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  5. 「デザイン思考」がうまくいかないのはなぜか?―“システム×デザイン”思考のすすめ―

「デザイン思考」がうまくいかないのはなぜか?―“システム×デザイン”思考のすすめ―

「デザイン思考」がうまくいかないのはなぜか?

―“システム×デザイン”思考のすすめ―

2018年9月14日

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最近、ビジネス現場で「デザイン思考」という言葉を耳にする機会が増えたのではないでしょうか。経営やマーケティングなど、あらゆる種類のビジネスで活用できると言われています。しかし、実際にビジネスに適用するのは難しく、単純に取り入れればいいというわけではないようです。どうすればビジネスにうまく活用できるのでしょうか?

1. 誰もが無意識にバイアスを持っている

私が所属する慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科(以下、慶応SDM)では、デザイン思考を含めたイノベーション教育を行っています。その取り組みの中でうまくいかなかった経験をベースに、分かってきたことを皆さんにお伝えできればと思います。

まずは「Awareness Test」という有名な心理実験の動画を見てもらいましたが、この動画では、白い上着を着たチームと黒い上着を着たチームが入り混じってバスケットボールをパスしています。白い上着を着たチームは何回パスをしたでしょうか? 正解は「13回」ですが、実は動画の中に「Moonwalking bear」(熊の着ぐるみ)が映っていたことに気づいた方はいらっしゃいますか? 

全く同じ原理を使った実験がハーバード・メディカル・スクールでも行われています。5枚のレントゲン写真を用意し、1枚につき5~10箇所のがん細胞を放射線技師に見つけてもらう実験です。4枚目までは順調に見つけていきましたが、5枚目だけは多くの技師が「がん細胞のない画像」だと言いました。実は5枚目には、がん細胞の代わりにゴリラが映っています。しかし、放射線技師の83%がゴリラを見逃すという結果となりました。

これらの実験から分かることは「人は無意識的に情報を選択している」ということです。そして、同じことを繰り返していると同じ情報の選択を無意識的に行うこととなり、その結果として、「専門家は専門領域の外側を見逃す」ということです。「Awareness Test」の動画では、白い上着のチームとバスケットボールの情報は意識に上っても、それ以外の情報は意識に上らないので、Moonwalking bearを見逃すことになりましたし、レントゲン写真の実験では、がん細胞を探そうとするので、がん細胞の情報だけが意識にあり、大きなゴリラでも意識に上らなかったのです。

日々の生活でも同様です。誰しも同じような情報ばかりが無意識に上がってくる「バイアス」を持っています。バイアスが悪いわけではなく、バイアスがあることを前提にしたうえで、これを超えていくために違うバイアスを持った人の相互作用を生む「多様性」を持つことが必要になります。

バイアスの外を考えることを「Thinking outside the box(=既存の考えに囚われずに考える)」「イノベーティブに考える」という言い方で表現します。慶応SDMでは、偶然にバイアスの外を考えるのではなく、狙ってそれができるような人材を育成し、そのやり方を研究しています。他の人と違ったことを考えるには、他の人と同じ結果になりやすい論理性や客観性ではなく、直感や主観を活用します。一方で、狙って行うために、さらに、人に納得してもらうためには論理的で定量的な客観性を持って説明する必要もあります。私たちはその両方ができる人材を育成することに取り組んでいるのです。

2. 専門家を束ねる人材を育成する慶応SDM

慶応SDMは、インターディシプリナリー(注1)の体系化や研究、人材育成にフォーカスした大学院としては日本唯一だと思います。2008年に創設した際、多くの企業のトップに「これからどういう人材を育成すべきか」とヒアリングした結果として、「世の中の課題のほとんどは1つの専門性で解けるのではなく、複数の専門家の協力で初めて解けるものがたくさんある」ので、「複数の専門を統合する人材の育成が必要」という指摘を受けたそうです。

実際、大学でそういった人材の育成をやっているかというと、やっていません。では、そういった人材の育成を大学も担うべきではないかと言われたそうです。そこで慶応SDMでは「専門家を束ねるという専門性を持つ」人材を育てる教育を実施しています。

所属する学生の大半は社会人です。新卒の社会人から定年後に入学する人など20代から60代までの学生が修士課程の中に入っています。働いている分野も多種多様で、タレントや医師、ベンチャーの社長などが入学することもあります。

慶応SDMで学ぶ基盤として、様々な専門分野を統合するインターディシプリナリーを推進するベースとなるのが「システムズエンジニアリング」という考え方です。元々、「システムズエンジニアリング」は、電気工学や機械工学、ソフトウェア工学など各種工学を集めて1つのシステムを作り上げるためのインターディシプリナリーな分野として生まれてきました。

それに加えて、0から1を考え作り出す「デザイン学」という学問と、それを実際に実行するための「マネジメント学」を1つの大学院で教えるというのが慶応SDMの特徴です。私たちが育成を目指す人材とは、一般的なT字型人材ではなく「∇(ナブラ)型人材」(注2) です。

3. 日本人のアプローチに合わないまま広まった「デザイン思考」

「デザイン思考」とは、米スタンフォード大学のd.schoolと、コンサルティングファームのIDEOがベースを考案して広げたものです。「デザイン思考」は、当時のスタンフォード大学の機械工学科の教員が、スタンフォード大学の学生に必要なところを補足するためのアプローチとして取り入れられた考え方です。実際にはモックアップなどのプロトタイピングを見ながら設計や営業など多くの人が一緒に議論することでユーザーのことを考えて良い製品に仕上げている日本のアプローチを参考に体系化をしたものです。

スタンフォードの学生のレベルは非常に高く、分析力やロジカルシンキングなどに長けています。そこに、利用者に共感し、他のメンバーと協力して議論し、トライ&エラーを繰り返していくということを教えるために「デザイン思考」は作られました。スタンフォード大学では5つのモードを定義していますし、IDEOはデザイン思考を「4つのマインドセット」だと言っています。

「デザイン思考」は世界的なブームとなりましたが、実際に世界各地でイノベーションが起きているというわけではありません。5つのモードで定義された「デザイン思考」ですが、これらを順番に実施する「ステップ」として実施するものであるというふうに誤解されてもいます。しかし、実際には、ある時にはこのモードが、別の時には別のモードがと、適切なタイミングで適切に組み合わせて進めることが重要なのです。

また、IDEOでは「デザイン思考」を以下のような「4つのマインドセット」と定義しています。

(1)常に人間を意識して考える(Human-Centered)
 1つ目が「Human-Centered」という考え方です。多くのモノづくりでは、ついついプロダクト(製品)を中心に考えてしまいがちですが、ユーザーに共感して、ユーザーを中心に考えることを提唱しています。例えば、「エクストリームユーザー」(極端すぎる消費者)という言葉があります。

「エクストリームユーザー」について、慶応SDMの授業エピソードを紹介します。企業の困りごとに対する解決策を提案する「デザインプロジェクト」という授業を実施していますが、2017年には、新規事業の創出を目指したいという食品関係企業の依頼に応える取り組みを行いました。

その中で学生たちは、1週間の間、すべての食事でその会社の冷凍食品を食べるという「1週間冷凍食品生活」に取り組みました。毎食冷凍食品を食べ続ける「エクストリームユーザー」として感じたことは「冷凍食品は調理が面倒臭い」というインサイトでした。

実際に毎食食べていると、電子レンジに入れる前の準備や、食品ごとに調理時間や必要ワット数が異なり、毎回きちんと確認しないといけないことに気づいたのです。学生たちは「食品ごとに異なる調理方法で困っている人がいるのではないか」という仮説を立て、調査を実施しました。その結果、細かく記載された調理法などをきちんと読み取れない高齢者が、調理に失敗していることが分かりました。これは今後の高齢社会で課題になると考え、調理手順や調理時間とワット数を一定にした商品シリーズを提案したのです。

これは、商品の中身に合わせて調理方法(パッケージの開け方、ワット数、時間)を決めるのではなく、ユーザーの調理方法に合わせて商品の中身を考えるという、人間中心のアプローチから生まれた事例だと言えるでしょう。

(2)多様性を生かすことによる恩恵「Collaborative」
 2つ目が「Collaborative」です。2004年にハーバード・ビジネス・レビューに掲載されたLee Flemingの. "Perfecting Cross-Pollination."によると、チーム構成員の専門分野の多様性とアウトプットのイノベーション価値の関係は、多様性が低い方がアウトプットの平均値は高く分布は広がらない。一方で、多様性が高いと平均値は下がるが、分布は広がるという結果が出ています。つまり、専門家ばかりだと正しいことを言うので、きちんとした成果が出ますが、専門性バイアスの中でしか答えが出てきません。専門家でない人が入ってくると、専門家からすればダメなアイデアもたくさん出るものの、バイアスが違うので、触発されて全く違うイノベーティブな発想が生まれるというのです。

多様性を常に上げろと言っているわけではなく、今までの延長線上で確実に改善するスモールステップを狙う場合は、多様性を上げない方がよいのですが、今までとは全く違うところを狙うには、多様性を上げざるを得ない。しかしながら、アウトプットが必ずしも良いものになるとは限らないので、トライ&エラーでイノベーションを目指していくというアプローチなのです。何を狙うかによって多様性をコントロールするのが今のマネジメントのやり方とされています。

(3)どのような状況でも自分たちはできるという信念「Optimistic」
 3つ目が「Optimistic」です。「必ずできる」という信念がないと、物事を最後まで頑張ることはできないでしょう。

慶応SDMでは、新しいアイデアを考え、プロトタイプを必ず作って評価した結果を発表することを2週間に1回の頻度で実施しています。慶応SDMの”デザインプロジェクト”という授業で2017年に優勝したチームは、最後まで「自分を信じること」を励みに乗り越えたそうです。

最後まで自分を信じないと新しいものは生み出せない。それを端的に言っているのが、IDEOの創業者であるトム・ケリー氏、デヴィッド・ケリー氏が書いた「Creative Confidence」です(日本訳では「クリエイティブ・マインドセット」)。また、デヴィッド・ケリー氏のTED動画もお薦めです。彼は、日々の生活の中で間違いを指摘されたり、変だと言われたりすると、クリエイティビティを失っていくと考えています。昔持っていたクリエイティビティを表に出していくと、誰でもクリエイティビティを発揮できると主張しています。

(4)早く、たくさん失敗して経験から学ぶ「Experimental」
 最後は「Experimental」です。早く、たくさん失敗して経験から学ぶことが重要だという考え方です。d.schoolでは「Protype&Test」という言い方をしています。通常の予測可能性が高いビジネスでは、正しい1つのプラン(Single Right Plan)を立てて、計画通り実行することが大事です。一方、新規ビジネスはやってみないと分からないことがたくさんあります。計画通りいかないので、トライ&エラーを実施する必要があるのです。

こうした5つのモードや4つのマインドセットをどう実践するかは人によって全く異なります。デザイン思考は、様々なアプローチ方法が様々な実践者から示されています。

4. “システム×デザイン”思考とは?

私たちは、「デザイン思考」を生かすには、日本に合った形でのアプローチにしなければいけないと考えています。そこで言い始めたのが「“システム×デザイン”思考」という言葉です。偶然ではなく、狙ってイノベーティブに考えられないか、というものです。ポイントは「多様性」「システム思考」「デザイン思考」の3つです。

【図1】“システム×デザイン”思考
【図1】 “システム×デザイン”思考

ボックスの外(既存概念)に出るときは多様性が必要ですが、単に多様な人を集めるだけでは効果は出ません。そのため、多様性の生かし方や集合知の出し方、原理を理解したうえで、多様性を生かす必要があります。

「システム思考」は「システムズエンジニアリング」の基礎となっている思考です。通常は「因果関係ループ図」による世界理解が用いられます。しかし、これは手法であり、狭義のシステム思考を指します。私たちが考えているのは、広義のシステム思考で「木を見て森も見る」という、俯瞰的に捉えて系統的に考える「Systemic&Systematic」な考え方です。

また、「目的指向」(Goal Oriented)も重要なキーワードです。元々、「システムズエンジニアリング」はユーザーの要求を分析して、それをもとに作り上げるという目的指向性のある考え方です。物事を俯瞰的・系統的に捉えて、抜け漏れのない形でゴールを目指すというのが、その根幹にあります。

「システムズエンジニアリング」では、複数の専門性を統合することが基本にあります。多様な専門家を統合するための工夫として、「多視点からの構造化と可視化」を活用します。多様な専門家は、気になるポイントも多様です。だからといって多様な視点で議論をすると、議論が噛み合いません。このため、視点を限定して議論します。例えば、まずは価値の視点、次にユーザーの視点など1つ1つの視点で区切ります。そのうえで、「構造化」と「可視化」というアプローチを取ることで、多様な人たちが同じ土俵で議論できるようにしています。

【図2】システム思考とは?
【図2】システム思考とは?

「構造化」と「可視化」とは、基本的には伝えたい情報を抽出して、「構造」として伝えたいことを付加することで、自分が伝えたいことが相手にも伝わりやすくなります。相手もそこに議論を集中することができます。この仕組みにより、多様な専門家が単に集まるのではなく、仕組みとして統合できる土台を提供しています。

そして、システムズエンジニアリングは、何か目的(Goal)があると、それを実現する仕組みをデザインする工学的なアプローチであることは上述しました。この目的を、“ボックスの外のアイデアを考える”ということにすれば、そこに至る思考過程そのものをデザインすることができます。つまり、思考の流れをデザインすることが可能なのです。

この多様性を統合する仕組みと思考の流れをデザインすることが、“システム×デザイン”思考における“システム”の重要なポイントになります。また、さらにいくつか“システム”といっている理由となる点もあります。

例えば、最近特に多いのが、人工知能(AI)やビッグデータ、IoT(モノのインターネット)などの特有の技術を価値につなげたいという依頼です。技術単独では価値にはならないので、これを価値につなげるためには仕組みをデザインする必要があります。ある技術要素を価値に昇華していくための仕組みをデザインするという意味で「システムズエンジニアリング」が用いられます。

また、これらの一連の思考過程が可視化されると、自分たちがどういう議論を経てここに至ったのか、そして失敗した場合でも、どこまで戻ればよいのかといったことも議論していくことが可能となります。これを「思考のトレーサビリティ」と呼びます。思考が追跡可能になれば、次のステップを効果的に設計することもできます。

そういった特徴があるので、単なる「デザイン思考」ではなく、私たちは“システム×デザイン”思考と呼んでいます。“システム×デザイン”思考というのは、どこまでが「システム思考」で、どこまで「デザイン思考」かを区別せずに融合させていることを意味しています。「デザイン思考」も思考の流れの1ステップとして活用していくのです。

思考の流れをデザインするといっても、特殊なことをやっているわけではなく、昔から言われている思考の発散と収束をやっているだけに過ぎません。ただ単純に思考の発散と収束を繰り返すのではなく、ゴールを見据えてその流れをデザインします。しかしながら、思考の流れを一度デザインして終わりではありません。実際には、思考の発散と収束の中で「インサイト」と呼ばれる気づきを得ながら、それに基づいて、思考の流れを再設計し最終的なゴールへと向かいます。思考の発散と収束を単純に繰り返すだけでなく、適切なタイミングで適切に組み合わせていきます。

5. イノベーション創出活動のマネジメントの難しさ

イノベーションには、2つの要素があります。1つが「新価値創造」で、もう1つが「普及すること」です。新価値を創造して普及して初めてイノベーションとなるというのが定義であり、イノベーションに造詣が深い玉田俊平太教授(関西学院大学経営戦略研究科)は、その2つを合わせて「創新普及」と呼んでいます。

イノベーションを起こすことは非常に難しくて簡単なことではありません。リーンスタートアップによると、アメリカの西海岸で生まれているベンチャー企業では、当初考えていたアイデアと最終的にビジネスになったアイデアとでは、70%くらい違っていると言われています。途中でどんどんアイデアをビジネスに合うように変えて最終的にビジネスになっているというときに、これを「ピボットしながら変えていく」と言います。日本で間違いを生んでいて、アイデアをプロトタイピングとテストしてみて、うまくいかないと「ピボットしろ」と言われ、別のアイデアを試し、それを繰り返していくわけです。これをやっているともしかすると永久にビジネスはうまくいかないかもしれません。

面白いアイデアを見つけた場合は、その面白さのポイントであるインサイトを識別します。このインサイトはそのままに、プロトタイピングとテストを繰り返しながらアイデアをビジネスになるように変えていくことをピボットと言います。つまり軸が必要なのです。

プロトタイピングの重要性もよく言われますが、プロトタイピングにも色々とあることが理解されていません。例えば、初期のアイデアを探るためのプロトタイピングが存在します。これは作りながら考えるとか、手を動かしながら考えるという言い方をされます。d.schoolでは、Prototyping for Empathyなどとも言います。また、アイデアから識別したインサイトが正しいかを確認するためのプロトタイピングが存在します。インサイトが正しければ、そこから実現できるアイデアは多様にあります。これらのアイデアに至るためのインサイトを確認するためのプロトタイピング、あるいはアイデアそのものを確認するためのプロトタイピングもあります。このように多様なプロトタイピングを繰り返しながら、インサイト中心のビジネス展開を試すことで、改善されていくスパイラルになります。

【図3】インサイト中心の進め方
【図3】インサイト中心の進め方

多くの大手企業では、既存の事業をベースに新規事業に挑戦する「二階建て経営」を行っています。企業が存続する源泉となる既存事業は、崩すわけにはいかないことがほとんどです。今のビジネスの延長線上でお金を稼ぐことは「知の深化」とも言えます。コストを安くしたり、性能を上げたり追加したりして、失敗しないように事業を展開するために、きちんと計画を立て、計画どおりに実施することを管理していきます。

一方、新規事業は、新しいビジネスを探すため、「知の探索」と言えます。この場合は、新たな挑戦となるため、やってみないとわからないことも多いので、計画どおりに実施するのではなく、トライ&エラーを行いながら事業を進めます。

大手企業にとっての難しさは、これら既存事業と新規事業の2つの事業は全く違う評価を1つの企業で行わなければいけないということです。例えば、既存事業の評価と同じやり方で新規事業を評価すると決してうまくいきません。同様に、新規事業の進め方と同じやり方で既存事業を評価するのも適切ではありません。

6. 新規事業の価値を創造するために(リフレーミングの重要性)

新たな事業を考えようとするとき、どんな課題を解決するのか(Why)、誰がどんな価値を得てそのためのアイデアとはどんなものか(What)、それをどういうふうに実現するのか、ビジネス規模はどれくらいになるのか(How)などを揃えて考えることを教えます。【図4】に示した、これら5つの項目をセットとして、プロトタイピングを交えながら考えていくことが必要なのです。いくら良い問題定義で、良い価値を提供する良いアイデアであったとしても、実現できない、あるいは事業規模が全く合わないのだったら、採用はできません。ですので、とにかく早い段階からこれら5つの項目をすべて考えることが重要なのです。実際に慶應SDMの授業では2週間ごとにこれらすべてを新たに考えて発表させています。

問題定義が普通だと、そこからイノベーティブなアイデアにつなげていくのはなかなか簡単ではありません。逆に問題定義がイノベーティブであれば、そこから出るアイデアは面白いものになりやすい。そのため、リフレーミング(課題の捉え直し)をすることを、まず最初に学びます。しかしながら、リフレーミングをすることは簡単ではないので、慶応SDMの授業では、5つのリフレーミングアプローチを教えることで、リフレーミングを行いやすくしています。

【図4】考える項目
【図4】考える項目

また、ブレインストーミングなどによって、イノベーティブなことを考えることを教えてきましたが、これだけでは十分ではないこともわかってきました。つまり、いくらイノベーティブなものを思いつけたとしても、それがイノベーティブであると理解して見つけ出さないと、結局はアイデアとして採用されません。さらに、それがどのようにイノベーティブであるのかを説明できないと、みんなの理解を得ることもできません。残念ながら、これらはそれぞれ別の能力なので、それぞれトレーニングをしてあげないといけないのです。つまり、「イノベーティブなものを考えつける」「イノベーティブなものを見つける」「イノベーティブさを説明できる」という異なった能力を身につける必要があるのです。このため、慶應SDMではこれら3つの能力を身につけるような課題を出しています。この3つを訓練することが重要です。

【図5】イノベーティブ思考能力
【図5】イノベーティブ思考能力

私たちは、この3つができるようにするためのスキルセットとマインドセットを教えています。しかし、最も重要なことを教え切れていません。それは「情熱」です。新しいことをやるためには、最後は情熱がないと成し遂げることができません。

7. 日本には日本に適したアプローチが必要

いくらアイデアを持っていても実現できなければ意味がないと考えます。「何を作るか?」(What to make)だけでなく、それを「どう実現していくか」(How to make)も必要なのです。これらは別のものとして考えられていますが、実際には、アイデアが実現できないのであれば、別のアイデアを考えざるを得ません。つまり、これから切り離せるわけではなく、相互に関係しているのです。そのために慶應SDMでは、What to makeのための“システムxデザイン”思考と併せて、How to makeのためのシステムズエンジニアリングを同時に教えているのです。

「デザイン思考」とは、元々スタンフォード大学の学生が4つのマインドセットを持つために体系化されたものです。それにベースの違いを加味したアプローチがあれば、私たちでも効率的になれるでしょう。多様性が機能する仕組みや思考の流れをデザインすることなど、日本人がデザイン思考と一緒に意識しなければならないことを加味した、日本に合ったアプローチが必要なのです。Thinking outside the boxを始めてみてはいかがでしょうか。

(※本記事は、2018年6月25日の講演に基づいたものです。)

注釈

  • (注1)
    多くの分野の専門知識や経験が必要な研究課題などにあたるとき、様々な領域の学者や技術者が協力し合って横串を通すこと。
  • (注2)
    ∇ナブラとはヘブライ語で「竪琴」を意味する。専門性と一般性が強固にぎっしりつながっているという意味で、ナブラ型人材は専門と世界のつながりを多様な意味で理解し実践する人間のことを指す。
白坂成功

本記事の執筆者

慶應義塾大学大学院
システムデザイン・マネジメント研究科
教授

白坂 成功(しらさか せいこう)

 

東京大学大学院工学系研究科航空宇宙工学専攻 修士課程修了。その後、三菱電機株式会社にて宇宙開発に従事。技術試験衛星VII型(ETS-VII)、宇宙ステーション補給機(HTV)等の開発に参加。途中欧州の人工衛星開発メーカーに駐在し、欧州宇宙機関(ESA)向けの開発に参加。「こうのとり」(HTV: H-II TransferVehicle)開発では多くの賞を受賞。2004年度より慶應義塾大学にてシステムエンジニアリングの教鞭をとり、2011年度より現職。

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