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  5. アイデアを育て事業を起こす ―SEEDATA 代表取締役 宮井氏「トライブ」による新たな未来価値―

アイデアを育て事業を起こす
―SEEDATA 代表取締役 宮井氏「トライブ」による新たな未来価値―

2018年3月20日(火曜日)

あらゆる業界で技術革新や顧客ニーズの変化によるコモディティ化からの脱却が命題となっている。我々コンサルタントが消費者や顧客業界の未来を描く方法も、競争力強化・差別化のために「従来とは違う」対応が必要となり、日夜、研鑽を重ねてきた。

新たな価値を世の中に打ち出し続けている大手広告会社博報堂から2015年に社内ベンチャー制度で独立したSEEDATAは、博報堂の根幹である「生活者視点」に主眼を置きながらも、新手法を用いたサービスによって、尖った未来「トライブ」の概念を立ち上げ、業界で注目を集めている。

そこで、SEEDATA代表の宮井氏に対し、富士通総研(以下、FRI)産業グループチーフシニアコンサルタントの久本浩太郎とアシスタントコンサルタント池田健介がインタビューを行った。

宮井氏によれば、「イントレプレナーシップの要件は構想力と実行力、トライブの成功要因は徹底した現場視点からの新変化察知」だと言う。企業の中で新事業を創出した当事者としてイントレプレナーシップの要件をどう捉えるか、「トライブ」の成功要因は何か、について探った。

1. 徹底して「新しい変化」を察知する

【久本】
宮井さんの取り組みは業界で非常に注目を集めていますが、詳しい内容を教えてください。

【宮井氏】
設立当初から取り組んでいるのが「トライブ」リサーチ事業です。我々はあらゆる分野の先端動向・兆しを体現する消費者群を「トライブ」と位置づけ、レポート形式で展開してきました。
例えば、「朝活」に関するリサーチ時には、郊外にある某朝活の団体に入り込んでフィールドで活動に参加し、その中からエクストリームユーザー(注1)を見つけ出し、彼らの傾向や尖った意味の要素を抽出します。それらをインサイトにして未来像を作り出していくのです。

【写真1】株式会社SEEDATA(博報堂グループ)代表取締役 宮井 弘之 氏
【写真1】株式会社SEEDATA(博報堂グループ)代表取締役 宮井 弘之 氏

【久本】
徹底した現場視点と実態から新しい生活者像を生み出していくのには驚きました。それらのリサーチのアウトプットはクライアントにどのように活かされるのでしょうか?

【宮井氏】
新しい生活者像をターゲットとしているBtoC向け企業様が中心ですが、当初は想定し得なかった意外な活用ケースが多いですね。あるケースでは某飲料メーカー様が商品開発やブランディングの材料として活用されました。活用シナリオを検討する際に我々が大事にしているのは、インサイトとジョブ理論(注2)から事業機会を捉える視点です。「どんなインサイトを持っている人が、どんなジョブを持っているときに、どんな体験をすれば、それが実現できるのか」という生活者の体験・価値をデザインすることです。このようにシナリオを描き、活用シーンをクライアントのご要望・文脈に合わせていきます。

2. 既知のデータだけを頼りにしているだけでは、新しさは作れない

【久本】
ジョブ理論やシナリオプランニングなど、デザイン思考(注3)の要素も取り込んでいらっしゃるのですね。ただ、このトライブは非常に定性的な要素が多いと思います。定量的な分析は行わないのでしょうか?

【写真2】トライブレポート(朝活のトライブを捉えたもの)
【写真2】トライブレポート(朝活のトライブを捉えたもの)

【宮井氏】
定量的なデータの分析は私も博報堂時代に行っていましたし、有用性を痛感しています。ご要望に応じてデータ分析はパートナー企業に委託したりもします。ただ、SEEDATAのクライアントワークでは、定性的な価値を大事にしています。現状の数値から表されたものはその時点で「既知」のものです。きれいに論理的に表現されたものではありますが、新しさには欠けます。実際に定量的な「裏付け」よりも、ユーザーがダイレクトにそのアイデアに対し「面白い」と言ってくれた直感型の意見の方が、説得性とリアリティがあると考えるからです。

3. 社内の意思決定プロセスと生活者の購買意思決定プロセスは違う

【久本】
新しい手法であるため、クライアント社内外のステークホルダーを巻き込むのに苦労された面があるかと思いますが、どのような工夫をされているのでしょうか?

【宮井氏】
クライアントによって意思決定の要件は異なります。企業に応じたお作法や人間関係、タイミングなどがあります。当社はインソーサーという立ち位置で、必要な社内上申への対応をクライアントと一緒に乗り越えていきます。そこは淡々と行います。社内の意思決定プロセスと生活者の購買意思決定プロセスの両方の要素が大事ですが、社内の上申プロセスが通過した後は、最後には「生活者」に寄せて仕上げていきます。社内の要望と消費者・生活者の要望は異なるからです。

【久本】
確かにそうですね。私もクライアントワークをする中で「社内」の理屈と「生活者・消費者」の要求との違いをとても感じます。差別化を意識しすぎる事情や、プロダクトアウト中心の「まずは新技術を試す」といったものや「業務の負荷を減らす」といった近視眼的なものが前面に立ちすぎる傾向にあります。やはり、そこに消費者・生活者視点が欠けているように思えます。

【図1】新規事業創出時における生活者に向けた推進と従来型企業内での推進のポイント
【図1】新規事業創出時における生活者に向けた推進と従来型企業内での推進のポイント
(宮井氏は、両方が大事で、最終的には消費者である生活者に沿った推進が必要だと説く)

【宮井氏】
差別化は企業視点でしかなく、実際には消費者には同一にしか見えないことはよくあります。我々は博報堂グループとして「生活者」を中心に据えます。新しいサービスによって生活者の行動がいかに変化するかという考え方を重視します。

【久本】
クライアントの風土に応じて推進しながらも、やはり根本には「生活者視点」を重視されるのですね。クライアントワークで推進する際、モチベーションや価値観の異なる方がいらっしゃる中で新しいことを起こし、周囲を巻き込む際に、どのようなことを行っているのでしょうか?

【宮井氏】
まずはこちらが熱量を絶えず生み出すことが大事だと思っています。日本人はとても真面目だと思うのですが、こちらが波を作って頑張っていると、どんどん応援をして参加してきてくれます。動機づけというよりも、こちらがプロフェッショナルとして推進し続けることが必要だと考えています。「より顧客のために高度なサービスを提供する」といつも考えて行動していると、結果と人は不思議にも付いてきます。

4. 戦略家と実行者

【池田】
宮井様も博報堂から社内ベンチャーで事業を立ち上げ成功に導いたイントレプレナーのお一人としてお伺いしますが、大企業の中で新しい事業を成功に導く要件はどのようなものでしょうか?

【宮井氏】
2つの側面が必要だと考えます。1つは構想力。大胆で業界を破壊するようなビジネスモデルなどを構想する力、妄想力とでも言いましょうか。もう1つは実行力です。そこには社内政治などを捉え、制約の中で調整を行いながら推進していく力のことです。このような推進力の要件が自社で事業を立ち上げる当事者としても見えてきましたし、クライアントワークでも見えてきました。そのためSEEDATAでは営業支援で実行役としてまで関与する場合もありますし、提携会社のSD/Vから起業家人材を派遣するサービスなど、「実行力」の支援も行うようにしています。

【池田】
イントレプレナーとして、実際に何か苦労した点等はありましたか?

【宮井氏】
「より顧客のために高度なサービスを提供する」という軸が固まっていたため、迷いなく進んでこられたと思います。苦労したというよりも、逆にやりがいの方が多くありました。様々なクライアントやパートナー、社員、インターンなどと「共に」新しいことに取り組むというスタンスで取り組んでいます。新しいものをどんどん取り込んでいける「能力拡張感」のようなものを感じるからです。

5. 方向性は会社の資産と社員の「煩悩」で決め、そして「豹変」し続ける

【久本】
インタビューの中で社内の闊達感が伝わってきます。本日もたくさんの方がいらっしゃいますね。社内のマネジメントや育成で留意する点はございますか?

【写真3】SEEDATAの入居するシェアオフィス内の様子。闊達な雰囲気が流れていた
【写真3】SEEDATAの入居するシェアオフィス内の様子。闊達な雰囲気が流れていた

【宮井】
SEEDATAの社内マネジメントにも当てはまるのですが、方向性は会社の資産と社員の「煩悩」で決めるようにしています。私は社員全員の家族構成や煩悩は何かを常々社員に聞いています(笑)。どのような時に弱みを感じるのか、または熱くなるのか、感動するのかといったパーソナリティを理解するようにしているのです。会社の方向性はあらゆる状況から考えますが、最終的には今いる社員という資産とその「煩悩」を定めてから決めるようにしています。

【久本】
最後に今後の展望についてお聞かせください。

【宮井氏】
まさに検討中ですが、直近で「豹変」することを考えています。設立して2年が経ち、一定の社会からの認知と成果が見えてきました。ただ、このまま事業の安定期を迎えようとはしていません。守屋(SEEDATA社外取締役。SD/V代表取締役)との雑談の中で「これまでのことは一旦忘れよう、そして豹変しよう」という話になったのです(笑)。でも、私もすぐその方向性に共感しました。設立当初の「より顧客のために高度なサービスを提供する」という思いがある限り、自分達自身が進化し続けることがとても重要だと考えているからです。

【久本】
本日はありがとうございました。とてもユニークなお話で、私自身の価値観にも大きな刺激になりました。

【写真4】宮井氏を囲んで左右が筆者(左:池田、右:久本(取材・撮影日2018年2月23日)
【写真4】宮井氏を囲んで左右が筆者(左:池田、右:久本(取材・撮影日2018年2月23日)

注釈

(注1)エクストリームユーザー:ある商品に非常に愛着を持って使っている人。

(注2)ジョブ理論:クレイトン・M・クリステンセンによると、顧客が「商品Aを選択して購入する」ということは「片づけるべき仕事(ジョブ)のためにAを雇用する」こと。顧客の抱える「ジョブ」を片づける解決策を提供することがイノベーションにつながるという理論。

(注3)デザイン思考:共感・視覚化・評価と改良・実現のステップから成る新たな製品・サービスやプロセスを創出するためのイノベーション技法。

シリーズ

アイデアを育て事業を起こす―IoT時代の新規事業の要件―

アイデアを育て事業を起こす―IoT時代の新規事業の要件(2)―デジタルビジネスの現実的な組織体制と収益構造のあり方を目指して

アイデアを育て事業を起こす―IoT時代の新規事業の要件(3)―デジタルビジネスに必要な人材像と組織風土

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株式会社SEEDATA 代表取締役 宮井弘之氏

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2002年、博報堂に新卒入社。情報システム部門に配属後、博報堂ブランドイノベーションデザイン局へ。新商品・新サービス・新事業の開発支援に携わり、2015年に社内ベンチャーであるSEEDATA(https://seedata.co.jp/)を創業。

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株式会社富士通総研 コンサルティング本部 産業グループ アシスタントコンサルタント 新規事業開発やオープンイノベーション推進のコンサルティング業務実施。 ERPの導入の業務コンサルティング従事。