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インターネットは社会を分断するのか?

2018年7月13日(金曜日)

1. 社会の分断とインターネット

インターネットが登場した時、ネットによって人々は時間と空間の制約を超えて交流することが可能になり、体験と知見が共有され相互理解が進むと期待された。相互理解は民主主義の基盤であり、ネットは民主主義をより良くすると素朴に信じられていた。しかしながら、現実には相互理解が進むというより誹謗と中傷が跋扈(ばっこ)し、相互批判ばかりが目立つようになった。人々の政治的な意見は左右の二つの陣営にますますわかれていき、社会は分断されているという印象が生まれる。アメリカでは、この分断はデータによって裏付けられており、分極化(polarization)と呼ばれている。

分極化が起きるのは、ネットでは自分好みの情報ばかりを選ぶ一方で反対の意見には接しないという「選択的接触(selective exposure)」が起こりやすく、「エコーチェンバー」現象が加速するからであるとされる。エコーチェンバー現象とは、自分と同じ意見がエコー(こだま)のようにかえってくるような閉じたコミュニティでコミュニケーションを繰り返すことで、自分の意見が増幅・強化される現象である。ネット上のSNSではこの現象が起きやすいとされる。

ツイッターのフォロー相手やフェイスブックの友人は、自分に近い意見の人になりがちである。また、グーグル検索でカスタマイズした場合やフェイスブックでのニュース配信もその人の過去の履歴に依存するので、自分好みになりやすい(フィルターバブル)。かくして人々の接する情報はその人の元の意見に沿ったものに限定され、社会は分断されていく・・・。これが、インターネットと社会の分断に関する一般的な説明である。

確かに、わが国でもたとえばネトウヨと呼ばれる人々が集まるサイトや掲示板のコメント欄では、同じような意見があふれており、互いに声をそろえるうちに過激化しているように見える。リベラル側でも、原理主義的な環境主義者や反原発サイトはそれに沿った意見一色になっており、異論をはさむことはほとんど不可能に思える。ネット上では過激な意見が目立ちやすいのは事実だが、わが国でも本当に政治的な意見の分極化は起きているのだろうか。そして、その原因はインターネットにあるのだろうか。

2. 過激な意見を持っているのは誰か?

私たちは、上述したような疑問に答えるために、インターネット利用者に対してアンケート調査を2度実施し(2017年8月と2018年2月)、その回答を分析した(注1) 。

まず、1回目の調査では、以下のような政治的な争点を 10 個用意して、賛否を「強く賛成」(1)から「強く反対」(7)まで 7 段階で答えてもらった。その平均値の分布を示したのが図表1である。

問:次の意見に賛成か反対かお答えください。

  1. 憲法 9 条を改正する
  2. 社会保障支出をもっと増やすべきだ
  3. 夫婦別姓を選べるようにする
  4. 経済成長と環境保護では環境保護を優先したい
  5. 原発は直ちに廃止する
  6. 国民全体の利益と個人の利益では個人の利益の方を優先すべきだ
  7. 政府が職と収入をある程度保障すべきだ
  8. 学校では子供に愛国心を教えるべきだ
  9. 中国の領海侵犯は軍事力を使っても排除すべきだ
  10. 現政権は日本を戦前の暗い時代に戻そうとしていると思う
(注)指数の計算にあたっては、1、8、9については回答の値を逆転し、回答の値から4を引いた値を平均した。

【図表1】政治的意見の分布度
【図表1】政治的意見の分布度
(出所)筆者作成

この図を一見してわかるように、この調査の回答者の政治的意見は、中庸的なものが多く、ほぼ正規分布に近い。分極化とはこの分布が両端にひろがることである。もしネットの利用で分極化が進むというのなら、ネットを利用する人ほど両端に位置するだろう。

そこで、政治的な意見の過激度(左右どちらかに極端かどうか)を測定する指標を作り、それと回答者の属性(年齢、性別)や各種メディア(ネット上のブログやSNS、TV番組、新聞など)への接触度との関係を分析した。その結果、過激度にもっとも大きな影響を与えているのは回答者の年齢であり、年齢が高いほど過激な意見を持つ傾向があることがわかった。ツイッターやフェイスブックの利用も意見の過激度と有意な正の相関関係があるが、その程度は年齢ほどではなかった。

3. 分極化の原因は何か?

ネットの利用は意見の過激度と正の相関関係があることはわかった。しかし、一度の調査だけでは因果関係はわからない。つまり、ネットを利用しているから意見が過激になるのか、過激な意見を持っているからネットを積極的に利用するのかはわからない。私たちは最初の調査から6か月後に同じ対象者に対して二度目の調査を行い、分極化が進んでいるかどうか、進んでいるとすればネットがその原因なのかを分析した。

結論から言えば、分極化は進んでいた。1回目と同じ質問で政治的意見の分布をはかり、過激化の程度を指数化したもの(分極化指数)を見ると0.5~1.0 程度変化した人が相当数いた。設問が10問あるので、そのなかの1問だけ意見が1単位過激化(明確化)したとすると(たとえば「やや賛成」から「賛成」に変化等)、指標は 0.1しか変化しない。0.5の変化が起こるためには、このような変化が5 問で生じる必要がある。そして6か月という短い期間ではあるが、分極化している傾向が認められた。

しかしながら、この指数と回答者のメディアとの接触度の関係を分析したところ、分極化指数とフェイスブック、ツイッターの利用との間には有意な関係は見られなかった。フェイスブックやツイッターを6か月の間に新しく始めた人たちの間でも、また以前から継続的に利用している人たちの間でも、意見の過激化が進んでいるという傾向はなかった。また、ネット上のブログを読み始めた人たちは、意見が過激化するのではなく、逆に穏健化する傾向にあった。つまり、今回の調査では、世の中で言われているように、インターネットでのコミュニケーションが政治的な意見を過激化させ、社会の分断につながるという証左は得られなかった。分極化が進んでいる兆しはあるが、仮にあるとしてもネット利用とは無関係である。

インターネットでは、SNSの友人関係や検索エンジンのアルゴリズムなどによって自分の好みの情報ばかりが集まってくる傾向があるのは事実だが、一方で、テレビや新聞などの伝統的なメディアに比べて多様な情報にアクセスするコストは低く、自分とは異なる立場にある人たちの意見に接する機会も多い。また、もし政治的に過激なブログにアクセスして共感したとしても、読み手の側が左右いろいろなブログを合わせて読んでいれば、すなわち選択的接触をしていなければ、その人の意見は過激化せず、むしろ多様な見方を学んで穏健化する契機にもなりうる。私たちの調査でも、若い人たちほどインターネットで多様な意見に接していることがわかった。

今回の私たちの調査結果からは、分極化を招いている原因はインターネットではないことが示唆された。年齢が高い人ほど過激な意見を持つこともわかっており、この点からもネットの影響は疑わしい。ネットの利用で意見が過激化するなら、ネットに親しんだ若年層ほど過激化しそうなものであるが、事実は逆だからである。

インターネットが大きな影響を与えるとすれば、すでに考え方が固まっている高齢者ではなく、まだ意見が明確になっておらず、またネットに親しむ時間の多い若い人たちであろう。その若い人たちが分極化していないという事実は、ネットへの期待を抱かせる。確かにネットでの議論には誹謗中傷など実りのないことが多い。若い人たちの多くは、炎上や誹謗中傷を恐れて、インターネットは真剣な議論をするところではないと考えている。しかし、ネット上で炎上が起きる原因は、意見が固まった特殊な人たちの正義感による書き込みであることが多いこともわかっており、多数派の行為ではない(田中辰雄・山口真一(2016)『ネット炎上の研究』、勁草書房)。少なくとも現状ではネットが意見の過激化を引き起こしているわけではない。ネット上の適切な場づくりとファシリテーション、参加者(特に若い人たち)に対する教育や意識付けを続けていくことによって、これからのインターネットを当初に期待されたような建設的な討論空間にすることも可能ではないだろうか。

注釈

(注1) : 一度目の調査・分析結果は、田中辰雄・浜屋敏「結びつくことの予期せざる罠-ネットは世論を分断するのか?-」(富士通総研 研究レポート No.448、2017年10月)にまとまっている。また、二度目の調査結果は、田中辰雄・浜屋敏「ネットは社会を分断するのか-パネル回帰からの考察-(仮)」(富士通総研 研究レポート)として公開予定である。

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【調査・研究】


田中辰雄(慶應義塾大学)
田中 辰雄(たなか たつお)
慶應義塾大学経済学部教授
専攻は計量経済学。主要著作・論文に、『ゲーム産業の経済分析』(共編著・東洋経済新報社、2003年)、『モジュール化の終焉』(NTT出版、2007年)、『著作権保護期間』(共編著、勁草書房、2008年)、『ソーシャルゲームのビジネスモデル:フリーミアムの経済分析』(共著、勁草書房、2015年)、『ネット炎上の研究』(共著、勁草書房、2016年)ほか

浜屋敏
浜屋 敏(はまや さとし)
株式会社富士通総研 経済研究所 研究主幹
専門は経営情報システム。早稲田大学、立教大学 非常勤講師。主要著書に、『プラットフォームビジネス最前線』(共編著、翔泳社、2013年)、『IoT時代の競争分析フレームワーク』(共編著、中央経済社、2016年)ほか
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