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シリーズ【EdTech―「学び方」が変わる・「教え方」が変わる―】
IoT/AIデータによる新たな「学び」の創造に向けて
~グループワークにおける実証実験から

2018年3月23日(金曜日)

はじめに~課題認識と私たちの取り組み(データ活用の可能性)

2020年からの次期学習指導要領では、これまでの受動的な学び(先生による一方的な授業)から、主体的・能動的な学び(いわゆるアクティブラーニング)に力点を置く方向が示されています。それを睨んで学びの現場では、議論や協働を促すグループワーク形の授業などが試行的に行われています。

しかし一人の先生が、多数の生徒のグループワークにおける一人一人の発言や行動のプロセスを観察・把握し、適時・適切な指導を行うことは明らかに困難で、大きな課題とされています。そもそも、その授業を通じて子供たちの「何を(どんな力を)育みたいのか」「そのためにどう授業を進めるのか」「それをどう(一人一人)評価するのか」などについて、現時点で、具体的な方向性・方法論が確立しているわけではありません。それ自体が大きな社会の課題である、と私たちは認識しています。

そこで私たちは、グループ内の生徒個々人の行動等をデータによって客観的に捉えることで、こうした課題を解決できるのではないかと考えました。パソコンやタブレット、デジタル教科書や電子黒板、インターネット等、ICTの学校現場への導入は進んでおり、学校外でもオンライン学習やアプリを使った勉強も珍しくなくなってきています。これらは学びのインフラであると同時に、データ収集・活用のインフラでもあります。IoTやAIなど先進のテクノロジーも活用すれば、その可能性を最大限に引き出すことができ、新たな学びの創造につなげることができるのではないか、と私たちは考えています。

今回は、小学生を対象としたグループワーク型の授業の実践例を通じて、「学びのデータ」の収集・分析を行い、活用方法を検証した具体的な取り組みを紹介します。一人一人に合わせて最適な学習を実現するパーソナライズドラーニングやアダプティブラーニングの実現にも、学びに関するデータは不可欠なものと考えています。

1. 実際の授業を通じてデータ収集・活用の可能性を検証

現在、私たちは日本STEM教育学会(注1)の中に、データ活用を検討する研究会を設立し、「グループワークで何が起きていたのか」について可視化を試みています。今回は、小学生を対象に、LEDを使った「光る箱」を使ってアニメーションを作る授業を実施し、映像と音声(発話量)データを収集して分析しました。

<ワークショップの概要>

  • 対象: 小学校4年生
  • 場所: 東京都内小学校の放課後活動
  • 形態: 4人1組でグループを形成
  • 時間: 90分
  • 内容:
    1. LEDを使った「光る箱」を30個作ろう
    2. 光る箱で創るアニメーションのストーリーを考えてみよう
    3. 箱を並べ、少しずつ動かしながらアニメーションを撮ろう(タブレットでコマ撮り)
    4. 成果を発表しよう

[写真1] ワークショップの風景 [写真1] ワークショップの風景

[写真1] ワークショップの風景
[写真1] ワークショップの風景

[写真2]映像と音声データの収集 [写真2]映像と音声データの収集

[写真2]映像と音声データの収集 (右側: 発話量分析 ハイラブル株式会社様)

そして、授業を通じて撮影・録音した映像と発話量データをもとに、グループの中でどのようなプロセスを経てアニメーションが完成していったのかを読み解いていきました。グループメンバーはどのような言動をしていたのか、お互いにどのように影響を与え合っていたのか、上手くいった場面、いかなかった場面はどこか、どのように乗り越えたのか、など1つずつ確認した結果が下の[図1]です。

[図1]グループワークの可視化結果 [図1]グループワークの可視化結果

[図1]グループワークの可視化結果

このグループワークの可視化から分かったことは、主に次の4点です。

(1) 影響と誘発のメカニズム

当日の観察だけでは分からなかった「グループの中で誰の言動が誰に対してどのような影響を与えていたか」が見えてきました。例えば、「どの場面で誰がリーダーシップを発揮していたのか」という観点では、あまり発言をしていなかった生徒が、実は作業を通じて他の生徒を巻き込んでいた状況を、映像と発話のクロス解析から見て取ることができました。いわば「隠れたリーダーシップ」の発見です。このような生徒同士の言動による影響・誘発のメカニズムは、従来の先生によるその場の観察だけでは分からなかったことです。

(2) 「実際の」参加度・貢献度

当日の観察時には元気に動き回り発言も多かったように見えたある生徒について、映像と発話およびグループワーク成果発表結果の解析により、実際には成果につながる創造や制作にはほとんど参加・貢献していなかったことも分かりました。この生徒は別途フォローを必要としているかもしれません。このような発見も、先生がこれまで見落としていた育成ポイントを指摘するための有用な材料となり得ます。

(3) 指導タイミングの妥当性

グループワーク型の授業では、グループ内での検討や作業を促すために、先生による問いかけや支援が重要になります。ただ、そうした介入がグループワークにどのような影響を与えられたかを把握することは容易ではありません。先生のファシリテーションスキルの向上のためには、介入の評価は不可欠です。

映像と発話のプロセスを解析から、適切な介入ポイントと方法の検討につなげることができることがわかりました。具体的には少々沈黙があったグループに対して、先生が「どうですか?進んでいますか?」と(良かれと思って)声をかけたことが、実は逆効果になっていた場面を指摘できました。沈黙していたのは行き詰まっていたわけではなく、もう少しでアイデアがまとまりそうで皆が思考に集中していたためです。先生の介入によって、その集中が途切れてしまっていた状況をデータから抽出し、改善の取り組みにつなげることができました。

(4) つまずきポイントと解決方法

グループワークによる創造・制作の過程では、思いどおりに進まないことも多々あります。そして、それを乗り越えることで学びが得られる場面も多くあります。今回も、グループワークの中で複数回の壁や失敗があり、その都度、試行錯誤しながら打開策を見出していく様子が見えました。それぞれのグループがどういうポイントでつまずき、どういう方法でそれを解決していったか(あるいは解決できなかったか)について、つまずいたときの状況(様子)や、解決手段抽出への動き方、検討の所要時間などがすべて可視化され、データで記録されました。今後、指導方法は授業設計そのものに大いに役立つものと期待されます。

2. 授業設計〜評価のデータ活用場面とデータ収集の可能性

上記の実証結果も踏まえ、グループワーク形の授業におけるデータ活用場面を、事前の「授業の設計」「授業中の指導・支援」そして授業の終了後の「授業全体や個人の評価」といったフェーズごとに整理しました([図2])。

[図2] アクティブラーニングにおけるデータ活用の可能性
[図2] アクティブラーニングにおけるデータ活用の可能性

この図中の「データ収集・分析」について、今回の実証では、映像と音声(発話量)データを収集しましたが、IoT等のテクノロジーによって、さらに多くのデータを取ることができると考えています。どのような「学び」のデータが取れて、どのような可能性があるのか、について[表1]に整理しました。

[表1] グループワークにおけるデータ収集の可能性
カテゴリー データから見える可能性 データの収集方法イメージ
文字や図
  • 生徒が書いた文章・図から、思考や創造のプロセスや成果を把握
  • 文章から生徒の感情を把握 等
  • タブレット上でノートやワークシートへ入力/ファシリテーターのコメント入力
  • バーチャル空間での会話の記録 等
音声
  • 生徒同士の会話から、思考や創造のプロセス、グループの盛り上がりのタイミングを把握
  • 発言間のつながりや新たな発想等の誘発の把握 等
  • 音声の録音・テキスト化
  • グループ内の各個人の発話量・時間の収集 等
映像/画像
  • グループワークの過程を映像で把握することで、思考や創造のプロセスや成果を把握
  • 生徒の表情から感情を把握 等
  • グループワークの様子を動画で撮影
  • 生徒や制作物の制作過程を静止画で定点撮影 等
位置・動き
  • 誰と誰が一緒にいたか等の協働やコミュニケーションの状況を把握
  • 道具や素材の使用頻度や動かし方によりワークの過程や関心・試行錯誤の状況を把握
  • 椅子に座っている姿勢や道具の操作圧力の強さの変化により感情を把握 等
  • センサーにより生徒やモノの位置や動きを解析
  • モノの操作方法や強さを解析
  • PCやタブレット上の閲覧内容やクリック/タップのログ解析 等
姿勢
  • 作業時の生徒の身体傾きや椅子に座る位置(深い・浅い等)、姿勢の変化により集中度を把握
  • センサーによる生徒の身体の傾きや座る位置を把握
視線
  • 視線の動きにより生徒の関心の対象や創造のインプットを把握
  • 生徒の集中の度合いを把握 等
  • センサーによる生徒の視線の解析
  • VR/ARの注視対象の解析 等
脈拍・体温・血圧・発汗等
  • 脈拍・体温・血圧・発汗等の状況や変化による生徒の感情や状態を把握 等
  • ウェラブルセンサー等による収集 等

(株式会社富士通総研 作成)

3. 今後の取り組み課題

学びに関するデータを活用していくためには、まだ解決すべきいくつかの課題が残されています。特に、今回の実証を通じて明確になった3つの課題を以下に示します。

[課題1] 収集したデータをどう解釈するか

データ収集と同時に、収集したデータの解釈の方法を考えていく必要があります。例えば、生徒の視線データの場合、「机上の工具類をずっと見ていたことは何を意味するのか」を解釈する必要があります。道具への強い興味や面白い使い方を集中して考えていたかもしれません。また、単に集中力が切れてぼーっとしていただけかもしれません。1つのデータで解釈が難しければ、複数のデータを組み合わせる方法も考える必要があるでしょう。上記の場合、記述データやバイタルデータと組み合わせると、その時の状態がより明確に分かるかもしれません。

そうしたデータの解釈は、言うまでもなく「何を(どんな力を)育みたいのか」という観点(狙い)に基づいて検討される必要があります。上記の場合、「集中力」を養うためにどうすべきか、ということを踏まえた検討となります。

[課題2] 多様な学びの現場におけるデータ活用方法をどう具体的に提案するか

学びの現場でのデータ活用を進めるためには、先生やファシリテーターに対して、データ活用方法やそのメリットを具体的に分かりやすく提示していくことが必要です。

また、アクティブラーニングでは多様なテーマや形態のグループワークが考えられるため、実証のバリエーションを増やしていく必要もあります。例えば、理科実験や調査分析では「仮説検証サイクルを回せているか否か」「工作ではどのように創造しているか」などがあります。また、先生の授業企画・設計から授業準備・授業実施・授業の評価までの各プロセスにおける具体的なデータ活用方法の提案も必要になるでしょう。

[課題3] テクノロジーを活用してデータ収集をいかに自動化するか

ワークショップでは生徒達が机から離れて動くことも多く、固定したカメラやマイクによるデータ収集が難しい場合も考えられます。今回のワークショップでは、スタッフがカメラを持って動きながら撮影しました。また今回のように録画した映像を見直して解析していくことは、実際の学びの現場ではとても不可能です。

そこで、センサーを使ったり、PC/タブレットの記入データやログを収集したりするなど、自動的にデータを収集できる仕組みづくりは不可欠です。

学びの現場では、主体性や協調性、コミュニケーション力の育成などに取り組んでいます。そうした中で、客観的な評価やより効果的な指導方法の確立が求められ、データ活用へのニーズは一層高まることが考えられます。私たちは、教育事業者など多くの方々と共に、先進テクノロジーによる新たな「学び」の創造に取り組んでいきます。

(注1)先進諸国を中心にSTEM(Science,Technology,Engineering,Math)教育への取り組みが増えている中で、プログラミング教育を含むSTEM分野の教育実践が、体系性や理論的裏付けをもち、社会からの期待にも応えられるように支援するため2017年に設立された学会

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志賀 真保子

志賀 真保子(しが まほこ)
株式会社富士通総研 デジタルサービス開発室 シニアコンサルタント
ヘッジファンド、複数のベンチャー企業の創業期に参画後、2005年株式会社富士通総研入社。内部統制構築、IFRS(国際財務報告基準)導入コンサルティングなどに従事。育児休業復帰後、子供向けのプログラミングやロボット教室の事業企画開発に従事。