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組織のレジリエンスを高める

2018年3月12日(月曜日)

名門製造業企業の品質問題、弾道ミサイルの落下、大規模地震や記録的集中豪雨、高病原性鳥インフルエンザの蔓延可能性増大、身代金ウイルス等の手口により拡大するサイバー攻撃、こうした様々な危機事象が我々を取り巻いている。経営者は、企業経営・組織運営を脅かす急激な環境変化をもたらすかもしれない危機事象に備えて、被害を最小化する効果的な対策を実施するのはもちろん、想定外の危機的状況が発生しても迅速な行動ができるように準備することに取り組まれ続けている。

本稿では、危機事象の種類によらず臨機応変に対応する能力を高め、お客様との長期的な信頼関係を維持・強化するために、組織のレジリエンスを高める要諦について述べる。

1. 危機事象への取り組みの変化

地震の怖さを改めて知った阪神・淡路大震災から23年、想定外の事象が立て続けに発生した東日本大震災から7年、地震が起きる場所と思っていなかった熊本地震から2年が経過した。地震以外にも、異常気象による猛暑・豪雨、スーパー台風、竜巻、大雪、火山の噴火など含め、大きな災害が発生するたびに甚大な被害に見舞われるが、誤解を恐れずに言えば、我々は様々な経験から多くの教訓を導き出し成長してきた。

例えば、「原因は想定できても結果は想定できない」という教訓。大災害が起こるか否かといった議論ではなく、大災害はいずれ必ず起きるが、いつ、どこで、どんな規模で、どれくらいの被害をもたらすのかという「結果」は予測できない。

想定外の事象に遭うか否かを心配するのではなく、想定外の事象で経営リソースに甚大なダメージが生じた際、いかに速くその影響範囲・損失額を把握・想像できるかが次の戦略決定上、重要である。この想定外を想定するには想像力が必須であり、後述する「有事のシミュレーション演習」で想像力を高めることができる。

我々は数多くの想定外の危機事象に遭遇し迅速な復旧を目指してきた。被害を最小限に抑える事前対策を講じる「リスクマネジメント」だけでなく、不測の事態に直面してからの「クライシスマネジメント」へ、言うなれば事前準備である「転ばぬ先の杖」に加えて事後対応としての「転んでもただでは起きない」へと考え方を変化させてきたと言える。

2. レジリエンス(Resilience)とは

不測の事態に遭遇しても迅速な復旧を目指す際に、「レジリエンス」という表現を多く目にするようになった。
一般社団法人日本規格協会JIS Q 22300では「複雑かつ変化する環境下での組織の適応できる能力」と定義している。産業競争力懇談会の2013年度レジリエント・ガバナンス研究会最終報告書では、レジリエンスは「社会システムが大規模災害・テロ等の危機に直面した際の、システムとしての抵抗力(被害の最小化)や回復力(迅速な復旧)」で、「レジリエンスに代表される危機管理能力が企業や経済の競争力、ひいては国家競争力と認識されつつある」と記されている。

英国規格協会(BSI:British Standards Institution)は、組織レジリエンスを「組織が存続し繁栄するために、漸進的な変化や突然の混乱に対して予見、準備、対応、適応する能力」と定義している。
富士通総研は、組織の危機対応能力を支える要素を、建物・設備・ICTなどの有形固定資産に関わる「ハード」、体制・役割分担・行動基準に関わる「ソフト」、および人的・組織的な判断・行動能力に関わる「スキル」の3つの視点として定義し、ソリューションを整備してきた。これらは、BSIが「組織レジリエンスの要件」とする必須要素「製品・サービスの優秀性」、「プロセスの信頼性」、「人々の行動・価値観」と対応する。

このうち「スキル」分野の提供サービス「有事のシミュレーション演習」の狙いは、有事を体験することにより現場で起きる困難への柔軟な対応力を身につけるだけでなく、支援側の立場に立った時、現場が求めるリソースを自律的に想像する力を高めることである。このサービスは以下の点を重視して開発している。

  • 個々の企業ごとに大規模災害時の対応やサイバーインシデント対応等の危機時のオペレーションを体験・事後検証・評価・改善すること
  • 複数企業間でのサプライチェーンの脆弱性を可視化・能力評価すること
  • 危機時の情報連携のための情報整理・分析・優先順位づけの難しさを体験しインテリジェンスを高めること
    上記3点は、BSIの組織レジリエンスの主な機能領域である「オペレーションレジリエンス」、「サプライチェーンレジリエンス」、「情報レジリエンス」と合致する。

3. 組織のレジリエンスを高めるために

組織のレジリエンスを高めるためには何をすればいいのか?
我々の結論は、「リスク感度が高く臨機応変かつ自律的に動く人財の育成」である。非常に動きが早く予測することが困難な市場に対して仮説をもって先を読み、リスクテイクして迅速・適時・自律的に製品を企画・開発して市場を創造できるスキルを保有した人財が、レジリエンスの高い組織にとって必要不可欠である。以下、スキル面に着目しポイントを述べる。

(1) 失敗は貴重な学習の機会
「ビジネスの場では、失敗から学ぶことが最も効果的。自分の間違いに向き合うのは至難の技だが、レジリエンスを身につける方法はそれしかない」(注)と言われるように、必ず事後検証・フィードバックし、組織メンバーの共有ナレッジとして蓄積し続ける文化を醸成することが組織レジリエンスを高める要諦である。
変化や違和感・危険信号を見逃さず自律的かつ俊敏に行動を起こす「リスク感度の高い人財」は、『私、失敗しないので』ではなく、『私、失敗しても次に活かす組織文化を持っているので』と言うだろう。このレジリエンスの高い組織の最重要リソースである人財は、自身が失敗をプラスに置き換え成長することこそが組織のレジリエンスを高めることにつながると考え、失敗は貴重な学習機会と捉えている。 しかし、失敗から収穫があることは既知でも、なかなか組織文化として定着しないと思っている経営者は少なくない。

(2) 振り返り・事後検証
失敗を貴重な学習機会と捉える組織は、危機事象に遭遇した後や演習・訓練後の「振り返り・事後検証」を重要視し、定着化へ働きかける。

【図1】振り返りから継続的業務改善に
【図1】振り返りから継続的業務改善に

小さな失敗は何をした時に起きたのか、本来はどう対応するべきだったのか、やるべきこととやったことに差異があったなら、なぜ生じたのか、今後はどうすればよいのかを「見える化」し、継続的かつ平常時にも適用できる業務の改善活動に活かす。これは米陸軍が作戦後に行った「After Action Review」と呼ばれる行動で、演習・訓練実施後の振り返り、被災時の行動記録(Ethnography)として取り入れられている。

小さな失敗を見逃すことなく前向きに捉える「振り返り」や「事後検証」を重視し、その取り組みを評価する、リスクを隠さず暗黙知を形式知に表出させる取り組みを良しとする組織風土を作るべきである。

弊社では、お客様向け危機対応シミュレーション演習・訓練が終わるたびに、「振り返り会」や「課題の深掘り会」の実施を強く推奨している。振り返りのポイントは、経営者向けには「あなたがいなくとも、現場が意思決定できる状態だったか?」、現場部門向けには「上位層がいなくとも、あなたは意思決定できる状態にあったのか?」と問い掛けること。

そして、演習・訓練を通して判断ミスしたこと、意思決定に躊躇したこと、うまく指示できなかったこと等を可能な限り抽出する。抽出された課題を改善活動の源泉として組織は積極的に受け入れ、迅速に改善を実施し通常業務に展開、かつ次の危機対応シミュレーション演習・訓練のインプットとすることを繰り返し提案している。演習・訓練は、参加したメンバー、異なる組織、サプライチェーン企業を同じ課題認識の下、同じベクトルに向かわせる効果がある。

(3) 想定外を想定する
ビジネスのグローバル化、サプライチェーンの複雑化によって、危機事象に遭遇する確率が上がっている。経営リソースが大きく棄損・枯渇する状況下での判断や行動のスピードを確保するために演習・訓練・振り返りを実施し改善ポイントを炙り出す。ここで重要なのは、有り得ないと思う厳しい状況下で、調達・製造・輸送・販売といったサプライチェーンの脆弱性ポイントを認識することである。

演習・訓練の参加者が判断を迷う、一方が採用されれば他方が採用されないというトレードオフが発生するような強いストレスの掛かるシナリオを付与し、そのシナリオ、つまり、被災シーンに自分が立っていたとしたら、何を考え、どんな情報をどこから獲得し、誰にどんな指示を出し、先の展開をどう読むのか、スピードを意識して連続的に試してみる。

想像力を発揮して「想定外」の状況を創造する。厳しい状況設定下で意思決定・戦略策定がどう難しいのか、時々刻々変化する状況で何を躊躇したのかを知ることで、混乱を少しでも緩和して意思決定スピードを上げる工夫を考え、経験知を蓄積することが、危機事象に遭遇した際に必ず活きてくる。

意思決定の拠り所は組織の価値観や存在意義であり、事業継続戦略という時間軸に沿って優先すべき考え方(人命安全、優先復旧事業等)として表現される。

【図2】有事シミュレーション演習のシナリオ設計
【図2】有事シミュレーション演習のシナリオ設計

今後はリアルに想像し難い大規模被災の状況などの臨場感を VR(virtual reality)やプロジェクションマッピング (Projection Mapping)技術で増し、考えるべき視点を多く気づかせる。「自分事」として危機時の判断やオペレーションの難しさを体験したり、演習・訓練時の参加者の発言内容やアクション履歴をAI(artificial intelligence:人工知能)で分析し、参加者の対応能力を評価したりすることも取り入れ、「自律的に動く人財」を増やしていく。

4. 衆知を結集する「場」作り

我々は、多くの経験知を体系化してきている。しかし、これまで見たことのない厳しい被災シーンに自分が立っている状態を想定すると、個の世界で経験知を体系化しただけでは不足である。さらに、大規模な危機事象を想定した場合、個々の企業ごとの能力だけでなく、複数の企業や国・官庁の知恵を合わせて総力戦で臨む必要がある。

そこで、組織のレジリエンスを高め総力戦で臨むには、様々な経験知を集合させて共通知とし、自分が習得していない経験知や専門知識も活用できる、常に成長・新陳代謝し続ける機能を備えた「場」作りが急務である。共通知である「場」のイメージとして、米国では緊急支援機能(ESF:Emergency Support Functions)として15の災害対応項目が標準化され、各地域ニーズに応じて対応を付加できる規定(構造化された「場」の一種)があったり、国内でも資源エネルギー庁が石油精製・元売会社各社の業務継続計画の審査・格付け(この審査項目も「場」の一種)や訓練の実効性確認により業界全体の危機管理体制のレベルアップを促したりしている。

過去の様々な危機事象に対応した経験知、事後検証を重ねたベストプラクティス、企業のグローバル化によりビジネス継続への影響を把握する必要が出てきたグローバルリスク、国境を越えて発生するサイバーセキュリティに関するグローバルインテリジェンス、演習・訓練で企画した様々な想定外シナリオデータ群など、専門家の知識以外に様々な情報が共通知として活用できる「場」作りが急務である。この「場」作りには、地震や水害といった自然災害、新型インフルエンザ、サイバー攻撃といった原因の観点ではなく、経営リソースがダメージを受けた際にどう対応するのか、どんな機能が必要かといった普遍的な観点が重要ではないだろうか。

【図3】組織レジリエンスを高める「場」のイメージ
【図3】組織レジリエンスを高める「場」のイメージ
(BSIの組織レジリエンスモデルに加筆)

弊社では、危機事象の種類によらず柔軟かつ臨機応変に対応する能力を獲得し、お客様との長期的かつ強固な信頼関係を維持・強化するため、「人と組織のレジリエンスを高める」ことが企業にとって最重要であると考え、今後も様々なサービス・ソリューションを整備していく。

注釈

(注):ハーバード・ビジネス・レビュー、2017年9月号、ダイヤモンド社

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株式会社富士通総研 コンサルティング本部 ビジネスレジリエンスグループ プリンシパルコンサルタント 古本 勉(ふるもと つとむ)

古本 勉(ふるもと つとむ)
株式会社富士通総研 コンサルティング本部 ビジネスレジリエンスグループ プリンシパルコンサルタント
富士通株式会社において、インテリジェントビルやファシリティマネジメントのSIを担当。その後、富士通グループの事業継続マネジメント(BCM)を推進する専任部門において、BCM構築を担当。2007年より、株式会社富士通総研においてBCMコンサルティングからサービスまで幅広く展開。