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インターネット書店戦争勃発

バーンズ&ノーブルがアマゾン・コムに攻撃開始

アマゾン・コムの独走体制にあったインターネットの書籍販売市場に、バーンズ&ノーブル(Barnes & Noble, Inc./New York, NY)が乗り出し、アマゾン・コムに真正面から挑戦状を叩きつけた。バーンズ&ノーブル(B&N)は、米国48州に439の大型書店と、ショッピングモール内に569店を展開する米国最大の書店チェーンだ。インターネット・ネイティブのベンチャー企業vs既存大手企業の競争のゆくえを握るのは、ワン・トゥ・ワン・マーケティング戦略にある。(倉持 真理 富士通総研)

互角の競争

B&Nはまず3月に、AOL内にオンライン・ストアをオープン。続いて2カ月後の5月13日に、予定通りWWWサイトをオープンした(http://www.barnesandnoble.com)。
B&Nのサイトはマイクロソフトとヒューレット・パッカードの最新サーバー技術と、ファイアフライの嗜好マッチング技術を採用して構築されている。ファイアフライの技術は周知の通り、何種類かの本をユーザーの好き嫌いで評価させて嗜好を登録し、よく似た嗜好を持つ人々の情報を参照して、ユーザーが好むと思われる本を推薦するというものだ。アマゾン・コム(http://www.amazon.com)にも、ネット・パーセプションズ社の技術を使った同様のリコメンデーション・サービスがある。

両方のサイトを比較してみたが、アマゾン・コムにあってB&Nにはないものは、好きなカテゴリーや作家の新刊が発売されたらEメールで教えてくれるサービスや、他のサイト内の書籍レビュー・コーナーからリンクしてアマゾン・コムで注文できる機能など。一方、B&Nでは人気作家や有名人のライブ・チャット・イベントに力を入れ、人を集めようとしている。しかし、どれも両者の決定的な違いにはなりにくく、互いに同じサービスを後から付け加えるのは簡単だ。
値段の面でもほぼ互角である。B&Nはハードカバーを定価の30%引き、ペーパーバックを20%引きで販売している。これは同社の店舗での販売価格よりも安い値段だ。アマゾン・コムも、書籍によって定価の10~30%引きで販売しているが、「アマゾン・コム500」と呼ばれる500タイトルのベストセラーと独自選出の書籍に限っては、最近40%に値引き率を拡大した。

アマゾン・コム、訴えられる

両者の力が拮抗した競争では、あらゆる手段が動員される。B&NはWWWサイトのオープン前日、アマゾン・コムの広告に偽りがあるとして、ニューヨークの連邦裁判所で訴訟を起こした。B&Nが問題にしたのは、アマゾン・コムが使っている「世界最大の書店」というキャッチフレーズだ。
B&Nの主張は次の通りである。

アマゾン・コムはごく一部の書籍を除いて、実際には在庫を持たずに商売しているが、B&Nの店舗は17万タイトルを在庫している。在庫数、店舗数、売上規模その他のあらゆる客観的な基準から見て、アマゾン・コムは世界最大とは到底いえない。

B&Nいわく、アマゾン・コムは「世界最大」のキャッチフレーズを使うことで、在庫数などの面でB&Nより勝っているという誤った印象を世間に与え、これによって、規模は特定していないものの、B&Nの売上に深刻な被害を与えている。B&Nは今年1月からアマゾン・コムにキャッチフレーズの使用中止を要求していたが、アマゾン・コムが応じないので、訴訟に踏み切ったという。

しかし、この場合、訴訟の内容や結果よりも、タイミングが重要な意味を持っていた。5月12日に訴訟を起こし、13日にはWWWサイトをオープン。そしてその翌日の14日には、アマゾン・コムの株式公開(IPO)が予定されていた。この日取りでことを運び、IPOへのダメージを狙ったのは、はためにも明らかだった。

アマゾン・コムのIPO人気

しかし、結果的には、B&Nの妨害工作にもかかわらず、アマゾン・コムのIPOは大成功を収めた。
同社は、今年3月にSEC(証券取引委員会)にIPOの計画を申請した際には、250万株を13ドルで売りに出す予定だった*1。その後、投資家からの期待を反映して50万株を追加。同社株のちょうど半分を18ドルで売りに出すことになった。
そして、14日夜に機関投資家向けに売りに出されると、またたく間に買い手がついた。翌日のNASDAQでの取引は29.25ドルから開始。一時は30.25ドルにまで上がったあと、その日は23.50ドルでクローズした。翌日以降は沈静化して下がったものの、それでも売り出し価格より高値が続いている(5月20日現在)。

これはハイテク/インターネット関連株のIPOとしては、最近珍しいことである。アナリストらの意見によれば、アマゾン・コムと創業者であるジェフリー・ビゾスの知名度と、書籍の小売という事業内容のわかりやすさが、投資家に一般ハイテク株とは異なる評価軸を与えたためだという。
B&Nとの競争や、業績が赤字でいつ黒字転換できるか見通しが立たない状況にも関わらず、投資家のアマゾン・コムに対する支持は絶大なものだった。とはいえ、株式市場での評価は同社の今後のゆくえを占う上では、ほとんど大した役に立たない。

競争のゆくえを握るのはワン・トゥ・ワン戦略?

マゾン・コムとB&Nの競争は、すでにネットスケープ対マイクロソフト、独立系ISP対電話会社の接続サービスに見られるのと同じ、インターネット・ネイティブのベンチャー企業vs既存大手企業の対立の構図にあてはまる。この構図は、インターネット市場において、今後ますます頻繁に見られるようになると予想される。

つまり、初期の時代には、インターネットの新しい環境に対応して生まれたアマゾン・コムのようなベンチャーが力を発揮するが、ひとたびインターネットが一般に普及すると、現実世界の書籍販売を牛耳るB&Nが乗り出してきて、体力と資金力をたてに、競争を挑んでくる。大手企業は最初、インターネットが現実世界での自社の売上を共食いすることを恐れるが、次第にその将来の可能性に気づき、俄然攻勢に転じるのである。
こうなるとベンチャー企業は、先発でわずかに稼いだリードを保持することでしか、優位を保てなくなる。とくに大手との競争が、値引き合戦に発展すれば、ベンチャーの立場は非常にあやうい。現在アマゾン・コムが置かれているのも、こうした状況そのものである。

唯一アマゾン・コムに残された手段は、ドン・ペパーズ&マーサ・ロジャース両人が本紙で教えるとおり、顧客とのリレーションシップに重点を置いてリピーターを囲い込む、ワン・トゥ・ワン・マーケティングの戦略しかない。

しかし、これもそう簡単なものではない。これまでのところ、アマゾン・コムは、好きな作家名やカテゴリーを登録すると、新刊が出たときにEメールで通知するサービスなどで、多くのリピーターを獲得している。

アマゾン・コムのリピーター獲得戦略は、このままでは十分なものではない。値引き合戦の体力勝負になれば、同社の負けは目に見えている。今後、アマゾン・コムがどのような手段に出てくるか、これは非常に見物である。

*1 97年4月9日号(Vol.3, No. 52)11頁参照。


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