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2019年の経済見通し:近づく内外景気の転換点

今年1月で今次景気拡大は戦後最長になるだろう。しかし、そこから先は決して楽観は許されない。今年か来年のどこかで景気後退に向かう可能性が高い。景気後退が来ても、次の転換点までの間に、これまで達成できなかった中長期的な課題にきちんと向き合うことが大事である。

2019年1月10日

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1. 減速が明確となった昨年の日本経済

昨年初の本欄で2018年の日本経済について、景気拡大のスピードは鈍化するが、大枠として「適温経済」が続くだろうと予想しました。実際、景気の拡大基調は何とか維持され、今年1月で02年から07年まで続いた「いざなみ景気」を抜いて、今次局面が戦後最長の景気となったと見られています。しかし、昨年中の実質GDP成長率は、1~3月が前期比年率-1.3%、7~9月が同-2.5%と2度までもマイナス成長になってしまいました。もちろん、7~9月のマイナス成長には豪雨や地震等の自然災害が大きく影響していますので、10~12月にはある程度のリバウンドが期待できます。それでも、予想以上に明確な景気減速になったことは否定できないと思います。

その背景にあるのは、(図表1)のグローバル製造業PMI(Purchasing Managers' Index:購買担当者景気指数)の動きが示すように、一昨年の日本経済の好調を支えた世界景気、とりわけ上向きの製造業循環が17年末をピークに急速に減衰したことです。事実、昨年の世界経済は巨額の減税が景気を押し上げた米国を別にすると、欧州、日本、中国といずれも景気減速が明確化し、言わば「米国一強」になってしまいました。世界中が好況を謳歌した一昨年とは様変わりです。

では、なぜ世界景気が減速したのかを考えると、1つにはそもそも一昨年が「でき過ぎ」だったことが挙げられるでしょう。例えば、未だに混迷を極めるBrexitを先頭にあれだけ多くの政治的困難を抱えた欧州が2年連続で+2%台の成長を実現したのは明らかに「でき過ぎ」でしたし、「通常のシリコン・サイクルを超えて需要が急増を続ける」という半導体スーパーサイクル論登場の背後には仮想通貨バブルに伴うマイニング需要の急増があったと考えられます。また、腐敗追放を掲げる中国政府が引き締め気味の経済政策を続けたことも影響しました。さらに、16年までは極めて慎重だった米国FRBの利上げペースが17年以降速まったことが徐々に効いてきたのが、もう1つの要因でしょう。米国の利上げ局面では金融緩和時に流れ込んでいた資金が引き上げられて、新興国の通貨が下落し、それをきっかけに金融引き締め、景気悪化、場合によっては経済危機に追い込まれるのが通例ですが、今回もトルコやアルゼンチンなどではそうした現象がみられました。一方、懸念されている米中貿易戦争の影響は、今のところあまり顕在化していません。その悪影響は、むしろ今後、より明らかになってくると考えた方がいいと思います。

(図表1)グローバル製造業PMIの推移
(図表1)グローバル製造業PMIの推移
出所)日本銀行「経済・物価情勢の展望」、2018年10月

こうした海外経済の減速を背景に、一昨年の景気をリードした輸出の伸びが昨年に入って明確に鈍化しました。これが日本での景気減速の最大の原因です(注1)。この結果、鉱工業生産の伸びも目立って鈍化しました(鉱工業生産も1~3月、7~9月と2回減少を記録しました)。昨年の本欄では、今回の景気は6年近く一貫して改善していると言うよりも、「ふた山型」と見た方が良いと述べましたが、内閣府の景気判断の基となる景気動向指数(CI)の動きを改めて確認してみると(図表2)、(1)アベノミクスがうまくいった13年と、(2)輸出が力強く伸びた16年後半から17年の2つの山を越えて、足もとは足踏み、ないし幾分下向きになっていることが分かります。実際、内閣府は景気動向指数に関する基調判断を昨年9月分から、従来の「改善を示している」から「足踏みを示している」に下方修正しました(直近10月の数字はやや大きめにリバウンドしていますが、これには自然災害後の挽回生産が影響しており、このまま改善が続く保証はありません)。

(図表2)景気動向指数の推移
(図表2)景気動向指数の推移
出所)内閣府「月例経済報告主要経済指標」

この間の内需の動きを見ておくと、個人消費は相変わらずごく緩やかな伸びに止まりました。理由は単純で、企業収益は絶好調と言ってもいい程なのに賃金があまり上がらなかったからです。安倍首相は企業に+3%の賃上げを求めていましたが、厚生労働省調べ(民間主要企業春季賃上げ要求・妥結状況)では昨春の賃上げ率は+2.26%と、16年(+2.14%)、17年(+2.11%)は上回りましたが、+3%には届きませんでした。定期昇給部分を除いたベース・アップ率では+0.4~0.5%程度ですから、平均して+1%前後だった物価上昇率に及ばなかったのです(注2)。

そうした中で、昨年の日本景気下支えの役割を果たしたのは設備投資の堅調でした。今次景気拡大局面では企業収益の好調に比べて設備投資の出遅れが目立っていたのですが、漸く企業の投資意欲が高まってきたのです。実際、各種の設備投資計画調査をみると、12月の日銀短観の18年度設備投資計画(全規模全産業)は+10.4%の高い伸びでしたし、大企業のみを対象とする日本政策投資銀行調査(6月時点)は何と+21.6%でした。実績は、計画より多少下振れると思いますが、近年稀に見る強気の設備投資計画だと言えます。ただし、筆者は景気拡大6年目、後で述べるように景気の転換点も遠くない時点で設備投資が大きく伸びるのは、タイミングとしてやや遅すぎではないかとの印象を抱いています(当然ながら、景気回復初期の設備投資が最も収益性が高い筈です)。実際、設備投資/GDP比率は現行のGDP統計が存在する94年以降で最も高い水準に達しており(図表3)、19年度以降設備投資の伸びが鈍化していくことを示唆するものとなっています(注3)。

(図表3)設備投資/GDP比率(名目)
(図表3)設備投資/GDP比率(名目)
出所)日本銀行「経済・物価情勢の展望」、2018年10月

2.近づく内外景気の転換点

本稿の冒頭に今年1月で今次景気拡大は戦後最長になるだろうと述べましたが、そこから先は決して楽観は許されないと思います。

まず前提となる海外経済について考えてみると、足もとは「米国一強」ですが、その米国景気を支えているのは、言うまでもなく巨額のトランプ減税です。米中貿易戦争の悪影響を別にしても、減税効果は徐々に減衰していく一方で、FRBによる利上げの効果は累積的に出てきますから、今年は米国景気も減速が避けられません。また、筆者は米国の株価は過大評価だと考えていますので、金利上昇につれてバブル崩壊への懸念が高まります(注4)。昨年末に起きた米国発の世界的な株価急落は、1年前の本欄で指摘した「適温経済の罠」が一部顕在化したと見ることができるでしょう。昨年の終わり近くには景気後退の先行指標とされる長短金利の逆転が起こり、米国景気の先行き懸念が囁かれ始めました。今年いっぱいはなお減税効果に支えられた景気拡大が続いて、この夏には米国も戦後最長の景気を達成した後、来年にはいよいよ景気の転換点というのが、現時点での筆者の見立てです。

世界第2の経済大国=中国では、貿易戦争への懸念もあってすでに景気減速が目立ってきています。今後は緩和的な財政金融政策で景気の下支えを目指すでしょうが、過剰債務の積み上がりなどを考えると、あまり無茶な景気刺激策は取れないだろうと考えられています。また、景気の減速が鮮明になる一方、Brexitの行方やイタリアの財政問題など多数の問題を抱えた欧州経済については、リスク山積と言わざるを得ません。さらに、FRBの利上げが続く限り、新興国には資金流出圧力が加わりますから、今年の世界経済は昨年以上に減速感が強まっていくのが標準シナリオだと思います。

そうすると、米中貿易戦争が急転直下解決に向かうといった、やや非現実的な想定をしない限り、昨年の日本経済にブレーキを掛けた輸出が今年は伸びを高めると考えるのは無理でしょう。内需についても、賃金の伸びが急に高まらない限り、個人消費主導の景気は期待できませんし、前述のとおり設備投資の伸びも今年は鈍化すると予想されます。それでも、筆者は今年の早い段階で景気失速に陥ることはないだろうと見ているのですが、それは(1)今年の前半から10月の消費税率引き上げに向けた駆け込み需要が始まる、(2)来年のオリンピックに向けた建設投資などがまだ暫く景気を支える、と考えているためです。しかし、これは逆に言えば、景気の勢いがすでに失われつつある中で、今秋と来年央に2度負のショックが襲って来ることを意味しますので、今年か来年のどこかで景気後退に向かう可能性が高いということになります。

念のために付け加えると、仮に今年後半から景気後退が始まるとしても、それは緊縮財政の結果ということではありません。14年の消費増税は景気に予想以上のマイナス効果をもたらしたと言われていますが、昨年4月の日銀の試算によると、この時の家計のネット負担増は8兆円に上りました(それでも景気回復の初期だったため、景気後退には至りませんでした)。一方、今回は増税幅が小さいことに加え、教育無償化や軽減税率が導入されることから、ネット負担は2.2兆円という結果でした(注5)。これにポイント還元やプレミアム商品券、住宅・自動車減税といった消費増税対策、さらには公共事業の積み増しが行われる結果、ネット負担はほぼ全て吸収されることになったからです。それでも、消費増税の前後では駆け込みと反動が生じます。また、ポイント還元等が功を奏して消費増税時をうまく乗り切ったとすると、今度は駆け込み需要の反動が今年10月から来年7月へと後ズレする結果、東京オリンピック後の不況をむしろ深くしてしまう恐れがあるのです(注6)。結局、世界経済が絶好調だった17年4月を先送りして、循環的に景気の勢いが衰えていくこの時期に増税を迎えるというのが最大の失敗だったと筆者は考えています。

こうした中、民間経済予測機関による18~20年度の経済見通しをみると(図表4)、実質GDP成長率は3年連続で+0.6~0.7%と、+1%前後とされる潜在成長率(内閣府推計+1.0%、日銀推計+0.8%程度)を下回る経済成長が続く姿になっています。明確に「景気後退」を予想している調査機関はほとんどないのですが、これだけの低成長を予測しつつ、さらに米中貿易摩擦やBrexitなどの欧州リスク、新興国からの資金流出といった様々なリスクを指摘していることを考えると、皆が自信を持って「景気拡大継続」を想定しているとも思えません。上記のように「今年から来年のどこか」と言うことはできても、景気の転換点をピンポイントで予想することはできないため、「景気後退」という表現を避けているだけではないかと筆者は疑っています(注7)。

(図表4)民間予測機関の18~20年度経済見通し(%)


2018年度 2019年度 2020年度
実質GDP成長率 +0.71 +0.68 +0.55
消費者物価上昇率 +0.87 +0.75 +0.74

注)消費者物価は生鮮食品と消費税の影響を除くベース。日本経済研究センター「ESPフォーキャスト調査」(2018年12月)。



次に物価面をみると、足もとの消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は+1%程度となっていますが、それは既往の原油価格上昇が大きく影響しているためで、生鮮食品とエネルギーを除いたベースでは昨年11月時点で僅か+0.3%でした。最近の原油価格の下落を考えると、今後の物価上昇率はむしろ低下すると考えるのが自然です。景気減速にもかかわらず賃金が小幅ながら上昇していることもあり、物価の基調は緩やかな上向きだと筆者は理解していますが、日銀が掲げる2%の物価目標が近い将来に達成されるとは到底思えません。しかも、今後は制度的・政治的な物価押し下げ要因が働いてきます。まず今年10月には幼児教育の無償化が実施される予定で、これが消費者物価を-0.6%程度押し下げると見られています。また、政府は携帯電話料金の引き下げを強く求めており、もし本当に携帯料金全体が4割引き下げられると、消費者物価を-1%近く押し下げると試算されています。原油価格下落にこれらが加わると、今年中に消費増税の影響を除いたベースの消費者物価上昇率がマイナスに転化する可能性もないとは言えないのです(注8)(なお、消費者物価の民間予想がやや高めとなっているのは、原油価格下落や制度的・政治的要因を十分に織り込んでいないためだと思います)。

日銀は昨年の7月に長期金利の上昇容認に踏み切りました。これは金融緩和のさらなる長期化が避けられないことを認めたうえで、副作用の是正を意図したもので、機会を捉えて長期金利の水準をやや引き上げたり、ETF(Exchange Traded Funds:上場投資信託)の購入額を減らしたりすることを狙っていたと解釈されています。その前提には、(1)景気は暫く好調が続く、(2)物価も2%は無理でも上昇基調が続くという見通しがあったのでしょう。しかし前述のように、景気の先行きが怪しくなり、物価上昇率は原油価格や制度要因によるものとはいえ大幅に低下する可能性が高まっていることを踏まえると、副作用是正を行う自由度や時間的余地は失われつつあると考えざるを得ません(注9)。

3. 「次の景気後退」に備える

筆者は先に「今年か来年のどこかで景気後退に向かう可能性が高い」と書きましたが、その時期をピンポイントで示すことはできません。しかし、次の景気後退がどのような性質になるのかは、意外に予想できるものです。また、安倍政権のスタートは今次景気拡大の開始と同時(12年12月)だったので、景気の一循環を経て「アベノミクスとは何だったのか」が見えてくる面もある筈です。そこで以下ではやや想像を逞しくして、次にやって来るだろう景気後退の姿について考えてみることにしましょう。

まず、雇用情勢については心配無用だと思います。若者には就職環境が良くなったのはアベノミクスのお陰だと誤解している人が多いようですが、雇用の改善は基本的には高齢化という人口要因によるものです。現に、12年中の短い景気後退の間も、失業率や有効求人倍率は改善を続けていました。今度景気後退が来ても、人手不足が幾分和らぐ程度でしょう(注10)。しかし、それは現在の雇用改善が「アベノミクスの成果」ではないことを確認することにもなります。

他方で心配なのは、アベノミクスが深刻な負荷を掛けている金融・財政面です。日銀の超金融緩和が長期化する中で、金融機関が収益悪化に苦しんでいるのは周知のとおりです。金融庁によれば、地域金融機関の半数以上が本業利益で赤字だと言います(図表5)。それでも金融機関の経営破綻などが起こらないのは、企業倒産が極端に少なく信用コストがほぼゼロだ(しばしば引当金の繰り戻しで利益が発生していた)からです。しかし、次の景気後退期に企業倒産が増えると、金融機関は引当金を積み増しする必要に迫られますから、結果として赤字の金融機関が急増して金融システムの安定を脅かすことにもなりかねません。自己資本比率が規制上の最低水準である4%を切る先はほとんどないと思いますが、地域金融機関の赤字が一時的ではなく「構造的」と看做されることが心配です。

(図表5)地域銀行の本業利益と本業赤字銀行数
(図表5)地域銀行の本業利益と本業赤字銀行数
出所)金融庁「地域金融の課題と競争のあり方」、2018年4月

財政面では、長く続く好景気の割に財政健全化はほとんど進んでいません。基礎的財政収支(プライマリーバランス)の黒字化の時期を20年度から25年度に先送りしたにもかかわらず、内閣府の試算では25年度に2.4兆円の赤字が残ることが問題視されていますが、筆者はこの試算の税収の前提自体が甘過ぎると考えています。というのも、日本の税収は極めてpro-cyclicalである(好況期には成長率を大きく上回って税収が伸びる一方、不況期の税収は大きく落ち込む)ため(注11)、6年も好況が続き企業収益が史上最高を大きく上回っている現在の税収は平均的な水準より遥かに高いからです。景気後退が来て、後述のように円高が加わって企業収益が悪化すれば税収は大きく落ち込みますから、日本の財政状況が想像以上に深刻なことが明らかになるに違いありません。そもそも潜在成長率が高まっていないのですから、自然増収が予想以上だったとしても、それは循環要因によるもので、景気後退期に剥げ落ちるのは当然なのです。

企業部門を巡る環境は、前述の中間だと見ています。企業収益の顕著な改善に比べ賃金は僅かしか上げませんでしたし、設備投資も全体としては抑制的でしたから、内部留保が大きく増えました(法人企業統計年報によれば、17年度末の企業の内部留保は446兆円あまりと、アベノミクス前の11年度末から約164兆円、名目GDP対比で約3割増えました)。ですから、リーマン・ショック級の激しい不況でなければ、大型倒産が相次ぐといった事態は想定できません(注12)。しかし、フローの企業収益が円安の影響で大きく膨らんでいることも事実です。次の景気後退期に海外で金融緩和が行われれば、利下げ余地のない日本との間で金利差が縮小しますから、相当の円高が進むことは避けられません(購買力平価に相当する為替レートは1ドル=90円台後半ですから、1ドル=110円前後はかなりの円安なのです)。企業収益や株価への影響は軽視できないだろうと思います。

そして、最も心配されるのは、景気後退時に日本にはマクロ政策で対応する余地が極めて乏しいという点です。日銀に追加金融緩和余地がほとんどないことは明らかでしょう(2%の物価目標を掲げたのは、金融政策の発動余地を創り出すのが狙いだったのに、今の日銀は従来以上の手詰まりに陥っています)。さらに悪いことに安陪政権が財政健全化を怠ってきた結果、財政発動余地まで失われつつあるからです。この関連で、米国で現在「次の景気後退」に向けてどのような議論が行われているかを紹介したいと思います。簡単にまとめると、それは(1)米国の景気後退期には通常5%程度の利下げ余地があるのに、今回はおそらく3%程度の利下げ余地しかない、(2)ならば本来は財政出動が求められるが、好況期の大減税という非常識なトランプ政策の結果、財政出動も難しい、(3)結果として次の景気後退は深刻なものになるのではないか、というものです。こうした議論を眼にする度、筆者が感じるのは、米国の悩みは日本と比べれば随分と贅沢なものだということと、米国よりも遥かに困難な環境にある日本ではなぜ誰も「次の景気後退」の議論をしないのか(怖しいものは見たくないだけ?)という疑問です。

このように、マクロ政策の観点からみると次の景気後退は極めて厳しいものになると思いますが、民間の眼からは少し違った姿に映るかもしれません。前述のように、雇用は大きくは悪化しませんし、フローの収益は相応に悪化しても経営の根幹を揺るがされる企業は多くない筈だからです。このように、次の不況がそれほど切羽つまったものでないとすると、その間に民間、特に企業は何をすべきなのでしょうか? その鍵は、一億総活躍(ダイバーシティ)、働き方改革、第4次産業革命といった、ここ数年安倍政権が掲げてきた目標にあると筆者は考えています(「金融緩和を大胆に行い財政を吹かせば、日本の問題はほとんど片付く」といったリフレ派の妄言は忘れましょう)。毎年看板を書き換えていずれも中途半端に終わってしまっているのが問題ですが、これらの目標自体はどれも正しいものでした。企業経営者の中で、これらの目標を「やり抜いた」と断言できる人が果たしてどれだけいるでしょうか? 多くの企業では宿題が積み上がった状態になっている筈ですから、今求められているのは、これらの宿題を1つずつ片付けていくことです。景気後退が来ても、普通1~2年すれば、また転換点がやって来ます。その間、これまで達成できなかった中長期的な課題にきちんと向き合うことが大事だと思います。

注釈

  • (注1)
    なお、9月には台風被害による関西空港の一時閉鎖や北海道での地震の影響からインバウンド観光が大きく減少しました(9月の訪日外国人観光客数は5年8か月ぶりに前年比マイナスとなりました)。これも7~9月のGDPベース輸出の減少要因になりましたが、この面のリバウンドはすでに始まっています。
     一方、米中貿易戦争の影響がまだ顕在化していないのは、関税引き上げ前に中国からの駆け込み輸出、米国の駆け込み輸入が増えているためです。近い将来に、この悪影響が駆け込みの反動も含めて表面化する心配があります。
  • (注2)
    厚生労働省が公表する賃金(毎月勤労統計)は、昨年に入って伸びがかなり高まったように見えます。しかし、これには標本の入れ替えに伴う統計の歪みが影響しており、継続して調査対象となっている企業に限ると、伸びは高まっているがごく僅か、上記のベースアップ率の動きと整合的なものとなります。
  • (注3)
    設備投資/GDP比率が大きく高まると、いずれ過剰設備につながり、設備投資調整を招くというのが経験則です。ただし、16年末にGDPの体系が93SNAから08SNAに移行した結果、現行統計の設備投資にはR&Dが含まれるようになった点には注意が必要です。R&Dを活発化させても、物的投資とは違って過剰設備は発生しません。このため、設備投資/GDP比率が高まっても、直ちに設備投資調整には繋がりにくいという可能性が考えられます。
  • (注4)
    もともと不動産業者のトランプ大統領は高金利が嫌いのようですが、完全雇用下の大減税にせよ、イラン核合意からの離脱(このため一時原油価格が上昇しました)にせよ、物価上昇に繋がる関税引き上げにせよ、FRBの眼にはトランプ大統領こそが金利引き上げの種を蒔いているように映っているに違いありません。
  • (注5)
    日本銀行「経済・物価情勢の展望」(2018年4月)の「BOX1:消費増税前後の家計のネット負担額」。
  • (注6)
    キャッシュレス決済に掛かるポイント還元については、(1)2%の増税に5%のポイント還元となると、何のための増税か分からなくなる、(2)9か月間の時限措置で中小商店などがカード機器を導入するインセンティブはあるのか、(3)実施まで1年足らずなのに未だ制度の詳細は不明であり、果たしてシステム対応は間に合うのか、といった様々な問題点が指摘されています。
     これらに加えて筆者は、この制度は極端に高所得者優遇になる点が大きな問題だと考えています。実際、富裕層が利用する高級寿司屋やフランス料理店は大半が中小企業であり、カード機器ももちろん備わっていますから、自動的に5%割引になります。一方、庶民的な回転寿司チェーンや低価格のイタリア料理チェーンは大企業のため、ポイント還元の対象にはなりませんし、商店街の中小店舗は大抵カード決済を扱っていません。
  • (注7)
    筆者も長年景気予測に携わってきたので、彼/彼女らの気持ちは大変よく分かります。それは、積木を高く積み上げていく時、どこかで「もう危ない」ことは分かるのですが、「あと1つで倒れる」、「2つで倒れる」、「3つ目でアウト」といったことを正確に当てるのはほとんど不可能なのと同じことです。
  • (注8)
    幼児教育の無償化は制度要因のため、同時に行われる消費増税と併せて「消費税および幼児教育無償化の影響を除く」という形で、物価の基調判断から外すことが考えられます。ただ、携帯料金の方は政治圧力があったとしても、あくまで個々の企業の経営判断の結果ですから、物価の評価から外すわけにはいかないと思います。
  • (注9)
    日銀は13年4月に大胆な量的金融緩和を行い、「短期決戦」で2%の物価目標達成を目指したのですが、それから6年近くもが経っても物価はさっぱり上がらず、今や「持久戦」、「塹壕戦」を強いられています。そうした中で、最近は安倍政権から外国人労働者の受け入れ拡大や携帯料金の引き下げといった、賃金や物価を押し下げる政策が相次いで打ち出されており(塹壕の後ろから弾丸が飛んでくる!)、困惑を深めているに違いありません。
  • (注10)
    現在の有効求人倍率は平成バブル期のピークを大きく上回る1.6台ですから、景気後退期にはさすがに低下するでしょう。しかし、仮に1.2~1.3台であれば、それは「人手不足が和らぐ程度」です。
  • (注11)
    これは、法人減税後でも法人税率が平均的な個人所得税率を上回ることと、日本的な雇用慣行の結果です。不況期に、例えば米国の企業であればレイオフを行いますが、日本企業は雇用を守ろうとします。このため、企業収益の落ち込みは日本の方が深刻になり、その結果として法人税収が大きく落ち込むのです。逆に、好況期にも日本企業はあまり賃金を上げないため、企業収益が大きく伸び法人税率も大きく伸びますが、これが現在の状況です。
  • (注12)
    昨年の本稿で筆者は、米国株式のバブル懸念を指摘しました。この点の判断は現在も変わっていません。しかし、バブル崩壊の影響については、株式バブルと不動産バブルを区別することが重要です。株式は、基本的にお金持ちが自己資金で投資するものであるのに対し、不動産は借金をして買うものであるため、バブル崩壊時の波及の程度(金融危機にまで至るか否か)が大きく異なるからです。事実、ITバブル崩壊後の不況と住宅バブル崩壊に伴うリーマン・ショック後の不況の深刻さは全く違いました(日本のバブル崩壊でも、金融危機に繋がったのは不動産バブルの方でした)。今回は低格付債の過大評価(スプレッドの縮小)がやや気になりますが、仮に米国の株式バブルが崩壊するとしても、「リーマン・ショック級」の不況にはならないと考えています。
早川 英男

本記事の執筆者

経済研究所
エグゼクティブ・フェロー

早川 英男(はやかわ ひでお)

 

1954年愛知県生まれ。1977年東京大学経済学部卒、日本銀行入行。1983~1985年米国プリンストン大学大学院(経済学専攻)留学(MA取得)。調査統計局長、名古屋支店長などを経て2009年日本銀行理事。日本銀行在職期間の大部分をリサーチ部門で過ごした後、2013年4月より現職。

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