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フォーカス「地域のレジリエンスを高める、連携の姿」

2018年3月12日(月曜日)

【フォーカス】シリーズでは、旬のテーマに取り組むコンサルタントを対談形式で紹介します。

2018年2月9日、南海トラフ地震の発生確率が引き上げられました(注1)。高い確率で発生が予想される首都直下地震や南海トラフ地震等の大規模災害のリスクに対して地域や企業はどう対応すべきでしょうか?

本対談では、「地域のレジリエンスを高めるには」というテーマで、名古屋大学減災連携研究センター長の福和教授、株式会社デンソー豊橋製作所の古海所長、富士通総研(以下、FRI)の上田上級研究員、大谷プリンシパルコンサルタント、植村マネジングコンサルタントに語っていただきました。進行役は細井エグゼクティブコンサルタントです。

1. 「地域を守りたい」、「自分事」感を持てる人の場をつくる

【細井】
本日は「地域のレジリエンスを高める」というテーマで、皆さんの日頃の取り組みと、その取り組みのキッカケなどについてお聞かせください。福和先生は名古屋大学減災連携研究センターで様々に活動されてらっしゃいます。また、上田さんは一年弱前から先生と活動していますね。

【福和】
私は1995年の阪神・淡路大震災の際に、「建築技術が多くの住宅を守ることに役に立っているのだろうか」と感じました。多くの死傷者が出たのは木造住宅ですが、学校で学んだ建築技術は木造住宅を相手にしていない。我々は何をやっていたのだろう?と強く感じたのです。そして、一人ひとりに「自分事(じぶんごと)感」を持ってもらうために、地名と地盤の善し悪しの関係や、その場所で過去に何があったかをお伝えすることから始めました。2003年に日本初の災害対策室を名古屋大学に開設し、それら資料を一般に公開しました。ちょうど東海地震の震源域の見直しがあり、強化地域が広がった時期です。2010年には名古屋大学減災連携研究センターを作り、2011年の東日本大震災の経験から、より組織を充実させて現在の姿へと発展させて活動を続けています。減災連携研究センターの設立にも地域の人たちに協力してもらったので、建物を作るときに半分のスペースを市民向けに開放するようにしました。そこをギャラリーにして、これまでの災害の資料や体感実験道具などを展示したところ、年間1万5000人ほども来館者があり、「地域を守りたい」と思う人たちが集まってくれるようになりました。今では地元の産業界の人たちと地域の災害対策について「本音で語り合う」会合を毎月1度のペースで開いています。県内外から産官学70くらいの組織が集まっています。

名古屋大学 減災連携研究センター 福和センター長

福和 伸夫(ふくわ のぶお)
名古屋大学 減災連携研究センター センター長
名古屋大学減災連携研究センター長・教授。建築耐震工学や地震工学に関する教育・研究の傍ら、防災・減災活動に携わる。各地の地震被害予測や防災・減災施策作りに協力しつつ、振動実験教材の開発や出前講座を通し、災害被害軽減のための国民運動作りに勤しむ。地域の魅力ある未来を共創するため、シンクタンク「減災連携研究センター」の設立、アゴラ「減災館」の建設、地域との協働の場「あいち・なごや強靭化共創センター」の設立に携わった。日本建築学会賞、同教育賞、文部科学大臣表彰科学技術賞、防災担当大臣防災功労者など受賞。

【細井】
そのような活動を立ち上げ、継続するには紆余曲折もあったのではないかと思いますが。

【福和】
365日朝から晩まで土曜日も日曜日も関係なくひたすら活動しています。草の根の活動がなかったら、できないですよね。基本的に地元愛で、同じ船に乗っていると思えばできます。

【上田】
私は富士通総研から名古屋大学減災連携研究センターに研究員として参加しています。社会インフラをどう普及していくかに関心があります。また、輪中(注2)のような地域を守る知恵がどう生まれてきたのかにも強い関心があります。地域の人たちは、災害になったときに何が必要なのかを日常の一部に取り入れ、なおかつ何が起こるか「自分事」として考え、情報共有しながら、共同体を作ってきたと言えるでしょう。現代でも愛知県では、工業用水の復旧順位などお互いに協議をして、協調しながら取り組んでいる地域があります。このような地域の取り組み、そして技術と、その中間的なところを研究しています。

2. 有事の際、あなたに本当に必要なものは届きますか?

【細井】
国・地域のレジリエンスの強化という視点では官民の連携が欠かせませんが、繋がっていない所もあり、「どこが切れているのかを鳥瞰する必要がある」と感じました。そのような経緯で、富士通総研から上田を研究員として参加させていただき、現在のような取り組みをしているところです。
さて、上田から情報共有というキーワードが出ましたが、古海さんが取り組んでおられる明海工業団地の中での情報共有、災害対策の進め方などについてお話しいただけますか?

【古海】
明海地区は、豊橋市の三河湾の一部にある埋め立て地で、多種多様な業種業態の企業が集まる工業団地です。工業出荷額が約5400億円で豊橋市全体の半分近くを占め、1万人以上が働いているため、豊橋市の経済に占める明海地区の役割は非常に大きいのです。しかし、この地域は防潮堤の外に作られた堤外地で、人が暮らす場所ではないため、公的サービスが手薄となることで、企業が連携して地域全体で事業継続性(BC)の取り組みが始まりました。まず企業間が連携してやるべきことは、「災害が起きた直後の初動時は人命確保と帰宅支援、避難者の支援」そして、「事業復旧の段階にやることは、物流の動線確保とインフラ復旧事業者や行政との連携窓口の設置」であると整理しました。活動の目標は4点です。1つ目は人命確保のための救護所と避難所の設置。2つ目は行政やインフラ事業者との情報伝達の確立。3つ目は物流と人命救助ルートの確保のための道路の整備。4つ目が個社の防災力・防災意識の向上です。この4点を目標に、明海地区の防災協議会に加えて市役所と会議体を立ち上げており、現在は救護所と避難所の設置に辿り着いています。情報伝達の確立については、富士通総研や中部経済産業省のバックアップで市役所との情報伝達、インフラ事業者との情報伝達訓練を行っています。4つの目標がどこまで進んでいるかをしっかりと企業の皆さんに伝えることで、だんだん意識が高まり「自分たちが襟を正さないといかんなぁ」とそんなふうに持っていけるんじゃないかと思っています。

株式会社デンソー 豊橋製作所 古海所長

古海 盛昭(こかい もりあき)
株式会社デンソー 豊橋製作所 所長
1978年日本電装株式会社入社。2004年デンソー労働組合 副執行委員長、2008年全トヨタ労働組合連合会 副会長を経て、2014年株式会社デンソー豊橋製作所長に就任。豊橋市・明海地区内の多様な業種、業態100社を超える立地企業にて構成される「明海地区防災連絡協議会」リーダーを務め、同地区内共助(事業所間での協働)によって企業個社防災意識の向上を図るとともに、明海地区連携BCPを目指して協議を進める。

【細井】
4つ目の個社の意識まで到達するのにとても腐心されているのが分かります。先ほど先生も「同じ船に乗る」という表現をされたのですが、そういった気持ちにしていくためにどんな工夫をされたのでしょうか?

【福和】
古海さんのところは本当に明快な「船」なんですね。埋め立て地って輪中のように孤立していますよね。閉じた場所だからライフラインも外との出入り口もワンルートです。同じ船に乗っているんだという気持ちになってくれると、ずいぶん前に進みますし、自分がやっていないと人に迷惑をかけることも分かります。その迷惑をかける相手が自分の知っている人であれば尚更です。人間関係も含め、一蓮托生だと気づき始めることが大事です。
さらに俯瞰的に見て、「有事にあなたの会社が成立するためには何が必要なのか?」と問いかけ、「その大事なものって本当に必要な時に届くと思いますか?」というやり取りをしていくと、ある時にハッと気づいてくれます。また、「あなたの会社が途絶えたら地域に、他の方にどんな迷惑をかけますか?」ということにもよく反応してくれます。自分のせいで地域が破綻してしまうということに気がつき始めれば、普通は「じゃあ、やろうかな」っていう気分になれます。

【上田】
一つ同じ船というところでは、先ほどお話しした愛知県の取り組みも同様です。「工業用水という生命線を守る」という、同じ目的を持った企業から成るコミュニティがあって、そこでは、社会的影響度などを勘案した復旧の優先順位が議論されています。とても民主的で、共同的な取り組みであると考えています。

株式会社富士通総研 上田上級研究員

上田 遼(うえだ りょう)
株式会社富士通総研 経済研究所 上級研究員
2007年、東京工業大学大学院総合理工学研究科修士課程修了後、鹿島建設株式会社、株式会社小堀鐸二研究所を経て、2016年 富士通総研入社。2017年より、名古屋大学減災連携研究センター受託研究員兼務。地域の自律的な知恵と現代グローバル防災の両視点から、地域強靭化に取り組む。専門領域は、都市防災へのICTの活用、複雑系、Human-Computer Interaction。

【古海】
「自助」「共助」「公助」で、一番重要なのは「自助」だと思います。しかし、明海地区では、まだ「自助」ができていません。以前、「BCPを作っていますか?」というアンケートを実施したところ、70%の企業が「できていない」と回答していたのです。なぜかと聞いてみると、「何をやっていいかわからない」、「そんなことにお金をかけることはできない」、「対策を進める担当者を配置することができない」といった答えが多くありました。企業を存続させる肝心要となる「人を守る努力」ができていない。これが実態です。危機感をしっかりと一人ひとりが持つことと、企業の代表者が自社・土地のリスクをしっかり把握し、「一人の死者も出さない」という強い覚悟を持つことが大事だと思います。そういう覚悟を持つと自分の限界がわかってきて、それが地域の「和」につながってくると思います。現在、目標のひとつに掲げた、救護所設置に目処がたちましたが、救護所を活用して明海地区全体の防災訓練を行えば、防災訓練をやっていない企業も訓練に参加するし、そうなれば自然に「やらなアカン」という気持ちになるのではと考えます。加えて、ある程度の強制力は必要ではないかと考えています。年に1回、企業に消防署からの防火査察がありますが、それと同じように、耐震の備えができているか、上から構築物が落ちてこないかなどを確認するような指導があれば、強制力が高まって全体の防災力が高まると考えています。

【福和】
多少は強制力がないと難しいですよね。消防とかの検査とか、ああいうものがあった方がやらざるを得ませんから。特に、トップにやる気がない場合はそうしないとできないです。

3. 形ばかりのBCPから実効性のあるBCPへ、演習で想像力を高める

【細井】
「BCPが必要ですよね」だけでは何にも進まなくて、多くは形だけのBCPになってしまいがちだと感じています。そのため、富士通総研も「実効性のあるBCP」の策定を目指しています。大谷さん、植村さんから見て、その観点への取り組みや考え方などいかがですか?

【大谷】
富士通総研は2005年頃からBCPの策定に取り組んでおります。中でも東日本大震災が多くの企業のBCP策定/改訂の動機付けになりました。BCP策定の動機付けの一番の要因は取引先である顧客からの要請が多いですが、それと同時に自社の付加価値につなげるという意識が大切です。最近では外部環境の変化もあります。例えば、厚生労働省は地域の災害拠点病院に対しBCP策定の義務化を決め、各病院は2019年3月までにBCPを作らないとならないことになりました。そこでは、BCPを策定するだけでなく、きちんと演習もして、医療機関同士で地域連携もしなさい、ということになっています。医療機関は今までBCP策定率が10%以下でしたが、急速にBCP策定に取り組み、地域連携に取り組もうとしています。今後は医療機関が主体になって地域力を高めるため、他の業界と連携していく流れが出てくると考えています。地域連携がさらに加速していくのではないでしょうか。その際に、シミュレーション等の演習をすることがBCPの実効性を高める唯一の手段だと考えています。

株式会社富士通総研 大谷プリンシパルコンサルタント

大谷 茂男(おおたに しげお)
株式会社富士通総研 コンサルティング本部 ビジネスレジリエンスグループ プリンシパルコンサルタント
1998年 富士通株式会社入社、2007年 株式会社富士通総研出向。主に製造業や流通業を対象にサプライチェーンマネジメントや調達改革等の業務改革、情報戦略のコンサルティング業務に従事。東日本大震災以降は現組織にて事業継続マネジメントやサプライチェーンBCP、地域連携等のレジリエンス強化のコンサルティング業務に従事。

【福和】
表向きBCPができていると言いながらも、「形ばかりのBCP」では意味がありません。想像力が欠落したBCPと言いますか、有事の際にどんなことが社会として起きるかという事象が十分に分析できていないと、自社完結型のBCPになって、いざという時に役に立ちません。

【古海】
企業も、今、災害が起きたら、ここがどうなるのか、どういう行動をしなければいけないかという想像ができていません。それを想像する機会を持つことが非常に重要です。「BCPを作れ」ではなく、例えば現地に行き「ここは危ない。こうなったときはこれが落ちてくる」と指摘することも必要でしょう。

【大谷】
我々がシミュレーション演習をやるときには、まず、企業の脆弱性を分析し、皆が集まったところで、「こういう状況が起きる、その時にどう対応すればいいのか」を考えてもらいます。実際に有事の状況を付与し、その時にどう対応するのか、経営者を踏まえて事後対応の行動プロセスのイメージングをしてもらい、BCP策定の理由をきちんと認識してもらいます。

【福和】
ただトップの性格によりますよね。プライドが傷付けられることが苦手な経営者と、厳しいことを言ってもらうことを歓迎する経営者がいるので、どちらのタイプかを見極めないといけませんね。

【細井】
首都圏でも帰宅困難者協議会のような組織がいくつも立ち上がって、富士通総研でも演習をやっていますね。

【植村】
私は、災害対策の支援をやっているのですが、ウェイトが高いのが帰宅困難者対策です。首都圏での帰宅困難者対策が特殊なのは、人口が集まり過ぎていることです。昼間の人口は千代田区・中央区・港区・新宿区・渋谷区では夜間の2倍以上になります(図1)。集まり過ぎてしまった人をどう無事に帰すか、首都圏の場合はそれが問題です。国の問題なのか東京都の問題なのかという責任も曖昧です。多くの従業員を抱える企業の責任(=企業の自助)として、災害時には「帰るな・留まってくれ」というのを徹底することが基本の対策となります。自分の身を守ることは個人の責任ですが、たまたま外出中で、自分の身を守ることが難しい人もいるので、そのような人は、行政や企業と力を合わせて何とか助けていこうという動き(共助)もあります。今、協議会の動きとしては自助の徹底をテーマとしたり、共助をテーマとするなど、ウェイトの置き方は様々です。

(図1)都市部の昼間人口集中度数(資料:富士通総研)
(図1)都市部の昼間人口集中度数(資料:富士通総研)

【福和】
都心に林立する高層ビルはとても揺れそうですね。建築物は、安全という価値観を重視しない「バリューエンジニアリング」の場合には、想定している揺れまでは大丈夫でも想定を超えると具合の悪いことが起こり得ます。特に都心では、屋外の広い避難所も決して多くはない現実を踏まえて、一人ひとりが自助の覚悟を持っているか、ということでしょう。

【古海】
国の防災指針もそうですね、自分の命は自分で守れと。

4. 情報連携がレジリエンス強化の要

【大谷】
BCPの本質は不測の事態を想定して、そのときの対応をどうするか、代替をどうするか複数の選択肢を考えることです。しかし、早期復旧や事前対策のみに陥っているが現状です。これまで対応したことがない企業連携等の複数の戦略オプションの検討に意識がなかなか高まらず、実際にBCPを作る人がどうしていいかわからないことも多いと思います。

【福和】
それはトップがやる気にならないからです。

【大谷】
おっしゃるとおりです。そこで、トップに参加いただくため、経営改革としてのBCP策定を進めています。昨日も内閣官房の事業で、明海地区でBCP策定講座に20名ほど参加してもらいました。経営者に近い方々に参画いただき、自社の事業の代替オプションとして、例えば自動車であれば、世界各国で類似部品をかなり作っているので、そこにどう切り替えるかを含めてBCPを考えていかなければということを話し合いました。また、BCP策定の有効性評価として、在庫削減や多能工化による業務平準化、5S(整理・整頓・清掃・清潔・躾)など、経営改善へのインパクトも検討しております。

【上田】
何が起こるかの想像力とその備えのBCPの間をつなぐものとして、何が起こるか見せて、理解してもらうことも大切だと考えています。納得した上で想像力を高めていただくため、先日災害空間を作る取り組みを行いました。これは体育館に実際に自分で施設を並べて、そこに津波がどう来るかをリアルスケールで体験できる施設です。これによって「自分事」として、災害とはどういうものかを身をもって知ることになります。

【細井】
古海さんが先程おっしゃった、情報連携については多くの課題があると思います。帰宅困難協議会でも、どこが避難所か、どこが受け入れ可能な企業か、といった情報提供の準備が必要ですね。

【植村】
住民向けに災害情報を流そうとしたときに、行政間の横同士の連携は取れていないところが多いと思います。広域災害で避難指示を出すにしても市内や区内に限られるなど、隣との調整が十分にはできていません。一方、個人から上がってくるSNSなどの様々な情報には、行政の区割りの壁はありません。そういった手段を活用し、協議会の場を使って周辺の企業間で情報の共有を行う仕組みも考え始められています。

株式会社富士通総研 植村マネジングコンサルタント

植村 篤(うえむら あつし)
株式会社富士通総研 コンサルティング本部 ビジネスレジリエンスグループ マネジングコンサルタント
1987年富士通株式会社入社、ネットワーク設計業務に従事。2000年株式会社富士通総研出向。自治体向けの業務改革コンサルティングに従事。2013年頃より防災関連、帰宅困難者対策のコンサルティングを中心に活動中。

【福和】
東京と比べ地方では都市づくりに関しては自治体のウェイトが大きいので、市町村の担当者が連携すれば相互の都市計画の矛盾を議論し、市町村を跨いで都市計画することも可能だと思います。私たちも西三河の10市町で広域の防災都市計画の議論をしています。ところが、東京は違います。必ずしも区が持っている計画だけで動いているわけではなく、民間の商売ロジックが優先されてしまう懸念があります。

【植村】
同じ船に乗っている同士だと団結しやすいと言われますが、東京の場合、行政単位だと大きすぎるのです。例えば隣同士という感覚で考えるには、区だと人口規模では大きすぎますが、災害の被害が及ぶエリアとしては小さすぎます。災害対策を考えるなら、区単位でなく周囲の区と一体で考えないといけないでしょう。しかし顔の見える関係を作っていくなら、再開発を行ったエリアを単位として、そこで暮らす人、仕事をする人、オフィスを置く会社同士で考えていくべきでしょう。

【福和】
本当はもっとクラスター化して、コンパクトシティ的に東京の街を改造していかないといけないのに、アメーバ状にしてしまっています。

【古海】
以前、明海地区では情報伝達をMCA無線でやっていましたが、3分ほどしか喋れないし、気温や気象条件、そして場所によって聞きとりやすさに影響が出ることが分かりました。堤外地だけではなく、堤内地の情報も必要ですから、スマホを活用して「この橋はどうなっている」「この道路はどうなっている」といった情報を一元化すると、皆が把握できるようになります。

【福和】
そういった仕組みを碧南市や西三河地域用に作っています。デンソーさんなどでは、地震が起きた時に従業員が周辺をチェックしています。企業の人達の人海戦術はすごく、例えばデンソーさんだけで何千という人が工場にいらっしゃって、何かあればみんなオートバイでどこが壊れているか見に行ってくれるんですよ。それを全部、スマホ入力し共通の電子地図に落として、これに行政が集めた公的な情報を重ねれば、災害時に大いに役に立ちます。現在、私たちのところで作った情報収集スマホアプリを企業や自治体に使ってもらって、災害情報を共有化する取り組みを進めているところです。

【細井】
どこにその情報は集まっているのですか?

【福和】
今は名古屋大学のサーバーに入れていますけれども、どこかで独立させないといけないと考えています。

【大谷】
例えば、自動車業界では、自動車の生産に必要な部品のサプライチェーンの情報を把握する仕組みを持っています。富士通ではSCR-Keeperというサービスを各自動車メーカーに展開しています。しかし、自動車メーカー各社で収集する情報の粒度や精度が異なるため、業界全体に浸透させるには標準化が不可欠です。また有事の際にはサプライチェーンの情報を「パニックオープン」という考え方で、いざというときにサプライチェーンの被災状況を全体に共有化しようとする動きもあります。しかし、利害関係のある話でもあり、今はそのルール化がないのです。

【福和】
そういう仕組みは、非常時の日本を救うための「強靭化」絡みの施策の中に書いておいた方がいいと思います。想定を超える災害のときには企業利益より社会の安寧を優先するためにオープンにするのを許可することが真のBCPにつながるのです。愛知の製造業が地震などで被害に遭うと世界が困ると思います。日本の取柄はものづくりで、ここにある製造業は凄いノウハウを持っているからです。

5. 全ては「自分事」から始まるレジリエンス

【細井】
「製造業のノウハウを守る」レベルにBCPを高めていくには何が課題でしょうか?

【古海】
私はリスクをトップがどう考えるだけだと思います。先ほど先生がおっしゃったように、自分であれば自分の事業所をどう守るかです。トップの意識を高めてリーダーシップを発揮するのがポイントだと思います。私の思いは、「自分の事業所の従業員から死傷者を出さない」「明海からも死傷者を出さない」というだけです。事業復旧はそのあとでいい。人が死んだら事業復旧はできないので。多分、福和先生も同じ思いだと思います。そういう人がたくさん出てくれば、盤石な体制になるのではないかと思います。

【福和】
愛知の製造業の企業人は国を支えているという気概があります。それはものづくりだからという面があり、自分たちがいなくなったら、地域も日本もまずいことになるという実感を持っているからです。三次産業の企業が沢山ある東京では、多くの会社員が、「きっと誰かがやってくれる」と思っていないでしょうか。そんな中でも、トップにいる人は、「自分がやらなかったら誰がやるのか」というのが目に見えてわかるから、決断するのです。「自分達が絶対守り切る」という気持ちを持てる人が増えると、とても素晴らしいと思います。

株式会社富士通総研 細井エグゼクティブコンサルタント

細井 和宏(ほそい かずひろ)
株式会社富士通総研 執行役員 エグゼクティブコンサルタント
富士通株式会社入社以来、電力および製造業担当のSEとして業務システム開発/PMに従事。2006年より株式会社富士通総研でビジネスコンサルティングに従事。製造業のお客様を中心に業務改革、グローバルERP戦略策定、IoTビジネスに関わるテーマを深耕。直近では、事業継続をテーマに、自然事象への危機対応プラン策定だけでなく、サイバーセキュリティ事案への対応まで幅広く捉えた組織レジリエンス強化に取り組んでいる。
著書: 徹底図解IoTビジネスがよくわかる本(2017)

【細井】
本日はハッとさせていただくことがたくさんありました。「自分事」として人任せにしないことを中心に多くのお話をいただき、ありがとうございました。

(対談日:2018年2月9日)

対談者集合写真

対談者(敬称略 左から)

  • 株式会社富士通総研 上級研究員 上田 遼
  • 株式会社富士通総研 マネジングコンサルタント 植村 篤
  • 名古屋大学 減災連携研究センター センター長 福和 伸夫
  • 株式会社デンソー豊橋製作所 所長 古海 盛昭
  • 株式会社富士通総研 プリンシパルコンサルタント 大谷 茂男
  • 株式会社富士通総研 エグゼクティブコンサルタント 細井 和宏

注釈

(注1)平成30年2月9日 地震調査委員会「長期評価による地震発生確率値の更新について」
http://www.static.jishin.go.jp/resource/evaluation/long_term_evaluation/updates/prob2018.pdf

(注2)輪中: 愛知県、岐阜県、三重県等の水害常襲地域において発展した、集落を水害から守るために集落周囲を輪形に囲んだ堤防、また、それを守るための水防共同体も指す。近代化によって失われたものも多いが、今日も農作・共同体活動とともに一部地域に残されている。

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