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Japan

【学びへのIT活用を他業種事例より考える】
MonotaRO社にみる、顧客がそれぞれに合った商品を見つけるためのIT活用

2018年3月22日(木曜日)

高校生(日本)において、授業が分からない時のインターネット活用が増加注1している。しかし、生徒の約6割は「調べたい勉強の資料や情報がうまく検索できない」等と回答注1しており、必ずしも自身に合った学習コンテンツを見つけられている訳ではない。

一方、電子商取引(EC)を行っている企業には、商品検索性(見つけやすさ)に優れたサイトがある。本事例の株式会社MonotaROでは、データを使って商品検索性を向上し、売れ筋だけでなく購入頻度の少ない商品も見つけられるようにしている。

法人向け物販と学習者向けデジタルコンテンツ閲覧では、異なる側面も多い。しかし、学習塾などの学習サイトが、売れ筋コンテンツ(カリスマ講師の動画など)の提供だけなく、「生徒がそれぞれに合ったコンテンツを見つける」支援を志向する場合、参考となる。特に、商品と顧客を知るためのデータ(履歴や特性)を拡充し検索機能を向上した取組みは、学習サイトにおいても有用な施策の一つとなり得る。

■企業概要・特長

株式会社MonotaRO(以下MonotaRO社)は、主に中小製造業を顧客として、工場・産業用間接資材をネット販売している。2000年10月に設立し、現在年商696億円(2016年12月期、連結)となっている。設立以来、売上高は概ね120%を超えて毎年成長しつづけ、2005年の黒字化以降、営業利益率は約3%~14%で堅調かつ増加傾向にある。売上高成長率の推移は、Amazon.comやミスミグループ本社のVONA事業と同水準であり、EC各社の中でも強い成長力が示されている。

同社サイトからは、工場・産業用間接資材の豊富な品揃え、優れた商品検索性、一物一価(ワンプライス)、といった特徴が確認できる。品揃えは豊富で多岐にわたり、売れ筋だけでなく購入頻度の少ない商品(ロングテール)も取扱う。商品検索は、ECサイト一般にみられる機能に加えて各商品特性で絞込める等、顧客が手間なく見つけられるよう一段の工夫がされている。価格設定は、従来慣行では顧客ごとに異なり不透明であったが一物一価としている。これらが顧客である中小製造業にとって、不透明で不便であった間接資材調達を変え、調達コスト低減となり支持されている。

創業者である瀬戸欣哉氏は『工業用商品は売れ筋よりも、それぞれに合ったものを見せるべきで、ネットはロングテールを可能にする』と述べている。この見解が品揃えや商品検索性の根幹にあり、事業の長期成長を牽引してきたと考える。以降、図1に示す業績等の推移から、事業立上げ期(~2005年)、収益構造強化期(2006年~2011年)、商品拡張期(2012年~)に分けて、取組みの断片を見ていく注2

図1. 業績等の推移(MonotaRO社)
図1. 業績等の推移(MonotaRO社)

有価証券報告書、プレスリリース、SPEEDAより筆者作成

どのように「顧客がそれぞれに合った商品を見つけるサイト」を構築していったか

[事業立上げ期:~2005年]

~取扱商品を「検索」が必要な、工場用間接資材にする~

同社創業者の瀬戸欣哉氏は、総合商社にてアメリカの日系工場とビジネスをする中で、米グレンジャー社の間接資材通販を知った。『この分厚い商品カタログを、アマゾンのようにネットで販売したら』と着想し、1999年秋にグレンジャー社にフィージビリティ・スタディを申し入れた。瀬戸氏は従前より、インターネットの特性の一つである「検索」に向いているビジネスを考えていた。商社で扱っていた鉄などの直接資材は顧客側の「商品知識」が高く、また「商品数」からも検索機能はそれ程必要ではなかった。しかし間接資材の商品数は非常に多い。

工場用間接資材とは、工場や工事現場などで使われる手袋、工具、梱包用品といった消耗品や補修用品をいう。例えば「手袋」であれば同社サイトには、スベリ止め手袋・背抜き手袋・天然ゴム手袋など約6,500の商品グループ、約15,000の商品アイテム数がある(2017年12月時点)。ネットで無限の商品ラインナップを見せ、検索を活かして売ることができると考えた。

~顧客を「検索」が必要な中小製造業に、商品価格を一物一価にする~

設立してすぐに、顧客を40社(大企業35社、中小5社)に限定してテストし、顧客ターゲットを大企業から中小製造業に軌道修正した。日本では大きい工場であれば工具商が要望を聞きに出向いていた。しかし中小の工場では、どこから調達すればよいかといった調達先探索などの調達工数がかかっていた。

また顧客にとって間接資材は最終製品品質への影響が小さいことから、直接資材と比べて商品知識が少ない傾向がある。そのため不透明な価格設定が多く、特に小口の調達ではこの傾向が顕著であると見て、顧客ごとに価格を変えない一物一価とした。この価格設定は、一物多価が慣行である関連流通業界から販売妨害を受けた。だが瀬戸氏はこの慣行は既に合理的ではなく、「被害者」(顧客、メーカー)が支持するだろうと考えた。図1のとおり、2年目売上の立ち上りから、この事業ドメインの設定は、早々に顧客の反応を得られたものと考えられる。

~売れ筋(ヘッド)を使って、顧客とデータベースをつくる~

当初資金は潤沢ではなく、その大半は電子カタログ(商品データベース)製作に当てられた。そのため決済や在庫などオペレーションの多くを手作業にて不具合点を洗い出しながら、商品検索などのサイト機能を拡充していった。

サイト整備と平行して、瀬戸氏は顧客集めに売れ筋を使う。『最初に顧客が買うのはいくらか分っている(価格感受性の高い)商品。どんな商売も価格だけではうまくいかないが利便性だけを言っていても顧客は集まらない』と述べている。売れ筋をあえて値ごろ感ある価格で売り、ある程度の顧客基盤と受注データベースを作ることに注力した。

また同社では、サイトの存在を知ってもらったり他商品を発見してもらうため、紙媒体(カタログ、チラシ、DM)、FAX等も併用する。2004年までの売上高に占める広告宣伝費率は、以降の3~4%台と比べて突出(2001年65%、2002年24%、2003年15%、2004年5.6%)しており、サイト認知や顧客アプローチへの注力が見て取れる。2005年12月期には顧客数12万事業所となり黒字となる。これらを主な販売施策として、顧客から「価格が透明で値ごろ感があり、工数(商品検索、購入)がかからず便利」との支持を得たものと思われる。

[収益構造強化期:2006~2011年]

この時期、上場(2006年12月)を経て、リーマンショック(2008年)より続く景況を「不況時は顧客の価格感受性が高まるのでチャンス」と捉え、売上成長とともに営業利益率を5%から9%台としていった。

~データベースをもとに、サイトを良くしていく~

表1は品揃えとサイトへの施策を時系列で整理したものである。サイトへの施策として、検索/推薦/リマインド機能の強化が確認できる。検索では特定商品や絞込み機能を強化し、全文検索エンジン(2011年~)ではサイト内履歴も使っている。また、間接資材は本などと異なり、同じ商品の周期的な再購入が見込まれるため、買ったものリスト等でのリマインドに力を入れている。推薦(お勧め)では購入履歴を使っている。

ECサイト一般相当に十分な機能を備え、データを使って追加購入増・リピート・離脱防止を図っている。

表1.品揃えとサイト機能追加(抜粋)

同社HPプレスリリース(斜体は有価証券券報告書)より抜粋。-は該当事項記載なし

表1.品揃えとサイト機能追加(抜粋)

また、この頃より新規顧客獲得に、Google等検索エンジン連携(検索連動型広告、SEO)を進めていた。ネット検索からのサイト訪問が増えたが、同時にターゲットとする顧客(中小製造業)の見極めが格段に難しくなっていた。そこで対策の一つとして、データマイニングツールを使い(2008年~)、購入履歴や顧客属性情報データから、カタログ・チラシ・DM送付先選定を行った注3。クラスタ分析であれば、データの類似度をツールが算出し、いくつかのクラスタ(集団)へグループ化する。その分析結果から、例えば、ある顧客クラスタは「低~中価格帯で複数ブランドを購入しているので、プライベートブランド(PB)中心の経費節減カタログを送付する」といった使い方が考えられる。

~顧客が増え、テール品が売れることを実感する~

2010年12月期には顧客数57万口座、商品アイテム数100万点となっていたが、顧客数が50万を超えたあたりから、売れ筋(ヘッド)だけでなく、購入頻度の少ない商品(テール)が確実に売れることを実感するようになった注4

購入頻度の少ない商品も取扱うロングテール型ビジネスは、ヘッドとテールの双方から収益を上げると当初言われていた。しかし近年の研究にてテールからの利益は言われていた程大きくないとの指摘もある注5。その際テールの取揃えは、顧客の誘引・顧客の反応取得・広告費低減としての意味をもつ。同社でもテールは、まずは間接資材の専門サイトとしての存在を高めることに役立った可能性がある。

サイト機能強化や品揃え拡大といった顧客増への施策とともにその他、仕入原価低減(2006年に海外メーカーとの直接取引、2008年にPB導入注6と自動車関連倒産会社の在庫買取)も合わせて推進した。そして、顧客にとっては「価格が透明で値ごろ感があり、工数がかからず、かつ(自社に合った)適切な商品が調達できる」と支持を広げていったと思われる。

[商品拡張期:2012年~]

~商品(新カテゴリ、テール品、PB商品)を拡張する~

製造業に加え、自動車整備業向け(2008年)、工事業向け(2009年)、生産管理・研究関連向け(2010年)、飲食業・農業向け(2014年)、医療関連ユーザ向け(2015年)と取扱商品を追加している。2012年に拡張した「ねじ・ボルト」関連商品は、市場に流通する約40万超のなかで35万点を取扱う注7とのことにて”ロング”テールである(上限40万点のベキ分布と仮定した場合)。

現在同社の成長には、①商品ラインナップ拡張、②顧客増加、③頻繁に注文される商品の増加、④売上成長、とのサイクル/連鎖がある注8。まず、商品拡張と商品データ拡充で潜在市場に働きかけ、ネット検索からの顧客増・サイトでの注文増・売上増とする(①起点での連鎖)。また、注文頻度から適正在庫を見込み、在庫増・納入リードタイム短縮・売上増とする(③起点での連鎖)。更に、売上の伸びや商品レビュー等からPB開発につなげPB商品拡大・収益増とする(④起点での連鎖)。これら連鎖により、収益を伸ばしている。

~商品検索・推薦精度を、更に高める~

図2は商品構成を視覚化するため、同社サイトを一定期間クロールして収集したサンプルデータをもとに、カテゴリごとの商品(=商品グループ)の割合を作成したものである注9。円の最も内側がカテゴリの第1階層目、最も外側は第4階層目である。商品(例.安全保護具->手袋->背抜き手袋->天然ゴム->商品A)は、概ねカテゴリの3、4階層下に位置づけられている。商品は更にサイズ、色等のバリエーションごとに注文コードがあり、注文コードの数が商品アイテム数で、SKU(Stock Keeping Unit、最小管理単位)となっている。

図2. サイトページと商品構成イメージ
図2. サイトページと商品構成イメージ

商品数が増えるほど高度な検索・推薦機能が必要となる。現在同社サイトの商品検索には、カテゴリ階層をドリルダウンして絞込むカテゴリナビゲーションと、キーワードや注文コードを入力するダイレクト検索がみられる。検索窓やナビゲーションをクリックし、更に提示されるファセット(多面的情報の一面/一属性)にて、複数の経路/選択肢での絞込みもできる。ファセットには、ECサイト一般にみられる属性(サイズ、色、価格帯、ブランド、商品レビュー、出荷目安など)だけでなく、各商品特性(「手袋」であれば、耐切、耐油、防振等々)も提示される。また検索のための辞書(業界用語や類義語)を整備注10し、検索精度を向上している。

商品推薦には、「この商品を見た/買った人は、この商品も見て/買っています」との、似た他者の履歴から「まだ買っていない商品」を推薦している。一般的には、「協調フィルタリング」という手法で、大規模サイトでは商品間(該当商品と推薦商品)の履歴からの類似度を予め計算する方法が取られる。同社は更にリアルタイムにパーソナライズする技術を導入注11し、推薦精度を高めているようである。

商品について、一般的な属性(商品固有の性質)だけでなく、特性(顧客が探索する属性)を人が捉えて検索精度を高めている。また顧客の類似度(購入/サイト閲覧行動)をITがリアルタイムに捉えて推薦精度を高めている。これらにより顧客にとって「値ごろ感があり、(多岐にわたる商品から)工数がかからず、適切商品が(適度なリードタイムで)調達できる」サイトとして確たる存在となっている。

顧客がそれぞれに合った商品を見つけるためのIT活用

~データを拡充し、商品検索性を向上する~

以上をまとめる。事業立上げ時、「検索」が必要な商品と顧客を見出し、事業ドメインを設定した。そして売れ筋を使って顧客基盤とデータベースをつくった。次の期は、データベースを使ってサイトを良くし、収益構造を強化した。現在、商品を拡張しサイトの検索・推薦精度を高めている。

事業成長の過程においてデータ(商品と顧客)を拡充している。顧客が商品を知るためのデータ(商品カテゴリ、属性、特性)を整理・拡充し、商品絞込み機能(ダイレクト、カテゴリナビゲーション、ファセット)を強化している。また、顧客を知るためのデータ(購入・サイト閲覧履歴)を拡充・活用(類似度計算)している。これら商品検索性向上への取組みが、他社よりも「顧客がそれぞれに合った商品を見つけられる」サイト提供を可能にしている。

~データを拡充し、まずは検索機能の強化を~

学習/教育分野に話を戻す。学習塾等には、良質なコンテンツ(動画、テスト等)を売れ筋として、一定規模取揃えるサイトが出てきている。使用料は従前より値ごろ感があり、生徒の選択肢を増やしている。しかし、生徒の”間違い”は多様であり注12、更なる支援の余地がある。

まずは、生徒が分からない箇所のコンテンツを「見つける」支援として、検索機能強化が有用である。MonotaRO社が、商品と顧客を知るためのデータを拡充し検索機能を強化したように、学習サイトにおいても、コンテンツと生徒を知るためのデータ拡充が有用であると思う。同社を参考に施策の一つとして、次に例示する。

コンテンツ側は、属性(単元・難易度など)だけでなく、特性(生徒が探索するつまずき箇所など)を切出し拡充し、サイトの検索機能を強化する。すると生徒は、例えば物理の単元「作用反作用」が分からなかった場合、キーワードやカテゴリナビゲーション検索で単元名「作用反作用」を絞り、更にファセットから提示される「つりあいとの違い」といった特性群を見つけ絞込める。これにより、生徒自身が分からないことを明確に言語化できない場合に、コンテンツに辿り着ける可能性を高める。

生徒側のデータについては、学習履歴データ(サイト検索・閲覧や学習理解度など)を、売れ筋を使って拡充する。その履歴データを使って、更に検索機能を良くしてゆく。これらの取組みが「生徒がそれぞれに合った学習コンテンツを見つけられる」サイト形成に繋がる方途の一つであると考えられる。

注釈

(注1):高校生の勉強と生活に関する意識調査報告書―日本・米国・中国・韓国の比較―、平成29年3月、国立青少年教育振興機構、図32(2009年との比較)、図3-4、http://www.niye.go.jp/kanri/upload/editor/114/File/gaiyou.pdf

(注2):本レポートはMonotaRO社に関する公開資料(参1,2,3及び注3,4,7,8,10,11)を基に作成し、同社より大きな事実誤認がない事を確認頂いている。尚、文中『』は参考資料3より文言を若干変更し記載している。

(注3):https://www.monotaro.com/main/news/n/1255/402.pdf、2011.6.9

(注4):ビッグデータを徹底活用、間接資材購入に革新をもたらす、鈴木雅哉、2015.9、JMAマネジメント

(注5):マーケティングは進化する、水野誠、2014.6.17、同文館出版、251-253頁

(注6):2004年に同社初のPB商品が登場し、2008年頃からPB開発が加速した。

(注7):MonotaRO ねじ・ボルト関連アイテム数35万点に拡充、2012.11.30、https://www.monotaro.com/main/media/n/1600/

(注8):MonotaRO Fiscal Year of 2017(Jan. to Dec. 2017) 、7頁、http://pdf.irpocket.com/C3064/UV5D/rAot/k7nH.pdf

(注9):同社の全カテゴリにおける商品アイテム数は、約1,300万点である(2017年12月時点)。ここではその内の約6000のカテゴリ(第3又は第4階層)について、同社のカテゴリナビゲーションを反映する形で階層化している。各層の幅は該当カテゴリの商品グループ数(約270万)を表す。クロールにて得たサンプルデータであり、またクロール期間中のデータ変更等があり得るため、同社の商品構成(カテゴリと商品グループの割合)を正確に表している訳ではない。

(注10):モノタロウを支えるSolrによる商品検索システム、山村武司、2016.4.22、https://www.slideshare.net/monotaro-itd-pr/solr-61399294

(注11):リッチレリバンス株式会社 お客様事例、2015、https://www.richrelevance.com/wp-content/uploads/sites/5/2017/07/J_CS_17_RichRelevance-Recommend-MonotaRO-Case-Study-JP.pdf

(注12):デジタル教材の教育学、山内裕平、2010.4.26、東京大学出版会、2,3,186頁

参考資料

(参1)株式会社MonotaRO 有価証券報告書、プレスリリース

(参2)日本のB2Beコマースの現状、「経営研究所での講演内容」 瀬戸欣哉、2002.6.26、 https://www.monotaro.com/main/media/n/651/

(参3)MonotaRO~参入障壁の高いビジネスでチャンスを掴むには~、瀬戸欣哉、2009.6.1、起業家大学出版


笛吹 典子(うすい のりこ)
株式会社富士通総研 経済研究所 シニアリサーチアナリスト
富士通入社後、2007年に株式会社富士通総研へ出向。学びにおけるICT活用に関する調査・分析に従事。