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現代防災と輪中の知恵

2018年3月27日(火曜日)

1.現代防災のフレームワーク

今日の防災の中でも、とりわけ世界的な潮流では、「マルチ・ステークホルダー型防災」が1つのキーワードとなりつつあります。これまで国や自治体が主となって推進してきた「防災」ですが、複雑な社会システムの中で甚大な災害に適切に対応するためには、一般市民や、本稿で主眼を置く企業をも含めた連携が必要です。これは、2030年を達成目標とした国際フレームワーク「仙台防災枠組2015-2030」において合意されました。すべてのステークホルダーが、リスクを理解し、適切なガバナンスの下に、平時の防災投資と災害時の応急対応準備、災害後の強化(より良い復興―Build Back Better)のサイクルを繰り返す巨大な戦略です(【図1】)。

【図1】仙台防災枠組におけるマルチ・ステークホルダー防災の全体像
【図1】仙台防災枠組におけるマルチ・ステークホルダー防災の全体像

(JICA(2017)を基に富士通総研作成)

一方、災害国日本では、防災の連携や知恵はかつて地域の中に歴史的に生まれ、日常生活に一体化されていました。そして、その中で冒頭のような現代の防災のフレームワークがすでに先取されていた、あるいは自然に獲得されていたと考えています。

2.輪中における知恵

「輪中(わじゅう)」は、主に愛知、岐阜等の水害常襲地域において、集落を堤防で囲み、その集落を守る伝統的な地域防災の知恵です(【図2】)。近代化で失われたものも少なくありませんが、現代でも生業やコミュニティ機能を含めて維持されている地域もあります。

【図2】輪中の例
【図2】輪中の例
(帝国書院―写真でみる日本のようす―より引用)
https://www.teikokushoin.co.jp/photograph/japan/21/3_1.html

生業の協働者としてのマルチ・ステークホルダーの連携で特筆すべき点として、生活や災害時の水への対応が挙げられます。生業での生命線としての「水」について、労力や資金を共同投資しながら、地下水などを利用して輪中の内部に共通の水の供給源を確保していました。輪中の堤防は外部環境の水を遮断しますが、それに応じて内部にも水を確保する必要があります。また、輪中の中では、水田の地理的特性によって、多くの紛争が起こります。例えば、稲作用水の上流と下流の間では、水の使用時期や量について紛争が起こることもありました。しかし、全体の利益のために個々の話し合いで解決し、最終的には輪中集落の単位を越えて流域全体でガバナンスを行い、連携を図るに至りました。

応急対応の準備として、「上げ舟」は、家の軒下に小舟を備えておく知恵です。いざ水害が起これば、直ちにそれを利用して救助や水がひくまでの物資の輸送を行うことができます。避難先として助命壇を設置するとともに、先祖への計らいと「家の継続」のため、絶対に代替できない仏壇にも配慮しています。「上げ仏壇」といって、仏壇をエレベーター式に紐で引き上げるのです。堤の崩壊など被害が生じた箇所には水神を祀って後代に警告するなど、災害後の改善と災害リスクの理解を促しています。

輪中では、日常と防災対策の分け目なく、水害リスクを理解し、共同体としての投資と連携のガバナンスを図り、上記のような具体的な応急対応の準備と災害後の改善を行っていました。

3.現代の輪中に向けて

輪中が歴史の賜物であるから、また、現代のコミュニティや企業形態が過去のそれと異なるからという理由だけで、今日には応用できないと考えるのは、早計と考えます。

現代の水コミュニティというべき事例も存在します。愛知県の工業用水は、供給元の愛知県企業庁と供給を受けている企業の代表者から成る協議によって、復旧の優先順位が検討されてきています。工業の生命線である工業用水について、被害想定とネットワークのつながり方、社会的影響度を勘案して、議論を行っています。これほどに民主的で、共同的な取り組みは全国的にも希少であると考えています。

また、愛知県の先進的な臨海工業地域では、防波堤外に位置する出島状の地形から津波リスクにさらされながらも、適切な企業のイニシアチブによって地域連携が図られています。そこでは、代表企業の下で避難場所を共有、整備、合同訓練を行うのみならず、救急車両を配備し、さらには沿岸のアクセス性向上のために周辺道路の改善を図るなど、さながら自治政府的な取り組みがなされています。

歴史的な輪中に学びつつ、現代の輪中とも言うべき地域における自律的な防災連携を編み合わせることで、マルチ・ステークホルダー防災を構築することができると考えています。輪中の知恵や文化が忘却された現代において、「歴史的な優れた知恵を再発見し、現代に再構築する」こともまた、災害復興を介さない”Build Back Better”です。過去と現代の時間軸上のマルチ・ステークホルダーの連携が、安全安心のための知を創っていくと筆者は考えます。

参考文献

  • 100 Resilient Cities Team& Rock Rockefeller Foundation: 100 Resilient Cities, 2017
  • JICA: Disaster Resilient Society for All ―Integrating Disaster Risk Reduction Challenges with Sustainable Development―, 2017
  • OECD: Guidelines for Resilience Systems Analysis -How to analyse risk and build a roadmap to resilience, 2014
  • Rudofsky, B.: 建築家なしの建築, 鹿島出版会, 1984
  • UNISDR: Sendai Framefork for Disaster Risk Reduction-仙台防災枠組, 2015
  • United Nations: Sustainable Development Goals, 2016
  • 下本英津子: 輪中における水制御と水の神性―水共同体のエートス, 名古屋大学,2015
  • 世界防災会議: 世界防災フォーラム http://www.worldbosaiforum.com/ ,2017
  • 苦瀬 博仁: ロジスティクス概論, 白桃書房, 2014
  • 和辻哲郎: 風土-人間学的考察, 岩波文庫, 1979

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【調査・研究】



上田 遼(うえだ りょう)
株式会社富士通総研 経済研究所 上級研究員
2007年、東京工業大学大学院総合理工学研究科修士課程修了後、鹿島建設株式会社、株式会社小堀鐸二研究所を経て、2016年 富士通総研入社。2017年より、名古屋大学減災連携研究センター受託研究員兼務。
地域の自律的な知恵と現代グローバル防災の両視点から、地域強靭化に取り組む。
専門領域は、都市防災へのICTの活用、複雑系、Human-Computer Interaction。
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