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  5. 動き出したがんゲノム先進医療と今後の展開、ビジネス展望について

動き出したがんゲノム先進医療と今後の展開、ビジネス展望について

2018年6月5日(火曜日)

2018年4月より、国内でがん治療における患者のゲノム情報に応じた抗がん剤治療を行う先進医療が始まりました。本稿では、がん治療における「ゲノム先進医療」をキーワードとして取り上げ、今後のがんゲノム先進医療の方向性、ゲノム情報の二次利用とそれに伴う課題、解決の方向性、および今後の動向に対するビジネス視点での展望について述べます。

1.がんゲノム先進医療とは

先進医療とは、「効果・安全性などの評価が定まっていない新しい試験的な医療技術のうち、保険適用の対象にするかどうかの判断を下すための有効性・安全性の評価を行う医療技術」として厚生労働省が指定したものです。
 「がんゲノム先進医療」とは、がん患者のがんに関連する遺伝子変異に応じた抗がん剤で治療を行うものであり、従来のがん種ごとの治療方法に加え、遺伝子変異ごとに治療方法を検討することを指します。

国立研究開発法人国立がん研究センター(以下、NCC)中央病院では、上記の治療方法として、患者のがんに関する遺伝子を1回の検査で網羅的に解析し、抗がん剤の選択に役立てる遺伝子検査を「先進医療B」として開始しました。(【図1】)
 本遺伝子検査は、NCCが日本人の特徴を踏まえ開発した試薬「NCCオンコパネル」を用いて、がんに関連する114個の遺伝子変異と12個の融合遺伝子変異を1回の検査で調べることができるものです。

図1動き出したがんゲノム先進医療と今後の展開、ビジネス展望について
【図1】遺伝子検査(先進医療B)の流れ
(出所:国立研究開発法人国立がん研究センター:プレスリリース(2018/4/3)
https://www.ncc.go.jp/jp/information/pr_release/2018/0403_2/index.html

ゲノム医療の実施の背景は、(1)遺伝子解析技術の進歩により、がんの原因となる様々な遺伝子変異が相次いで発見され、遺伝子変異を有する一部のがんには、対応する分子標的薬の治療効果が非常に高いことが分かってきたこと。(2)遺伝子の塩基配列を高速に読み出せる次世代シークエンサーの開発により、治療対象になる多数の遺伝子変異を網羅的に短時間で検出することが可能となったことがあります。
 このような背景に対して、特に標準治療が無いがんや標準治療の効果が無くなった患者について、がんの遺伝子を網羅的に調べ、個々の患者のがん組織の遺伝子変異に合った薬剤を選択する治療が望まれている点が、先進医療の実施を後押ししたものと考えられます。

2.今後のがんゲノム先進医療の方向性

今回の先進医療は、オンコパネルを利用した遺伝子解析、抗がん剤の選択に役立てるものであり、全国で11か所のがんゲノム先進医療の中核拠点病院と、それに連なる100か所の連携病院を対象とし、先進医療参加手続きを経て開始されます。(2018/4/1時点)
 さらに、将来的には、全ゲノム情報を対象とした遺伝子解析と、治療方法の開発が推進されています。その中では、患者のゲノム解析の結果を受けて治療方針を決定し、投薬治療を実施したがん患者の診療情報、海外を含めた治験、ゲノム治療情報のデータベース集積などによる遺伝子解析の高度化、治療方法の最適化が求められることになります。
 なお、今回の先進医療は、保険適用の範囲は一部に限定されており、遺伝子解析以外に別途掛かる治療費を考えると、患者にとって治療効果の判断が難しい状況では高額とも言え、検査そのものを保険適用することで、患者負担を軽減することが早期に求められます。
 現在、がんゲノム先進医療を担うのは、前述の中核拠点病院および連携病院ですが、これら病院を支援する組織として、2018年、NCC内に「がんゲノム情報管理センター」が新たに設立されました。本センターでは、患者の診療、ゲノム情報等を収集・解析し、海外を含めたゲノム情報、がんゲノム治療に関わる論文等のデータベースを突き合わせ、患者に対して最適な治療方法の提示を行う一次利用、さらに、収集したデータを二次利用することで、製薬会社、アカデミア等での研究、新薬開発、既存薬の改良等に役立てることも目指しています。
 ただし、個人のゲノム情報は、改正個人情報保護法の「個人識別符号」に該当し、かつ診療情報等は、いわゆる病歴として「要配慮個人情報」に該当します。そのため、二次利用にあたっては、同法への適用・対応が必要であることは言うまでもなく、二次利用にあたり必要な医療情報の匿名加工に関して定めた「次世代医療基盤法」への適用も留意したうえで、慎重に進める必要があります。具体的には、法律上の解釈による適用の整理・検討は言うに及ばず、国(厚労省、経産省等)を巻き込むことで、先進医療の高度化、ゲノム医療に関わる産業面での育成を政策的に進める必要があると考えます。

3.先進医療の今後の展開とビジネス展望について

ここまでは、がんゲノム先進医療の現状に関する内容でしたが、ゲノム解析に関わる先進医療の仮説的な今後の展開と、ビジネス視点で見た場合の展望について述べます。
 従来から、遺伝子検査サービスは各種、存在しており、一般的には、主に個人の特定に活用するDNA鑑定や、個人の体質に関する遺伝子検査になりますが、遺伝子検査で示される疾患発症リスクの根拠となる論文、その論文の選定理由、統計データ等には不明瞭なものも多く存在していることから、医学的見地の信頼性の観点では、懐疑的と言えます。また、一般市民の検査結果に対する理解度も十分なものとは言い難い点が多く、ある意味占いのようなものとまで一部では言われたりしています。
 これに対して、先進医療として開始された「がんゲノム先進医療」は、がんに限定した特定疾患が対象であるにせよ、ゲノム解析を行っての治療目的の投薬について、国がある意味、お墨付きを行ったものであると言えます。
 この流れを未来的な見地から考えた場合には、ゲノム解析による投薬治療を、特定疾患以外にも拡大させていくだけでなく、ゲノム解析結果に基づく予防的な治療への活用、つまり、ゲノム解析から疾患の発現可能性のある異常遺伝子や不要な遺伝子の破壊、遺伝子変異の修復、発現調整等のゲノム編集を行うことにより、発現の芽そのものを摘んでいく治療ということにまで踏み込む話にもなり得るのではないかと考えます。
 従来は、SF的な話、映画の世界での話だったかもしれませんが、近い将来、社会的に実装された現実世界になるものとして、先駆的な取り組みが始まっています。事実、遺伝子検査結果から、予防的にメスを入れたハリウッド女優も存在しますが、より医学的な見地での信頼性の観点から、今後は広がっていく可能性があるのではないでしょうか。(【図2】)

動き出したがんゲノム先進医療と今後の展開、ビジネス展望について
【図2】従来型治療から未来的な予防治療への広がりの可能性

少し現実的な世界に話を戻すと、「Radiomics/radiogenomics」という概念があります。医用画像の特徴や遺伝子の発現パターン、突然変異との相関関係を明らかにしていくことで、診療に役立てる学問、アプローチになります。
 従来は、医師が行っていた画像診断を数値情報に置き換え、ゲノム解析と組み合わせることで、生検を行う前に、ある精度での病気の判別情報を提供することが可能になり、何度も生検ができないような部位の診療に役立つと考えられており、この判別にはAI活用がキーになります。
 ICTの視点で考えた場合、ゲノム解析、画像の数値情報、それに伴うパターン化と診療情報の最適化を行い、医師に対する情報提供として、欧米で先行して実用化されている診療診断支援(Clinical Decision Support System)での貢献が、最も現実的であり、世の中からも求められると考えます。なお、この実践でデータ解析から診療に役立てる流れ(Translation Research)だけでなく、診療結果のフィードバック(Reverse Translation)でデータの蓄積を図り、それをもとにAIによる最適解の導出を高度化することを、現時点で提供しているICT企業は存在しません。そのため、これら一連の流れを実例として積み上げていくことは、技術レベルをさらに昇華させることになり、医療分野において優位性の高いソリューションになると考えます。(【図3】)

動き出したがんゲノム先進医療と今後の展開、ビジネス展望について
【図3】将来的な診療に対してICTの目指すべき役割と考え方

参考文献

  1. 国立研究開発法人国立がん研究センター:プレスリリース(2018/4/3)
    国立がん研究センター中央病院がん関連遺伝子を網羅的に調べる遺伝子検査を先進医療で実施。
    https://www.ncc.go.jp/jp/information/pr_release/2018/0403_2/index.html
    https://www.ncc.go.jp/jp/ncch/information/20180403/index.html
  2. 国立研究開発法人国立がん研究センター:プレスリリース(2018/6/1)
    がんゲノム情報管理センター(C-CAT)開設。
    https://www.ncc.go.jp/jp/information/pr_release/2018/0601/index.html
  3. 厚労省 がんゲノム医療推進コンソーシアム懇談会 報告書(2017/6/27)
    http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000169238.html
  4. 厚労省 第69回先進医療技術審査部会 (2018/3/15)
    資料4.がん遺伝子パネル検査のプロトコールの必須項目および基本的な要件の改訂版(案)
    http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000198150.html
  5. 内閣官房 健康・医療戦略推進本部:次世代医療基盤法の施行(2018/5/11)
    http://www.kantei.go.jp/jp/singi/kenkouiryou/jisedai_kiban/houritsu.html
  6. 国立医薬品食品衛生研究所:遺伝子治療とゲノム編集治療の研究開発の現状と課題
    https://www.kantei.go.jp/jp/singi/kenkouiryou/genome/advisory_board/dai4/siryou4-1.pdf
  7. 厚労省:第4回 ゲノム情報を用いた医療等の実用化推進タスクフォース配布資料:20160127
    http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000110448.html
    • 消費者向け遺伝子検査ビジネス
    • 日本人類遺伝学会: 日本人類遺伝学会「 DTC遺伝学的検査に関する見解」
    • 日本人類遺伝学会「一般市民を対象とした遺伝子検査に関する見解」(2010)
    • 日本医学会臨床部会運営委員会「遺伝子・健康・社会検討委員会「拡がる遺伝子検査市場への重大な懸念表明」」〔会見資料)
  8. Radiomics/radiogenomicsの現状と展望:月刊インナービジョン 2017年8月号
    http://www.innervision.co.jp/ressources/pdf/innervision2017/iv201708_067.pdf

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吉田哲也

吉田 哲也(よしだ てつや)
株式会社富士通総研 クロスインダストリーグループ マネジングコンサルタント
1992年富士通株式会社入社。現購買本部にて、調達業務に従事。2005年、富士通BCM組織立ち上げに伴い異動。2007年、株式会社富士通総研に出向。BCMコンサルティングを経て、現在は、ヘルスケア分野での新事業企画、事業戦略策定コンサルティングに主に従事。