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間近に迫る民泊全国解禁:民泊の健全な活性化の鍵を握る公民連携

2018年6月6日(水曜日)

1. さらなる民泊活性化の可能性

2018年6月15日から、民泊が全国一斉解禁される。民泊事業は、旅館業法や「特区民泊(注1)」(詳細後述)により、一部の場所や地域でしか認められていない。民泊普及を後押ししたい政府は、規制緩和を進め、2017年6月「民泊新法」と呼ばれる住宅宿泊事業法が成立した。近く施行となることで、基本的にはどこでも民泊事業が実施可能となる。

民泊とは、法令上の明確な定義はないが、住宅の空き部屋などを活用して、旅行者などに宿泊サービスを提供することを指す。ここ数年のシェアリングエコノミーの台頭により、インターネットを通じた民泊事業は世界各地で展開されている。国内でも、代表企業である米Airbnbや百戦錬磨(注2)をはじめ、いくつかの事業者が民泊仲介サイトを展開している。

訪日外国人旅行者の急増により、日本は慢性的な宿泊施設不足となっている。政府が中心となったビジット・ジャパン(訪日旅行促進事業)開始の2003年、訪日旅行者数は年間521万人であったが、2017年には2,869万人(注3)となった。さらに政府は、2020年に4,000万人、2030年に6,000万人と、訪日旅行者大幅増の目標を掲げている。このような中、民泊は宿泊施設の選択肢として選ばれ始めている。観光庁の訪日外国人消費動向調査(注4)によると、民泊など有償での住宅宿泊利用(注5)は、訪日外国人全体の12.4%、観光・レジャー目的に限ると14.9%となっている。これは、ホテル(78.1%)、旅館(21.9%)に次いで3番目に高い結果(注6)である。客層の年代は「20代以下」の若年層が最も多く(61.3%)、往復交通手段は「LCC」利用者が民泊非利用者より多い。民泊非利用者が1泊7,584円の宿泊費を支出しているのに対し、民泊利用者は4,909円と安いが、その分、滞在日数が非利用者より1~2泊程度長めである。民泊は、若者旅行者の手頃な宿として使われているようだ。

このように日本で民泊ブームが盛り上がる一方、場所さえあれば、誰でも気軽に始められる不動産ビジネスとして認知された面もある。現在多くの民泊が、旅館業法違反の「違法民泊(ヤミ民泊)」と言われている。厚労省は、旅館業法違反の恐れがある事業者に対して、自治体を通じた指導を行っている。指導件数は、2013年度62件であったものが年々急増し、2016年度には10,849件(注7)まで膨れ上がった。また、同省の全国民泊実態調査(2017.3)によると、民泊仲介サイトから抽出した約15,000件のうち、特区民泊も含めた許可物件は16.5%(2,505件)に過ぎない。「無許可」が30.6%、正確な住所が詳細に記載されていない「物件特定不可等」が52.9%とある。登録物件数が、数万件規模の仲介サイトもあることから考慮すると、違法民泊はさらに多い可能性もある。

合法的な民泊事業には、旅館業法の許可が必要である。ただし、1948年制定の古い法であり、基本的にホテル・旅館への適用を想定されていることから、現在の民泊事業に基準が合致しにくい。例えば、住居専用地域は不可という営業場所の制約やフロント設置といった厳しい構造設備などへの基準適用が難しく、結果として違法民泊に流れてしまっている。

このような違法民泊への流れに歯止めをかけるべく、近年政府は、民泊の規制緩和を続々と打ち出している。2013年12月から政府は、国家戦略特区指定の自治体に限り、自ら条例を定めることで旅館業法の適用を除外した「特区民泊」を開始した。旅館業法と異なり、2泊3日以上の宿泊が条件(注8)ではあるが、許可制ではなく認定制へと導入のハードルを下げている。特区民泊を2016年10月末から開始した大阪市では、認定物件数が651施設(2018.4.30現在)まで伸びている。また、2016年4月からは、民泊の営業形態に近い簡易宿所について、旅館業法の運用緩和(旅館業法施行令の一部改正)を行った。例えば、民泊事業ではハードルが高いフロント設置義務において、宿泊者10人未満の小規模施設では緊急対応や代替機能があればフロント不要とした。自治体条例による規制がある場合もあるが、政府としては、規制を緩めることで、健全な民泊を推し進めたいという姿勢の表れである。

さらには、施行間近となっている民泊新法を制定した。これにより、民泊がより活性化する可能性を秘めている。手続きが届出制と、特区民泊の認定制よりさらに簡便で、滞在日数の条件がない。旅館業法や特区民泊では、基本的に宿泊サービスが認められていなかった住宅専用地域を含め、全国どこでも事業可能である。特区民泊にはない営業上限日数(180日)が設けられているが、低稼働である空き家・空き部屋の有効利用と考えれば、大きな問題ではないだろう。

2. 「太陽」の政府 VS. 「北風」の自治体

政府は、民泊をインバウンドの受け皿として、規制緩和を進めることで合法的な民泊を進めようとしてきた。しかし、民泊最前線に立っている自治体は規制強化に動いており、政府との間で温度差が出ている。民泊事業の運用は、自治体に裁量権がある。民泊事業について、政府は大枠を旅館業法、特区民泊、民泊新法により定めているが、詳細については自治体が条例制定により、規制の緩和もしくは強化ができる(図表1)。多くの自治体は、近隣住民の生活への悪影響を懸念し、各法令に「上乗せ条例」を制定することで、民泊の規制強化を図っている。例えば、規制緩和の一つに、簡易宿所のフロント不要(2016.4)があるが、大半の自治体は上乗せ条例によりフロント必須としている。これに対し政府は、条例改正などによる弾力的運用に向けて、再三要請(注9)をしている。

図表1:各法令において自治体が条例制定できる主な内容

規制の緩和あるいは強化ができる主な内容
旅館業法(簡易宿所) フロント設置、トイレ設置基準、採光・照明や寝具類の設備等
特区民泊 宿泊日数制限、居室の床面積や構造設備等
民泊新法 住宅専用地域等での営業、営業日数上限、本人確認手法等

(出所:各自治体の条例を参考に、富士通総研作成)

自治体が規制を強める理由は、違法民泊の問題があるからだ。管理が不十分である違法民泊は、騒音、ゴミ出し問題など生活環境の悪化や犯罪の温床化が指摘されており、実際、凄惨な事件現場となったケース(注10)もある。

このため、民泊解禁前に、営業区域や営業日数を制限する自治体が次々と出てきている。2018年5月15日、観光庁は、都道府県および保健所設置市の150自治体における条例制定の状況を発表した。これによると、3割以上となる51団体(注11)が、規制を強める上乗せ条例を制定している。東京都23区のうち19区、横浜市、名古屋市、大阪市、京都市、沖縄県など民泊のニーズが高い地域が多い。これらの地域は、民泊ブームの走りから違法民泊が横行し、早期から対策に取り組んできた。そのため、危機感を持って、上乗せ条例を制定している模様だ。

上乗せ条例の内容は、民泊が可能となる住宅専用地域、または学校周辺における制限が目立つ。 観光地を多く擁する京都市は、民泊新法成立前から、「民泊対策プロジェクトチーム」の発足や「民泊通報・相談窓口」の設置、民泊対策担当課の新設など、民泊への体制強化に取り組んできた。今回の新法施行を控え、住宅専用地域において、家主不在型の民泊は、閑散期(2か月間)以外禁止とした。大阪市は、民泊への規制をかけない数少ない自治体の一つであった。しかし、議会からの規制強化の声が強まり、住宅専用地域における民泊の全面禁止や学校周辺における民泊制限などの上乗せ条例を2018年3月に制定した。特に厳しい規制をかけているのが、東京都区部の自治体だ。特区民泊第一号として、2013年から先行して取り組んできた大田区では、新法施行を前に、住宅専用地域の民泊を通年禁止とした。大半の区が、住宅専用地域における平日の民泊に何らかの制限をかけており、中央区など平日は区内全域で民泊禁止とした区もある。

このような自治体の規制強化の流れに、民泊促進の規制緩和を阻害すると警戒した政府は、住宅宿泊事業法施行要領(注12)などにより、民泊事業の通年禁止や全域制限は適切でないと指摘(注13)している。逆に厳しい規制は、違法民泊を増長する恐れもある。

3. 公民連携による健全な民泊の管理運営の検討

今こそ、政府と自治体が一丸となって、健全な民泊の管理運営の形を検討すべき時期ではないだろうか。自治体が上乗せ条例制定に動いている背景には、健全な民泊の管理運営を進めるための人手・人材不足という事情もある。民泊物件や宿泊者、地域の見守りなど自治体だけでは難しい対応を、自治体と民間が契約という強い形で役割分担することも検討すべきである。そうすることで、厳しい規制による管理監督という方向ではなく、民間の力を活用した健全な民泊が期待できる。

既に、大手企業の民泊事業参入が相次いでいる(図表2)。不動産関連企業のみならず、その他の業界も熱視線を注いでおり、民泊による新たな事業構築や売上拡大を狙っている。事業内容としては、民泊事業開始時および運用支援が多い。

図表2:民泊事業に参入する主な大手企業

発表時期 企業名 概要
2017.5 エボラブルアジア Airbnbとの業務提携により、Airbnbの日本公式パートナーとして新会社「エアトリステイ」を設立し、民泊事業に参入。協力パートナー(ソフトバンク、ビックカメラ、損保ジャパン日本興亜、CCCマーケティング等)と連携し、民泊運営のワンストップサービスを目指す。
2017.5 ファミリーマート コンビニエンスストア初としてAirbnbと業務提携し、鍵の受け渡しサービス等店舗を活用。
2017.6 楽天・LIFULL 共同で新会社「楽天LIFULL STAY」を設立(2017.3)し、民泊事業に参入。宿泊仲介プラットフォームを構築し、民泊運営のワンストップサービスを目指す。
2017.7 みずほ銀行 邦銀初としてAirbnbと業務提携し、遊休資産の活用促進や民泊周辺ビジネスの創出を目指す。
2017.9 KDDI 高級宿泊予約サイト「Relux」の運営会社Loco Partnersを子会社化(2017.2)。Loco PartnersがAirbnbと業務提携し、民泊事業に参入。
2017.12 住友林業 百戦錬磨との業務提携により、民泊事業に参入。第一弾として、大阪市西区の賃貸マンションを「特区民泊」用として稼働。
2017.12 レオパレス21 東京都大田区にある自社物件を「特区民泊」向けに改装。楽天LIFULL STAYが運営代行。
2018.1 リクルート住まいカンパニー Airbnbとの業務提携により、民泊運営支援事業に参入。不動産情報サイト「SUUMO」に掲載した賃貸物件の空室を民泊に活用。
2018.2 日本航空 百戦錬磨への資本参加・業務提携により、民泊事業に本格参入。自治体と連携した民泊の商品開発を検討。
2018.4 セブン‐イレブン・ジャパン・JTB 両社が共同開発した民泊用無人チェックイン機をコンビニに設置し、店舗を民泊のチェックイン拠点として活用。

(出所:各社Webより富士通総研作成)

民泊新法では、家主不在型の民泊においても宿泊者の本人確認が必要である。ただ、対面式以外に、ICTを活用した方法や周辺宿泊など施設による作業代行も認めている。これにより、民泊への事業参入は容易になるが、地域住民の生活を守る立場にある自治体としては不十分だろう。結果として、さらに上乗せ条例制定へと動くことも否めない。単なる宿泊者の本人確認だけでなく、宿泊者と近隣住民とのトラブルのリスクを極力減らすための手立てを十分に考えておく必要がある。

コンビニ業界は、「ついで買い」を狙い、民泊のチェックイン場所として名乗りを上げている。そこで、単なるチェックイン場所としてだけではなく、宿泊者と近隣住民とのトラブルを未然に防ぐ役割を課すことも考えられる。大きな問題に発展しないよう、チェックイン時の宿泊者への適切な指導、ICTによる宿泊中の常時管理、トラブル時の駆けつけ対応、宿泊者の評価など、大きく人手や設備をかけないフロントに準ずる施設としての機能を持たせることも一案である。

2018年5月23日、観光庁が仲立ちし、主な民泊仲介サイトの運営事業者が、近く業界団体を立ち上げると発表(注14)した。また、2018年6月1日、観光庁は、違法民泊物件における宿泊予約の取り消しを運営事業者に求める通知(注15)を出した。一部運営事業者は、即座に通知に従い、違法民泊物件を排除するなど、政府と運営事業者はともに合法的な民泊を進めていこうとしている。また、2018年6月15日の民泊新法施行と同時に、70年ぶりとなる改正旅館業法が施行となる。行政の立ち入り検査権限の付与や罰金上限額の引き上げ(3万円から100万円へ)など、違法民泊の取り締まりを大幅に強化する。一方で、一室からの旅館業が可能となるなど、さらに民泊に取り組みやすい環境が用意される。民泊を取り巻く環境が整備されつつある今、政府、自治体、民間の連携による健全な民泊事業を進めていくことが求められる。

注釈

(注1): 2013年12月、旅館業法の特例措置として法制定。
詳細は、内閣府地方創生推進事務局「国家戦略特区 特区民泊について」(2018.4.20)
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/tiiki/kokusentoc/pdf/shiryou_tocminpaku.pdfOpen a new window

(注2): 楽天トラベルの元執行役員が2012年6月設立。合法的な民泊物件のみを取り扱う民泊仲介サイト「STAY JAPAN」を運営。

(注3): 日本政府観光局(JNTO) https://www.jnto.go.jp/jpn/statistics/since2003_tourists.pdfOpen a new window

(注4): 観光庁(2017.11.15) http://www.mlit.go.jp/common/001210340.pdfOpen a new window

(注5): 選択肢は「有償での住宅宿泊(Airbnb、自在客など)」

(注6): 他の選択肢は、「別荘・コンドミニアム」、「学校の寮・会社所有の宿泊施設」、「親族・知人宅」、「ユースホステル・ゲストハウス」、「その他」。

(注7): 「旅館業法上の指導等の状況について」(2017.10.6)
http://www.mhlw.go.jp/file/04-Houdouhappyou-11157000-Shokuhinanzenbu-Seikatsueiseika/0000180097.pdfOpen a new window

(注8): 開始当初、「連泊規制(6泊7日)」が壁となりなかなか進まなかったが、2016年10月から2泊3日へと緩和した。

(注9): 厚労省「簡易宿所営業における玄関帳場等の設置について」(2017.12.15)
http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11130500-Shokuhinanzenbu/0000188499.pdfOpen a new window

(注10): 2018年2月、大阪市内の違法民泊が遺体遺棄現場となる事件が発生した。

(注11): 国交省「自治体の条例制定の検討状況」 http://www.mlit.go.jp/common/001228223.pdfOpen a new window

(注12): 国交省・厚労省「住宅宿泊事業法施行要領(ガイドライン)」(2017.12)
http://www.mlit.go.jp/common/001215784.pdfOpen a new window

(注13): 国交省・厚労省「住宅宿泊事業法について(地方自治体の定める条例による制限に関して)」・第26回規制改革推進会議(2018.2.26)資料
http://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/suishin/meeting/committee/20180226/180226honkaigi03.pdfOpen a new window

(注14): 日本経済新聞電子版 https://www.nikkei.com/article/DGXMZO30871050T20C18A5TJ2000/Open a new window

(注15): 観光庁「住宅宿泊事業法の施行日後における違法物件に係る予約の取扱いについて(通知)」
http://www.mlit.go.jp/common/001236987.pdfOpen a new window
以前から同趣旨の通知を発出していた。 観光庁・厚労省「違法民泊物件の仲介等の防止に向けた措置について(通知)」(2017.12.26) http://www.mlit.go.jp/common/001215823.pdfOpen a new window

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渡邉 優子(わたなべ ゆうこ)
株式会社富士通総研 経済研究所 上級研究員
自治体や中央省庁における計画策定支援および行政経営改革や地域経済活性化に関わる調査・研究に従事。
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