月にWWWでスタートした無料サービスで、ビジネスマンを主なターゲットとし、すでに150万人の登録メンバーを持つ。ライコスやジオシティーズなどの人気サイトと提携関係にある。

一般に、アドレスブックやカレンダー書き込み式のスケジュール表は、個人のPCのハードディスクやPDA(携帯用端末)で管理されているが、職場と家庭の両方で仕事をしたり、出張の多いビジネスマンにとって、複数のPCやPDAのデータの同期をとるのは面倒なものだ。プラネットオールはこの点に着目し、どのPCからでもインターネットを通じてアクセスできるWWWサイトに、個人のアドレスブックやスケジュール表のデータを保管できるようにした。データはマイクロソフトの「アウトルック」などのPC用個人情報管理ソフトや、市販のPDAと互換性がある。

プラネットオールのサービスのもう1つの柱は、友人や仕事仲間との連絡方法を管理し、情報を共有する機能だ。たとえば、自分のアドレスブックにプラネットオールの登録メンバーの連絡先を入力する場合、相手の同意を得て、互いの連絡先を共有化できる。こうすると、相手か自分が連絡先を変更した場合、どちらのアドレスブックにも新しい連絡先が反映されるようになる。連絡先の公開レベルは、相手によって変えられる*2

また、仕事仲間や友人同士、あるいは学校の同窓会などのグループ単位でプラネットオールを利用し、自分のアドレスブックでグループの所属メンバー全員と情報を共有化することも可能だ。グループで共通のスケジュール表を持ち、会議日程を設定したり、イベント参加メンバーを参照したりできる。このほかにも、スケジュール表に載せられた誕生日や記念日が近づくと電子メールで知らせたり、アドレスブックに載っている誰かが連絡先を変更すると電子メールで知らせる通知機能などがある。

アマゾンはプラネットオールのWWWサイトと相互リンクを張るものの、全体としてはプラネットオールを別事業部として、これまでの体制を変えずに独立運営していく方針だ。アマゾンの書籍、音楽ソフト販売ビジネスへの利点を強いて挙げれば、150万人の登録ユーザーをリンクで導ける集客力のほか、誕生日や記念日を電子メールで通知するついでに、本や音楽のギフトを推薦するといったことが、とりあえず想像される。

Junglee(http://www.junglee.com)

スタンフォード大学の研究プロジェクトが開発したバーチャル・データベース技術を事業化し、複数のWWWサイトが個別に保有するデータベースの情報を一括検索するサービスを提供している。現在のサービス分野はショッピングと求人情報だ。

同社の「ショッピング・ガイド」では、約80のオンラインショップの1500万品目の商品を検索対象とし、「ジョブ・キャノピー」では、550企業の9万件の求人情報を検索対象としている。2つのサービスは、同社とライセンス契約を結んだヤフーやコンパック、ホットボット、ワシントンポスト、ダウ・ジョーンズなどのWWWサイトで利用できる。

サービスの特徴は、異なる形態で記述された個々のWWWサイトのデータベース検索結果を、簡単に比較検討できる見やすいリストにまとめて表示することだ。たとえば、ショッピング・ガイドで特定の商品名を指定すると、1分以内に検索対象のオンラインショップの在庫を検索し、その商品がどのショップでいくらで販売しているかをリストにまとめて表示してくれる。ユーザーは、このリストを参考に価格や条件を比較検討し、リスト上の気に入ったショップにリンクして、購入手続きを済ませればよい。いわゆる、“ショッピング・エージェント”のサービスと呼ばれることもある*3

ヤフーなどの契約サイトからのライセンス料のほか、検索を受け入れるオンラインショップや求人募集企業からの月々の参加料、ショッピング・ガイドの検索結果リストからのリンクでユーザーが商品を購入した場合の1件ごとの販売手数料などがジャングリーの収入源だ。

買収後アマゾンは、シリコンバレーにあるジャングリーの本社を自社の本拠地であるワシントン州シアトルに移し、ジャングリーの経営陣もそのまま受け入れる方針という。しかし、ジャングリーのサービスをアマゾンの既存事業に統合すると考えた場合には、ジャングリーの検索対象範囲とサービスの中立性に関する疑問を無視することはできない。

周知のとおり、アマゾンの取り扱い商品は、書籍と音楽のほか、ビデオが加わる予定だが、ジャングリーの検索対象は、これらに加えて家電、PC、ソフト、衣類など多岐にわたっている。そして、ウォール・ストリート・ジャーナル(http://www.wsj.com)の取材によれば、アマゾンのCEOジェフリー・ビゾスは、ジャングリーの検索対象を書籍と音楽だけでなく、幅広い範囲に利用する旨のコメントをしているという。

また、ジャングリーの検索対象には、バーンズ&ノーブルやボーダーズ、CDナウといったアマゾンの競争相手も含まれている。どのオンラインショップに対しても中立な立場を取っているわけだが、単純に考えれば、これはアマゾンの利益に反する行為ともいえる。しかし、ニューズ・コム(http://www.news.com)の取材によれば、ビゾスはジャングリーの検索対象を変更するつもりもないらしい。

3つの仮説

これまで見てきた情報を考え合わせると、アマゾンの次なる戦略が、既存の書籍と音楽、ビデオのオンラインショップの枠組みを越えたところにあることは自明となる。そして、同社が具体的に何を目指しているのかについては、次の3つの仮説が成り立つ。それぞれの内容と可能性について見ていこう。

(1)単なる事業拡大説
アマゾンが自社の事業範囲をインターネット・ビジネス全体と捉え、単なる事業拡大のために2社を加えたというもの。この説の根拠となるのは、業績は明らかではないが、買収した2社はそれぞれの分野でユーザーや企業クライアントを引きつけ、そこそこの知名度も確立した優良企業だという点だ。
アマゾンは97年5月の株式上場以来、いまだ四半期業績で黒字を計上したことがなく、黒字転換は2001年になると予想されている。もちろんこれは、業界内での確固たる地位を確立するための成長戦略にもとづく戦略的赤字である。このような状況からいって、同社がさらなる規模拡大を目指すうえで、事業範囲を既存のオンラインショップに限定せず、一段高い視点からインターネット・ビジネス全体と捉え、買収した2社をポートフォリオに加えるという考え方は、それなりに理屈に合わないものではない。
ただし、オンラインショッピングのパイオニアとして、たった3年間で同社をここまでの有名企業に育てたビゾスの経営センスを思えば、今回の買収が単純な事業拡大目的ではなく、既存事業と2社をつなぐ何らかの接点により、1+2が5か6になる驚くべき戦略を用意していると期待されるのも当然である。

(2)ポータル狙い説
2つめの説は、アマゾンがWWWのポータルを狙っているというものだ。すでに同社は、メディア・メトリクス(http://www.mediametrix)の視聴率ランキングで、毎月20位以内に顔を出し*4、オンラインショップの中でトップの地位を保っている。これは、同社のブランドが検索サイトやコミュニティ・サイトにも匹敵する知名度と集客力を持つことを表している。
本紙で何度か示しているとおり、ポータルが備えるべき主な機能は、ニュースや株価などの日常コンテンツとWWW検索、電子メール、個人ホームページなど、ユーザーを繰り返し訪れさせ、囲い込むことを主眼としたものである。同社は現時点でこうしたポータルの典型的機能を備えていないが、これから備えていくのもさほど難しいことではない。また、プラネットオールの情報管理・共有化サービスは、明らかにユーザーを囲い込む役割を果たしており、今後ポータル・サイトのスタンダードになると予想されるものだ。このような観点から、同社の狙いがポータルにあるという見方も十分できる。
しかし、ニューズ・コムの取材によると、この説についてはビゾス自身が否定している。ポータルのビジネスモデルを目指す意向はなく、同社の戦略の焦点は、あくまでECにあるというのが同氏の発言の主旨である。

(3)ショッピング・ポータル創始説
最後の説は、アマゾンは消費者向けEC(=オンラインショッピング)に焦点を絞った“ショッピング・ポータル”を狙っているのではないかというものだ。筆者は個人的には、これが一番可能性が高いと考えている。
ショッピング・ポータルとは、ZDネット・ニュース(http://www.zdnet.com/zdnn/)の取材記事のなかで、ゾナ・リサーチ社のアナリストがアマゾンの今回の買収の目的についてコメントした際に使われた言葉だが、その詳しい定義については触れられていない。実際には、まだどこにも存在しないコンセプトだ。
しかし、これは非常にいいところをついているように思われる。筆者が想像するに、ショッピング・ポータルとは、書籍や音楽に限らずさまざまな商品を探すときに、ユーザーが集まる場所だろう。といっても、単なるオンラインショップが集積した“モール”ではなく、ショッピングに役立つ情報や、ジャングリーのような比較検討ツール、商品選びのリコメンデーション(推薦)ツールなどが、効果的に集められ、配置された場所であるはずだ。
機能的には既存の大手検索サイトのショッピング・チャンネルに似ているが、検索サイトの総合的なサービスのなかでは、ショッピング・チャンネルはさほど目立った存在ではない。それに比べ、アマゾンのブランドは、ショッピングのイメージと直結しているうえに、すでに十分な集客力も備えているという優位がある。
ユーザーがショッピングをしようとするたびに訪れるショッピング・ポータルは、大手検索サイトなどの目指す総合ポータルとは別の意味で、存在できる余地がありそうだ。現在のジャングリーのビジネスモデルに習い、各ショップの参加料、販売手数料、広告料などが収入源になると考えられる。


いろいろ書いてはきたものの、実際のところ、今後アマゾンが買収した2社をどのように既存の事業に組み込んでいくつもりでいるかの答えを知るには、同社がさらに詳しい計画を発表するまで、しばしの間待つほかない。筆者の推察通り、ショッピング・ポータルに乗り出すとすれば、オンラインショッピングの分野ですでに伝説となった同社が、インターネット・ビジネスに、さらに新たな地平を切り開くことになろう。

*1 映画情報のWWWサイト「インターネット・ムービー・データベース(http://www.imdb.com)」と英国の書店サイト「ブックページズ(http://www.bookpages.co.uk)」、ドイツの書店サイト「テレブック(http://www.teleboch.co.de)」を買収した。本紙98年5月20日号(Vol.4, No.78)13頁参照。

*2 プラネットオールで住所や連絡先を変更すると、情報を共有化している相手やグループ全員に、一斉に変更が通知される。この機能を一歩発展させ、近々、国営郵便サービスの住所変更データベースとのデータ連動もはじめる予定。メンバーのアドレスブックに載せられている相手が郵便局に住所変更の届けを出すと、アドレスブックが自動的に変更される仕組み。また、メンバーの連絡先変更を、指定された金融機関や公共サービス、カタログ販売会社などに通知するサービスも開始の予定。

*3 同様のサービスとして、ネットボット社の開発した「ジャンゴ」と、カンドゥー社(http://www.quando.com)の「ショッピングボット」がある。ネットボット社は大手検索サイトのエキサイトに買収され、エキサイトのショッピング・チャンネル(http://jango.excite.com/)に組み込まれている。また、カンドゥー社は8月11日、インフォシークに買収されることが決定。ショッピングボットはこの秋、インフォシークのショッピング・ガイドに登場することになった。

*4 メディア・メトリクスの98年6月度のWWW視聴率調査では、家庭ユーザーによる単独サイト・ランキングで15位に入っている。


ネットビジネスの最新動向は、「サイバービジネスの法則集お知らせメール(登録無料)」でお届けしています。受託調査、コンサルティング、講演も行っていますのでお問い合わせください。