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デジタル社会に適応困難な貧困者の問題
―貧困者のITリテラシー問題と世代別対策―

2018年5月22日(火曜日)

社会のデジタル化と貧困者の関係

現在、社会のデジタル化が進み、生活の隅々までICTが浸透している。その恩恵で社会の利便性が高まる一方、誰もがICTを自在に利用できる理想社会には、いまだ到達していない。

そのため現状では、社会のデジタル化の恩恵を享受するには、ICT機器を的確に操作して、必要かつ適切な情報を取捨選択・活用し、自分が持つ情報の安全を確保できる最低限の能力、すなわちITリテラシー(注1)が必要である。逆にそうした能力が十分でなければ、仕事や生活に支障をきたすようになりつつある。つまり現在の社会では、ITリテラシーが乏しい人々が、安定した職に就けなかったり、詐欺被害にあってしまったり、生活に支障が出るおそれが高まっている。

なかでもICT機器に触れる機会が少ない貧困者は、仕事や日常生活に最低限のITリテラシーを身につけづらいため、そうした危機に瀕しやすい。スマートフォンの普及とともに、社会全体にICT機器が普及しつつある一方で、低所得者のICT機器保有率・使用頻度は依然低いままなのが現状である。例えば、2017年3月時点で世帯年収400万〜550万円未満の世帯では(注2)、スマートフォンの保有率は 8割弱で、パソコンは同8割強、タブレットは同3割強だったのに対して、世帯年収300万円未満の世帯では、スマートフォンの保有率は 4割弱で、パソコンは同5割弱、タブレットは同1割強にとどまる(注3)。

また、特に孤立しがちであると考えられるICT機器を持たない単身者の数は、若年層(15〜44歳)では約91万人(同世代全人口の約2.1%)、中高年層(45〜64歳)では約178万人(同5.5%)、高齢者層(65歳以上)では約59万人(同1.8%)程度であると推計できる(注4)。こうしたことから、若年層や中高年層であっても、ICT機器の使用頻度が低く、仕事や日常生活に必要な最低限のITリテラシーを身につけづらいような、孤立しがちな貧困者が一定数いると考えられる。

貧困者の孤立化:地域・職場コミュニティの弱体化と自己責任論

以前は、ICT機器を使わなくても、地域や職場コミュニティを通じて、人々は容易につながりあうことができた。しかし今では、仕事を求めて地方から流入した多くの貧困者が暮らす都市部を中心に、近所づきあいにもとづく伝統的な地域コミュニティは崩壊しつつある。非正規雇用者や頻繁に転退職する人々が増え、労働組合の組織率が低下した職場コミュニティも弱体化している。さらに、生活保護受給者などの貧困問題に対して「自己責任論」を当てはめる風潮も強まっている(注5)。こうした背景のもと、貧困者の孤立化が進んでいる。

最低限のITリテラシーを身につける必要性の高まり

つまり、ICTの恩恵によって多くの人々が日常生活を便利に過ごせるようになっている一方で、十分なITリテラシーを持たない貧困者は、伝統的な地域コミュニティや職場コミュニティからの保護も受けられず、孤立したまま社会に適応しにくくなりつつある。そのため、十分なITリテラシーさえ身につければ必ず貧困から抜け出せるというわけではないものの、様々な理由から社会的に孤立した貧困者になってしまった人々が、必要な支援を得て生活を改善していくために、少なくとも最低限のITリテラシーを身につけておく必要性が高まっている。しかし、貧困者が利用できる手段は限られているので、貧困者のITリテラシーを向上させるための対策を強化する必要がある。

ITリテラシーが不十分な貧困者の問題

筆者は、ITリテラシーの不足から社会適応がより困難になっている貧困者の実態調査を行ってきた。ITリテラシーが不十分な貧困者が、孤立して貧困から抜け出せない事例は、貧困支援の現場でも問題になっている。

貧困支援を行うNPO(注6)などによると、インターネットによる情報発信が一般化した日本社会では、ITリテラシーが乏しい貧困者が、生活や就職、支援に関するインターネット上の正確な情報にたどり着けない事例が多いという。その結果、詐欺被害にあってしまったり、続けられる職を得られなかったり、自分の事情にあった支援を選択して申請できず、生活困難から抜け出すための適切な支援を得られなかったりするのである。

筆者が調査した中でも、以下のような事例があった。多摩地方の独身女性Aさん(60代前半)の事例は、ITリテラシーが乏しいために、自身の事情に合った自立・生活支援を得るために苦労した例である。

Aさんは、50代半ばで離婚し、病気を患って生活に困窮した。支援を求めた公的機関の窓口では、数枚のパンフレットを渡され、目的別の相談窓口に関する説明を受けたがよく理解できなかった。混み合う窓口で忙殺される職員から最後は「詳しい情報をインターネットで検索して、検討してください」と言われてしまい、次にどの相談窓口を利用するか決められないまま帰ったという。

だがAさんの自宅にICT機器はなく、その使用経験も少なかった。そこで図書館などでインターネット検索をして、生活支援に関する情報を比較・検討しようとしたが、自治体や公的機関のサイト構造が煩雑で、欲しい情報にたどり着けなかった。無数にある支援NPOなども、どれが自分の事情に合っているのかわからず、貧困者を狙った詐欺に遭うのではないかと心配で、どの団体に事情を相談するか決められなかった(注7)。

Aさんは、近所づきあいの少ないマンション暮らしが長かったために、地域の公的支援の要である民生委員に会う機会もなく、伝統的な地域コミュニティとのつながりもほとんどなかった。こうした背景もあり、自分の事情に合った貧困支援を行うNPOや、職業訓練プログラムにたどり着くまでに、半年以上を要した。その後も、支援を受けながら、病気でも無理なく続けられる職業を得て自立するまで、必要な情報を得るのに苦労したという。

こうした事例は、決して例外ではない。AさんのようにITリテラシーが不十分な貧困者は、若年層から高齢者層まで多数いると考えられ、例えばICT機器を持たない単身世帯という前提条件では、全国に300万人以上いると試算できる(注8)。ITリテラシーが不十分な多くの貧困者のために、長期的対策に加えて短期的対策を強化する必要がある。そこで本論では、比較的低コストですぐに実施可能な当面の対策について提言する。

世代別の対策が必要

ITリテラシーが不十分な貧困者の問題を解決するためには、最終的にはすべての人々が最低限のITリテラシーを身につけられるようにすることが必要である。しかし、必要とされるITリテラシーのレベルや要素の重点は、すべての人に均一なものではない。そこで筆者はまず、ITリテラシーが必要とされる理由や場面・レベルが、各世代で異なることに注目して、世代を若年層(おおむね15~44歳程度)、中高年層(45~64歳程度)、高齢者層(65歳以上)に分けた上で、世代別に最低限必要とされるITリテラシーについて調査・検討した。その結果が以下の通りである。

一般的に、若年層でITリテラシーが不十分な貧困者は、たとえ肉体労働中心の職を希望する場合であっても、今後様々な職場環境に対応しつつ自分の強みを活かしてスキルアップを図っていくために、PCを使った幅広い業務に応用可能なレベルのITリテラシーを身につける必要がある(注9)。一方、中高年層の貧困者は、経験を活かせる仕事をする必要があるので、今までこなしてきた業務のデジタル化に最低限対応できる程度の基礎的なITリテラシーを必要としている(注10)。

他方、高齢者層の貧困者は、職業生活より日常生活の維持・向上のために、最低限のITリテラシーを必要としている。すなわち、必要な生活支援を申請・利用しながら、社会的孤立を防ぎ、詐欺などのトラブルに巻き込まれることなく、自立した日常生活を送るために、最低限のITリテラシーを必要としていることがわかった(注11)。

そこで筆者は次に、ITリテラシーが不十分な各世代の貧困者が、それぞれに必要なITリテラシーを身につけられるようにする上で、①まず対処すべき主な問題と、②そのための当面の対策を整理した(図表1)。その際、①まず対処すべき主な問題は、ア)能力の問題と、イ)現在不足している訓練・教材の問題に分類し、②当面の対策は、A)教材開発やeラーニングなどによる独習支援と、B)対面学習などによるものに分類した。

【図表1】ITリテラシーが不十分な各世代の貧困者が抱えている問題と対策
【図表1】ITリテラシーが不十分な各世代の貧困者が抱えている問題と対策
(出所)筆者作成


当面の対策例

<若年層>

ITリテラシーが不十分な若年層の貧困者にとって最大の問題は、企業が若者に求めるレベルのPCを使った業務に必要なITリテラシーが不足していることである(注12)。こうした若年層の貧困者には、幼いころからデジタル機器に接してきた「デジタルネイティブ」の世代も含まれている。しかし、そのような世代の貧困者は、ゲーム機やスマートフォンは使いこなせても、PCでワープロや表計算などの基本的な業務ソフトウェアを使った経験が一般的に不足しており、情報活用や情報セキュリティの面でも、企業に求められる程度の知識やスキルに欠けていることも多い。このような場合、若年層の貧困者は、ホワイトカラー以外の職を希望する場合でも、自分の強みを活かしてスキルアップを図っていけるような、安定した職につくことが難しい。

こうした問題への対策としては、既存の公共職業訓練プログラムや若年層支援を行うNPOの事業におけるPC操作の訓練、地域図書館における情報活用に関する講習会に加えて、訓練講師に国家資格「情報セキュリティマネジメント試験」を受験させて、情報セキュリティ教育の面で能力強化を図ることなどが有効だと考えられる。また、すでに文科省が実施・研究している「「情報活用能力調査」の結果から見る指導改善のポイント」などを応用して、情報活用に関するeラーニング教材を、公共職業訓練の実施主体や若年層支援を行うNPOが開発・提供する施策も、有効だと考えられる(注13)。

<中高年層>

ITリテラシーが不十分な中高年層の貧困者が抱えている最大の問題は、基礎的なITリテラシーがなく、今や単純労働のパート・アルバイトや肉体労働が中心の職にさえも及びつつある、業務内容のデジタル化に対応できないことである。この問題に対しては、既存の公共職業訓練プログラムを通じた基本的なPC操作能力(注14)の訓練に加えて、情報活用系・情報セキュリティ面でITリテラシーを補完するための職場向けのeラーニング教材を、公共職業訓練の実施主体や業界団体が中心となって開発・提供して、職場教育の実施を促す施策が有効だと考えられる(注15)。

職場での利用に適したeラーニングシステムの普及はすでに進んでおり、コンプライアンス教育などのために、中高年労働者に特化したeラーニング研修を実施する企業も、派遣業界を中心に増えている。そのため、ITリテラシーを補完するeラーニング研修についても、情報活用・情報セキュリティ面でのスキルアップによる業務効率向上のメリットを説明すれば、企業からの実施協力も、得られやすくなるであろう。

<高齢者層>

一方、ITリテラシーが不十分な高齢者層の貧困者は、最低限のITリテラシーがないために、生活支援サービスなどを申請・利用して、自立した生活を送ることが難しくなりつつある。また、伝統的な地域コミュニティにつながりづらい場合、社会的に孤立してしまい、健全な社会生活の維持が難しくなりつつあることも大きな問題である。

高齢者層のこのような問題に対しては、対面支援や、PC・スマートフォン・タブレット操作に関するアプリ・書籍など、既存の高齢者向け独習用教材の利用促進に加えて、情報活用・情報セキュリティ面のITリテラシー向上のための、独習教材の開発・提供を、自治体やその他の自治組織、地域の有志グループが中心となって進めることが考えられる。その際、シルバー人材センターや高齢者のオンラインコミュニティ、地域NPOなど、高齢者教育・相談のノウハウを持つ団体と協力することが重要である。

こうした団体は、運営者や講師自体が高齢者であることが多いため、高齢者特有の生活問題への理解があり、高齢者が受け入れやすい教育ノウハウや、各地域の高齢者が必要な生活力に関する知見を持っていることも多い。各地域の支援団体が蓄積しているノウハウ・知見を活かして、地域ごとに異なる生活環境で暮らす高齢者にとって扱いやすく、生活力の向上に資するような、教材アプリや配布用印刷データの開発・提供を、自治体やその他の自治組織、地域の有志グループが中心となって進めていく必要がある。

地域コミュニティを補完する対策の重要性

近所づきあいにもとづく伝統的な地域コミュニティが失われつつある大都市圏であっても、シルバー人材センターや公共図書館などの公益機関がコアとなった、いわば行政系の非伝統的な地域コミュニティが、ITリテラシーが不十分な貧困者を孤立させないよう、一定の役割を果たせる余地がある。その一方で、非伝統的な既存の地域コミュニティからも、敢えて距離を置く貧困者も少なくない。そのため、地域コミュニティを補完する対策が必要であり、図表1の「教材開発・eラーニングなどによる独習支援」でまとめたように、コストを抑えて実施可能なものもある。

中・長期的には、ご近所SNS「マチマチ」(注16)のように、近隣住民同士が地域の生活情報を気軽に共有でき、自治体が情報発信を行えるような地域住民限定のSNSを使った、ゆるやかなオンラインコミュニティも、貧困者対策に一定の役割を果たせる可能性がある。ITリテラシーに関わる相談に限らず、生活の悩み全般を、対面コミュニケーションが苦手で、従来の地域コミュニティに参加しづらい人でも相談できるからである。

少数派が同調圧力を感じて参加しづらさを感じたり、投稿に返信する義務があるかのようなプレッシャーを感じにくいよう工夫されたSNSは、地域住民が気軽に情報共有しやすい、ゆるやかなオンラインの地域コミュニティを育む土壌になる可能性がある。また、こうしたSNSが普及すれば、加齢などの理由でITリテラシーの習得が困難で自立が難しい人々に対しても、地域住民同士がオンラインでゆるやかに情報共有しながら、自治会や民生委員による訪問・見守り支援などの地域的な支援リソースを、より効果的に振り分けることが可能になるであろう。

注釈

(注1):ITリテラシーについてはさまざまな定義があるが、ここでは、政府の「世界最先端IT国家創造宣言」(2013)などをもとに、職業・日常生活に最低限必要なレベルの①パソコンやスマートフォンなどの情報機器を操作する能力、②情報機器を使って情報を収集・活用する能力、③情報セキュリティを確保する能力を合わせた能力と定義する。

(注2):2015年の時点で日本の全世帯年収の平均は545.8万円であったので(出所:厚生労働省「平成28年 国民生活基礎調査の概況」10頁の「1世帯当たり平均所得金額」)、2017年3月時点でも平均的な世帯年収グループの 一つと考えて良い。

(注3): 内閣府「消費動向調査」による2017年3月末時点の保有率。

(注4): 「平成27年国勢調査」、内閣府「消費動向調査」などから推計。

(注5): 「平成24年版厚生労働白書」によると、日本で「政府は、失業者がそれなりの生活水準を維持できるようにすべきだ」という意見に「肯定的な意見」を回答した人は「先進諸国の中では比較的低い水準」の56.2%である。また、OECDのSociety at a Glance 2014によると、過去1ヶ月に援助が必要な見知らぬ人を助けた人の割合は、日本ではOECDとBRICs諸国の中で最低の割合(24.7%)であり、しかも約4年前の調査よりも3ポイント減少したという。

(注6): 例えば、「特定非営利活動法人自立生活サポートセンター・もやい(http://www.npomoyai.or.jp)」。

(注7): また、Aさんは当時eメールアドレスを持っていなかったので、ユーザー登録が必要なウェブサイトは利用できなかった。メールアドレス取得も、メールシステムやパスワードの概念が理解しづらく、一人では難しかったという。

(注8):「平成27年国勢調査」、内閣府「消費動向調査」などから試算した。

(注9): ITリテラシーが高い世代とみなされているため、業務のスピードも含めて、幅広い範囲の業務に対応できるレベルが必要とされ、継続的なレベルアップが求められている。具体的には、業務上必要とされるPC・タブレットを含むマルチデバイスの操作能力や、業務での情報の収集・評価・活用に必要な情報活用能力、顧客・情報の安全な管理に必要な情報セキュリティを確保できる能力が求められている。

(注10): 必要とされるレベルは、若年層よりかなり低いレベルではあるものの、経験を活かせる管理業務や、今まで行ってきた業務のデジタル化に耐え得る程度の基礎的な機器操作能力・情報活用能力、業務上の情報セキュリティトラブルの防止に配慮できる程度の情報セキュリティを確保する能力が求められている。

(注11): 業務と異なり、スピードが求められず、生活に必要最低限のレベルで良いが、各自が使いやすいICT機器を用いて、インターネットを通じたコミュニケーションができる程度の操作能力が求められている。また、自立的生活に必要なネットサービスを利用し、必要に応じて生活支援を受けるための情報を得るために必要な程度の情報活用能力と、詐欺などの犯罪被害や、自分の個人情報の流出などの生活トラブルを防げる程度の情報セキュリティを最低限確保できる能力も求められている。

(注12): 15歳〜44歳の若年無業者の8割〜9割は、パソコン等を使用した情報処理学習を行っておらず、ITリテラシーを能動的に育んでいない(出所:総務省「平成28年 社会生活基本調査結果」)。

(注13): 自宅で自由に使える固定回線のネット接続環境がなく、データ通信量が限られる格安SIMしかスマートフォンで利用できないような若者でも、ダウンロード後にデータ通信を要さないスマートフォン用eラーニングアプリ(オフラインアプリ)やPDF教材であれば、何度も閲覧して使用することができる。

(注14):キーボード入力、ワープロ・表計算ソフトと、OS付属のファイル管理機能、インターネットブラウザーの初歩的な扱い方などを想定している。

(注15): 例えば、厚生労働省の人材開発支援助成金制度を利用して、OJT訓練を行うことが考えられる。

(注16): https://machimachi.com/

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【調査・研究】


大平 剛史(おおだいら たけし)
株式会社富士通総研 経済研究所 上級研究員
2015年 早稲田大学 大学院アジア太平洋研究科国際関係学専攻 博士後期課程 修了後、2016年 富士通総研入社。
専門領域は、個人の社会適応支援、観光と地域産業活性化、国際関係論・安全保障研究、アジア地域研究(ASEAN・東アジア・南アジア)
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