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Cyclical Care & Cure ―循環的なケアおよびキュアへ―

2018年6月8日(金曜日)

世界に先駆け少子高齢化の進展する我が国では、医療システムの破綻の日が近いとする意見も珍しくない状況にあります。この中で、「健康長寿社会」の実現に向けた取り組みの推進では、”Cure”だけでなく”Care”を循環的(Cyclical)に捉えたアプローチも肝要だと考えられます。本稿では、あしたの健康・医療を支える社会システムの創出について、先進事例を踏まえつつ述べます。

1.「医療崩壊」という言葉が生まれて久しい昨今

世界に先駆け少子高齢化が進む日本。国民皆保険制度は、疾病構造の重心が感染症から高齢者医療へと変遷する中で限界が到来しつつあります。医療費は膨張を続けて40兆円を超えており(注1)、その財源確保のためには保険料、公費、自己負担額増額等の困難かつ限られた選択肢しかありません。そして医療保険は他の保険に比べ加入者の平均年齢が高く、1人あたりの医療費が高額化する一方で、平均所得が比較的低いことから財政的に厳しい状況にあります。また、国民健康保険も高齢化に伴う健康保険組合等からの加入により皺寄せが発生しています。このような状況から、最近では我が国の医療システムの破綻の日は近いとする意見も現実味を帯びて来ています。
 この中にあって、国では「健康・医療戦略」の下、「健康長寿社会」の実現に向け、個別化医療や再生医療、先制医療等、いわゆる「次世代医療」の開発を進めていくことになっています。「健康長寿社会」とは、単に長生きする長寿社会を指すものではなく、「いかに『健康寿命(健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間)』を伸ばすか」という点にも着目した社会像です(注2)。
 このように、一見両立が難しそうなことではありますが、少子高齢化、特に高齢化を背景とする財政面などの課題を乗り越え、さらに「健康寿命」が延伸した「長寿」な社会を構築する、ということにチャレンジする/せざるを得ない状況が今、眼前に広がっています。一方で、これは当然とも考えられます。というのは、戦後以来の経済発展に伴い、産業構造が高度化するとともに公衆衛生も向上し、安全に生まれ安全に育ち働き、そして安全に死を迎えられることが当たり前になり、敢えて言えば「人生全うの歩留率」が向上し、必要最小構成の世帯の比率が増えた結果として少子高齢化という現象が発生しているためです。つまり、「少子高齢化そのものが悪ではなく、むしろ皆が望み進めてきた経済発展の副作用」と捉えることもできるわけです。

2.「健康長寿社会」の実現は医療(臨床)分野だけの課題か

では、この乗り越えるべき大きな課題の解決策として目指すべき方向性であろう「健康長寿社会」の実現は、臨床介入を伴う狭義の意味での「医療」分野だけで進めていくべき事柄なのでしょうか?
 バイオテクノロジーに基づきつつ環境要因を考慮に入れ個々の患者に最適化された治療を提供する個別化医療やiPS細胞の臨床応用等で話題になっている再生医療、その他にも抗加齢医療、ロボティクスを含む遠隔医療等々、医学ならびにICTの技術革新の臨床応用により、従来は不可能であった治療の実現や治療効果の向上がめざましく進んでいます。しかし同時に病気の発症や再発そのものを予防する、先制医療のアプローチが、上記の「健康寿命」を延伸することに直接的に貢献すると考えられます。「先制医療」という言葉について、文字通り”先に制する”という単語はこのことを的確に表現していますが、このアプローチでは”医療”以前に生活習慣の改善など健常期が主戦場となりますので「先制”医療”」という言い回しは意味合いが狭く捉えられる可能性があります。”未だ病気が発症もしくは再発していないが、先に制するためにアプローチすべき段階”、もしくは”健康と言うには及ばないが未だ病気と言うほど問題が顕在化していない段階”というニュアンスを的確に表現する言葉として、約二千年前に中国の医学書「黄帝内経」に出現する「未病」というものがあります(【図1】)。


Cyclical Care & Cure ―循環的なケアおよびキュアへ―
【図1】「未病」とは

出所)神奈川県庁ホームページ http://www.pref.kanagawa.jp/docs/mv4/cnt/f532715/p1002238.html
人の健康状態は、ここまでは健康、ここからは病気と明確に区分できるわけではなく、健康と病気の間で連続的に変化しており、その状態を「未病」といいます。


この「未病」概念の下、政策として健康寿命の延伸に、積極的に取り組んでいる地域が神奈川県です。神奈川県は、県民数が900万人を超え、国民の7%を超える人口を擁する大きな自治体です。全国で1,2を争うスピードで高齢化が進み、高齢社会を超えた“超高齢社会”がますます深刻な状態になることが予測されています。この状況下で、神奈川県は、健康寿命の延伸に向けて戦略的かつ精力的に活動しており、平成26年1月に「未病を治すかながわ宣言」を公表し、平成27年10月の「未病サミット神奈川宣言」を受けて、「ライフステージに応じた未病対策」を展開しています。「未病を治す神奈川宣言協力登録制度(現:かながわ未病改善協力制度)」の創設や、「未病センター」の設置、「子どもの未病対策応援プログラム」、「医食農同源の取り組み」、「未病サポーター養成研修」等の提供を進めています(注3)。また、神奈川県の取り組みの特徴として、従来の健康・医療施策の枠にとどまらず、積極的に民間活力を導入する施策を展開しており、「未病産業の創出と市場拡大」を謳い、将来的に公費による助成に頼ることなく、継続的に自走する産業の形成を当初から視野に入れて、県民の健康寿命の延伸を図る施策を推進していることが挙げられます。この「未病産業の創出と市場拡大」に向け、500社を超える様々な業種の企業や法人が参加する「未病産業研究会」の発足、健康経営を推進強化する「CHO(健康管理最高責任者)構想」の推進、「ME-BYOハウス・ラボ」の設置、人材育成や国際連携の推進、特区制度の適用(注4)、併せて健康情報管理やお薬手帳、母子手帳、子育て支援、健康づくり情報通知等のICTサービス基盤の提供といった具体的な取り組みが行われています(注5)。これらの取り組みのように、健康意識が高くそのための行動が顕在化している「健康リテラシー」の高い方々の更なる健康増進だけでなく、「健康リテラシー」の低い方々に対しても行政サービスからの気づきや関連知識の提供によって健康維持増進活動を開始することを促し、活動を支援することも含む地域包括的なアプローチは、健康な生活者を増やしていくうえで有効だと考えます。

3.ケアとキュアの循環的共創による、次世代の健康・医療システムへ

神奈川県の施策のように、「健康長寿社会」の実現に向け地域に根ざした戦略的かつ具体的で精力的な取り組みは、従来より社会を支えてきた医療(Cure)を、病気と付き合いつつQoL(Quality of Life)を向上させるCareにより補うとともに、冒頭に述べた社会保障費の課題の解決にも大いに貢献するものと考えます。実際、国政においても、厚生労働省による「保健医療2035提言書」の中で「疾病の治癒と生命維持を主目的とする『キュア中心』の時代から、慢性疾患や一定の支障を抱えても生活の質を維持・向上させ、身体的だけでなく精神的・社会的な意味も含めた健康を保つことを目指す『ケア中心』の時代への転換」ということが謳われており(注6)、地域に根ざした実践的な取り組みが期待されるところです(図2)。


Cyclical Care & Cure ―循環的なケアおよびキュアへ―

【図2】「健康寿命の延伸した社会」と「未病」

【図2】は、健康な期間である「健常期」、本記事で紹介している「未病」、社会生活を含めた病気の期間である「病期」というように健康状態を分類し、生涯の変遷のイメージを描いたものです。「病期」を、医学・生物学的定義である「疾病」(もしくは「疾患」、「傷病」)ではなく「病気」の期間として捉えることから、フレイル(高齢化に伴う心身の運動機能や認知機能等の低下、慢性疾患の併存等で生活機能が障害され虚弱性が出現した状態)等による寝たきり状態を含めて表現しています。「健康寿命の延伸した社会」とは、「未病」にアプローチすることにより、極力「病期」を短く「健常期」を長くすることが可能になった社会を指します。
 富士通グループでは、上述(注6)のICTサービス基盤である「マイME-BYOカルテ」のプラットフォームを提供するとともに、未だ世間一般で概念が形成されていない「未病」に資するサービスのCo-creationによる創出を、神奈川県庁様ならびに複数の連携企業様等と共に進めています。「未病」へのアプローチにより、CareとCureが循環的(Cyclical)に共創していくことで、健康・医療を支える次世代の社会システムが実現されていくことを目指しています。

注釈

関連サービス

【ヘルスケア】


中野直樹

中野 直樹(なかの なおき)
株式会社富士通総研 経済研究所 主任研究員
2002年、富士通株式会社に入社。商談、システム導入ならびにソリューション開発を行うSE(System Engineer)として電子カルテ、地域医療連携ネットワーク、海外、業際連携、新技術応用等のビジネスを担当するとともに、2012年より株式会社富士通総研を兼務。ER(Econimic Researcher)として主にヘルスケア分野の政策やID制度、ICT技術活用等に関する研究を推進。兼務を継続しつつ、2017年より富士通株式会社のSoE(System of Engagement)推進部門にてCo-creation等の案件を担当。
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