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  5. ヘルスケア市場での大きなビジネス構造変化 ―これからのビジネスを考える―

ヘルスケア市場での大きなビジネス構造変化 ―これからのビジネスを考える―

2018年6月11日(月曜日)

ヘルスケア関連の市場が拡大しています。これまでになかった多くのプレーヤーを巻き込み新しいビジネスが次々と創出される中、富士通総研も地域包括ケアの構築、業種・業界にまたがる新しい事業創出、AIなどの新しいICT技術を活用した医療革新などの多くのコンサルティングを通じてお客様を支えてきました。今ヘルスケア業界では、どのような事業構造変革が起き、今後広がる市場に対してどのように取り組んでいくべきか。新たに創出されているビジネス事例などを見ながら考えていきたいと思います。

1.ヘルスケア市場の実態

日本全体の人口が減少する中、日本の高齢化率は、先進諸国、アジア近隣諸国の中でも特に急激に上昇しています(平成28年9月15日時点で高齢者数(65歳以上)が3461万人、高齢化率が27.3%)。超高齢社会が到来して、「人生100年時代」と声高に言われるようになりました。

日本の超高齢社会・健康長寿社会には医療の発展の貢献が非常に大きいと言われています。世界に誇る日本の医療の発展や、生活が豊かになったことによる疾病構造の変化で、発症の可能性がある段階から死に至る段階までの期間が長期化してきています。そのため、一人の治療に携わる専門職が多様化しています。日本の医療は身近さや手術の技量が非常に高い水準にあると言われており、1人あたりの受診回数や平均在院日数は非常に多く、CT(Computed Tomography)を始めとした医療機器も世界各国と比べて多く導入されています。平均寿命、健康寿命の延伸に寄与している一方で、社会保障費の増大という問題は歯止めが利かない状況となっています。

医師を始めとした医療従事者の尽力は計り知れません。しかし、世界各国と比較すると日本の医師数は決して多くありません。地域・診療科における医師の偏在も問題となっており、過労死が懸念される週60時間以上勤務の医師が40%を超えているというデータ(「勤務医の就労実態と意識に関する調査, 労働政策研究・研修機構」より)もあり、今までの日本の医療を支えてきた医療従事者にも働き方改革の波が押し寄せています。

医療や介護を受ける住民の実態、サービスを提供する側の実態、制度として運用していく官公庁・自治体の政策の実態は各々異なりますが、医療や介護だけでなく、保険制度以外も包含したヘルスケアの継続性を担保していくことが我々の世代にも課されています。そのためには重症化予防や、消費支出を期待した早期の予防・発見に大きくシフトする中、キュアだけでなくケアも(注1)含めた次世代型ヘルスケアへの期待は非常に大きいと言えます。

同時に、次世代型ヘルスケアの市場も大きくなると推測されており、健康増進・予防サービス、⽣活⽀援サービス、医薬品・医療機器、⾼齢者向け住宅等の市場は、2020年には26兆円、2030年37兆円になると言われています。市場規模だけでなく、今までは、「がんを治すために病院へ」「頭痛薬が欲しいから薬局へ」「不調の原因を見つけるために医療機器を使った検査を」等、病状ごとにモノ・サービスが提供されており、消費者・生活者の特定・個別のニーズを満たす状態から、サービスの起点を転換し、“ヘルスケアツーリズム”“予防”“終活”といったライフシーンにおける価値を提供することが求められるようになっています。ヘルスケア業界全体・もしくは他業界も交える等、ヘルスケア業界の垣根がなくなってきているとともに、その動きは加速すると洞察します。

2.ヘルスケア市場での新たなビジネス

今までヘルスケアの担い手と考えられていた「医療機関」「製薬」「医療機器」「健康保険」のほかに、その周辺には調剤薬局、医療サービス、フィットネスジム、生命保険、介護等多くの関係者が存在し、それを含め「次世代型ヘルスケア」であると我々は認識しています。この市場では(1)ヘルスケア業界内のビジネスモデル変革、(2)業界内連携が起こりヘルスケア業界でイノベーションが起きてきているとともに、(3)他業界からの参入や(4)ヘルスケアノウハウを生かしてヘルスケア業界から他業界への進出なども起きてきています。(【図1】)

図1動き出したがんゲノム先進医療と今後の展開、ビジネス展望について
【図1】今後のヘルスケア業界の変革

画像などによる疾患早期発見や新しい創薬へのAI活用、機器・IoT基盤・AIなどをまとめてサービス提供する医療機器メーカーによるビジネス、医療現場を支える新しいサービスなど日々生まれてきていますが、新しい技術やライフサイクルの変化に対し、現状のビジネス構造のままでは市場拡大とはなり得ません。すでに業界内のビジネス構造の変化も見られ、「ライフサイクルにマッチした予防分野・医療分野の新しいビジネス」なども生まれてきています。

新しいビジネスの特徴を見ると、単純な他業界からの参入などというシンプルな構図ではなく、例えば医療業界のリソースなどを生かした連携ビジネス型での参入であったり、逆に医療業界のビジネスモデル変革にあたり異業種のノウハウを活用して実現されるなど(1)~(4)の要素がいくつか組み合わさり新たなビジネスが創出されてきています。様々なプレーヤーを巻き込みながら市場が広がっていく点が、ヘルスケア市場の特徴的なところだと考えます。  こういった事例をいくつか見てみたいと思います。

新たな業界の参入

近年、企業の経営資源としての人材に着目し、制度的に健康維持増進を支援する健康経営の取り組みが広がっています。この健康経営の分野ではベンチャー企業などによって様々な健康支援サービスが提供され、多くの企業が取り組み始めています。そこにさらに新しい潮流が生まれてきており、健康経営の自社実践から健康経営のサービス提供そのものに参入する企業も出てきています。ウエアラブル端末・ICT基盤・解析サービス・健康アドバイスなど従業員向けの自社内実践で活用していた調達先が新たなサービスの協業パートナーとなり、そこに、健診情報や個人活動データを収集・解析して行動変容につなげる自社内実践を通じて蓄積したノウハウを大きな差別化要素として、健康経営向けの総合的なサービス提供ソリューションベンダーとしてビジネス化する試みです。
 既存のベンダーとしては顧客であったはずの企業が新規事業参入者に変化し、新たな競合先となる脅威が身近に迫ってきています。健康分野へのシフトの流れに対し、健康経営という新しい市場が生まれることでビジネスモデル変革が発生し、さらにそのビジネスには他業界から参入も起きている状況と言えます。
 このほか、データ解析やAIなどの創薬支援を展開してきたICTベンダーが創薬事業そのものに参入する例も出てきました。これまでICT基盤提供という支援役であった企業が、顧客実践の中でノウハウを蓄積し参入するというビジネス例であり、こういった取り組みも増えてくると考えます。

生活者接点企業・サービス業などによる新しいビジネス

ウエアラブル装置・計測機器の標準装備、さらには毎年の健康診断、提携医療機関によるアドバイスなどが組み込まれた不動産マンションが発売されました。ライフサイクルサービスそのものにヘルスケアが組み込まれた異業種連携の新しいビジネスモデル例です。
 また、健康食材を扱う小売スーパー、医薬品と生活品が揃うドラッグストア、スポーツサービス業など、生活者接点を持つ多くの企業が、店頭での健康測定などに加え、医療機関などと連携して人的アドバイスのサービスを定常的に実施する取り組みも増えています。本業の自社商品・サービスの消費を通じて生活者の健康づくりに貢献する流れを模索し始めているのです。
 不動産業の例にしても小売業の例にしても、本業への相乗効果を狙った付加価値サービスの提供にあたり、不足するヘルスケア業界のノウハウを連携で補完することによって新しいサービスを組み立てることで生活者への価値を創出しています。

シェアエコノミーなどによる競争領域の変化

製薬業界では創薬AI開発を目的に企業とアカデミアを主要構成メンバーとした「ライフ・インテリジェンス・コンソーシアム」を設立し、今後、創薬基盤などはシェアして、医薬品開発を競争領域にするような流れになってくると想定されます。
 また、米国では米国食品医薬品局(FDA)がデジタルヘルスソフトウェアの事前認証プログラムの創出を目標に活動しており、ICT企業7社がパイロットに参画しています。今後、医療ビッグデータや医療機器として認証されたソフトウェア自体がプラットフォームとして提供され、プラットフォーム上でのビジネス創出が競争領域となっていくことも予想されます。
 AIなどの新しい技術発展により、業界内での競争領域を大きく変えるビジネスモデル変革もさらに増加してくるでしょう。

ヘルスヘア業界から他業界へ

成分分析を得意とする企業が、機能性表示食品などの制度改革により健康食品事業に参入し、さらに化粧品事業にも参入した例などもあります。有名なタニタ様も、健康をキーにしながら食堂運営事業に参入した代表例であり、ヘルスケア関連事業のノウハウを活用して他業界に進出する流れも広がっています。

今後さらに進んでいくであろう「治療から予防へ」、「医療機関から自宅へ」という流れに対し、サービスを享受する「タイミング」「場所」が大きく変わってくることが予想されます。業界を超えた様々な企業に事業参入チャンスがある反面、今後の市場のプレーヤーはガラリと変わり、思わぬ競合の発生や淘汰などが激しく起きる可能性も秘めています。
 さらに、1企業でのサービスではなく、これまで考えられなかったような異業種間の連携ビジネスも増加すると予想されます。

3.来たる超高齢社会・健康長寿社会に向けて

では、広がるヘルスケア市場にどう向き合っていったらよいのでしょうか?
 次世代型ヘルスケアの特徴としては、初めに述べたようにライフシーンにおける消費者・生活者への価値提供に大きく変わっていくと想定しています。このような流れの中で、まず忘れてはならないのは、我々自身も1生活者であることだと思います。どのような世の中で豊かな暮らしを享受していきたいかを考えるべきです。健康を維持し予防につなげるための活動を、若い世代から生活の中で楽しく行い、その結果得られた健康長寿の生活をどう享受していくかがカギだと考えます。
  例えば、これまでの取り組みの中では「従業員向けとして血圧計を設置したが、どれだけ使われているのか知らない」「健康測定サービスで数百人の会員化をしたが、数年後に利用者が数人しかいない」といった状況もよく耳にします。単なるモノ・サービスが提供されているだけのビジネスモデルでは利用もされなくなり、持続性に欠けます。前項でご紹介した小売業の事例は、健康計測サービスだけでは持続できなかった過去の失敗例に対し、健康にまつわるコミュニケーションがとれるという価値を、お買い物というライフシーンの中で来店動機に訴えるサービスへの転換であり、それを医療関係者のアドバイスという連携型ビジネスを組み立てることで実現したものです。今後、生活により近い場所でヘルスケア市場が拡大していく想定の中では、あらゆる生活者接点のサービスの中に、ビジネスにつながる課題やチャンスがあると考えて取り組んでいくことが重要です。ヘルスケア領域のビジネス創出の現場でも多くの業界・領域のアイデアが必要になってきており、我々も、これまでの様々な業界のコンサルティングで培ったノウハウが皆様への貢献に広く役立てることができると考え、取り組んでいます。
 また、健康寿命の世の中のためには若年層からの予防につながる取り組みも重要ですが、なかなか広がってきていないのも実情であり、「サービス利用するのは高齢者の一部。若年層中年層の興味をどうしたら引けるのか」といった課題もよく聞きます。特に健康な若年層ではそもそも健康増進に対しての意識を持ちにくく、しかし、こういったニーズそのものが顕在化しない状況に対しても新しいサービスが市場では必要とされています。このような点もまたヘルスケア領域の特徴です。ヘルスケアのキーワードを前面に出したサービスを提供するという発想ではなく、ライフシーンの中で健康増進要素が組み込まれ、自然と利用されるサービスの創出が必要です。
 最後に、社会課題に向き合ったビジネスであることも求められます。たとえ事業が持続できているとしても、単に便利になった、企業として収益を得られた、というだけでは成果を得られたとは言えず、目指すところではないはずです。例えば、新たな医療支援サービスで企業としては収益が上がった。しかし医師の負担増となったり、医療費の削減にはつながっていなかったりという状況でもよいのか? 生活者からサービス料をいただいている。しかし実際利用はほとんどなく、健康長寿への寄与もしていない状況でもよいのか? 便利に自宅ですべてが完結し健康になったが、人とのつながりが減り地域のコミュニティーがさらに希薄になってしまう状況でもよいのか? 社会課題を同時に解決することがゴールとして求められることもヘルスケア市場ならではの特徴だと考えています。
 富士通総研では、これまでも、地域包括ケアシステムの構築、業界での新しいビジネスの確立、AIなどによる医療高度化への貢献、ヘルスケアデータ活用ビジネス、消費者接点の流通企業での健康サービスビジネス等々、多くの新しい取り組みをご支援してきました。
 我々は、人と人のつながり・接点を大切にし、真に使われ・豊かな生活につながることを重視して取り組んでいます。単なる仕組みの提供だけでなく、ステークホルダー全体が豊かな生活空間づくりに自然と行動するような仕掛けもセットで組み込まれていなければ、真に必要とされるビジネスにはならないと考えます。AIなどで医療が効率化された際には、医師の方に空いた時間を患者とのコミュニケーションを充実する時間に使ってほしい。地域や個人のコミュニティーサイクルの中に、セルフケアや、お買い物サービス、介護などが存在し、使われ・効果を発揮するようであってほしい。
 今後も生活者中心のコミュニティーが発展する豊かな世の中づくりに貢献するべく、ヘルスケア領域でのコンサルティングをご提供していきたいと考えています。

注釈

(注1):「キュア」が疾病を治療・改善させることを主な目的としている医療を指すのに対し、「ケア」は生活を維持させ豊かにすることを目的としているサービス全般を指す。

関連サービス

【ヘルスケア】


吉田哲也

清水 健介(しみず けんすけ)
株式会社富士通総研 コンサルティング本部 クロスインダストリーグループ プリンシパルコンサルタント
富士通株式会社入社後、流通業でのネットビジネス、営業支援などのシステム開発に従事。2007年富士通総研出向。 現在は商社卸売業を中心に事業マネジメント改革・業務改革の企画から改革実行サポートのコンサルティングを主に担当。


吉田哲也

大原 宏之(おおはら ひろゆき)
株式会社富士通総研 コンサルティング本部 ビジネスデザイングループ プリンシパルコンサルタント
製造業・サービス業における新規事業開発、業務改革、PMO運営、IT戦略立案など、戦略立案から定着化までを支援するコンサルティングに従事。


吉田哲也

湯川 喬介(ゆかわ きょうすけ)
株式会社富士通総研 コンサルティング本部 クロスインダストリーグループ シニアマネジングコンサルタント
2003年某コンサルティング会社入社。2006年7月 株式会社富士通総研入社。 これまで防災、ヘルスケアといった安全・安心分野をテーマに国内外における調査・コンサルティング業務に従事。近年は、主に医療・介護連携や地域包括ケアシステムに関わるコンサルティング業務に従事。